―鳩山政権の半年を考える―
  マニフェスト型の政治は実現したのか

2010年4月06日

増田寛也氏×武藤敏郎氏 対談参加者:
増田寛也氏
(株式会社野村総合研究所顧問、元総務大臣)
武藤敏郎氏
(株式会社大和総研理事長、元日銀副総裁)
司会: 工藤泰志(言論NPO代表)


第3話:「権力の暴走」に自制は働かないのか

増田寛也氏増田 例えば政策の是非は別にして、高速道路を無料化にするかどうか、ということは政治家がやらなければいけない。マニフェストでそういうことを問うべきだと思います。つまり大きな政策判断は政治家が行う。一方でマニフェストの中で細かな箇所付けまでは書けません。そもそも、ああいう細かな箇所付けは政治家がやらない。官僚は憲法15条で全体の奉仕者として位置づけられて宣誓までして、中立公平でやるということを言っているのですから、そこは官僚に任せて政治家は口を出さないということが、政治と官とのあり方なわけです。そういう大きな政策をマニフェストで問うということが、民主党が野党時代に言っていた話ですが、それが逆になってしまっています。自分たちを支援する自治体には事業を付けるという報道もあったが、30年以上前の古い自民党そのもの、というかそれ以上のことをやっている。これは、背筋が寒くなるようなすごい状況だなと思うわけですよ。マニフェストを作る手続きがいい加減だったということもありますが、こうした動きは選挙の時に色々な政策を世に問うて、それで是非をオープンな中で判断して、その実現に政治が責任を持つという、マニフェスト型の政治とも異なっています。

工藤泰志工藤 民主党に自浄作用がないということになってしまうと、権力のやり放題になってしまう。政権交代は古い政治を変えようという、国民の総意ですが、皮肉なことにこのままだと変えた政治を国民が止めるしかなくなってしまいますよね。


武藤敏郎氏武藤 結局、選挙対策として今まで自民党に票を入れていた人たちを自分たちに向かせようということを始めたわけです。そういう意味では、古い体質の選挙対策をやっている。かつて自民党時代もやっていたと思うんだけど、これほど露骨ではなかった。今は例えば、土地改良の団体のようにこちらに向かないと予算を半減するぞとなってしまうわけです。選挙のために予算をテコに使うということは、実に古いやり方だと思います。

工藤 そういうやり方は、自民党時代にはなかったのですか。

武藤 あったと思います。例えば田中角栄はそれを見事にやった。

工藤 そうした古い政治は否定されたはずですが。

武藤 それがいわゆる族議員というかたちに進化していって、自民党時代にはにっちもさっちも動かないような体制になってしまった。その様々な閉塞感をどうやって打破するかというので、政権交代となりましたが、票をもらうために利益誘導をもっと露骨にテコとして使い始めました。これでは何のための政権交代かわからない。

増田 やはり権力を握った途端に、一方で権力の行使を自制するか、或いは権力の行使を抑制するようなシステムを持っていないと駄目です。かつての後藤田正晴さんの本を読むと中曽根さんが色々やるときにも官房長官として自制を説き、政と官の関係についても、政治家は非常に重要だけれども、憲法15条で宣誓した、役人というのは公平無私な存在だから、ということで、役人の存在を重んじているわけです。去年からずっと民主党を見ていると、特に暮れごろから、権力を行使できる立場になったことによって、何か自民党とは裏返しの利害を自分達が左右できるという強みを知った途端に、権力の暴走に走り始めています。確かに、民主党には選挙で権力を握った正統性の根拠はあるけれども、それと同時に権力の自制をやらなくてはいけない。あんなに簡単にマニフェストを破ったり、それから触れるべきでない工事の箇所付けを政治家が左右したりということは常軌を逸していると思います。

工藤 ということは、民主党がやっていることは2つの性格があって、国民に向かい合うマニフェスト型の政治ということを実現しようとしているが、一方でそういう古い政治が色濃く残っている。日本の政治の改革はまだ過度期というか、混乱が広がっていますが、この今の時期の政治対応で日本の未来に決定的な影響が出る可能で出てきた。そうなると、やっぱり有権者がかなり重要になってきます。そういう意味では、マニフェスト型の政治を本当にこの国に実現するには、市民、有権者が問われる段階に来ていますよね。

増田 ただ、これはなかなか難しい問題だと思います。政権交代をして自民党が復活したら、全く同じことが自民党にあてはまるわけです。多分イギリスでは、そういう交代を繰りかえした経験があるからお互いが学んで自制するところは自制する。それから北欧なんかはまさにそうですが、政権が変わっても途端に円卓会議を開いて、与野党が共通のテーブルで社会保障のようなテーマについて、どっちが与党でも税の負担を上げていかなければならないものはそこは合意してやっていくという知恵が出てくるのです。政治がこの国の課題に取り組まないとならない。


「政治主導」とは官僚を外すことなのか

工藤 まさにそのためのマニフェストであり、政治主導なのです。しかし、それらが機能していない。それは市民や有権者の力が弱いからです。これを変えるのは私たち側にボールがあるように思います。
 さて少し話を変えますが、では、政治主導とは何なのでしょうか。今の政治はやや誇張して言えば、官僚を外すことが、政治主導だと勘違いしている人が多いと思いますが。

武藤 政治主導について言えば、まだ政権は政治主導の具体像は手探り段階であり、モデルをつくれていないと見ています。私は政務三役が部屋に閉じ籠もって電卓を叩いているというのは政治主導の姿だとは思いません。本当の政治主導というのは、部下の役人組織からいい案をいろいろ出させて、「俺が責任とってこっちを選ぶ」と、そしてそこをきちんと国民に説明するという話です。今のやり方をやっていたら、三役を100人どころか、200人に増やしたところで、到底仕事をこなせませんし、正確な判断はできないと思います。
 今まで国家の基本方針も政治家が決めると言いながら、その政治家は役人から出てきた回答をそのままなぞるようにしてつくったのではないかと言われてきました。私は必ずしも全てがそうでないとは思いますが、しかし、そういう傾向は確かにあったのです。ところが、今の政治主導は基本方針を明らかにしないまま様々な実行段階のことを政治主導でやるということによって、政治主導を印象づけようとしているだけに見えます。その中には非常にマイナーな役人がやるべきことまで政治家がやってしまっているわけです。役人を排除しようとしているのはまさにそのためで、そういうことを自分たちがやるために役人を排除しようとしている。もし、基本方針を政治が決めると言うことであれば、役人を排除する必要なんて全くないはずです。役人をつかって細かいデータをださせて大きな事を決めればいいわけだから。だけど、もう少し下のことをやろうとするから、役人が邪魔でしょうがない。
 私は政治主導をやっていくためには、役人が下の方は受け持つ必要があると思います。方針通りやらなかったら、きつくあたってもいい、極端な話をすれば左遷してもいいわけです。今の役人の幹部もつい最近まで政権が違ったわけですから、それにコミットしていたのは間違いありません。しかし、役人というのは政府に仕えるのであって、政党に仕えるものではない、政府が変われば政府の方針に基づいて行動するものなのです。もし、それをしないで、古い方針に従って行動するというのであれば、それは野党の方針に従っていることになります。その時には、役人の立場は憲法に反していることになるわけです。政府に仕える身を忘れているわけですから。

工藤 官僚は使いこなさないとならない、と。

武藤 そうです。ただ、それがなかなか今の政治には感じられない。「国民の皆様の声を聞く」と言うことが大きなフレーズになっているけど、この国民の声を聞くだけが政治なら、政治主導なんてほとんどなくなるわけです。国民が嫌だということはやりません、国民がやってほしいということだけやりますというだけの話だから。この国の将来に向けて政治が国民を説得するという部分がないと成り立たない。そうでないと、単なるポピュリズムになってしまう。

工藤 そうした政治の意志がないと、本当の意味でのマニフェストはつくれない。

武藤 国民に対して意見も聞くけど、同時に自分たちの信念を国民に説得する責任があるんですよ。説得に失敗したら、当然退陣せざるを得ないわけで、しかし、説得するだけの責務はあると思います。

増田 私も官僚との関係がまだうまくいっていないように見ています。公務員制度改革も動き始めましたが、「自分たちはここまでしかいけない」という役人たちの士気をどう向上させるかだと思います。私は東京大学の公共政策大学院で教えていますが、こうした官僚組織の混乱を見て、官庁の役人になろうというような学生はほとんどいません。
 もちろん、人件費を二割切ったり、幹部役員の降格をするとか、次官ポストをなくするということは、それはそれで政策判断です。ただ一方で、「官僚には本当に実力がある人間がきてもらわないと困る」というのであれば、それはそれなりに実力にある人が志望できるようなきちんとした制度をつくらないといけないと思います。今のようなかたちで官僚に「これはダメ、あれはダメ」と叩きながら、さらにコミュニケーションもとらずに、もう一方で「役人は一流たれ」とか言ってないものねだりをしても、それはやっぱり無理だと思います。常に外から国会議員や、政治任用の民間の外人部隊が来て、官僚はその下でせいぜい局長までしかなれない、という制度設計をするならば、それなりのリスクがあるということの覚悟も必要です。


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