グローバル化した課題に、各国シンクタンクはどのようにチャレンジしていくのか ~「カウンシル・オブ・カウンシルズ(CoC)」年次総会(於:ワシントン)報告~

2015年5月13日

 5月11日から2日間、アメリカ・外交問題評議会(CFR)が主催し、世界25カ国のシンクタンクが参加する国際シンクタンクネットワーク「カウンシル・オブ・カウンシルズ(CoC)」の第4回年次総会がワシントンで開催され、日本を代表して言論NPO代表の工藤が参加しました。

 今回の会議では、ウクライナ問題と大国間関係、テロ対策、国際保健ガバナンス、貿易と為替、人道介入とシリア、核拡散防止条約などが議題として取り上げられ、世界25カ国のトップシンクタンクの代表者らがこれらの国際問題について真剣かつ活発な議論を行いました。


 1日目の会議では、ウクライナ問題と大国間関係、テロ対策、国際保健ガバナンスが議論されました。

 国際保健ガバナンスでは、エボラ出血熱がWHOの対処の遅れによって流行が拡大したことを受けて、WHOの改革を含めた今後のグローバルヘルスガバナンスのあり方と、感染症などの非常事態への国際的な対応などについて話し合われました。ある参加者からは、ガバナンス構造に関する問題は何十年も議論されてきたもので、WHOの改革について期待を抱くことは難しく、違う枠組みを模索するべきなどの意見が出されました。

 このセッションで工藤は、WHOの構造的な問題を認めた上で、「WHO排除というのは行き過ぎではないか。アメリカ主導の仕組みを作るというアイディアも他の参加者から出されたが、例えば外交的に難しい関係のある国で爆発的な感染症の流行が起こった場合に、どの程度対応ができるのか疑問が残る。多くの国々が参加している国際的な組織を今立て直すことが肝要」と主張。その上で、政治的な配慮から対応を遅らせてしまうことを許したWHOのガバナンス構造の問題を指摘しました。また、国の保健システムそのものを強化するユニバーサルヘルスカバレッジなどの取り組みを促進するなど、国、地域、国際レベルの機関がそれぞれに役割を果たし、機能的に連携していくことために、より活発に議論していくことを呼びかけました。


 2日目の会議では、貿易と為替、人道介入とシリア、核拡散防止条約などが議題として取り上げられました。

 貿易と為替をテーマにしたセッションでは、メガFTA交渉の文脈で「為替操作」についての条項を盛り込むか否か国際的に議論が行われている中、アメリカや日本、EUの量的緩和などの金融政策やそれに伴う為替の変化と、「為替操作」をその中でどう区別し、どう管理していくのか、またその中で国際機関の役割は何か、などが話し合われました。

 この中で工藤は、「この問題は極めて政治的で、政策論としてどのような意味があるのかが分かりにくい」と指摘。量的金融緩和政策(QE)そのものが問題ではなく、2008年以降、日本が75円まで円高が進んでもアメリカのQEや国内経済回復を支持したことなどを例に挙げ、貿易交渉の中で為替操作の問題が議論されていることに疑問を投げかけました。その上で、①「為替操作」とは定義できるものなのか、②通商交渉の中に為替政策を交えることが適切なのか、③世界中でこれ以上の金融緩和の実施は、アメリカ経済にとって容認できるものなのか、という3つの重要な問題をパネルに投げかけました。その上で、TPPのような自由化の大きな流れを生み出す合意を、止めてしまうことの損失の大きさについて強調。また、国際協調の観点から過度な為替の変化に関しては何らかの監視や管理が必要であり、国際機関や国際的な協力のもとで為替や金融政策に関する対策を、通商交渉とは切り離して行っていくべきだと主張し、活発な議論が展開されました。

 続いて行われた核拡散防止条約をテーマにした議論では、現在再検討会議が行われているNPTについて、条約の核非拡散への有効性や、変化し続けるパワーバランスや大国間関係の中でどのように核の脅威を管理していくべきかが話し合われました。

 議論では、遅々として進まない核保有国の核軍縮努力や、過去に核保有をしていた国々が核保有国の脅威にさらされている例などが挙げられ、NPTの非拡散への有効性について疑問の声が挙がりました。また、ある参加者から戦略的に核の脅威が身近にある国には核保有に踏み切るインセンティブがあるので、現状を考えると日本が核兵器開発を行っても驚かない、との意見が出されました。この発言に対して工藤は、「日本は核開発をする技術は持っているが、被爆国ということもあり核兵器保有に対して、世論は非常にネガティブに考えており、日本が核保有国になる可能性は極めて低い」ことを強調。その上で、現在の日米安保協力強化を考えても、日本が単独で核を持つことは考えにくいと主張しました。ただ、工藤は続けて「国際政治上の変化、特に核の脅威を含む武力によって大国が主権や領土を変更しようとするという現象が実際に起きており、核保有国は自制をする責任があり、情報開示によって透明性を高めていく必要がある。そしてそれが市民や国際社会から監視されるべきである」と主張。現在、国際政治の中で核の脅威が主権侵害などの問題と複雑に絡み合っている現状を指摘し、解決に向けた協力を呼びかけました。


 また、2日目の12日には、CoCに参加するシンクタンクのトップを対象とした喫緊の国際課題に関するアンケート「CoC国際協力レポートカード」の発表イベントも行われました。2014年の国際的課題解決に向けた多国間協力について、10の国際課題のうち8分野での評価が「C-」や「C+」となるなど、喫緊の国際課題の解決に向けた国際的な協力関係構築が進まない現状を反映する評価となりました。
この調査の中で工藤は「国のガバナンスは機能していても政府間の取り組みがなかなか進まない。グローバル化した課題にどのようにチャレンジするか」が重要だと課題解決に向けた各国の連携を呼びかけました。
 こちらのアンケートには工藤も参加しており、こちら(英語サイト)よりご覧いただけます。


 こうして、5月11日から2日間にわたって開かれたCoCの第4回年次総会は、様々なグローバルアジェンダに関する議論が行われ、12日閉幕しました。

 2日間にわたる今回の会議を振り返った工藤は、「言論NPOが日本で実践したかったことを世界では既に動いていることを知り、勇気をもらった。今回の会議を踏まえて東京に戻り、日本の社会の中にグローバルな課題について議論し合うような言論の舞台を作りたい」と語り、グローバルイシューや国際課題の解決に向け、今後日本がどのように関わっていくのか、今後の活動に向け決意を新たにしました。

 工藤はCoC閉幕後もワシントンにとどまり、在米のシンクタンク、財団などアメリカの有識者と意見交換を行う予定です。報告記事は、随時、言論NPOのホームページでお知らせいたします。

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