「非営利組織評価基準検討会」 報告

2009年11月19日

2009年「第1回非営利組織評価基準検討会」 報告

top_090402.jpg
 
 2009年4月1日、都内の学術研究センターにて、第1回目となる「非営利組織評価基準検討会」が開かれました。この検討会は非営利組織のあり方や可能性について議論されてきた「非営利組織評価研究会」内に、評価基準を検討する組織として新しく設置されたものです。研究会代表の田中弥生氏(大学評価・学位授与機構准教授)や言論NPO代表の工藤泰志ら9氏が参加し、検討会の目的や進め方について活発な議論が交わされました。

 はじめに田中氏から、本検討会の位置づけと目標について説明がありました。本研究会の全体像について、「日本における健全な市民社会の醸成に資すること」をビジョンとして、「健全な非営利活動をめざして切磋琢磨するような好循環を生み出すような社会環境を整えること」を目標とすることが確認されました。

 このビジョンと目標を掲げた背景には次のような問題意識があります。昨今、NPO法人制度が普及するにつれ、実に多様な主体がこの制度を利用するようになっています。しかし他方で、規律やガバナンスが整わないもの、およそ公益活動とはかけはなれ営利活動を目的に設立されるNPOが増加しているという問題もあります。この問題は明らかにNPOセクターの社会的信用を落とすことになります。したがって、今この時期に、健全な非営利活動の存在を社会にアピールする必要があります。田中氏がこれまで統括してきた非営利組織評価研究会では、一定の持続性や規律を保ちつつイノベーティブな活動を担う非営利組織こそが、社会的にアピールしうるモデルであると考え、2007年12月より研究を行ってきました。具体的には、財務面からみた持続性に関する研究と、イノベーティブな組織に関する事例研究を行ってきました。

 そして、2009年4月1日からは、この2種類の研究に加え、健全な非営利活動のモデルについて、実務者と研究者と双方で議論を進めていくことになりました。それが、この非営利組織評価基準検討会です。これまで行ってきた2つの研究の成果が、この議論に材料を提供しています。

 田中氏による説明の後には、評価の目的やその活用方法について、出席者の間で活発な議論がなされました。

 山岡義典氏(法政大学)は、経営の評価とサービスの評価は別物で、明確に区別をしないと評価基準だけが一人歩きしかねないことを指摘しました。また「評価作業にはコストがかかるが、それを誰が負担するのかも問題になってくる」と述べました。
 
 関尚士氏(シャンティ国際ボランティア会)は、評価の果たす機能として、従来の「第三者からの信頼性担保」という認証的側面だけではなく、組織が評価を行うことによって自らの課題を認識し、次なる成長のための示唆が得られるような、自主的に評価を使っていける仕組みが必要であると述べました。

 片山信彦氏(特定NPO法人ワールドビジョン)は、「組織の活動が強い市民社会の形成にどう貢献したのかという視点からの評価基準も必要だ」と主張しました。

 多田千尋氏(東京おもちゃ美術館、グット・トイ委員会)は20年間におよぶ、良いおもちゃの認証活動とその普及の経緯について述べ、「グット・トイ(認証)」を普及させるためには、認証を受ける側のおもちゃメーカーにとってのメリットを明確に示していく必要があったと説明しました。その経験にもとづけば、本研究会で検討されたアウトプットとしての評価基準にどのようなメリットを加えることができるかが、重要なポイントになるのではないかと述べました。

 堀江良彰氏(難民を助ける会)からは、健全な市民社会の醸成に寄与するような非営利活動といった場合には、NPO法人だけでなく、法人格を有しないようなグループの活動も含まれることになるので、評価基準を議論する場合、どの範囲までを考えるべきなのかという意見が出されました。

 武田晴人氏(東京大学)は、非営利組織を経営するための評価基準と、寄附やボランティア活動を行うといった、市民が非営利組織と関わりを持つ際の選択基準としての評価基準は異なることを指摘しました。そのうえで、「良い組織」「悪い組織」と決めてしまうような評価は望ましくないとして、評価基準の自由度を広げて、非営利組織が自分たちの目的と体系によって評価の視点を選択できるような基準にする必要があると述べました。
 
 山内直人氏(大阪大学)も、最終的に一つの条件に合わせるのではなく、公益性や安定性といった評価の対象に応じて、評価基準をモジュール化すべきであると述べました。

 言論NPO代表の工藤は、「この研究会では、どのような非営利組織が日本の健全な市民社会を作るために望ましいのかということを議論すべきであり、ここのメンバーの価値判断は自ずと含まれることになるのではないか」と述べました。つまり、望ましい非営利組織の活動にヒト、モノ、お金などのリソースが集まるからこそ、それを目指して様々な非営利組織が切磋琢磨するような好循環を作りだすことが目標であるのならば、その望ましい非営利組織のモデルについてメンバーの考えを出し合って話し合うべきだ」というのです。

 最後に田中氏は、本研究会の問題意識と目標にもとづけば、本検討会ではまず、望むべきモデルについて議論をすることに焦点をあてることが必要だと述べ、田中氏自身が提示する評価基準案をその議論のための題材として位置づけるのはどうかと提案しました。つまり、望ましいモデルについて議論することが当面の検討会の目的で、まずはこのコンテンツの議論に集中し、モデルの普及や活用については別途議論していくのはどうかという提案です。この提案には一同の合意が得られました。

 また、この検討会のほかに、言論NPOの市民社会フォーラム活動と連携させながら、各界の有識者や政策決定者との交流の場を通し、日本の市民社会について議論する場も作っていくことになりました。

 言論NPOでは、今後も市民社会についての議論の内容を発信していきます。


インターン 久世菜々子(東京大学)

1 2 3 4 5 6 7