「米中対立の行方とアメリカ大統領選をどう考えるか」
~非公開会議1(2月28日)報告~

2020年2月28日

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 「東京会議2020」の開幕を翌日に控えた2月28日、東京プリンスホテルで各国のパネリストが参加した最初の非公開会議が行われました。

DSC05506.png その冒頭、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志は、中国で発生したコロナウイルスが、アジアや欧州でも急速に流行し、地球規模課題の中でもグローバルヘルスが大きな論点となっているものの、米中対立によって動揺する世界の秩序や多国間主義の今後も、やはり今考えなければならない大きな課題であると指摘。そして、今後を占うという意味では、今年秋に行われる米大統領選について考えていくことは不可欠であるということも強調した上で、候補者選びの最大の山場となる公算の大きい3月3日のスーパーチューズデーを間近に控えたまさに今こそが、議論の絶好のタイミングであると語りました。


外交に関しては、民主党候補者勝利でも大きな変化はない

DSC05062.png 続いて、米国のパネリストから米大統領選と次期政権の外交政策の展開について問題提起が行われました。ジェームス・リンゼイ氏(外交問題評議会(CFR)シニアバイスプレジデント)はまず、一般論としては大統領によって外交政策は大きく変わり得るとした上で、一方で今秋の大統領選では内政が主要な争点であり、外交政策で雌雄を決するようなことにはならないとの見方を示しました。リンゼイ氏は、例えば、気候変動問題ではトランプ氏と民主党の各候補者との違いは大きいとしつつ、中東や中国、通商などをめぐる対応ではトランプ氏とサンダース氏やウォーレン氏といった民主党の候補者の間での違いは決して大きいものではないと指摘。現在の民主党候補者は、外交に関してはオバマ前大統領よりもむしろトランプ氏に近いとさえ言えるとも語り、仮に民主党政権が誕生したとしても大きな期待は禁物であることを言外に示唆しました。

 同時にリンゼイ氏は、往々にして選挙戦時と実際に大統領に就任した後の言動は変わり得るものだとした上で、だからこそ各候補者の選挙戦における言動に踊らされることなく、「慎重に見ていくべき」と注意を促しました。


民主党政権の方が予測可能性の向上は期待できる

DSC05068.png 続いて、ポール・トリオロ氏(ユーラシアグループ・テクノロジー地政学担当部長)が発言。まず、同社が毎年公表している「10大リスク」の2020年版では、1位が「米大統領選」とした上で、2位が「技術の分断」、3位が「米中関係」であると解説。この「技術の分断」と「米中関係」を中心に問題提起しました。その中でトリオロ氏は、デジタル技術にしても貿易摩擦にしても、米国の中国に対する不満の種は、関与政策を取っていたオバマ政権の頃からすでに燻っていたものであり、トランプ氏は単にその不満をクローズアップしたにすぎないと解説。さらに、サプライチェーンにおける対中依存度の高まりや、AIや量子コンピュータといった最先端技術開発で中国に先行を許したことも、対中警戒論の高まりを加速させたとし、これはすでに党派を越えたコンセンサスになっていると語りました。

 トリオロ氏は今後の展開については、トランプ氏の予測不能性ゆえに予想は困難であると指摘。全体的な戦略がないからこそ、進むべき方向も着地点も見えにくくなっているとし、とりわけ通商に関しては、米国通商代表部(USTR)が少人数・密室で動いていることも相まって尚更予測はできないと語りました。そのため、意思決定プロセスの透明性と予測可能性の向上という点では民主党候補者が当選した方が期待は持てると解説しつつ、さらに4年間トランプ政権が続くとなると混乱が拡大するのではないかと懸念を示しました


非公開会議ならではの活発な意見交換が行われた

 問題提起の後、ディスカッションに入りました。

 議論では、米中のデカップリングについては、今後も対立は続くとの見通しが相次ぎましたが、トリオロ氏も言及したサプライチェーンにおける結び付きがすでに強固となっていることから、米国がいくら望んだとしても完全な分断はそもそも不可能であるという楽観的な見方も寄せられました。


 今後のルールベースのリベラル秩序の行方に関しては、欧州のパネリストから、米国でトランプ政権が終わり、民主党政権が誕生することがリベラル秩序を維持する上で大事だという声が寄せられました。

 しかしその一方で、ファーウェイ排除に消極的なEU、北方領土問題を抱えて対ロ接近を続ける日本など、リベラル秩序を支えるべき米国以外の国々も、権威主義体制国家と接近している現状が指摘され、秩序を維持する上での問題は米国だけにあるわけではないことも明らかにされました。

 同時に、米国抜きでも秩序を守るために各国ができる自助努力は何かをそれぞれ模索すべきだといった提案や、TPP11成立における日本のように、各国がその強みを持つ分野で積極的にリーダーシップを発揮していくべきだといった意見も見られました。

 また、"ルールベース"とはいうものの、技術の飛躍的な発展に伴い、そもそもデジタルなどルールが未整備な分野が出てきていることも議論の俎上に載せられ、日本やEUといった価値を共有する国々が連携して新たなルールづくりをしていくべきという主張も寄せられました。


 これまで既存の秩序に挑戦してきた中国については、新型コロナウイルスや香港・新疆ウイグルへの対応で後手にまわり国内外から批判を浴びたことで、習近平体制も決して盤石ではないとの指摘が寄せられました。一方で、南シナ海に関しては、中国とASEAN諸国の間でパワーバランスが取れておらず、南シナ海行動規範(COC)の策定が中国の意のままに進められることを懸念する声も寄せられました。


 会議では、世界貿易機関(WTO)も話題となりましたが、WTOの機能不全は米国や中国だけが原因ではなく、この20年来のことであり、システムそのものが「錆びついている」といった厳しい指摘が相次ぎました。

 その他にも、明日からの公開会議に向けた様々な論点整理を行いつつ、3時間にわたって白熱した議論が繰り広げられました。