安倍首相の靖国神社参拝に関して

2013年12月26日

声明文

 安倍晋三首相が本日12月26日に行った靖国神社参拝は、現在、情勢が緊迫化している東アジアにおいて求められている政府間外交の再開を、より難しくするものであり、非常に残念である。

 言論NPOは、これまで民間外交を推進することによって、東アジアにおける政府間外交を再開できるような環境づくりに取り組んできた。今年の10月末、北京で行われた「第9回東京‐北京フォーラム」では、日中民間レベルで「不戦の誓い」を盛り込んだ『北京コンセンサス』を発表し、まさに民間外交の主導によって、政府間外交を再開するための大きな流れをつくり上げた。

 今回の首相の靖国神社参拝は、こうした政府間外交の環境づくりに、結果として水を差す動きとなってしまう。

 首相の談話『恒久平和への誓い』では、「不戦の誓い」という言葉が使われているが、現在、日中両国を含めた東アジアにおいて問われているのは、一般的な決意や抽象的な理念に基づいた思いではない。

 現在、東シナ海においては、日中両国間にホットラインが存在しない中で、偶発的な事故が軍事的な紛争に発展する懸念が、現実として存在している。この危機的状況を、何としても押さえ込み、管理していくことこそ、まさに今問われていることであり、それは日中両国のみならず、アメリカを含めた世界が期待することである。

 私たちの「不戦の誓い」は、政府間外交を具体的な危機管理体制構築に向けて動き出させるための重要な契機となっており、そのために安倍政権も、中国と早急に話し合うことが何よりも求められている。

 今年10月末に、中国共産党指導部が打ち出した周辺外交方針では、民間外交の重要性や周辺諸国との融和について言及するなど、従来の外交姿勢からの変化の兆しが見えていた。さらに、防空識別圏問題によって、中国は国際社会から大きな反発を受けていたため、日本が中国との政府間外交を再開するための非常に大きな好機が到来していた。

 しかし今回、首相は近隣諸国の最も嫌がる靖国神社参拝を断行することによって、政府間外交の再開を、より困難な状況にしてしまった。

 靖国神社参拝を断行しておきながら「不戦の誓い」という言葉を使っても、空疎な上辺だけのものになってしまい、平和からはむしろ遠ざかるという矛盾した結果を招いている。首相はそのことを十分に認識する必要がある。

 政府間外交が困難となる中で、東アジア地域の紛争回避に向けた環境づくりや、近隣諸国間の国民感情に、これ以上のエスカレーションを避けるため、民間側の取り組みはさらにその重要性を増している。

 私たちは、今回の首相の靖国神社参拝に対して大きな懸念を表明する。同時に、日本を含む中国や韓国の国民が今回の問題をより冷静に判断することを期待する。

 言論NPOも事態打開に向けた民間外交をさらに進めることによって、もう一度政府間外交を再開させ、東シナ海における危機管理体制の構築に向けた環境づくりをさらに続けていくつもりである。

2013年12月26日
言論NPO