安倍政権3年の11政策分野の実績評価【社会保障】

2015年12月26日

マクロ経済スライドを発動せず、将来世代の年金の持続性に疑問。
国保の保険者変更や病床削減についても国民への説明不足



【社会保障】評価の視点 2.25点(5点満点)
昨年:2.0点

評価の視点
 ・社会保障財政の持続可能性を高めるために「ポスト一体改革」に取り組んだか

 ・社会保障の現状を国民に対してきちんと正面から説明しているか

 2012年11月、民主党政権の野田佳彦首相は、消費税率の2015年までの10%への引き上げを柱とした社会保障・税一体改革に関する民主党、自民党、公明党の3党合意が結ばれるのといわば引き換えに、自民党の解散総選挙の要求を受け入れた。安倍晋三政権は、その結果誕生した経緯がある。
 社会保障・税一体改革は、かつて自民党政権下で歳出・歳入一体改革と呼ばれていたのをそれぞれ社会保障と税に置き換えたものといえ、国の一般歳出の過半を占める社会保障費を総じて抑制し、併せて、消費税率を引き上げることによって極めて深刻なわが国の財政の健全化を目指したものである。わが国の消費税率は、先進諸外国と比べ低水準にあり、かつ、全ての世代が広く負担を分かち合うなど税としての性質の好ましさから歳入増の役割が期待された。
 その取り組み自体は財政健全化にとって不可欠であるものの、十分な内容のものではなかった。社会保障・税一体改革を行っても、なお2020年度の国と地方を合わせた基礎的財政収支は6.2兆円の赤字のままであるというのが政府の推計結果であった。これは、わが国が実質2%以上、名目3%以上の高成長を実現するという楽観的な前提のもとでの赤字額であり、実際に赤字幅はより大きくなると考えるのが現実的である。
 よって、安倍政権に課せられた責務は、まず、社会保障・税一体改革の枠組み通り2015年4月に消費税率を10%に引き上げた後、次いで、ポスト一体改革ともいうべき改革に早急に着手することであった。ポスト一体改革とは、2020年度の基礎的財政収支黒字化を確実なものとするための社会保障制度改革と消費税率のさらなる引き上げを柱とした税制改革に取り組むことでる。
 しかし、安倍政権が掲げた「三本の矢」は、金融政策、財政出動、成長戦略であり、財政健全化や社会保障改革は脇に追いやられることとなり、さらには、2014年12月、一体改革の枠組みで2015年4月にスケジューリングされていた消費税率の10%への引き上げも2017年4月に先送りされ、2020年度を目指したポスト一体改革の議論の端緒を行政が付けることも困難になってしまった。わが国財政、公費に多くを依存する社会保障財政は持続可能ではない。


 こうした本来自らに課せられているはずの責務への無自覚ぶりは、個別の制度においても同様である。年金制度は、2004年に大きな改正が行われ、2017年度まで段階的に保険料率を引き上げて増収を図りつつ以降は固定し、他方、段階的に給付水準を抑制するための仕組みであるマクロ経済スライドを導入し、当時の目論見では、それが2023年度まで給付抑制に効き続けることで、年金財政は「100年安心」となるとアピールされた。
 もっとも、マクロ経済スライドは、デフレ下では効かず、物価変動下では効き難いという欠陥を抱えた仕組みであり、2004年以降、デフレが続くなか2013年まで1度も発動されてこなかった。2013年8月に公表された社会保障制度改革国民会議の報告書でも、2014年の財政検証結果(5年に1度の年金財政の将来像を描く作業、いわば定期健診)を踏まえ、マクロ経済スライドが物価動向いかんにかかわらず発動するよう法改正せよと提言していた。
 2014年6月に公表された検証結果では、マクロ経済スライド見直しの緊急性が認められ、厚生労働省も法改正を目指してきたが、有権者としてボリュームを持つ年金受給層の反発を恐れるためか、安倍政権は無関心であり、法改正実現の見通しは立っていない。年金財政が毀損し続けていくことを看過しているということであり、そのツケは将来世代が負わされることとなる。それどころか、2015年度補正予算では、一億総活躍の一環であるとして、低年金者に3万円を配布するとしている。

 医療制度改革も、政治のリーダーシップが求められる局面にあるが、そうしたリーダーシップ発揮が見られない。社会保障・税一体改革で最も注力されたのは、入院医療のあり方である。わが国は、先進諸外国と比べても人口あたり病院および病床数が多い。医療費は多額の公費に依存しており、かつ、国民の福利にとっても、病院が老人施設のように使われることは良いことではない。
 そこで、かねてより、病院と病床のあり方は、医療制度改革の重要なテーマとされてきたが、社会保障・税一体改革では、病院・病床の再編に向け、都道府県によりイニシアチブ発揮を期待するスキームをとることとなっている。都道府県が、2025年度の構想区域(≒二次医療圏:おおまかには人口30~40万人程度のエリア)ごとに機能別の必要病床数を推計し、今のままでは過剰になる医療圏はそれを減らし、不足する医療圏では増やすなどといった提供体制の見直しに一定の役割を果たしていくというものである。地域医療構想と呼ばれる。
   2015年6月に国が先行して行った推計によれば、344の二次医療圏のうち、大都市圏を除けば、今後病床過剰になり、減らしていかなければならない場所がほとんどである。果たして、病床を減らしていく、あるいは、相対的に高い診療報酬の付く病床から低い診療報酬しか付かない機能への病床機能転換を促していくという作業が、今後円滑に進んでいくのかは懸念する声が強い。病床削減候補の医療圏では、病院や地域住民の反対の声もあるであろうし、仮に、病床が削減されたとしても、その受け皿となる在宅医療や介護などが整備されていなければ、患者は行き場を失いかねない。
 本来、安倍政権は、自らの政権で進められている地域医療構想の意義を分りやすく国民に説明し、その取り組みを都道府県に投げるのではなく、都道府県が現在抱える問題を救い上げ、そのイニシアチブ発揮をサポートしていかなければならない。しかしながら、安倍政権が地域医療構想に関心を寄せているようには見えない。
 「三本の矢」で社会保障は脇に追いやられ、「新三本の矢」では、介護離職ゼロがピンポイントで打ちあげられてはいるものの、これは、「施設から在宅へ」を目指してきた政府の従来方針と逆行する感すらある。従来の政策を転換するのであれば、その説明が必要であるがそれも見られない。

 総じて、安倍政権は、社会保障に無関心であり、本来取り組むべき課題に取り組んでいない。

【社会保障】個別項目の評価結果



生活保護制度については、真に必要な人に生活保護が行きわたるとともに、国民の信頼と安心感を取り戻し、納税者の理解の得られる公正な制度に改善する。
【出典:2014年J-ファイル】

政権交代後、急激に肥大した生活保護を見直す(国費ベース8000億円)
【出典】2012年衆院選マニフェスト


3点 (5点満点)

昨年:2点

生活保護制度の適正化に向けた動きが始まった

 9月時点の生活保護受給世帯は162万9598世帯となり、過去最多を更新している。受給者総数は216万3584人となった。
 生活保護受給者が増え続ける中、生活保護制度の適正化が進められている。11月からは厚生労働省で、生活保護受給者の過剰受診や医療費の不正請求を防ぐため、各自治体の福祉事務所のケースワーカーによる指導態勢を強化することで、医療扶助の適正化を図るための方策が検討されている。各自治体でも貧困ビジネスや働かず生活保護を受けるなど本来受けるべき人たち以外に多くの生活保護が支給されている実態を受け、不正防止のため新たな条例を策定するなどの取り組みも続けられている。
 さらに、より早い段階で手を差し伸べ、自立を支援し、生活保護の受給者となるのを未然に防ぐための新たなセーフティーネットとして、「生活困窮者自立支援制度」が4月から施行された。これによって全国の市(町村部は都道府県が担当)が相談窓口を設け、一人一人の事情に合った総合的な支援計画を作成し、自治体の判断で「就労の支援」、住居や食料などについての「一時生活支援」、「子どもの学習支援」、「家計相談の支援」など、法律に定められた新しい事業を開始することができるようになった。


改革が進み始めた点は評価できるが、保護費の抑制につながるかは不透明

 ただ、柱となる4事業の4月の実施状況(予定を含む)を厚生労働省が調査したところ、全国の813市・東京特別区で、就労準備は28%、衣食住の提供は19%、家計相談は23%、子の学習支援は34%にとどまった。各事業の実施は自治体の任意だが、全てする市は4%にすぎず、44%は全くしていなかった。財源の3分の1から半分は自治体が負担するため、財政的な制約を理由に取り組まない自治体が多いと見られる。また、状況は地域ごとに違い、必要な支援策も異なり、各自治体には創意工夫が求められるため、どこまで実効的なサポートができるか不透明な部分が多い。
 全体として「公正な制度に改善する」という方向で改革が進められていると評価できるが、保護費の抑制につながるかどうかは現時点では判断できない。



年金は現行制度を基本に「改革推進法」に則り、国民会議の審議結果を踏まえ必要な見直しを行う
【出典:2013年衆院選マニフェスト】

【出典:2014年J-ファイル】

2点(5点満点)

昨年:1点

マクロ経済スライドをデフレ・物価変動化においても実施することが不可欠

 2014年の消費税率引き上げを背景に物価や賃金が上昇したことから2015年4月、初めてマクロ経済スライドが実施された。しかし、年金財政をより早期に持続可能なものにしていくためには、マクロ経済スライドをデフレあるいは物価変動下においても確実に実施していくことが不可欠である。このことは昨年行われた年金の財政検証でも改めて浮き彫りとなった。
 厚生労働省もマクロ経済スライドを完全に実施できるよう制度改正する方針だったが、4月の統一地方選や来年の参院選を控える中、安倍政権が年金受給者の反発を恐れたため、厚生労働省は大幅に改正内容を譲歩した。2月、社会保障審議会年金部会(厚労相の諮問機関)が示したマクロ経済スライド改革案は、一歩後退した内容となり、デフレ時の年金支給額の抑制分を先送りし、物価や賃金が大幅に上昇した年度にまとめて抑制するというものになった。例えば、仮にマクロ経済スライドの調整率(抑制の割合)を0.9%とすると、2年分をまとめれば1.8%もの抑制になる。かなりの好景気で、大きく物価や賃金が上昇し、年金額も大きく上がらない限り、抑制は難しくなるため、実効性には疑問がある。


現行の年金制度を維持していくことは限界になりつつある

 その他の改革課題については、例えば、短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大については、審議会では「全体的な方向性としては、更に適用拡大を進めていく必要があることについて、異論はない」とされているが、厚生年金保険料の半分を払う経営側からは依然として慎重な対応を求める声が多く、具体的な検討は進んでいない。
 マニフェストで掲げられたように「現行制度を基本に」したまま年金制度を維持していくことは限界になりつつあるが、以上のように「必要な見直し」がなされているとはいえない。
 さらに、11月には年金財源の一つである年金積立金に、7月から9月までの期間で約8兆円もの損失が発生したことが明らかになった。積立金を運用する「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)は昨年、運用益を増やそうと基本ポートフォリオ(資産構成割合)を変更し、国債など国内債券を60%から35%に引き下げ、国内株と外国株をそれぞれ12%から25%に増やした。その結果、今夏の世界同時株安の影響が直撃したと見られる。ポートフォリオ変更でリスクが高まるのに、それを国民に対して十分に説明してこなかったことは大きな減点要素である。



国保運営の安定や保険者機能強化のため、運営単位を都道府に広域化、料率の平準化で協会けんぽと共済を統合
【出典:2013年Jファイル】

【出典:2014年J-ファイル】


2点(5点満点)

昨年:2点

法律は成立したものの運営単位が曖昧で、国民への説明責任を果たしていない

 社会保障制度改革国民会議は2013年8月にまとめた報告書において、医療提供体制の整備における都道府県の役割強化と国保の保険者の都道府県移行を掲げ、それを踏まえて同年に成立した社会保障制度改革プログラム法においては、持続可能な医療保険制度等を構築するための法案を2015年の通常国会に提出することが明記された。そして今年6月、2018年度から国民健康保険(国保)に係る財政運営の責任を担う主体(保険者)を都道府県とし、被用者健保の負担増による支援で国保の財政を安定させることを柱とする医療保険制度改革法が成立した。
 しかし、条文を見ると「都道府県は、当該都道府県内の市町村(特別区を含む)とともに」運営を行うとされている。すなわち、都道府県だけが保険者になったわけではなく、実際、市町村は引き続き基幹業務を担っていくことになる。これでは運営単位が曖昧になり、大きな問題がある。さらに、国民に対する説明責任の観点からも問題である。


長期的な医療費抑制につながる施策を推進する自助努力が不可欠

 また、財政基盤の安定化という観点から見ても、被用者健保は高齢者医療への拠出金が増加し、内情は厳しく、負担増には限界がある。国保側も広域化で規模が大きくなる利点を生かし、長期的な医療費抑制につながる施策を推進する自助努力が不可欠となる。そのため、国保の運営が安定化していくかどうかは現時点では判断できない。
 なお、協会けんぽと共済の統合についての動きはないし、取り組んでいないことに対する説明もなされていない。そもそも、実現可能性もほとんどない。



医師の地域科目偏在の是正や医学部定員の確保等必要な地域で必要な医療の確保
【出典】2012年衆院選マニフェスト、2013年参院選マニフェスト

【出典:2014年J-ファイル】

3点(5点満点)

昨年:3点

真に医師の偏在是正につながる方針を打ち出せるかは判断できない

 昨年6月に成立した医療介護総合確保推進法では、高齢化が進む2025年の医療需要を把握した上で効率的な医療を提供するため、各都道府県が「地域医療構想」を策定することが盛り込まれた。厚労省は「2016年度半ばまでの策定が望ましい」としているが、2015年10月の時点では、2015年度中に20府県、2016年度半ばまでに21都道府県が策定完了予定となっている。残りは、2016年度中が4県(長野、高知、福岡、熊本)、未定が2県(新潟と兵庫)など一部の地域で遅れが見られるが、概ね策定は進んでいるといえる。
 そして、来年の秋口以降、地域医療構想が概ね出揃うことから12月、厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会」では、医師の地域・診療科偏在についての議論を始めている。医師の需給は、新卒医師から死亡数を差し引いても、年間4000人程度毎年増加している。人口10万人対医師数は年々増加し、2012年の時点で226.5人だが、地域差が大きく、最も多い京都の296.7人に対し、最も少ない埼玉は148.2人と約2倍の開きがある。「検討会」では、今後の検討に当たって、都道府県別だけではなく、2次医療圏単位などの地域別の医師数が分かるデータなどを活用しながら検討していく方針である。ただ、最終報告は2016年末予定であり、現時点では真に偏在是正につながる方針を打ち出せるかは判断できない。


地域に必要な医療の確保という目標をどこまで達成できるかは現時点では未知数

 そもそも、医療制度の持続可能性を根本的に回復するためには、供給体制についてはこのような再編だけでなく、診療所など身近な医療提供体制の改革も必要であるし、同時に患者の過剰な受診行動をはじめとする需要サイドの改革も必要である。しかし、政府の医療制度の見直しはそういう方向には向かっておらず、地域に必要な医療の確保という目標をどこまで達成できるかは現時点では未知数である。
 なお、医学部の定員に関しては、2008年度から2016年度には9262人と過去最大規模になる。東北薬科大学が2016年4月に医学部新設予定で、国際医療福祉大学も2017年4月の新設を目指し、準備を進めている。しかし、政府は「医療従事者の需給に関する検討会」の下に設けられる「医師需給分科会」で、2020年度から医学部の定員を減らす検討に入り、2016年4月末に中間報告を出す予定である。



介護保険料の上昇を抑制するために、介護保険の保険給付の対象となる介護サービスの範囲の適正化等による介護サービスの効率化、重点化を図るとともに、公費負担の増加などを行い、持続可能な介護保険制度を堅持する
【出典:2014年J-ファイル】

介護は財源の安定化を図り、保険料負担の抑制を進めながら必要なサービスを提供する
【出典】2013年Jファイル


2点(5点満点)

昨年:2点

介護保険制度から市町村の主体で行う地域支援事業に移行する制度改革が進む


 昨年、介護保険制度が大きく改正されたが、それに伴う負担増が今年から実行されている。まず、自己負担の割合について8月からは年間の年金収入が単身で280万円以上の人を2割負担となった。これは夫と専業主婦の妻のモデル世帯では「年収359万円以上」に相当し、高齢者全体の約20%がこの区分に入ることになる。
 次に、特別養護老人ホームの入所対象の厳格化として、4月から障害や認知症の場合を除き、特養ホームに入ることのできる人を「要介護3~5」と重度認定された人に限定された。これにより「同1、2」と軽度の場合、新たな入所はできなくなった。
 この他にも、低所得者に対する食費・居住費の補助である補足給付に資産要件を設定したことや、要支援者に対する予防給付を介護保険制度から市町村の主体で行う地域支援事業に移行するなどの制度改革がなされている。


今後も、負担増と給付の抑制をさらに徹底することが避けられない

 しかし、介護給付費総額は現在の約10兆円から25年度には約20兆円への倍増が見込まれる。厚労省によれば今回の改正によって、15~17年度の平均で年1430億円の給付費が削減できると見込まれているが、これだけでは給付費の増加の伸びには対応できない。
 今後も負担増と給付の抑制をさらに徹底することが避けられない中、6月閣議決定の「骨太の方針」には、介護について「負担能力に応じた公平な負担」が検討課題として盛り込まれた。ただ、「負担能力に応じた公平な負担」といえば、一見聞こえはいいが、問題は多い。例えば、介護納付金の総報酬割への移行が含まれているが、総報酬割へ移行することで、総じて介護保険財政の納付金を通じて支えている企業の負担を重くすることが意図されており、それは、かえって介護保険財政の持続可能性を脅かしかねない。
 介護サービスの提供に真にコストが必要であれば、それを分かりやすく国民に伝えることが政治の責任であるが、「介護納付金の総報酬割への移行」のようなテクニカルな話でごまかす姿勢は問題である。


これまで進めてきた「施設介護から在宅介護へ」との整合性を説明すべき

 さらに、安倍政権は「一億総活躍社会」実現のため、「介護離職ゼロ」を打ち出した。そのための介護施設の拡充を進める方針だが、そもそも政府はこれまで「施設介護から在宅介護へ」という方向で介護政策を進めてきたはずである。これまでの政策との整合性が疑わしい部分があるが、これに対する政府からの明確な説明はなされていない。
 以上のように、負担増の難しさに加え、政策そのものの揺らぎも見られ、財政基盤を安定化させ、介護サービスを充実させていくという目標を達成できるかは現段階では見通せない。



妊娠から子育てまで切れ目ない家族支援政策を積極的に進める。年少扶養控除は復活
【出典】2013年Jファイル

【出典:2014年J-ファイル】


2点(5点満点)

昨年:2点

緊急対策を打ち出したが運営コスト増にどう対応するのか説明されていない

 2017年度までに、40万人の保育の受け皿を確保することを柱とした「子ども・子育て支援新制度」が4月からスタートした。ただ、厚生労働省は9月、保育所や認定こども園などに申し込んでも利用できない待機児童の数が、今年4月1日時点で2万3167人(前年比1796人増)と5年ぶりに増加したと発表した。保育の受け皿は拡大したが、依然として状況は厳しい。
 そのような中、安倍首相は9月、自民党総裁再選後の記者会見において、「新3本の矢」を掲げ、その中の1つとして「夢を紡ぐ子育て支援」を打ち出し、待機児童をゼロにすることなどを表明した。
 その後、政府は11月に「1億総活躍国民会議」において緊急対策を決定し、子育てに関しては、「40万人分増やす」としていた保育の受け皿を50万人分増やすことにした。厚労省の集計によると、各自治体が2013、14年度に増やした保育の受け皿は21万8687人分で、これに2017年度末までの見通しを加えると45万6606人となるため、50万人分あれば吸収できることになる。もっとも、緊急対策では施設整備に伴う運営のコスト増にどう対応するのか示されていない。


財源を確保して、どこまで子育て支援ができるのかが今後の課題

 また、保育の担い手不足という課題も大きい。今年1月に政府が出した「保育士確保プラン」では、新たに6.9万人の保育士が必要となるとしているが、受け皿の拡大が進めば、保育士の確保はさらに難しくなる。確保のためには待遇改善も課題となるが、緊急対策ではやはり具体策を提示していない。保育士不足により、保育の質の低下も懸念されているが、質の改善に向けた検討も不十分である。保育士不足の背景には、保育時間の長時間化もあるが、労働時間の短縮、とりわけ男性の働き方の見直しは進んでいない。
 他にも、幼児教育の無償化拡大や、出産・子育ての現場である地域の実情に即した働き方改革の推進、子育てを家族で支え合える三世代同居・近居がしやすい環境づくりなど様々な方針を打ち出しているが、恒久的な財源が欠かせないにもかかわらず、どうやってそれを確保していくのか示されていないのは共通している。子ども・子育て支援新制度には1兆1000億円の財源が必要とされていたが、確保できたのは消費税10%への増税を前提とした7000億円だけであったように、これまで子育て関連予算の確保には苦慮してきた。介護の充実も図る必要がある中、さらに財源確保が難しくなるが、どこまで子育て支援を拡充できるのか、その見通しは示せていない。
 以上のように、課題は多く、「切れ目のない家族支援政策」という目標達成につながるかどうかは現時点では判断できない。
 なお、年少扶養控除の復活については、今年も議論が行われている様子はない。



2020年代半ばまでに希望出生率1.8を実現する(新第二の矢)
【出典:自民党総裁記者会見(9月)】


2点(5点満点)

昨年:-点

 安倍首相は9月、自民党総裁再選後の記者会見において、「アベノミクスは第2ステージに入った」と述べた上で「新3本の矢」を打ち出した。そして、その中の1つである「夢を紡ぐ子育て支援」の中で、「希望出生率1.8」という具体的な目標が掲げられた。
 これまで日本政府は出生率に関する具体的な数値目標を公言はしなかったが今回、戦後初めて出生率目標を政府が公式に掲げたことになる。人口減少が進むとその分、経済の下押し圧力が強くなる。社会保障制度を維持しやすくするためにも、ある程度の人口規模を維持しようという方向性自体は妥当である。
 ただ、希望出生率は、子どもをほしいと思っている若年層の希望がすべて叶うと達成する水準であるが、実際に2014年時点で1人の女性が生涯に生む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.42にとどまっている。それも2005年には1.26まで落ち込み、様々な施策を行ってきた結果、ようやく回復してきた数字である。1.8は1984年を最後に達成しておらず、きわめて実現困難な目標といえる。
 目標達成するためには、出生率を1993年の1.66から2012年には2.0へ急回復させたフランスのように思い切った政策が必要になってくるが、「夢を紡ぐ子育て支援」についての緊急対策を検討した「1億総活躍国民会議」では、財源の裏付けのある具体策を打ち出せていない。例えば、少子化の要因の一つには、若年層に非正規雇用が拡大したことにより、賃金が低下し、結婚や出産に踏み切れない人が増えたことがあるが、緊急対策には「非正規雇用労働者の正社員転換」という文言が三回も出てくるものの、数値目標も具体的な対策もなく、実現の道筋が見えてこない。したがって、「1.8」という目標の実現可能性も見えてこない。

少子化対策は大人の立場からだけでなく、子どもの立場に立った検討が必要

 そもそも昨年、政府は骨太の方針の中で、「50年後に1億人程度の人口を維持する」との国家目標を打ち出したが、そのためには合計特殊出生率を2.1まで回復させなければならない。つまり、1.8では不十分であるが、どう整合性を取るのか、その説明もなされていない。
 子どもの貧困の問題が深刻化するなか、その対策の財源を民間から募るなど、政府がどこまで子どもの置かれている状況改善に本気なのか、不透明である。子どもの権利条約批准から20年がたったが、少子化対策は相変わらず大人の立場から検討され、子どもの立場に立った検討が不十分である。



2020年代初頭までに、介護離職ゼロを実現する(新第三の矢)
【出典:自民党総裁記者会見(9月)】


2点(5点満点)

昨年:-点

介護職員をどのように増やしていくか、その道筋は示されていない

 安倍首相は9月、自民党総裁再選後の記者会見において、「アベノミクスは第2ステージに入った」と述べた上で「新3本の矢」を打ち出した。そして、その中の1つである「安心につながる社会保障」の中で、「2020年代初頭までに、介護離職ゼロ」という具体的な目標が掲げられた。
 その後、政府は11月に「1億総活躍国民会議」において緊急対策を決定し、介護に関しては、2020年代初めまでに特別養護老人ホーム(特養)やサービス付き高齢者向け住宅など、介護サービスの受け皿を新たに50万人分拡充することや、都市部に施設を確保するため、国有地の賃料を減額したり設置基準を緩和したりすることなどの施設拡充策を打ち出した。
 総務省が公表した2012年の「就業構造基本調査」によると現在、介護離職者は40、50歳代を中心に年間約10万人に上る。2025年には団塊の世代が全て75歳以上となり、介護のニーズはさらに増える。その中で、「団塊ジュニア世代が大量離職する事態となれば、経済社会は成り立たなくなる」という首相の問題意識自体は妥当である。また、特養の入所待機者は2013年度で約52万人に上り、施設のニーズは確かに依然として大きい。
 しかし現在、介護職員の人材不足が顕著である。厚生労働省が6月に発表した推計によると、2025年度には介護職員が全国で約38万人不足する。介護職員の確保ができなければ介護施設を増設しても、介護の質や介護職員の処遇が悪化しかねないが、どのようにして介護職員を増やしていくのか、その道筋は示されていない。


財源を示すとともに、これまでの政策との整合性を説明すべき

 財源についても、介護施設の整備などについては、医療・介護サービス提供体制改革の基金や補正予算の一部を充てる方針だが、恒久的に必要になる人件費をどう確保していくかの方策は示されていない。財務省が来年度予算編成で社会保障費を1700億円削減する方針を打ち出している中、税や保険料の負担増など痛みを伴う施策が必要になってくるが、来年夏の参院選を控えて本当に実行できるのか、これまでの社会保障改革の歴史を振り返ると不透明な部分が多い。
 他にも介護休業や休暇を取りやすくするなど仕事と介護の両立を図るための社会的な環境づくりなど課題は山積みであり、現時点で目標達成の道筋は見えてこない。
 そもそも政府はこれまで「施設介護から在宅介護へ」という方向で介護政策を進めてきたはずである。これまでの政策との整合性が疑わしい部分があるが、これに対する政府からの明確な説明はなされておらず、大きな減点要素である。


各分野の点数一覧

経済再生
財政再建
社会保障
外交・安保
エネルギー・環境
地方再生
2.8
(昨年2.8点)

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2.3
(昨年2.0点)

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2.3
(昨年2.0点)

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3.6
(昨年3.2点)

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2.2
(昨年2.0点)

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2.5
(昨年2.0点)

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復興・防災
教育
農林水産
政治・行政・公務員改革
憲法改正
2.4
(昨年2.8点)

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2.7
(昨年2.9点)

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2.6
(昨年3.2点)

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2.7
(昨年3.0点)

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2.0
(昨年2.0点)

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評価基準について

実績評価は以下の基準で行いました。

・この3年間で未だに着手しておらず、もしくは断念した計画であるが、国民にその事実や理由を説明している
1点
・着手して動いたが、目標達成は困難な状況になっている
2点

・着手して順調に動いているが、目標を達成できるかは判断できない
・着手して動いたがうまくいかず、目標を修正し、実現に向かって努力している、かつ、国民に修正した事実や理由が説明された

3点
・着手して順調に動いており、現時点で目標達成の方向に向かっていると判断できるもの
4点
・この3年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
5点

※但し、国民に説明していなければ-1点

新しい課題について

3点

新しい課題に対する政策を打ち出し、その新しい政策が日本が直面する課題に見合っているものであり、かつ、目標や政策体系の方向が見えるもの。または、政策体系が揃っていなくても今後、政策体系を確定するためのプロセスが描かれているもの。これらについて説明がなされているもの
(目標も政策体系が全くないものは-1点)
(現在の課題として適切でなく、政策を打ち出した理由を説明していない-2点)