メディア版「不戦の誓い」に双方のメディアが合意「第18回東京-北京フォーラム」メディア分科会 報告

2022年12月08日

日本のメディアは米国に反対の報道はしないのか

fujii.jpg 二人目の問題提起者である日経新聞の藤井彰夫常務執行役員・論説委員長は、「政府発表ベース」の中国メディアに対して、日本の報道姿勢は「政府から独立し、さまざまなソースで多様な意見、議論を提供している」と違いを強調。中国の若者らによる最近の「ゼロコロナ」政策への批判的対応が報道されたのかどうかなど、メデイアの対応をただしました。

黄.jpg 鳳凰衛視(フェニックステレビ)中国語局の黄海波副局長は、日本メディアによる中国の「軍事大国化」報道に不満を表明するとともに「米国はたくさんの戦争を引き起こしたのに、なぜ報道しないのか」と疑問を示しました。同時にロシアのウクライナ侵攻に関して「中国は中立であり、覇権的な対応はとらない。平和的な対応を選ぶ」と明言しました。

 アジア太平洋広報センター総編集長の王衆一(中国人民政治協商会議第13期全国委員会外事委員会委員)は「『人民日報』などオールドメディアは包括的に報道している。歴史番組などでNHKは深い洞察力を示しており、現実面でも深みのある報道ができるのではないか」と、中国側の視点で要望しました。

辰.jpg 共同通信国際局編集委員多言語サービス室長の辰巳知二氏は、黄海波氏が言及した「米国の戦争」について応答しました。「ブッシュ(息子)政権によるイラク戦争に対して、日本は批判的だった。米軍に従軍し、精力的に報じた」と振り返り、「現場の記者は命がけで取材した。戦争で犠牲になるのは子供や住民だ」と批判しました。


日中両国のメディア間で認識の差が明らかに

金.jpg 中国側司会の金莹氏は、イラク、アフガニスタン戦争に言及した上で「日本メディアは、組織ジャーナリストとフリージャーナリストでは立場の違いがある。米国の意に沿った報道をしている印象だ」と指摘。これに関連して、人民日報国際部編集者の劉軍国氏も「現象が生じた後の本質を考える必要がある。我々は現象から、米国の覇権主義を見ている。日本側も本質を見るべきではないか」と、金莹氏の指摘に賛意を示しました。

古本.jpg 一方、毎日新聞外信部長の古本陽荘氏は「日本メディアが、中国に関してネガティブに報じて悪化したとは思わない。我々は現に米国の選挙や銃規制、差別問題などを詳報し、かなり批判的に報じている。隣国の友人が間違ったことをきちんと言い合えることが健全な関係ではないか」と反論したところ、金莹氏は「認知戦に巻き込まれている」と再反論しました。続けて「日本の主要メディア5紙は大体、政府と同調しているのではないか。中国の人々は幾つかの層に分かれており、反応も多元的だ」と主張しました。

 中国青年報国際面融合メディア編集長の陳小茹氏は「ウクライナ侵攻の本質はロシアと米国の衝突だ。どちらかを弁護するのではなく、"放火"したのはどちらかと考察することに意味がある。メディアは思考を単一化しているが、中国は多元的に報じている」と強調しました。


メディアは紛争の不安と対立を煽っているのか

 議論の後半は「報道は、アジアで高まる紛争の不安と対立を煽っていないか」をテーマに、再び熱っぽい議論が展開しました。

神子田.jpg NHK解説室の神子田章博解説主幹は、中国側が主張したロシアのウクライナ侵攻に関する見解に対して「何もしていない人々がかわいそうな状況に陥っている。(本質という)大きな事柄から見れば、そうではないとするのは、問題のすり替えではないか」と厳しく指摘。同時に、欧米日が対ロシア経済制裁に踏み切ったことについて「中国が加わらないのは、ロシアから自由にエネルギーを得ているからではないか。それこそ"漁夫の利"であり、日本側の印象悪化につながっている」との見解を示しました。

 日本側司会の川島氏は、ロシアのウクライナ侵攻が「NATOの東方拡大」だけが理由とは言えないのではないかと指摘。むしろ「認知戦」が「不安と対立」をあおってはいないかと重ねてただしました。
 
 この点について、中国側司会の金莹氏は香港民主化問題における日本の報道姿勢を例に挙げて「北東アジアに目を向けて、自己批判をした方が良い」と応じました。さらに「各々の理念に基づいて、互いに助け合えばいい。日本の原籍は欧米にある。アジアの国なのに、北朝鮮、ロシア、中国と敵対しているではないか」と畳みかけました。

 この発言に対して、川島氏は日米安保に触れて「米国に追従しているように見えるかもしれないが、日本の対外政策は米国べったりではない」と反論しました。NHKの神子田氏も「中国のメディアは、政府の宣伝機関であるという印象だ。日本は事実に基づき、付加価値を付けて報じている」と指摘。米シンクタンクのランド研究所による台湾有事のシミュレーションに言及して「作用と反作用がある。日本のEEZにミサイルを撃ち込み、メディアが台湾有事を念頭に一様に報じたのは、中国側の身から出た錆だろう」との見方を示しました。

 この発言を受けて、金莹氏は「ロシアのウクライナ侵攻を、中台関係に当てはめるのはいかがなのものか。台湾は国ではないし、必ず有事が起きるとも限らない」と述べ、内政干渉に不満を表明しました。


メディア版「不戦の誓い」には、日中両国の参加者が賛同

 二人目の問題提起者である共同通信の辰巳氏は、コロナ禍で途絶えた人的交流などを踏まえて「日本の報道機関で、中国の脅威を過度に報じる社はない」と理解を求めました。その上で、先の「不戦の誓い」に言及して「メディアとして、より確実に戦争のためのペンは持たないことを確認してはどうか」と提案。出席者全員で「メディア版『不戦の誓い』」を確認することに賛意を表明しました。

小川.jpg 読売新聞国際部の小川聡部長も「日中友好に資する報道に努めているが、それができない安保政治状況がある。中国は軍拡を続け、日本は自衛のための必要最小限度の防衛を議論している。対立分裂を加速するリアクションを正当化せず、友好機運を高めるためにも、国際協調に努めてほしい」と呼びかけました。

 18年連続で参加している元国務院新聞弁公室主任の趙啓正氏が「メディアの立場も違うが、互いの胸襟を開くことが大切だ。互いの相違点、欠点を捉えるのはネガティブになる。もっとポジティブに捉えた方が良い」とサディスチョンを与えました。さらに「ぜひ関係者、相手国記者との交流を図り、北東アジアや世界のために使命を果たしてほしい」と訴えて、2時間にわたる議論を終えました。

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