「なぜ今、日韓間で民間対話が必要なのか」識者3氏が語ります

2021年9月08日

 日本と韓国は台頭する中国と、同盟国である米国に挟まれ、政治的・地理的な環境を共有しており、さらに、米中対立の激化、北朝鮮の核・ミサイル問題など、この北東アジア地域には、日韓両国が協力しなければならない課題が多く存在します。
 しかし、日韓二国間関係は、韓国最高裁による元徴用工判決を皮切りに関係が再度悪化し、日本政府の輸出規制強化や、韓国政府によるGSOMIA破棄通告などを経て、日韓関係は極めて深刻な状況にあります。
 こうした状況下で、言論NPOは10月2日(土)に、「第9回日韓未来対話」・「日韓若者対話」を開催します。そこで、「なぜ今、日韓間で民間外交が必要なのか」識者3氏に語ってもらいました。

個人の日常生活に関わる共通の議論をすることに、民間対話の大きな意味がある

ogura.png小倉和夫(国際交流基金顧問、元駐韓大使)

 私は、日韓関係というものは、プラスとマイナスが等しく、合計したらゼロになるくらいがちょうどいいと考えています。文化やスポーツ面での日韓交流は昔よりも多く、プラス面は格段に増えている。それなのにマイナス面の方が大きくなりすぎてゼロになっていない。プラスがマイナスを打ち消すことができていない。つまり、ただ文化を楽しむだけでは駄目だということです。普段から日韓交流しているような人々はこうした状況を「政治家のせいだ。我々はちゃんとやっている」と言うかもしれませんが、そういう市民自身もさらに自覚と責任を持たなければならない。そして日韓間の課題について議論しなければならない。そのための日韓未来対話だと思います。

 国際政治の現状を見ると、各国が国家を軸に物事を考えるという傾向が強く出てきています。また、グロバリゼーションが進んだことの反動として、市民の間でも国家や民族のアイデンティティーを探し求める人が増えています。市民レベルでも国家を軸に考えてしまうわけです。その結果として、国家間の対立が起こりやすくなるのです。

 しかし、国と人は別なのです。中国人と中国は別。アメリカとアメリカ人は別なのです。そこを混同して「中国人はみんなこういうものだ、アメリカ人はみんなこういうものだ」ととかく思いがちです。しかし、別なのです。「国」のイメージに人を当てはめてしまう。そうして「人」を見ることができなくなってしまう。ですから、そこで民間の対話が重要になってくるわけです。
しかし、韓国との間で民間対話をする際に注意しておくべきことがあります。日韓共通の課題というと、どうしても対北朝鮮や対中国の戦略など、国の観点から考えてしまう課題が多い。もちろん、こういう議論も大事です。しかし、やっぱり人に注目するべきなんです。

 北朝鮮にも何千万人の人が住んでいる。じゃあ彼ら一人ひとり何を考えているのか、ということを考えなくてはいけない。ただ「核だ、ミサイルだ」と言っているだけではしょうがないんですよ。韓国でもそうです。韓国と聞くとすぐ慰安婦問題など国の問題を考えてしまいますが、両国の普通の市民の立場からいえば、みんなが困っているのは高齢化社会の問題でしょう。小説や映画でも認知症の話がいっぱい出てきますよ。

 日韓間の議論では、「個人の日常生活の中で共通の問題とは何か」という話をあまりしないのですよ。もちろん、慰安婦や徴用工の問題も無視はできない。でも、日常生活に近い課題、例えば、高齢化社会や環境問題に関する議論も必要です。ただ、こうした議論は国家同士の対話ではなかなかやりにくい。だから、市民同士の対話でやる。ここに民間対話の大きな意味があると思います。

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