日中両国に対する認識ギャップを率直に語り合う(政治対話:前半)

2014年9月29日

 「政治対話」では、川口順子氏(明治大学国際総合研究所特任教授、元外務大臣)と楊伯江氏(中国社会科学院日本研究所所長)による司会の下、「東アジアの平和と政治の信頼」というテーマを掲げたパネルディスカッションが行われました。

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世論調査に見る『静かなる多数派』の存在

 日本側からは、工藤泰志(言論NPO代表)、逢沢一郎氏(衆議院議院運営委員長)、石破茂氏(国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当)、松本剛明氏(衆議院議員、元外務大臣)、松本健一氏(評論家、麗澤大学教授)の各氏が、中国側からは、趙啓正氏(中国人民大学ジャーナリズム学院院長、元国務院新聞弁公室主任)、呉建民氏(国家イノベーション・発展戦略研究会常務副会長)、陳健氏(中日友好21 世紀委員会秘書長)、王新生氏(北京大学歴史学教授)の各氏が参加し、議論が行われました。

140928_kudo.jpg まず冒頭で、工藤より、第10回日中共同世論調査結果のポイントについての説明がなされました。工藤は「今回の調査結果でも両国民の相手国に対する『良くない印象』は極めて高水準だったが、日本人の8割、中国人の7割がこの現状を問題であると答えており、このような『静かなる多数派』の声を注目すべき」と述べました。

 さらに、両国関係の障害として「政府間に信頼関係がないこと」を挙げる声が両国に一定数存在していることを紹介し、「政府間の交流減少が、国民の間に相手国に対する歪んだ認識を形成する一因になっている」との見方を示しました。その結果として、「今の日中関係を重要であると考える人が減ってきているし、互いに相手国に軍事的脅威を抱いている。将来的な見通しについても『平和的な共存・共栄関係を期待するが、それが実現するかどうかは分からない』という声が目立つなど、両国民は互いに日中関係の未来についてのイメージが見えなくなっている」と述べました。


中国の対日不信と日本の対中不信の中身

140928_kawaguchi.jpg その説明を受けて、日本側司会の川口氏は、「では、どのようにしたらこの状況を改善できるのか。日中間に信頼関係がないのはお互いに自国が将来、どのような国を目指しているのか説明していないことが背景にある。未来志向、大所高所の視点から議論をお願いしたい」とパネリストに呼びかけ、議論がスタートしました。

 議論ではまず、日中関係悪化の背景に、メディア報道の影響があることが、日中双方から指摘されました。

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 趙啓正氏は、「日中双方のメディアは、日中は『敵対関係』であるかのように報じ、双方の国民もそう思ってしまっている。国民間の交流が少ない現状では、相手国への認識形成の際に、メディアからの間接情報に依存し、それに過度に影響されがちになる」と指摘。その上で、「メディアは相手国の短所だけでなく、長所も伝えるなど『真実の姿』を報道するように心がけるべき」と主張しました。


140928_aisawa.jpg 逢沢氏は、趙啓正氏の主張に賛成しつつ、「相手国のことを知ることだけではなく、自国のことを相手国に知ってもらう努力、情報の発信も必要」と補足しました。逢沢氏は、「中国人の4割近くが日本を覇権主義と認識しているが、これは明らかに実態に即していない。このような誤解が積み重なっていくことは大変危険なので、『知る・知ってもらう』努力を続けていく必要がある」と述べました。

 議論では次に、互いに相手国が将来、どのような国を目指しているのか、を問う意見が相次ぎました。

140928_gokenmin.jpg まず、呉建民氏は、「中国が目指す方向性は明確で、豊かで民主的で文明的で調和の取れた国である」と述べました。その上で、「これを実現するためには『平和』という環境が不可欠であり、それは日本にとっても同様のはず。これまでの30年間、中国がスムーズに発展できたのは、対日関係が良かったことが大きい。その分、この数年の対立のダメージは双方に大きく、これ以上、互いに相手国に対する認識を悪化させてはならない」と日本側に訴えかけました。


140928_ishiba.jpg これに対し石破氏は、「日本は歴史を謙虚に、真摯に学ぶ国。政治、経済、安全保障などあらゆる分野で『隙のない』国を目指す。そのための新しいモデルをつくっていく」と述べました。
 その一方で石破氏は、戦前の日本の失敗として、「自国を過信し、他国を侮り、文民統制がなかった」ことを要因として挙げた上で、「今の中国は当時の日本とよく似ているし、『中国の夢』も何を意味しているのか分からない」「東シナ海における日米の航空機に対する中国機の接近行動を見ていると、本当に解放軍に対する文民統制がとれているのか」と中国に対する懸念を表明しました。石破氏は「日本も中国に対して、安全保障政策についてしっかり説明する必要があるが、中国も日本に対して説明する必要がある」と語りました。

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 陳健氏は、日本は平和憲法を捨て、政治指導者が価値外交と中国脅威論を展開し、世論を右傾化に導いている、との認識を示した上で、「これで地域を安定化させられるのか」と日本の姿勢に対して疑問を呈しました。陳健氏は「日中平和友好条約など日中間の4つの政治文書を基礎として、真のパートナーとして日中は地域の安定、発展のために協力していくべき」と主張しました。

140928_ou_seiji.jpg 王新生氏も、集団的自衛権の憲法解釈変更を例として、「日本は戦後の平和の歩みを止めている。積極的平和主義も軍事大国化の動きに見える」と批判。「日本は独特の歴史、文化、価値観をもっている国だが、相手の立場にたって物事を考えなければ、日中の関係はますます悪化するのではないか」と日本側に問いかけました。

 これに対し、松本剛明氏は、「日本が目指しているのは戦後70年一貫して『平和な国』である。右傾化は一部の傾向に過ぎないし、安全保障政策そのものは極めて穏当なものである」と陳健氏と王新生氏の懸念に対して回答。ただ、松本氏は、「日本も戦争を知らない世代が主流になってきている。これからも日本が平和を維持していくためには、歴史を直視し、そこから学ぶことが重要である」と述べました。

140928_matumotok.jpg 一方、松本健一氏は、歴史家の観点から「2025年には世界のGDPのうち、中国が25%を占め、インドが15%、日本は5%となることが予測されているが、実はこれは1820年の世界のGDPシェアと全く同じである」と説明。「200年前と同じ状況になったとき、中国は中華帝国の再興を目指すのではないか。『中国の夢』というスローガンだけでは中国の将来の針路が見えない」と石破氏と同様の懸念を表明しました。


中国の「夢」と日本の右傾化

 パネリストの発言が一巡し、日本側から「中国の夢」が何を意味しているのか、という疑問が提示されたことを受け、川口氏は「『中国の夢』とは何か。増え続ける軍事費とは関係はないのか」と中国側に問いかけました。

 これに対して、中国側パネリストからは、「軍事費増大は国家の近代化に伴う必然であり、あくまで自衛のためである」、「南シナ海への進出は海上貿易ルートの確保のため」、「増大している分、PKOなど国際的な平和維持活動にも回っている」などの説明が相次ぎました。さらに、趙啓正氏からは「『中国の夢』という概念自体は孫文の時代にはすでにあったものであり、目新しいものではない。軍事的な側面ばかりに注目が集まるが、教育や雇用、社会保障、環境など幅広く国民生活の向上を目指す意味合いが込められている」と述べました。

 松本健一氏が「海上ルートといっても、どの範囲までかが不明確。清朝時代の版図を取り戻そうとしているように見える」と指摘したのに対して、趙氏は「清朝の勢力図というのは文学的な表現であり、清朝時代のの勢力に戻ろうなどとは考えていない」との反論がなされました。

 続いて、川口氏は「中国からは日本の右傾化や安全保障政策に対して懸念が寄せられている。日本側は説明不足ではないか」と日本側に問いかけました。

 これに対し、石破氏は「『右傾化』ではなく『現実化』である。集団的自衛権も国連憲章に定められた加盟国固有の権利である」と述べ、さらに、「濫用の懸念があるようだが、行使については国会の事前承認によって民主的にコントロールしていく。日本の民主主義を信じて欲しい」と訴えました。陳健氏からは「安倍首相は中国と対抗していくと述べておられる」と指摘したのに対して、石破氏は「ずっと安倍さんの近くにいるが、中国と対抗する言ったことは一度もない」という応酬もありました。

140928_aisawa.jpg 最後に、松本健一氏が「色々な認識のギャップがあるが、すべて誤解に基づくもの。このような誤解を解いていくためには民間の努力、特にこの東京―北京フォーラムのような直接対話の役割が重要である。それが終局的には政治指導者レベルの誤解解消にもつながっていく」と述べ、中国側司会の楊伯江氏も「例えば、中国では『保守主義』という言葉はとても恐ろしい意味合いを持っている。逆に『富国強兵』という言葉は日本ではその後の軍国主義につながったという歴史の文脈でとらえるが、中国では特別の意味はないなど、同じ漢字を使っているが故の認識のギャップもある。概念を共通化してから議論していくことが重要である」と述べ、政治対話の前半は終了しました。

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