【メディア評価】加藤紘一氏 第5話「メディア市場原理主義」

2006年5月23日

0605m_kato.jpg加藤紘一(衆議院議員)
かとう・こういち

1939年生まれ。64年東京大学法学部卒、同年外務省入省。ハーバード大学修士課程修了。72年衆議院議員初当選。84年防衛庁長官(中曽根内閣)、91年内閣官房長官(宮沢内閣)、95年自民党幹事長。著書に『いま政治は何をすべきか―新世紀日本の設計図』(講談社1999年)、『新しき日本のかたち』(ダイヤモンド社2005年)。

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メディアと市場原理主義

 話を先のアメリカ発の新聞記事に戻せば、アメリカの政権が言っていることを、日本はアメリカと違う国なのだから、70%は協力するけれど、30%くらいは、冷静な判断力をもって、批判力を持たなければならないということです。そうした批判力や判断力が失われ始めた日本社会とは何なのかと、私は考えているのです。

 批判力を持つためには日本自体が、日本の将来的な役割なり世界観を持つことも必要ですが、また情報力を持たなければいけない。つまり、一番重要なのは外交戦略構築力です。

 そうした議論や考えは、自民党内でもみんな結構、持っていますが、表には言わない。だからこそ、政権の役割、総理大臣の姿勢は重要なのです。総理大臣が聞く耳もたずに、なおかつ、この間の選挙で大勝してしまった。有権者が小泉劇を支持したからだが、選挙に負けていれば、今、ものすごい議論になっていたと思います。

 イラク戦争が正しかったか、北朝鮮にはどう立ち向かっていくか、中国とは仲良くするかしないか、ものすごい議論が起きている日本だったろうと思います。

 全部、封印して、今の日本は思考停止になって、ポスト小泉の話題だけです。こうした現象は政治の世界だけではありません。

 テレビでも、なぜか、小泉政権に批判的な評論家は全部消えているでしょう。こうした現象に日本のメディアも明らかに引きずられている。こうした状況では、日本の社会でくすぶり始めたポピュリズム的な動きやナショナリズムを抑え込むのは政治だけではなくメディアにも難しいと思います。

 最近はそれでも一番強大な新聞が戦争責任はどこにあったかという、強烈なキャンペーンをやっています。ただ、それは、渡辺恒雄という超強力リーダーシップの個人がやっているということです。若手は引っ張られて作業しているようですが、どの社会でも、若い世代に思考力が弱くなっていることが気になります。

 紙のメディアにいる人の間でこうした問題に悩みがあるのは、世の中を動かしているのが、今はもうペン・ジャーナリズムではなく、全部テレビで動いているからです。そして
東京でつくった番組情報が、一斉に全国ネットで流されている。それで、中央のキー局は、毎分視聴率を気にしながら、番組を作っている。経済も市場原理主義になっているのですが、メディアも市場原理主義になっているのです。

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話を先のアメリカ発の新聞記事に戻せば、アメリカの政権が言っていることを、日本はアメリカと違う国なのだから、70%は協力するけれど、30%くらいは、冷静な判断力をもって、批判力を持たなければならないということです。そうした批判力や判断力が失われ始めた日本社会とは何なのかと、私は考えているのです。