2011年4月28日(木)放送
出演者:
湯元健治(日本総研理事)
内田和人(三菱東京UFJ銀行円貨資金証券部長)
鈴木 準(大和総研主任研究員)
司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)
第2部 なぜ政府の取り組みは遅いのか
工藤:引き続いて議論に入りたいと思います。今朝、僕たちは別の勉強会をやっていたのですが、その時にアメリカの人が言っていたのですが、やっぱり、「日本の復興対応がかなり遅い」と。つまり、「どういうことを目指して、どこに向かおうとしているかがさっぱり見えない」と。3割は「日本は必ず復興するだろう」、「この危機を乗り越えるだろう」と思っているが、、7割くらいの人たちは「日本はこの復興のタイミングを逃してしまうのではないか」と思っている、ということを外国人が言っていました。
内田さんからもありましたが、やっぱり政府の対応が遅れている。対応が遅れているというのは、例えば、プランニングに入ってそれに時間がかかっている、とおいうのではなく、プランニングとか実行体制そのものが政府で決まらない。政府としての統治がなかなかこの危機下で機能していない、ようにも私は思っています。皆さんはこの政府の取り組みの状況をどう見ていますか。
内田:そうですね。過去の大震災でよく比較されるのは関東大震災の帝都復興院というものがあるのですけど、これは後藤新平さんが最終的には巨額の規模が...30億円という復興規模が...最終的には5億円に縮小されたのですが、それでも機能したというのは、徹底的にしかも横断的に官僚機能を活用したのですね。
工藤:活用したのだよね。
内田:ですから、実務家のレベルに落としてその中で知恵というかプランニングをするというのが成功例でした。具体的には、近代的な都市計画として約1千万坪の土地の区画整理事業をやる、と。こういうものは政治のリーダーシップが必要ですけども、実務的な官僚機能を活用していくということが重要になると思います。それから海外の例ですけど、カトリーナというニューオーリンズの大変な大災害がありました。この時も当時は市長と市政の対立というものがあったのですけども、結果的にはクラスタリング・プログラムという形で救済すべきということで、救済すべき地域をまさにクラスに分けて、徹底的に政治のリーダーシップを伴って、そういった救済を中心とした復興計画を立ててそれを推進しました。そうするとこれが非常にうまくいったわけです。さらには、最近では四川地震。
工藤:中国のですね。
内田:四川地震というのは最も復興スピードが速いタイプです。これは中国という非常に特殊な国家体制のもとに、たとえば、農民制度とか土地収用とかこういう形で、ある意味強制的に復興を進めたということもあるのですが、約2年間でした。これもひとつの極端な政治のリーダーシップだと思うのですが、復興計画というものは基本的にはまず救済。それから復旧。それから復興ですけども、この3段階のスピードを官僚組織を活用し、かつ政治のリーダーシップで復興のスピードを上げていく、ということが重要なのだと思います。
工藤:逆に言えば、今、そういう風になっていないですよね。政治家主導ですから。
政治家主導では実行は難しい
内田:そうなのです。ですから、政治主導というのが政治家主導になっている。
工藤:だから、非常に対応が遅う。湯元さんはどうですか。
湯元:内田さんがおっしゃったような、まさに政治の問題というのは、非常に大きいと思います。与野党のねじれ現象というものもありますし、それから民主党政権そのものの中で意見の調整ができないということもあります。民主党というのは政治主導というのを意識しすぎましたので、この震災対応においても復興構想会議ですか、あれもあまり官僚を入れずにやるような感じになっています。そのこと自体が復興スピードを遅らせていると思います。それからもう1つは、今回、震災と津波と原発が同時に襲った複合的な大きな災害であって、特に原発は今なお予断を許さない状況なので、政府の対応の有無や関心の集中が、どうしても原発に集中してしまい、他が少し疎かになってしまうということは、やむを得ない面もあるのですが、ただ、それも体制作りが遅れたことに起因しています。今はきちんと分けて対応していますけども、そういう体制作りの遅れがこういうことと相まって対応を遅くしている。野党もこういう時は一丸となって早急に対応していかなければならないということだと思います。色々なアンケート調査とって見ても、大連立とかいろいろな議論がありますけども、そういうところはなかなかまだ微妙でごちゃごちゃした状況になっています。最終的には政治、与党だけではなく野党も含めて政治の混迷というのが対応を遅らせていると思います。
工藤:鈴木さんはどう見ているんでしょうか。
鈴木:ねじれ国会という決まらない中で災害が起きると本当に深刻だなと思います。
工藤:悲劇という感じがしますよね。
鈴木:先程、政治主導というお話がありましたけれども、中央省庁というのはかなり縦の指揮命令系統がはっきり明確にあって、横の調整機能というのも一応あるわけです。今回、それをフル活用する、という視点がないと先に進まないと思います。加えて申し上げると今回の災害は非常に広域で、沿岸部と内陸部で被害の状況も全然違いますし、原発が関係しているところとしていないところあります。まちまちなわけですよね。被災地の利害も本当にバラバラでそれを調整するような機能がどうもない。東北3県がバラバラに何かを言っていても、それは復興案としての日本の戦略にはならないわけでして、尊重すべき地域の声を集約して、なおかつ国の視点から国家戦略としてまとめ上げる。そういう機能がないのが一番問題なんじゃないかと思います。
工藤:私も同じように見ていてですね、かなり厳しいな、と思うのですが、こういう状況を経済というかマーケットがどう見ているか、ということなんですね。さっきの「危機を脱してきた」というのも湯元さんのお話も、企業が自分たちの努力で生産拠点をうまく調整したり、という話であって。それが単なる「戻す」というのではなくて「新しい形の復興」というのは、今のところ全く見えないわけですね。ただみんな議論が空中を飛んでいるだけであって。
内田:海外からの見方、市場からの見方もそうですけど、やっぱり復旧から復興への動き、これがまだ構想段階であると言ってもいいと思うのですが、一歩でも前進しているかどうかというところに注目している。具体的に言えば、この6、7月から出てくる第2次補正予算ですね。こういう中身の骨格でも、例えば、先程、湯元さんがおっしゃったように、今回は東北の経済復興というものがベースになりますので、一部政府も出していますけど経済特区とか、鈴木さんもおっしゃいましたけど東北6県の特殊性を生かす考え方とか、そういうものを進めていく。それから住民対策。次に住宅ですよね。前回の阪神淡路大震災の時もそうですし、先程のカトリーナの時もそうなのですけど、住宅の復興対策というのがかなり経済の需要サイドにも大きいですし、人々のマインドも結構回復していきますので、住宅対策が必要です。後は、東北でどういう産業を立て直していくのか。今回、サプライチェーンがかなり影響を受けたということですが、逆に言えば、そういうサプライチェーンはだからと言って西日本に移すのではなく、もう一度全国的な防災設備インフラを整えた上で、しっかりとした工業団地、経済特区のもとでサプライチェーンを立て直す必要がある。そういうことで産業を興していくという動きがこれから出てくることを今、市場や海外は非常に期待しています。
工藤:ということは、期待が裏切られると困るわけですよね。
内田:あと期待は最終的にそれが実現になってもそのスピード感が重要ですね。
市場が期待するのは実行とスピード感
政治的には6、7月を目途にかなり時間軸として注目されていると思います。具体的なことが出てこないと。あるいは税制と社会保障の一体改革も非常に重要なのですけども、やっぱり優先順位をつけて早く復興に向けてリーダーシップを発揮しないとかなりマーケット的にも海外の見方も厳しくなると思います。
工藤:すると、第2次補正が1つの焦点になっていくと...。
内田:第2次補正とそれから対策。
工藤:どうですか、湯元さん。ちゃんと動き出すと思います?。
湯元:この復興構想会議。これは復興ビジョンをつくるということで学識者、専門家、有識者を入れて、これは基本的には東北をどういう形で甦らせるのか、まったく元のままに戻すのではなくて、新しいコンセプトをどういう風に埋め込んでいくのか。これを通じて日本全体の国際競争力、日本の経済成長を高めるようなものになるのだ、というものを出せば、海外からも「日本は必ず復活できる、より強くなって戻ってくる」と、こういう見方が出てくると思います。
この第1次提言が6月末にまとまって、その後も提言を出していくのでしょうけれど、第2次補正というものは夏場のできるだけ早い段階で出さないといけないわけですが、この復興構想会議の提言を補正予算の中に実際にどうやって落とし込んでいくのか、です。ただ、私は先程からご指摘があったように官僚が入っていないというのもありますので、スムーズになかなか行かないと思います。役所は役所で、例えば、国土交通省は復興会議をつくって国土交通省なりの考え方で地形に応じた民家の復旧とか一方でそういうことをやっているわけです。その延長線上には何か新しいものが出来上がるという姿はちょっと想定しにくいがものあるわけです。現在も被災地で苦しんでいる方の心情を考えれば、もちろん新しいものに作り替えるなんて能天気に言っているのはどういうことか、という批判もあるのですが、そこは同時並行でしっかり進めていく。将来プランを早くつくり、一方で足下の復旧・復興は当然スピードアップしていかないといけない。その辺りが政府の中でバラバラに見えますし、民主党の中でも同じような委員会ができましたけども、それはそれで現地視察のようなことをやって、色々考えて議論はしているのですが、その3つが相互連携というものが見られないような感じがします。
工藤:そうすると、湯元さんはうまく行かないのではないか、と見ているわけですね。
湯元:もちろん、足元の原発の影響というのもあるわけですね。これは日本人に対してだけではなく、海外諸国にも心理的影響がものすごくあって、風評被害が農産物や魚だけでなく、工業製品とか部品というところまで放射能検査をさせられて証明書を出せ、と言われているわけです。先程内田さんがおっしゃった日本の安心・安全ブランドは完全に崩壊していますから、政府の役割は復興もあるのですが、そこの風評被害を海外のマスメディアや外国の国に状況をきちんと説明する。原発についてもようやく最近になってスケジュールが出てきましたが、6カ月から9カ月というあいまいな工程表です。
工藤:工程表ですね。
湯元:そこら辺をはっきり海外メディアに具体的に説明していくというのも日本が速く再生していくために必要なことですね。
工藤:日本の政府はかなり内向きで海外に対する対応を、の震災時からほとんどやっていません。支援も途中で断ったりしています。つまり、受け入れる力がないというのがあって、非常に、今、閉鎖的で内向きな状況になってしまっていますよね。さっき、鈴木さんが地域の声を反映させながら、しかし国家戦略としてやっていくその仕組みがない、と言われていましたが、、そうなってくるとひょっとしたらアイデアだけを国が出して、ということになってしまう可能性もありますよね。
鈴木:復興というのは、過去の関東大震災も、阪神淡路大震災もそうでしたけど、政府のお金と民間のお金の両輪で動いて復興していくものですよね。政府だけでやるものではないわけです。湯元さんがおっしゃったように、新しい東日本をどのように作るのかということがベースに国としてあって、そこで農業を世界的に競争力ある形に変えていこうとか、漁業にしてもまだまだ効率化する余地があると言われていますし、それから住宅だって高齢社会に適した住宅ストックをどう作って、どういうまちづくりをするのか、それをうまくやれば生活産業が入っていけるわけです。
ですから、被災地での様々な復興事業に民間資金が入っていけるように、国がアイデアを示し、呼び水となるような、税を使った補助金でもいいですし、政策金融でもいいですし、政策を措置する。そこに民間資金がこれならいけるというような形で入っていくような循環が起こる、そういう全体の復興の計画ができるかどうかが重要です。
4月28日、言論スタジオにて、湯元健治氏(日本総研理事)、内田和人氏(三菱東京UFJ銀行円貨資金証券部長)、鈴木準氏(大和総研主任研究員)が「マーケットは震災復興に何を求めているのか」をテーマに、議論を行いました。