非公開会議第1セッション「2019年日韓共同世論調査結果に基づいて日韓関係の問題を分析する」報告

2019年6月21日

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 言論NPOは6月21日、「日韓関係をどう立て直すのか」をテーマとした「第7回日韓未来対話」(言論NPO、東アジア研究院、崔鍾賢学術院共催)を都内で開催しました。翌日の公開セッションの前に、忌憚のない意見をぶつけ合い、少しでも日韓関係の前進を図ろうというもので、日韓双方の政界、学界、経済界などから計20数名が顔を揃えました。

 今年の対話の開催に向けて、「韓国との対話がなぜ今、必要なのか」などの声も寄せられる中、言論NPOは「こんな時期だからこそ、対話を行うべきだ」と訴え続け、300人近い人たちから、この事業のために500万円近い寄付が集まり開催にこぎつけました。


両国関係のみならず、アジアや世界の未来に向かい合う議論を

kudo.jpg まず、日本側主催者である言論NPO代表の工藤泰志が挨拶に立ち、「民間の対話には、政府間の困難を乗り越え、市民間の相互理解を深める、特別の役割がある。困難があるからこそ、対話をする必要がある」と述べた上で、「今の日韓関係はどういう状況にあるのか、それを本音で真剣に話し合い、両国だけでなく、アジアや世界の未来に向かう議論をお願いしたい」と、日韓双方のパネリストに呼びかけました。

YKAA0095.jpg 韓国側共催者の孫洌・東アジア研究院院長は、「日韓関係は最悪と言われているが、2、3年前からその兆しはあった。その状況が続いて、突き付けられているのが今年の未来対話だ」と説明。その上で、「今年の世論調査を見ると、政府間関係は最悪だが、市民間ではそうではない。民間の力で知恵を集めるべきで、そのための基礎工事の方向性をつかんでいきたい」と今回の対話に対する意気込みを語りました。

YKAA0114.jpg 続いて、この5月に赴任したばかりの南官杓・駐日韓国大使は、「このような大変な時期だからこそ、両国の親密なコミュニケーションが大事だ」と今回の対話に期待を寄せました。また、先日発表された共同世論調査の結果を踏まえつつ、「日韓両国関係にとって否定的な内容でも、両国の若者の親密度や民間レベルの文化交流は大きな資産であり、日韓は切っても切れないパートナーだ。お互いの戦略的重要性からも知恵を持って、歴史問題という大きな重荷を乗り越えていきたい」と、未来のある日韓関係に期待を寄せていました。


世論調査結果から見る日韓関係

 次に日韓双方から問題提起がありました。日本側から工藤は、先の世論調査の結果を紹介しながら話しました。日韓関係は、「昨年の改善傾向から悪化に転じ、日本人の悪化は、2013年の調査開始以来、最も急激な変化となっている。このため日本人に、より日韓関係の将来に対する悲観論が高まっている」と言います。また、両国民の対日、対韓の印象では、日本人の49.9%が、韓国に「悪い」印象を持ち、韓国も日本人と同じく49.9%が日本に「悪い」印象を持っています。また、2015年から始まっていた韓国人の日本に対する「悪い」印象の改善について、今年も継続しているものの、改善率はわずかに0.7(昨年は5.5)ポイントと、これまでと比べると大幅に減少しています。

 日韓関係が悪化した理由として工藤は、韓国最高裁の徴用工の判決、レーダー照射、これらの問題に対する政治家などの発言、更には文政権の日韓関係への取り組みなどを挙げました。特に、こうした問題では日韓の見方が正反対になっていて、双方とも政府の見解と、それを伝えるマスメディアの影響を指摘します。日本では、こうした状況を改善すべきとの意識は40.2%と最も多いですが、無視すべき、何も必要がないなどが合わせて31%も存在していることは注意すべき、と話す工藤でした。この他、双方の指導者に対する「悪い」印象度や韓国からの訪日観光客の増加、韓国人の若者に日本に対して良い印象の人が多く、20代未満では6割近いことなどが報告されました。

 韓国側の孫氏も世論調査の結果を受けて、「この未来対話が始まった2013年から、日韓の様々な緊張関係、政府間の問題は大きく、まだ改善していない。これほどの対立は、例外的に長く不幸なことだ」との認識を示しました。また、徴用工、レーダー照射問題では、日韓ともワンサイドの見方をしているが、韓国側に2つの問題をよく知っている人はほとんどいない、と説明。「真実は、両政府の立場のどちらにあるのか」と問い掛け、「双方に問題があるのでは」と語りました。双方の指導者への点数が極端に低かったのは、日韓の対立を大きく反映したものであり、日韓経済協力を求める声が70%以上もあるのは、今後の日韓関係の先行きを示しているのでは、と述べる孫氏でした。

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大使経験者が語る現在の日韓関係

ogura.jpg 日本側の問題提起者として小倉和夫・元駐韓国大使は、「過去1年の間で、日韓で最も印象に残ったのは、平昌冬季五輪の小平奈緒選手と李相花選手が抱き合った時だった」と、意外な側面から話し始め、「この世論調査は実態を反映していないと思う」と指摘。両国関係とは、政治・外交面だけでなく、スポーツや観光客もある、と強調しました。

 そして、「中国と日本は、韓国にとって近い存在だが、日本にとって、韓国はそれほど近くなく、日本は、韓国を戦略的に重要と見ていない。日本では、韓国離れが起きている」と、元外交官としての視点から語りました。さらに「韓国では親日が、日本では親韓がタブーになっている、そのムードが広がりつつあるのは深刻な問題」と警告する小倉氏は、「日韓協力を具体的に実行する上で困難なのは、韓国側に、日本の植民地時代にメスを入れる感情が入ると問題になる」と、韓国民の過去へ抱く複雑さをその駐在経験から語るのでした。

 一方で、「悪い」印象が49.9%だったのは、「それだけ両国が先進国対等の関係になり、相手国に対し寛容でないことの表れ」とも言う小倉氏。「対等の関係になって、日本側の対韓感情が悪化しているのは、当然の帰結であって、あまり事態を悲観して見ることはない」と、双方に大人の対応を求めるのでした。

YKAA0252.jpg 最後に、韓国側の申珏秀・元駐日大使は、「私は楽観主義者だが、両国関係で、楽観主義を保つのは難しい」と率直に語り、「日韓関係は悪化したが、その影響は非対称的で、両国への好感度の違いが、それを示している」と指摘。「国内の政治状況を反映して、世論も悪化する悪循環がある」と話す申氏でした。徴用工とレーダー照射問題では、法と正義について両政府に食い違いがあり、韓国は法を守らないと日本は考えるが、この判決が出た理由について、「判決に、被害者の正義を守る、とあるのを日本は理解すべき」と、日本側に求めるのでした。


日韓間には、新たな枠組みが必要に

 問題提起が終わり、日韓パネリストの意見交換に移りました。日本側からは、「国民世論は悪くないのに、なぜ、関係が悪くなっているのか。両国政府の問題だけではなく、韓国人と話すと、認識が楽観的だけに、何がこの悪化の原因か、もう少し掘り下げるべきだ。若い世代の交流を通じて、友好の認識は現在の状況に反映できるのか」、「日韓関係が最悪というよりは、大人の関係になりつつあるということは、ある意味でノーマラザイゼーション(均一化)していて、成長過程にいるのではないか。しかし、状況は正常化していても、良い感情、悪い感情が混在する中、どう対応すればいいかがわからないということだと思う」、「今までの枠組みのままの意識ではダメであって、どういう風に対策すべきか。民間対話を活用して、成熟した関係の時の枠組みを考え出す必要があり、各分野で客観的なスタンダードを作っていくしかない。慰安婦、徴用工問題、人権と正義とは何か、という枠組みを作るのが重要で、新しい枠組みにあった関係を考えること」などの発言がありました。

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 一方、韓国側からは、「世論の中身には、一つに政治的オリエンテーション、二つに政治的方針、三つに感情と社会ムードがある。感情面には、集団的な記憶とアイデンティティの二つがあり、政治的であれ、これはマスメディアによって決まるので、マスメディアの責任が大きいと思う。マスコミの役割について、以前どんぶりと比喩した。これは原因と結果が、一つのどんぶりに入っている意味だ」と、マスコミを皮肉る声が出るなど、様々な意見が出され、非公開会議ならではの忌憚ない意見交換が行われました。

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