安倍政権5年の11政策分野の実績評価【財政】

2017年10月11日

【総合評価】

1年目
2年目
3年目
4年目
5年目
2.7点
2.0点
2.25点
2.7点
2.0点

【個別項目の評価】

評価対象の政策
2013
2014
2015
2016
2017
国と地方の基礎的財政収支について、2015年度までに10年度に比べ赤字の対GDP比を半減、20年度までに黒字化、その後の債務残高対GDP比の安定的な引き下げを目指す
1
消費税率10%への引き上げは2019年10月に行う(軽減税率の評価含む)

評価の視点

・財政健全化目標である2020年度のPB黒字化を実現するための手段や考え方は明確になっているか。
・財政再建のために必須と考えられる消費税率の引き上げをどのように取り扱っているか

 内閣府が2017年7月18日に公表した「中長期の経済財政に関する試算」では、実質2%以上、名目3%以上の成長率を見込む経済再生ケースであっても2020年度の国・地方のPBは8.2兆円(GDP比1.3%)の赤字が残る試算となっており、この時点で、既に2020年度のPB黒字化は困難と言わざるを得ない状況である。

 今後、どの程度の成長率の引上げが実現できるのか極めて不透明であること(安倍政権4年間における年率の経済成長率は実質1.3%、名目2.3%)、成長率がどのように推移するとしてもPB赤字をどのように埋めるのか具体的に示されていないことなどを踏まえると、PB黒字化を人々に確信させる状況になっているとは到底いえない。

 財政健全化の最終的な目標設定は20年度以降、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる特に2025年、さらにその先も続く高齢化の中においても財政の持続性が保たれる財政構造を構築することであるべきであり、2020年度という一時点の黒字化を達成すればよいわけでは決してない。とはいえ、現在の政権が責任を持つという意味で極端に遠い将来ではない数年後について、分かりやすい国民との約束であるPB黒字化は極めて重要かつ有効な目標である。

 16年6月1日に安倍首相はそれを19年10月に延期すると発表して参議院選挙に臨んだ。首相の判断は尊重されるべきだが、税は民主主義そのものであり、憲法が租税法律主義を規定していることを考えると、約束を繰り返し破棄して必要な国民負担増を回避し続けていることに懸念を抱かざるを得ない。

 安倍首相は17年9月25日の記者会見において、2020年度のPB黒字化目標は断念したものの、PB黒字化目標は堅持すると述べている。だが、税収の増加ペースに陰りが見られ、17年度政府予算案が過去最大を更新している。以上を踏まえた上で、PB黒字化の実現、さらにはその先における政府債務残高対GDP比の着実な引下げの実現可能性があるのか、という視点から評価を行った。


【財政再建】個別項目の評価結果


国と地方の基礎的財政収支について、2015年度までに10年度に比べ赤字の対GDP比を半減、20年度までに黒字化、その後の債務残高対GDP比の安定的な引き下げを目指す

2020年度までにプライマリー・バランスを黒字化するとの目標を堅持し、その後の債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指す。その達成に向けては、「次世代への責任」という観点から策定した「経済・財政再生計画」における歳出水準の目安に沿って、費用対効果の検証や無駄の排除を徹底し、歳出の効率化・重点化を進める。
【出典:総合政策集2016 J-ファイル】
基礎的財政収支について、2015年度までに2010年度に比べ赤字の対GDP比を半減、2020年度までに黒字化、その後の債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指す。
【出典:2014年衆院選マニフェスト】
2015年度にはプライマリー・バランス赤字の対GDP比の半減を実現し、2020年度までを目途に黒字化する。債務残高対GDP比を2020年代初めには安定的に引き下げる
【出典:J-ファイル2012総合政策集】

1点 下

4年評価:
3年評価:

2年評価:2点
1年評価:2点

消費税の10%への引き上げを織り込んでも、 事実上達成は困難だった2020年度PB黒字化

 安倍首相は2014年11月18日の記者会見において、15年10月に予定していた消費税の10%への引き上げを17年4月に先送りする考えを示すと同時に、財政健全化の指標である国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を20年度に黒字化する目標を堅持し、2015年夏までに、達成に向けた具体的な計画を策定する旨を表明し、解散に踏み切った。その後、2016年の参議院選挙において、2017年4月の消費税率引き上げを再度2019年10月まで先送りすることを発表する一方で、2020年度までに国と地方を合わせたPBを黒字化する従来の目標は堅持した。その参議院選挙後の所信表明演説(9月26日)においても、「消費増税が延期された中にあっても、2020年度の財政健全化目標を堅持します」と発言しており2020年度のPB黒字化目標の堅持を国民に約束し続けてきた。

 しかし、1度目の消費税増税の延期を見込んで出された「中長期の経済財政に関する試算(以下、中長期試算)」(15年2月12日)では、実質2%以上、名目3%以上の成長率を見込む経済再生ケースでも9.4兆円の赤字が残る試算が出された。その後、2度目の消費税延期を表明した直後(2016年7月26日)に出された「中長期試算」では5.5兆円が、直近(2017年7月18日)の「中長期試算」でも、8.2兆円の赤字が残る試算となっている(いずれも経済再生ケース)。つまり、安倍首相は2020年度のPB黒字化目標は掲げていたものの、仮に消費税を引き上げたとしてもPB黒字化は難しいことは内閣府のシミュレーションからも明らかだった。にもかかわらず、その赤字を埋めることができていない現状では、必要な努力を怠っていたと言わざるをえない。

安倍政権は、財政再建を本気で実現しようとしているとはいえない

 そうした状況下で、安倍首相は2017年9月25日の記者会見において、2019年10月に消費税率の10%へ予定通り引き上げるのに合わせて、後代のつけ回しの軽減に回す予定だった消費税増収分の一部を、2兆円規模で実施する教育無償化や待機児童解消のための財源に充てること、同時に、2020年の基礎的財政収支の黒字化は困難だと表明した。しかし、前述した通り、既に内閣府のシミュレーションでは事実上困難であることは明白であったこと、さらには、消費税増収分の使途を変更することにともない、後代のつけ回しの軽減、すなわち赤字国債増発の抑制は一部出来なくなるため、より一層、財政は悪化すると言わざるを得ない。

 そうした点も踏まえると、安倍政権が2020年度のPB黒字化を本気で達成しようとしていなかったと言わざるを得ず、国民との約束としては厳しい評価と判断せざるをえない。

財政再建の旗を降ろさないのであれば、早急に具体策を国民に提示すべき

 ただ、安倍首相は同日の記者会見で、財政再建の旗は降ろさないとし、基礎的財政収支の黒字化を財政健全化目標として維持することを明言した。

 しかし、基礎的財政収支の黒字化をいつまでに達成するかについては、衆議院選挙までには明言できず、選挙後に精査すると述べるにとどまっており、目標を示しているとは言い難い。基礎的財政収支の黒字化がいつ達成するのかは、今後の財政健全化のスケジュールに重大な影響を与えるだけに、目標を本気で堅持するのであれば、早急に具体策を国民に示す必要がある。

消費税率10%への引き上げは2019年10月に行う

消費税率10%への引上げは2年半延期し、2019年10月に実施する。その間、赤字国債に頼ることなく安定財源を確保して可能な限り社会保障の充実を行う。
【出典:2016年参院選公約】
経済再生と財政健全化を両立するため、消費税の引上げを18か月延期する。安定した社会保障制度を確立するために、2017年4月に消費税率を10%にする。
【出典:2014年衆院選マニフェスト】
消費税については2014年4月に5%から8%、2015年10月に8%から10%へと2回に分けて引き上げることが決まっている。引上げに当たっては実施時期の半年前に、社会保障制度改革国民会議の結論を踏まえつつ、経済状況を確認の上、予定通り実施するかの判断を行っていく。【出典:J-ファイル2013 総合政策集】

3点 右

4年評価:
3年評価:

2年評価:3点
1年評価:4点

2019年10月の消費税の引き上げにコミットしたことは評価できるが確定とまでは言えず、社会保障制度の改革も不十分

 安倍首相は2017年9月25日の記者会見において、消費税を安定財源であると認めた上で、2019年10月に消費税率の10%へ予定通り引き上げることを明言した。これまで、安倍首相は、消費税率10%への引き上げを2度延期しているだけに、今般の記者会見で税率引上げに踏み込んだことは、10%への引き上げが現実味を帯びてきたと理解できる。使途変更とセットである点は、財政健全化を遅らせる点で問題だが、10%へ引き上げることへのコミットメントになるものといえ、それ自体は評価できる。

 ただ、税率を引き上げても、使途変更により少子化対策などの歳出により多く回すことは、単純に借金の返済をしないで若い世代にお金を渡すということで、結局その分は赤字国債で負担することになり、将来世代の負担という面ではこれまでの構造と何ら変わっておらず、財政再建は遠のくと言わざるをえない。

 そもそも、社会保障費は国・地方の合計で約116兆(年金50兆、医療40兆、介護10兆)、10年前に90兆円程度だったことから、10年間で26兆円も増加している。本来、政権がやるべきことは、年金・医療・介護を集中的に改革しつつ、必要な財源を確保することである。いまの社会保障は高齢世代に支出が偏っており、全世代型、子育て支援等の拡充が大事なことは明らかであるが、高齢世代の支出を抑制せず、教育無償化等で若い世代への支出を拡充することは低評価となる。

 さらに、2025年以降、団塊の世代が後期高齢者になり、これからさらに急増する社会保障経費の支払いは急増していく(厚労省の推定で2025年度には医療と介護の給付費は約75兆円)。そうしたことを見据え、財政再建を本気で考えるのであれば、消費税の引き上げは滞りなく進めていくと同時に、社会保障の改革を行わなければ、いくら消費税を引き上げても何の解決にもならず、財政再建を実現することはできない。

 そうした点を踏まえると、安倍首相が9月25日の記者会見で消費税を引き上げることにコミットした点については評価できるが、財政再建に向けて社会保障などの制度改革や具体的な計画を提示できていない点については評価を下げざるをえない。

軽減税率の導入のための財源確保の目途は、未だ立っていない

 2015年12月16日、自民党と公明党は、2017年4月に消費税率を10%に引き上げるのに合わせ、「酒類、外食を除く食品全般」と「新聞」の税率を8%に据え置く軽減税率を導入することを盛り込んだ2016年度与党税制改正大綱を決定し、2015年12月24日の「2016年度税制改正大綱」において政府も閣議決定を行った。その後、2016年参議院選挙で、安倍首相が消費税の引き上げを2019年10月に延期することを表明し、軽減税率も増税延期に合わせて導入を先送りした。

 その中で、酒類、外食を除く食料品全般という広範囲に軽減税率の導入が決定されたが、税収が1兆円規模で減ることになるにもかかわらず、低所得者の医療や介護の自己負担に上限を設ける「総合合算制度」の導入を見送ることで生じる4000億円の財源が少なくとも存在するとしているが、残り6000億円についての安定財源についてはメドがたっていない。政府の2016年度税制改正大綱では、2016年度税制改正法案において、2016年度末までに歳入及び歳出における法制上の措置等を講ずることとされたが、現時点で財源に関する説明は政府からなされておらず、評価を下げざるをえない。

 そもとも、軽減税率制度に対しては、十分な低所得者対策にならず目的と効果がはっきりしない、線引きが困難な商品があったり企業の生産活動に歪みを与えたりする、今後の軽減範囲の設定等が政治的利権となりかねない、などの指摘が多くの専門家からなされており、その目的や必要性において十分に国民の理解を得たといえるか疑問である。また、軽減税率はその対象となる財・サービスの品目と対象外の品目との線引きが困難であること等、非効率な制度であることから、給付付き税額控除での対応を含め、2年半延期したことを踏まえ再検討が必要と考える。


各分野の点数一覧

経済再生
財政再建
社会保障
外交・安保
エネルギー・環境
地方再生
2.6
(昨年2.7点)

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2.0
(昨年2.7点)

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2.3
(昨年2.4点)

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3.3
(昨年3.4点)

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2.3
(昨年2.5点)

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2.5
(昨年2.5点)

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復興・防災
教育
農林水産
政治・行政・公務員改革
憲法改正
2.4
(昨年2.4点)

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2.8
(昨年2.8点)

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2.3
(昨年2.4点)

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2.3
(昨年2.7点)

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2.0
(昨年2.0点)

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評価基準について

実績評価は以下の基準で行いました。

・すでに断念したが、国民に理由を説明している
1点
・目標達成は困難な状況
2点
・目標を達成できるか現時点では判断できない
3点
・実現はしていないが、目標達成の方向
4点
・4年間で実現した
5点

※ただし、国民への説明がなされていない場合は-1点となる

新しい課題について

3点

新しい課題に対する政策を打ち出し、その新しい政策が日本が直面する課題に見合っているものであり、かつ、目的や目標、政策手段が整理されているもの。または、政策体系が揃っていなくても今後、政策体系を確定するためのプロセスが描かれているもの。これらについて説明がなされているもの
(目標も政策体系が全くないものは-1点)
(現在の課題として適切でなく、政策を打ち出した理由を説明していない-2点)