国連総会は米中対立の主戦場に 75年目の試練―国連は国際協調で中心的な役割を回復できるのか

2020年9月25日

 国連は、今年10月に創設75周年を迎える。今月22日から開始した国連総会では、米国のトランプ大統領、中国の習近平国家主席がそれぞれビデオ映像で演説し、新型コロナへの対応などで互いを痛烈に批判。75年目の国連は、国連憲章にある、国際の平和及び安全を目指す場ではなく、激しい米中対立を反映する主戦場と化した。
 これに対し、国連のグテレス事務総長は、「多国間の問題は山ほどあるが多国間の解決が不足している」と演説。人類共通の課題である気候変動や貧困、核軍縮への対応の遅れなどに懸念を示し、国際協調をつなごうとする必死な姿が見られた。

 言論NPOは、国連75周年を前に、現在軍縮担当上級担当を務める中満泉・国連事務次長、国連にて様々な重要ポストを務めてきた明石康・元国連事務次長、2002年~04年の外務大臣時代に国連改革を主導した川口順子氏、そして、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の元駐日代表の滝澤三郎氏の日本を代表する国連幹部・幹部経験者4名にインタビューを実施。コロナ禍で停滞する国際協調の現状、75年目を迎えた国連の機能不全と改革の在り方について意見を伺った。

記事はこちら


75周年を迎えた国連は機能不全なのか?

 創設75周年を迎えた2020年は、国連やその専門機関にとっては受難の年であった。新型コロナの世界的パンデミックは、WHOの組織構造に起因する大国への配慮、対応の遅さを露呈した。5月には決議案の中でのWHOについての記載をめぐる米中対立から、安保理は新型コロナ下での停戦について決議ができなかった。WTOでは、事務局長が辞任し、紛争解決のための上級委員会の委員は未だ空席のままとなっている。さらに、国連総会は、一国一票を持つ加盟国が193ヵ国にまで拡大しても1945年体制が続くという構造的な問題にも対処出来ない状況である。

 75周年が経過し、国連や国連システムは機能不全と化しているのか。


 この点について、国連創設60周年の際に、日本と同じく安保理常任理事国入りを目指すドイツ、インド、ブラジルと共にG4をつくり、外務大臣として国連改革を主導した川口順子氏は、安保理改革の困難さと国連の限界を厳しく指摘する。川口氏は、「冷戦後、危機の形が多様化する中でも国連は人材や制度面で自己改革が出来ずにいる」と評している。

 元UNHCR駐日代表の滝澤三郎氏も同様に、急速な変化に対応できない国連の現状を伝えた。本体の組織ガバナンスとして、加盟国の大幅な拡大や中国の台頭など創設当時の想定を超えた変化に対応できていないこと、また、高い期待の一方で資金は常に不足しており、これに米中の大国間対立が組み合わさり非常に厳しい状況にあることを指摘し、改革が進まない現状に懸念を示す。


組織ガバナンスの改革は進まないが、世界平和と繁栄には大きく貢献した国連

 国連の組織ガバナンスの問題と限界を挙げる一方で、4氏は皆、国際平和と経済・社会面での発展に貢献した国連の実績を高く評価している。

 1957年に日本人初の職員として国連入りし、冷戦の最中から21世紀まで半世紀にわたり国連で仕事をしてきた明石氏は、朝鮮戦争から始まり中東戦争、インド―パキスタン紛争などで世界の平和と安定のために国連は大きく寄与してきたと評する。冷戦後は、自身が主導したカンボジアPKOをはじめ、数々の民族紛争や内戦に直面しながらも国連はその限界を見極めつつ一歩一歩着実に取り組んできたことを紹介した。

 また、滝澤氏は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で長年勤務してきた経験から、国連システムの第一層である安保理を中心とした政治の場は機能していなくても、第二層にある、UNHCRをはじめとした多数の専門機関・関連機関は、世界の貧困削減、難民の保護、感染症の対応、国際金融の安定などで大きな実績を挙げてきたと訴える。

 川口氏も同様に、過去の成果を挙げ、「その限界を見ながらも等身大の国連として評価すべき」だと語る。川口氏は、今も全世界の国が参加できる普遍的で包括的、且つ最も権威のある機関と評し、これまで様々な形で世界の平和と安定を維持するために、何度も交渉を行い、折り合いをつけ決議を出してきたこと、国際課題に挑む取り組みをバックアップしてきたことを紹介した。


今求められる国連の姿と改革の在り方とは

 大きな限界と抱えながらも、人類社会への多大な貢献を残した国連。21世紀に入り20年が経ち、国連の新しい在り方について提起する意見もあった。

 明石氏は、遅々として進ない国連改革とその疲労感について危惧しながらも、日本が目指すべきなのは、拒否権ではなく、「準常任理事国」として意見を言える場であると話した。

 さらに、現在、国連事務次長を務める中満氏は、21世紀の世界により適応した国連の在り方について説いた。中満氏は、「75年目を迎えた今、従来のように国連が前面に出るのではなく、裏方としての各国政府の橋渡し役や国連のコンビーニング・パワー(多様な主体を糾合する力)により期待すべきだ」と主張する。また、従来の政府間協力のみならず民間企業や市民社会の代表者が参加するマルチステーク・ホルダー方式の協力の重要性も訴えた。


グローバル課題に対し、国際協調こそが各国の利益―大国もその認識を持つべき

 大きな転換期にある国連。国連が進めてきた国際協調は、より自国第一主義と米中関係の影響を受けている。

 ここで、国際協調が進まない現状について4名が口をそろえたのは、「国境を越える課題については、国際協調こそが各国の利益であり、今こそ国際協調が必要」という点であった。


 長年、国連にて民族紛争や和平に取り組んできた元国連事務次長の明石康氏は、「国境を越える課題に対し、主権国家が一丸となって協力するしか道はない」と断ずる。さらに、現在、軍縮担当の国連事務次長を務める、中満泉氏は、一部で広がる国際協調は幻想であったとの見方を否定し、「困難な時にこそ突破口を見出し、課題に立ち向かうのが専門家の役割」と話し、人類共通の危機であるからこそ、国際協調体制を維持する努力をすべきであると説いた。


米中対立の中でも日本を含めミドルパワーが多国間主義の維持・発展に貢献を
そのためにも日本は強靭で発信力ある国に

 国際協調の維持について4氏が強調したのは、大国に代わるミドルパワー連合の役割である。

 明石氏は、米中大国間の対立で国際協調が進まないのであれば、大国に代わり日本やドイツなどの中型の国が団結し協働することで、完全でなくても国際協調を進めることができると期待を示した。さらに、川口氏は、最近EUで合意された復興基金や日本のTPP11維持の努力を紹介し、「EUや日本を中心に実際には国際協調は一部で進んでいる」と強調する。

 ミドルパワーによる多国間協力の維持・発展の意義を説いた4氏が最後に強調したのは、日本が強く、発信力ある国になるべき、という点だ。


 滝澤氏は、国連憲章等に書かれている人権擁護についての発信が弱い日本政府の姿勢を指摘。自由、民主主義、基本的人権を標榜するのであれば、日本自身がこれらの価値の維持に努め、海外にもっと発信すべきであると語る。

 そして川口氏も、インタビューの最後に、「日本は経済的、文化的、人材的にも強靭で、魅力ある国になり、日本の発言に各国が一目置く状況をつくらないとならない」と訴えた。


 明日26日(日本時間)に、事前録画したビデオの配信で、菅新首相は初めて国連総会で演説することになっている。米中対立が鮮明化し、結束できない世界で、日本は今何を発信するのか。

nishimura.jpg

(西村友穗 言論NPO国際部部長)


1 2 3 4 5