韓国世論の中に日本に対する柔軟な見方が出されるなど、関係改善のきっかけもセッション1「日韓関係の改善をどう進めるのか」 報告

2021年10月02日

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0.png 言論NPOは10月2日(土)、日韓未来対話を開催しました。

 開幕式に続き「日韓関係の改善をどう進めるのか」をテーマとするセッション1では、9月28日に公表された「第9回日韓共同世論調査」結果を踏まえて、日韓関係の改善の糸口を探る議論が展開されました。司会は朴仁國氏(崔鍾賢学術院院長)が務めました。

kudo.png 工藤泰志(言論NPO代表)、孫洌氏(東アジア研究院院長)から改めて世論調査結果の解説が行われた後にスタートした議論では、両国で新政権が発足することを一つの契機として、日韓関係のリセットを図るべきだとの意見が相次ぎました。また、韓国側の認識の変化や、若い世代の意識に注目すべきとの意見も各氏から寄せられました。


選挙の終了を待たず、日韓間で協力できることは推し進めるべき

1.png 申珏秀氏(元駐日大使)は、新政権誕生は、相互信頼が底を尽き、感情論の応酬が続くという日韓関係の悪循環から脱する好機であるとしつつ、そのためには日本の参院選が終わる7月まで「これ以上事態を悪化させないために管理すべき」と主張。特に、元徴用工訴訟をめぐる現金化に向けた動きへの対応が必要であるとしました。

nishino.png 西野純也氏(慶應義塾大学法学部教授)は、10月4日に新首相に就任する見通しの岸田文雄氏が、韓国に対して慎重かつ柔らかいメッセージを出すことに期待を寄せました。一方で両国は来年7月の参院選が終わってから改善に乗り出すのでは遅いとも指摘。今すぐできることはやっていくべきとするとともに、歴史認識問題があるから立ち止まるのではなく、協力も推し進めていく2トラックアプローチの必要性を強調しました。


韓国世論の中に、日本に対して柔軟な声も増え始めた

2.png 南基正氏(ソウル大学日本研究所教授)は、「徴用工問題解決のために何をすべきか」の設問で、韓国世論では「韓国最高裁の判決に従い、強制執行や精算を行うべき」の回答が減少するなど柔軟な対応を求める声も増えてきていると指摘。だからこそ、日本政府が強硬路線を続けない方が、韓国政府としても柔軟な対応をしやすくなると提言しました。また、岸田氏については、その外交方針を分析し、民主主義、人権、地球規模課題への取り組みに積極的であることから韓国も十分に協力できるとの見方を示しました。

okuzono.png 奥薗秀樹氏(静岡県立大学大学院国際関係学研究科教授)は、日本人は韓国とどう付き合っていけばいいのかわからなくなっているものの、日本政府の対韓政策の支持は多くないことから、現状をなんとか打開しなければならないとは考えていると世論調査結果から分析。また、岸田氏について、一部の韓国メディアからなされている「安倍元首相のアバター」などという評価に対しては、「広島が地盤だけあって戦争の負の面もよく認識している」とし、先入観だけで見ると評価を誤ることを忠告。同時に、徴用工裁判で韓国司法の判断が分かれたことは、政治判断の余地が出てきたということでもあり、韓国の新リーダーに対しても「日本側も『何の期待もできない』というように一刀両断すべきではない」と主張しました。


若い世代がリードしていくことが、日韓関係改善の協力進化のカギに

3.png 朴喆熙氏(ソウル大学教授)は、「日韓は対等な関係になったのか」という設問に着目。これまでは両国の国民意識には「韓国側には被害者意識、日本側からは上から目線」があったとしつつ、調査結果では特に若い世代に両国が対等であるとの見方が多いと分析。この対等であるという感覚こそが協力進化には不可欠であるとしました。そして、対中認識で両国の足並みが揃い始めた今だからこそ、2トラックで多面的な交流を進めつつ、「若い世代から学ぶ。若い世代がリードしていく」ことが関係改善と協力進化に向けたカギとなるとの見方を示しました。


日韓間の協力を進めるためにも、第三国を巻き込むことも重要

tsukamoto.png 塚本壮一氏(桜美林大学教授)も、対中認識で日韓間のギャップが埋まってきたことを好機としつつ、「韓国は将来、どのような方向に進むのか」という設問に着目。「米国、中国などを含めた多国間協力促進の道を選ぶ」という回答が35.7%で最多となったことから、日韓二カ国だけでなく、第三国も巻き込んだ形であれば協力も進めやすいと提言しました。
一方で、両国間の地道な交流にも言及。確かにサブカルチャーは相手国への好印象形成に寄与するものの、「それだけでは力不足だ」と指摘。留学など直接交流の早期再開や、ジェンダー問題など国民の関心事での交流を増やしていくべきと語りました。

4.png 権容奭氏(一橋大学法学研究科准教授)は、極限まで関係が悪化したからこそ、韓国では「日本はこうしなければならない」という強硬な論理が見直されたのではないか、と韓国世論に改善の意思が表れている背景を読み解きましたが、反対に日本が「かつての韓国のように強硬になってきている」と分析。どこの国ともフラットに経済外交を展開してきた日本が韓国に対しては輸出規制など別の論理を持ち込んでくるようになったことはその表れだと指摘しました。

また、日韓関係の対等性への意識については、若い世代とは異なり、中高年世代では受け入れていない人が多いとしつつ、余裕を持ちつつ現状を客観的に認めることが出発点だと語りました。

 その後も、各パネリストから意見が出され、セッション1は終了しました。



セッション1 出席者
問題提起:
工藤泰志(言論NPO代表)
孫洌氏(東アジア研究院院長)

日本側パネリスト:
奥薗秀樹・静岡県立大学大学院国際関係学研究科教授
権容奭・一橋大学法学研究科准教授
塚本壮一・桜美林大学教授、元NHKソウル支局長
西野純也・慶應義塾大学法学部教授

韓国側パネリスト:
申珏秀・元駐日大使
南基正・ソウル大学日本研究所教授
朴喆熙・ソウル大学教授

司会:
朴仁國・崔鍾賢学術院院長、元国連大使