「日韓未来対話」開催から10年、これからの日韓関係をどうするのか ~第10回日韓未来対話 第2セッション報告~

2022年9月03日

アイデンティティをめぐる争いと化した歴史問題。共通アイデンティティをつくることで未来を目指すべき

A50K0358.jpg まず日本側から問題提起に登壇した慶應義塾大学名誉教授の小此木政夫氏は、この10年間、日韓両国は「歴史問題の罠」に翻弄され続けてきたとした上で、この歴史問題に関する議論とは、実は歴史的事実を究明するためのものではなく、互いの民族的自尊心やアイデンティティをめぐる争いだったとの見方を示しました。そうである以上、事実を突きつけたところで終わるはずもないとこの歴史問題に関する対立の難しさを明らかにした小此木氏でしたが、同時に「双方から『どうもおかしい』という雰囲気が出てきた。何より両国を取り巻く戦略環境の変化によって論争を続ける余裕などなくなってきている」と変化の兆しも指摘。

 また、8月15日の光復節記念式典における演説の中で、尹錫悦大統領が「韓日関係が普遍的な価値を基盤に両国の未来と時代の使命を目指して進んでいく時、歴史問題もきちんと解決できる」と述べたことからも今後に向けた希望はあるとの見方を示しました。

 小此木氏は最後に、これまでアイデンティティをめぐって争いをしてきた日韓両国は、自由や民主主義など普遍的な価値を共有し、米国の同盟国同士であり、さらに米中対立の狭間で揺れているなど共通項が多いため、「独仏関係のように共通アイデンティティをつくっていける」とし、こうしたアプローチによって未来を目指すべきだと語りました。


「日冷韓熱」の中、韓国側の変化を日本側も見てほしい。そして大きな視点を共有しながら、関係改善を模索すべき

シン.jpg 韓国側から最初に問題提起を行った元駐日大使のシン・ガクス氏は、関係改善の兆しは見えてきたものの、その積極性に関しては「政冷経熱」ならぬ「日冷韓熱」という非対称性があると指摘。韓国側の変化を日本側も見てほしいと呼びかけました。その上で、こうした状況の中ではまず大きな視点を共有すべきだとし、「過去から未来へ」、「バイからマルチへ」、「感情から理性へ」、「対立から協力へ」といったフレームを次々に提示。また、「若い世代」や「市民社会」といった政府以外の主体の果たす役割も重要であるとしました。

 シン・ガスク氏はさらに、個別具体的な課題として、ビザなし入国の再開と人的交流の拡大や、経済を中心とした協力の積み重ねによる信頼回復なども提示しましたが、歴史和解に関しても政治とは別のプロセスで継続すべきと語りました。


共に海洋国家を目指すべき。徴用工訴訟問題については国際法に従って知恵を出すのが外交の役割

A50K0419.jpg 早稲田大学特命教授で、駐米大使と外務次官を歴任した杉山普輔氏は、工藤の「日韓関係に未来はあるのか」という問いに対して、「あるに決まっている。ないということはあり得ない選択だ。『未来はあるのか』というテーマ自体が失当だ」などと舌鋒鋭く回答。

 その上で、今後の日韓両国が共有できる基盤として「海洋国家」について提言。「日米は海洋国家だが、韓国も今後海洋国家を目指すべき」とし、それが日米韓連携の強化にもつながるとの見方を示しました。

 一方で杉山氏は、徴用工訴訟をめぐる韓国大法院判決についても言及。賠償以上に国際法上の根拠なくして植民地支配の不法性を示したことを問題視した上で、「国際法に従って知恵を出すのが外交の役割だ。しかし、両国とも取り組むスピードが遅い」と苦言を呈しました。


共通課題は多い。より簡単な課題から段階的に取り組んでいきながら日韓関係を質的なものに転換すべき

ノウンレ.jpg 共に民主党の国会議員であるノ・ウンレ氏は、北朝鮮の非核化対応をめぐって、日米韓の協連携が進みつつあるとの認識を示しましたが、これ以上の協力を進めるためには「その前提として日韓二カ国の関係改善が不可欠だ」と主張。小渕首相と金大中大統領の間で結ばれた、日韓関係の包括的な未来像を提示した「日韓共同宣言」の精神に立ち返る必要があるとしつつ、「北朝鮮の核問題だけでなく、気候変動、コロナ対応、そして人口減少対策など、日韓が共通して直面している課題は多い」と指摘。より簡単な課題から段階的に取り組んでいきながら「少しずつ確執を解きほぐしていくべき。一方の不幸が他方の幸せになるような時代は終わったのだ。経済関係が対等になりつつある今こそ、日韓関係を質的なものに転換すべき」と主張しました。

 問題提起の後、ディスカッションに入りました。


日本側に残る不信感。それでも尹政権のイニシアティブには応えるべき

A50K0475.jpg 衆議院議員で、元外務副大臣の薗浦健太郎氏は、日本側の不信感について発言。「韓国と何か合意したところで、政権が代わったら慰安婦合意のように覆されるのではないかという不信感がある」としました。その一方で薗浦氏は、「だからといってこのままでいいわけではない。二国間関係よりもまずマルチ、例えばインド太平洋経済枠組み(IPEF)などを基盤として信頼回復を進めていくべきだ」と語りました。

 この「日本側の不信」発言に対して韓国側からは、日本側の歩み寄りも必要との発言が相次ぎました。

 ソウル大学マスコミ情報学科教授のシム・ギュソン氏は、それぞれの自尊心がぶつかり続けた結果、「歴史問題は過去ではなく、未来の問題になってしまった」とその解決の困難さを指摘。同時に、両国政府間の危機意識にはギャップがあり、韓国政府はいまだ日本に対する国民感情が悪い中でも改善に動こうとしているとしつつ、日本側にも姿勢の転換を求めました。


 ノ・ウンレ氏は、歴史問題をめぐっては、韓国側は国際法だけでなく普遍的な価値とりわけ人権感覚も重視していると杉山氏の問題提起に回答した上で、もはや韓国側だけで解決できない状況である以上、日本側も強硬な姿勢を改めるべきと求めました。

いジョンファン.jpg ソウル大学マスコミ情報学科教授のイ・ジョンファン氏も同様に、韓国側だけでは問題を管理できないと発言。さらに、尹錫悦政権に対して頑なな態度を取り続けると、当初は親日的であったのに最後は強硬な反日姿勢になった李明博政権時と同様のパターンに陥ることを危惧。特に現在の韓国政府内には日本をよく知る人材が乏しいために余計にそのリスクは高いと警鐘を鳴らしました。

 シン・ガスク氏は、日本の歴史認識もこれまで一貫していたわけではないとしつつ、「相手が約束を守らなかったからといって、一方だけで正義を独占してはならない」と指摘。尹錫悦政権の間に解決できなければ、以降の日韓関係はさらに困難なものになるとも語り、韓国側のイニシアティブに日本側も応えてほしいと要望しました。

ウィソンラク.jpg 元駐ロシア大使のウィ・ソンラク氏は、元徴用工をめぐる問題の解決策について話し合う韓国の官民合同の協議体について解説。現状、実権もなく、世論も支持しているわけではないと解説しつつ、これを機能させるためには超党派的なものにすること、そして世論の支持を受けることという二つの課題があるが、それには時間がかかると説明。こうした状況について日本側に理解を求めました。

A50K0522.jpg 静岡県立大学大学院国際関係学研究科教授の奥薗秀樹氏は、「ろうそく革命」という一種の政変で誕生した文在寅政権には、"風"に逆らってまで日韓関係改善に向かって飛ぶ意欲はなかったと回顧しつつ、逆にそうした政治的なしがらみのない尹錫悦政権には期待できるとしました。奥薗氏は、光復節演説の分析として、尹錫悦大統領が「抗日のフレーム」で歴史観を固定していないことや、世界で自由民主主義が危機に直面する中、日本を「同じ側」に位置付けていることを評価しつつ、日本政府に対して強硬な対応はせずに、関係改善に向けた環境づくりから協力を始めるべきと提言しました。

阪田.jpg 神田外語大学グローバル・リベラルアーツ学部教授の阪田恭代氏も、光復節演説の中で尹錫悦大統領が「かつて私たちの自由を取り戻し、守るために政治的な支配から脱すべき対象だった日本は今、世界市民の自由を脅かす挑戦に立ち向かい、共に力を合わせて進むべき隣人」と述べたことを高く評価。日本側もしっかり受け止めるべきと主張しました。また、今回の世論調査結果では、「相手国の政治・社会体制」に関する設問で、相手国を「民主主義の国」だと見ている人が両国で増加していることに着目し、「認識が共有されてきた。『小渕・金大中2.0』を尹錫悦政権の間につくり上げ、先進国同士の成熟した関係を目指すべき」と語りました。


クアッドには高い包摂性がある。韓国とも共有できる構想だ

 議論では具体的な協力についての発言が相次ぎましたが、中でも日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国による新しい協力の枠組み「QUAD(クアッド)」についてのやり取りが見られました。

パクヨンジュン.jpg 韓国国防大学校教授のパク・ヨンジュン氏は、韓国も海洋国家を目指すべきとの杉山氏に問題提起に賛同しつつ、「日本はクアッドに韓国が入ることに積極的ではないのではないか。最近日本では「西太平洋連合構想」というものも提唱されているが、これにも韓国は入っていない。そもそも国家安全保障戦略や防衛白書でも韓国は軽視されているのではないか」と疑問を提示。

 これに対し、薗浦氏と杉山氏はクアッドが目指す「自由で開かれたインド太平洋」の英訳"Free and Open "を強調。高い包摂性があるため、韓国が条件を満たして申請すれば排除はしないと説明しました。

nishino.png 慶應義塾大学法学部教授の西野純也氏も、韓国もこの地域をめぐる戦略をつくっているため、十分に共有できる構想だとの認識を示しました。


心理的なしがらみの少ない若い世代の役割がカギとなる

 世論調査結果では、両国ともに若い世代は相互に良い印象を抱いていることが明らかになっていますが、議論ではこうした若い世代の声が今後の日韓協力のカギとなるとの意見も寄せられました。

添谷.jpg 慶應義塾大学法学部名誉教授の添谷芳秀氏は、メニューは多々あるのになかなか協力が進まないのは「単にやる気がないだけ」と断じつつ、「相手国に対する良くない感情とは別に協力は粛々と進めるべき。その点、心理的なしがらみの少ない若い世代の役割がカギとなる」と期待を寄せました。

ソンヨル.jpg 議論を終えてソン・ヨル氏は、「確かに、歴史問題は民族的自尊心やアイデンティティのぶつかり合いになっている」としつつ、「信頼回復のための話と、歴史問題に関する話は政府もきちんと分別する必要がある」と指摘。また、一方だけが改善に向けたイニシアティブを発揮すべきではないという指摘にも賛同しました。

 ソン・ヨル氏は最後に、「仮に徴用工問題が解決したとしても、日韓関係が直ちに新しいステージに進めるわけではなく、長い視野が必要だ。その意味でも、若い世代への期待は大きい」とし、セッションを締めくくりました。

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