中国の行動に不透明感が強まる局面だからこそ、 日中が率直に意見をぶつけ、真の関係改善へ前進する対話に

2020年7月31日

⇒ この議論を動画でみる

 言論NPOは、「第16回東京-北京フォーラム」を、11月末をめどにテレビ会議で開催することで、中国側主催者と合意し、7月16日、その第1回の準備協議を実施しました。協議に参加した日本側の正副実行委員長3氏に、今回の日中対話の意味や、対話で目指すべき到達点を聞きました。

出演者:
明石康(国立京都国際会館理事長、元国連事務次長、同フォーラム日本側実行委員長)
宮本雄二(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使、同副実行委員長)
山口廣秀(日興リサーチセンター理事長、元日銀副総裁、同副実行委員長)
司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


工藤:「東京-北京フォーラム」は、今年も開催することが決まりました。中国側と今日行った準備会合の感想からお願いします。


日本も中国も、まずコロナ禍における自国の姿を客観的にとらえることが大切

明石:まさに、コロナウイルスの暗い影のもとで開かれた第1回の準備会合でした。非常に闊達で、率直な意見交換があり、この秋には必ずや、噛み合った真剣な議論が行われ、ある程度、日中間の共通の問題意識が生まれてくるに違いないという、半ば確信のようなものを感じています。もちろん、これから11月までの間には、さらにいろいろな準備作業が待っていると思います。

 会合では、コロナウイルスに関する議論がかなり出ました。中国側は、「コロナに中国はうまく対応した」というような姿勢だと思っていましたが、それほどでもなかったと思います。日本側としても、「日本的な解決策がある」というような態度に陥らず、中国はじめアジアの国々が、どのようにこの問題に対処しているか、ということを、世界的な観点から一緒に考えることが大事だと私は思っています。そういう姿勢が両者にありました。

 そういう意味で、一国主義は時代にそぐわない、ということは、あまりにもはっきりしていると思いますし、この問題の解決を、米中という二つの大国に任せておくこともできない。我々それぞれに、問題の解決に大きな役割があるのだということが、今日の会議でもはっきりしていたように思います。我々の中でも問題をさらに掘り下げなくてはなりません。「東京-北京フォーラム」も、過去15年は一応成功していますが、そのやり方に慢心することなく、例えば、今回はコロナ対策として、オンラインの会議でも開催できるということを発見しつつあるわけです。各分科会の在り方、例えば、その分科会の共同議長を日中から出さないといけないでしょうが、そういう人たちの役割などについても、より具体的な協力の仕方を考えなければなりません。そして、公開でやるか、非公開でやるか、という議論もありますが、できるだけ公開にすべきだという潮流であることがわかりました。

 ということで、これから本番に向けて、我々が一緒に考えることがたくさんあります。私は今日の会議で、「問題の解決は不可能ではない」という確信を持つことができたと思っています。


中国と世界との様々な対話が途絶える中、
日中が世界で果たす役割を語り合う場として、今回の対話が重要に

miyamoto.png宮本:今日の会議でも中国と、アメリカをはじめとしたいろいろな国々との対話や、国際会議などが、中国でもほとんど行われていないことがよくわかりました。そこを、オンラインという形で、今年の秋、11月に開催することを決めましたが、これがいかに貴重な機会であるかということについて、中国側の参加者から高い評価が表明されました。ということは、中国もこのような対話を日本に求めている、ということがよくわかりました。そういう中で、従来その役割を果たしていた「東京-北京フォーラム」が、日中間のさらに貴重な場として生き残ったのみならず、さらに重要な役割を果たすということを、強く感じました。我々もそう思っていますが、中国側もそれに負けず、そのように認識しているということが、今回の会議でよくわかりました。これはよかったと思っています。

 それから、フォーラムのテーマは「世界が目指すべき秩序と日中両国の役割」にだいたい集約されました。これも素晴らしいし、中国側もほとんど違和感なくこれに賛同したという感じですので、「ついにここまで来たか」という一種の感慨を覚えます。すなわち、日本と中国の関係は、世界全体の流れの中で見なければいけない、というのが当然だったのですが、長い間、歴史問題などに引っ張られて、世界の流れとは離れたところで日中がいろいろやり合っていた、というのが日中関係の実態でした。こういうテーマに中国側がすっと入ってきた、ということに、日中関係のある意味での成熟を感じます。

 そういう中で、これから、世界の第二、第三の経済大国、そして東アジアの隣国としての二つの大国が、世界の中で何をするのかを考える場になることがはっきりしてきましたので、そういう意味でも、非常に元気づけられる今日の協議だったと思います。

 そして、「中国側もついにそういうことを言い出すようになったか」と思って私が喜んだのは、やはり、対話を強化し、相互理解を進め、その相互理解が相手に対する敬意を持たせるようになる、ということです。我々はそれを望んでいたのですが、中国側からそういう発言があった。我々は、別に対話のための対話をしているのではなく、対話を通じて相互理解をし、相手を理解すれば相手に対する敬意も生まれる、ということを目指しているのです。ですから、中国側がそういう場として「東京-北京フォーラム」をとらえているということについても元気づけられました。

miyamoto.png山口:私自身は、オンラインで開催するということで、率直に言って、うまくいくのかどうか、やや心配だったのですが、結果としては、本当に率直な議論が、しかも、率直という以上に、思うところを深く語り合う議論ができたので、本当によかったと思います。この延長線上で考える限りは、11月末に予定されるであろう「東京-北京フォーラム」も大成功するになるのではないかと思いました。

 もう一つは、私自身、このコロナ禍の中で、中国側の自らを見る姿勢がどういうふうになっているのだろうか、自分を客観視することができるかどうか、ということに危惧を感じていました。しかし、今日の議論を振り返ってみる限りは、彼らも、自分の立ち位置、あるいは、自分が世界からどういうふうに見られているか、ということについて、ある程度は意識していることがわかりました。そういう意識があれば、これから先、我々との間の対話も、きちんと行えるだろうと思います。

 また同時に、この日本国自身も、世界から、あるいは中国からどのように見られているか、ということについて、改めて非常に深い認識を持ちながら、彼らと接していく必要があると思ったところです。いずれにしても、今日の事前協議は本当に良い協議だったと思っています。

工藤:ありがとうございます。では、二つ質問させてもらいます。
 一つは、今回のコロナ禍における日本の世論を見ても、中国の行動に対していろいろな疑問が出てきていると思います。今までの歴史認識などをベースにした対立と違って、中国の行動を実感として納得できない、という声が、日本の社会にあるのだと思います。それを踏まえながら、この対話をしなければいけない。ひょっとしたら、「こういうときにわざわざ対話をするのはやめた方がいいのではないか」という人もいるかもしれません。そういう状況の中で、我々があえて対話をする意味は何なのでしょうか。


世界共通の脅威に対し、日中が出口に向けて先導する意思を持ち、
未解決の課題に対しては謙虚な姿勢で臨むことが重要

明石:我々はコロナに対面しているのか、コロナ後の世界に対面しようとしているのか。それが、一つの争点だと思います。今日の議論から浮かび上がってきたのは、日本も中国も、ポストコロナの世界にはまだ対面していない、ということです。

 コロナに対しては、各国が対面するのではなく、アジアが対面するのでもなく、世界が対面しているのです。また、米中はまぎれもなく今の世界の二つの大国ですが、この二つの大国にとっても、コロナというものは大変な問題を提起しているわけで、それぞれの仕方で対処しています。11月の「東京-北京フォーラム」は、コロナ後ではなく、コロナの中での会議になると思います。もしかしたらアメリカに関しても、「トランプ後のアメリカ」になるかもしれないし、あるいはトランプが続くかもしれない。それによって、我々の議論もずいぶん変わってくるのではないか、という感じがします。

 コロナの問題は決して終わっていない、ということは事実です。感染の第2波、第3波も当然考えうると思いますし、第2波は第1波よりももっと悪くなる、という専門家もいるようです。アジア諸国の対処の仕方が、世界の中で割と成功しているのではないかという見方も出始めていますが、果たしてそうなのか、日本の場合、うまくいったのかという問題もありますし、あまり軽率に結論を出さず、他の人が言っていること、他の国が言っていることにも、きちんと耳を傾けながら、できれば共通の結論を下す。

 それによって、より安定した、より平和な世界が我々の前に現出するような、そういう前向きな対話を実施しうるし、できればそれを先導しうるのだ、という、ある程度の自信を持ちながら、やり方としてはできるだけ「全ての問題に我々が答えを発見したわけではまだない」という謙虚な気持ちで対話を行うことが重要です。日本にとっては、中国も韓国も東南アジア諸国も隣の国々なので、その国々の率直な気持ちも確かめながら、日本としての構図を、将来に関してつくっていく基盤ができそうだと思います。


中国国内にも多様な声があることを認識しつつ、
国際社会の懸念を日本から中国に伝える場に

宮本:いくつかの意味で、この「東京-北京フォーラム」を開催し、中国側と直接対話をした方がいいと思います。
 一つは、日本の多くの方が感じておられる「なぜ中国はそういう行動をするのか」という疑問についてです。例えば、コロナ問題で相手国政府を悪しざまにののしってみる、ましてや、それを隣国に赴任している大使がやる、ということなのですが、実は、こういう行動に対しては、少なくとも中国のかなり多くの有識者は批判的なのです。我々は「中国が」と一面的に見ていますが、実は中国も決して一枚岩ではなく、既に、中国国内では、私の耳に届くくらいの批判が起こっているということです。おそらく「東京-北京フォーラム」に参加する中国側の人は、「なぜああいうことをするのか」と思っている人が多数だと思いますので、話していくうちに、雰囲気としてもそういうことが伝わってくるだろうと思います。

 それから、香港問題のように、中国が一つにまとまって進んでいかなければいけない、と思ってやった措置について、中国の国内的には「これしかない」と思って手を打ったのですが、その結果、国際社会との関係で非常に大きなハレーション(悪影響)を起こしてしまった、という状況にあります。これを、「東京-北京フォーラム」の場で、どうしてそういうことなのか、と問うていく。中国は、可能な限り一国二制度を残したつもりでいるのです。中国側は、香港当局に任せていれば、治安も含めてちゃんと維持できない。だから、中央政府が直接対処しないと、香港の治安は維持できない。そう思って、一国二制度を一生懸命残しながら、実際は中央が管理するというメカニズムを考えている。彼らは「不可欠だ」「中国的には正しい」と思うことをやったのですが、その結果、国際社会から厳しい批判に直面している、ということなのです。

 こういうときには、我々が「どうしてそういうことは正しくないのか」「中国はああいうことをやるべきではなかった、とどうして我々が思っているか」と説明していく。この点でも、日中の対話は意味があると思います。

 中国は一枚岩ではなく、いろんな人がいるということをわかるのもいいし、「中国が間違っている」と我々が思うときには、意を尽くして説いていく。そういうことを、日本の方々も、「東京-北京フォーラム」を通じて体験する、ということは、重要なことだろうと私は思います。

山口:私自身も、お二人がお話になったことと基本的に変わらないのですが、やはり、こういうときこそ、対話を重ねる意味はますます高まっていると思います。

 特に、中国の言動、ビヘイビアー(振る舞い)に対して、「わからないな」という感じが、日本ではだいぶ高まっている。こういうときこそ、彼らが何を考えているかを聞き出す場としても、そして、我々が彼らに「中国は日本でどう思われているか」と率直に語る場としても、非常に有意義だと思いますし、そういう対話を通じてこそ、両国の間の信頼関係はより密になっていくのではないかと思います。

 このこと自体は、今改めて申し上げたような格好になっていますが、16回目を迎えるまでの間、ずっと「東京-北京フォーラム」で意識してきたことだと思います。改めて、そういう意識をしっかり持った上で、我々は我々なりの思い、考え方を、中国にぶつけていく機会にしていくことの意味は大きいのだと思っています。

工藤:私も今日の事前協議で、今回のフォーラムの重要性を感じ、本当にこれは手を抜けないな、本気で議論をつくらないと、多くの日本の人にも伝わらないな、という覚悟を持ちました。

 最後に皆さんに聞きたいのは、今回のフォーラムで我々は何を達成すべきか、ということです。世界に大きな変化が起こり、そしてコロナ危機がある。そして、米中の地政学的な対立がはっきりしている状況です。その中で、我々がせっかく実現する日中の対話で、最低限、どういうことを実現すべきなのか。決意も含めて語っていただきたいのですが。


米中対立の出口を描けずして、日中関係の真の改善はない

明石:今日の非常に画期的な議論の中で、いろいろと光る発言がありました。
 例えば、宮本さんがおっしゃった、「ソフトパワーに関しては、やはり欧米がリードする世界があるのではないか」というのは、非常に意味の深い言葉だと思って受け取りました。中国はソフトパワーを持っているとしても、それほど大きなものではないし、日本のソフトパワーも同じような状態にあると思います。我々日本人も、世界にもっと理解されるようなソフトパワーに近づく努力は、すべきだと思います。ニューヨーク・タイムズの、東アジアにおける支局が、香港からソウルに移るようになったというニュースがありました。「どうして日本ではないのか」と思いがちですが、やはり、日本のアジアにおけるソフトパワーがまだ十分ではないことを、示しているのではないかと思います。

 ハードパワーも一生懸命考える必要があるし、戦後の日本はあまりにもソフトの思考が支配的だったと思います。したがって、ハードの面も考えつつ、しかしながら、ソフトはもっと大事なのだ、という柔軟な思考であるべきです。11月に予定されている我々の対話においても、それを一歩前に進めるという覚悟で臨みたいと思います。

宮本:世界の最大の問題が米中関係になってきています。相当時間はかかると思いますが、米中ともに、本当に真剣に努力して、最悪の時代にならないように、できるだけ良い形で出口を描いてもらいたい。その間、世界が、本当の意味で破綻しないような形で推移しなければいけないと思っています。

 そういう意味で、今回の日中対話を通じて、一つは、中国の人たちに、日本との本当の意味での関係改善をするためには、米中関係に本気で取り組まないと、日中関係もそう簡単には改善しないのだ、という認識は持ってもらいたい。すなわち、単に米中関係だけ切り離して考えるのではなく、世界の問題、日本との問題、ヨーロッパとの問題も含めて、いかに米中対立が中国に重い負担をかけているか。その認識を持ってもらいたい、というのが一つです。

 さはさりながら、日本と中国の共通の課題、これから共に取り組んでいく分野は依然として大きい。それを探し出すことが、今回のテーマである「コロナ後の世界で目指すべき秩序と日中両国の役割」にもろにつながっていくのですが、そういう我々の共通の目標、共通の任務、そのために何をやればいいのか、ということについて議論を深め、できれば、具体的な成果を出す。抽象論も非常に大事なのですが、それも踏まえて、現在やるべきことは何なのか、ということまで合意が出来上がれば、今回の対話は120点の成果になるのではないかと思います。


リスクに対する想像力を日中で共有することが重要

山口:私自身はこれまで経済問題を担当することが多かったわけですが、そういう中で、日中の協力関係の構築ということを非常に強く意識してきました。そのときに出てきた一つのキーワードは、日本は「課題先進国」ということです。

 今日の議論も踏まえて、そして、コロナの渦中にあるということも踏まえて考えると、やはり、リスク管理というものがいかに大事か、改めてわかってきたという気がします。それは、疫病というリスクをいかに管理するか、それにどう対処するか、ということと、その間起きている洪水、水害という自然災害にどう対応するか。中国もそうですが、日本の場合には、地震というものにどう対応するのか。こういったことは、お互いにとって非常に重要なテーマになってきているという感じがしました。

 私自身は、この「リスクを管理する」というときに非常に重要なのは、イマジネーション(想像力)だと思っています。お互いがどのようなイマジネーションを共有できるか、というのは非常に難しいのですが、こういう想像力をどのようにきちんと共有しながら、将来に向けてのリスクに我々がどのように立ち向かっていくのか。これを考えていかなければいけないと思いますし、ぜひ、これについて一歩も二歩も前進したいと思っています。

工藤:ありがとうございました。この対話には楽な作業はなく、毎回大変なのですが、今回も本当に歴史的な対話になると思います。この実現に向けたプロセスは可能な限り、多くの人々に伝え、かつ当日も、何かの形で議論に参加していただく機会をつくりたいと思っています。今日はありがとうございました。