安倍政権3年の11政策分野の実績評価【地方再生】

2015年12月26日

統治機構改革には消極的で、目指すべき改革像が見えない

【地方再生】評価の視点 2.4点(5点満点)
昨年:2.0点

評価の視点
 ・主役である住民に地域の経営や将来に責任を持たせ、地域の創意の発揮により地域活性化に繋がる制度設計の実現に向けて動いているのか
 ・地方分権は、地域の政策決定権を中央から、住民に身近な自治体に移すことであり、それに伴い必要となる財源を都道府県や市町村に移すことである。こうした分権はいわば中央集権体制の改革であり、主役である住民に地域の経営や将来に責任を持たせ、地域の創意の発揮により地域活性化に繋がる制度設計でなくてはならない。そうした視点で安倍政権の実績を評価する。

 自民党が示している「地方出先機関の広域災害対応力の一層の強化」とは地方出先機関を残すということであり、これまで政府が進めてきた地方分権の動きと道州制とは完全に矛盾している。自民党の公約は、これらを整理するとされてきた。道州制の実現に向けて、自民党の道州制推進本部が議論を行い、道州制導入に向けた基本法案の原案をまとめたが、道州制の導入の最終判断は政府に委ね、一方の安倍首相は2014年10月31日の地方創生に関する特別委員会にて、「道州制の導入については、地域経済の活性化や行政の効率化などを目指し、国と地方のあり方を根底から見直す大きな改革であり、現在、与党において、議論を少しでも前に進めるべくさまざまな意見交換が活発に行われている」と答弁しているが、その形跡は見えず、道州制・地方分権についての議論は下火となっていると言わざるをえない。

 一方、道州制・地方分権の議論に代わる形で地方創生の議論が熱を帯びてきた。14年9月5日に「まち・ひと・しごと創生本部」が発足し、「まち・ひと・しごと創生法案」及び「地域再生法の一部を改正する法律案」の地方創生関連2法案が11月21日に可決された。衆院解散で日程は後ろ倒しになっているものの、15年度内に地方人口ビジョン、地方版総合戦略の策定を自治体に求めるなど、かなり速いスピードで動き始めた。地方の人口減少を食い止めるために、スピードアップして課題に取り組むという点は評価できる。

 しかし、これまで行ってきた地方分権、道州制の議論と地方創生の議論と何が違うのか。安倍首相は国会の答弁で、「道州制と地方創生については、活力ある地域づくりを目指すという共通点はあるものの、いずれかのみで十分というものではなく、それぞれのアプローチからの取り組みを同時並行的に行っていくことが重要である」と別の政策であると答弁しているものの、その違いは曖昧で分かりにくい。

 全体的な自民党の政策からは、安倍政権は、国と地方の役割を大きく変えていこうという今までの思想と違い、地方を縛っている規制から地方を開放して、好きなことをやらせよう、という発想である。つまり、地方分権を規制緩和という視点で実施しようとしており、権限を委譲しようという発想にはなっていないと考えられる。

 国と地方の役割、地方創生についての定義づけと、今後、両政策をどう進めていくのか、安倍政権は国民に説明する必要がある。


【地方再生】個別項目の評価結果

国の地方機関については、特定広域連合へ移管することなく、広域災害対応力の一層の強化を図る
【出典:2012年衆院選マニフェスト】
【出典:2014年J-ファイル】

2点(5点満点)

昨年:3点

国の出先機関の強化と道州制をどう整理するか、答えを出せていない

 自民党が2012年の衆院選Jファイルで示した「地方出先機関の広域災害対応力の一層の強化」とは地方出先機関を残すということであり、本来矛盾する「道州制」との議論を整理することが公約の趣旨である。ところが、2014年の衆院選の公約においてもこの整理が成功していない。また、2014年のJファイルでは国の地方機関については強化を図っていくことを明示する一方、道州制の導入については「国民的な合意を得ながら進める」とされており、それをどう連動させて進めるのか、国民に説明がなされておらず、評価を下げざるを得ない。
 また、政府は13年3月8日に首相を本部長とする地方分権改革推進本部が設置し、これまでに8回(13年4回、14年2回、15年2回)開催されているが、各回とも10分程度の短時間の会議であり、かつ、国の地方出先機関や道州制についての話題は議事録、議事要旨を見ても出てきておらず、こうした課題を整理しようとする取り組みは乏しい。


与党で道州制推進基本法案が議論されていたものの、提出は見送られた

 なお、道州制について安倍首相は「道州制の導入については、地域経済の活性化や行政の効率化などを目指し、国と地方のあり方を根底から見直す大きな改革であり、現在、与党において、議論を少しでも前に進めるべくさまざまな意見交換が活発に行われている」(14年10月31日地方創生に関する特別委)と答弁しているが、自民党の道州制推進本部は、2015年7月30日の総会にて、道州制推進基本法案は自治体の理解を得られないとして提出を見送ることを決定しているが、このような状況や議論の経緯が国民に伝わっておらず、政府としての説明責任を果たすべきと考える。
 また、地方創生の取組の一つとして国の機関の地方移転が掲げられた。政府は12月15日、中央省庁や国の研究機関などの地方移転で、自治体が要望した69機関のうち、検討対象を約半数の34機関に絞り込む方針を固め、12月18日の「まち・ひと・しごと創生会議」で対応方針を了承し、来年3月の決定を目指すことになった。しかし、国と地方の役割や設計を軸に組み立てられたものではなく、地方からの具体的な提案・要望に対し対象となった機関を保有する省庁の対応の消極性も目立っている。


国と地方のあり方をどのように考えているのか、説明する必要がある

 公約に掲げた以上、国の地方出先機関の移管、道州制、更には地方創生のあり方を整理し、それをどう進めていこうとしているのか示す必要があるが、安倍首相は道州制と地方創生について国会で「道州制と地方創生については、活力ある地域づくりを目指すという共通点はあるものの、いずれかのみで十分というものではなく、それぞれのアプローチからの取り組みを同時並行的に行っていくことが重要であると考えます。」(14年10月31日地方創生に関する特別委員会)と発言をしているものの、説明は不十分と言わざるを得ない。

地方分権改革を進め、地方の財源の安定的な確保を図る。
【出典:2014年衆院選マニフェスト】

国から地方への権限、財源等の移譲を促進
【出典:2012年衆院選マニフェスト】

2点(5点満点)

昨年:3点

統治機構の観点から国と地方のあり方を整理する、という観点は変更されたのか

 2014年の衆院選時のJ-ファイルによると、自民党が考える地方分権改革の推進とは、「地方創生の重要な基盤として、地方公共団体が、地方が抱える課題について地域の特性に即した解決を図ることができる枠組みづくりを行う」こととされ、地方分権改革推進本部(13年3月8日設置)、地方分権改革有識者会議(13年4月12日設置)が動いており、地方分権改革を進める意思はある。しかし、これまでの分権改革のように、統治機構の観点から国と地方の在り方を整理し、国から地方へ権限や財源を移譲というのではなく、地方創生の枠組みで語られるようになった。こうした目標や課題の変更について、何ら説明はなされていない。


地方からの要望にこたえる形に姿を変えた地方分権

 第2次安倍政権では、地方分権改革有識者会議を中心に分権改革を進めようとしており、地方から国への提案を中心にした分権スタイルである「提案募集方式」が2014年度から導入されている。そして、地方公共団体等からの提案等を踏まえた「2014年の地方からの提案等に関する対応方針」を閣議決定(2015年1月30日)し、2015年6月19日に「第5次地方分権一括法」が成立した。この中には麻薬小売業者間の麻薬の譲渡に係る許可権限等の国から都道府県への移譲と、高度管理医療機器等営業所管理者の兼務許可を保健所設置市・特別区に移譲するような都道府県から指定都市等への権限委譲が盛り込まれている。中でも、これまで岩盤規制と言われた農地法に関して、2~4haの農地転用に係る国協議は廃止、4ha超の農地転用に係る事務・権限は、国との協議を付した上で、都道府県等への移譲がもりこまれるなど、一定の進展が見られた点は評価できる。
 さらに、2015年分の地方分権改革に関する提案募集を行い、地方から提案のあった228件の改革要望のうち、73%の166件について各府省が「対応可能」とし、政府は12月22日の閣議で、自治体が無料で職業を紹介する「地方版ハローワーク」を自由に設置できるようにするなど地方分権改革の対応方針を決め、次期通常国会に法律を提案することとなり、地方の要望を踏まえるボトムアップ型の地方分権が浸透し、一定程度の進展が見られる点は評価できる。


地方の財源安定を図るために必要なことは

 一方、財源措置については消費税増税分の地方への配分や自動車取得税廃止に対する見返り財源の措置、地方交付税代替の地方法人税、さらには企業版ふるさと納税等、16年度税制改正大綱において、「地方分権の更なる推進とその基盤となる地方税財源の充実確保を図るとともに、地方法人課税のあり方の見直し等を通じて、税源の偏在性が小さく税収が安定的な地方税体系の構築を進める」と盛り込まれているが、今後の進捗状況については、現時点で判断できない。加えて、こうしたことが国民に説明しているとはいえない。

中小企業対策や人口減少対策のために、地方公共団体へのバラマキとならない、自由度の高い地方創生のための交付金を創設する。
【出典:2014年衆院選マニフェスト】

一括交付金は廃止し、地域の経済や雇用増のための新交付金制度を検討する
【出典:2012年衆院選Jファイル】

3点(5点満点)

昨年:2点

目途がついた新型交付金の創設

 2014年12月27日に閣議決定された「地方への好循環拡大に向けた緊急経済対策」の中に、「地域住民生活等緊急支援のための交付金(地方創生先行型)」が盛り込まれ、14年度補正予算で1,700 億円が計上された。内訳としては、全自治体に交付する基礎交付分(1,400億円)と、地方公共団体からの実施計画を受け付け、審査して交付する上乗せ交付分(300億円)となっている。さらに、「経済財政運営と改革の基本方針 2015」(15年6月 30 日閣議蹴って)及び「まち・ひと・しごと創生基本方針 2015」(同日閣議決定)に基づき、「新型交付金」の創設等に取り組むことを「まち・ひと・しごと創生本部」で決定し、 2015年度予算では、新型交付金として1,080 億円、事業費ベースでは 2,160 億円が盛り込まれ、自由度の高い地方創生のための交付金の創設は実現したことは評価に値する。
 しかし、単なる予算措置だけでは単年度になってしまうために、各自治体が計画しづらいという難点がある。そこで、複数年度で運用できるように新型交付金の創設を盛り込む法律を来年の通常国会に提出予定するが、現段階で法律の提出には至っておらず、法律が成立するかどうかは現時点で実現するかはわからない。


地方自治体の自主性・主体性を持った取り組みを促す新型交付金

 また、地方公共団体が自主性・主体性を持って目標を設定し、地方創生に関する政策を実施するとともに、具体的な成果指標等により同政策の効果検証と改善を行う PDCA サイクルを確立する「地方版総合戦略」を15年度中に策定することとされた。地方の自主性を尊重しながら、単なるバラマキではなく、KPIを設定し、PDCAサイクルを回していくという取り組みは評価できる。

新地方成長モデルを確立するため、都道府県の産学官が決定の事業に当面5年は国が支援
【出典:2014年衆院選マニフェスト】

魅力あふれる地方を創生し、地方への人の流れをつくり、経済の回復を全国津々浦々で実感できるようにしていく
【出典:まち・ひと・しごと創生本部】【出典:2012年衆院選マニフェスト】

2点(5点満点)

昨年:3点

地方分権、道州制、地方創生をどう整理するか

 本項目は、自民党の2014年J-ファイルにおいて、地域がそれぞれの特色を持って経済成長を遂げることが日本全体の経済底上げにつながる。そのため、都道府県レベルでそれぞれ成長戦略を打ち立て、それに基づいて地域で新たな産業を創出し、雇用の拡大につながる「地域」「中小企業・農業」「事業革新」をキーワードにした新しい地方成長モデルを確立するとされている。
 しかし、こうしたキーワードでは、地方創生にとってかわられた感がある。そもそも、自民党・政府は地方分権、道州制、ローカルアベノミクス、地方創生など、地方にかかわる現時点での政策について、どれも着手しているものの、体系が整理されておらず、国民からは非常に分かりにくく、目標の修正、新しい課題に関しての課題解決プランを出すということであれば、政府は国民に説明責任を果たす必要があると考えるが、現時点では説明責任は十分とはいえない。
 また、2013年の「日本再興戦略」で各地域に設置された地方産業競争力協議会が設けられ、各地方の特性に合わせた地域版成長戦略が取りまとめられた。その後、14年4月21日に地域の成長戦略に関する意見交換会を経て、14年6月の「日本再興戦略・改訂版」に「ローカル・アベノミクス」が明記され、アベノミクス効果の全国への波及や人口急減問題に積極的に取り組む姿勢が強調された。しかしながら、14年度から始まった地方創生の取り組みに吸収された感が強く、15年については九州・沖縄地方産業競争力協議会(2月5日)、四国地方産業競争力協議会(3月26日)の2回しか開催されておらず、着手しているものの目標達成は非常に困難な状況である。


行政だけにとどまらず、産官学金労言による総合的な取り組みを

 国は、各界からの有識者で構成されるまち・ひと・しごと創生会議での議論を経て「長期ビジョン」と「総合戦略」を決定した。また、「総合戦略」に盛り込まれた政策パッケージの推進においても、日本版 CCRC 構想有識者会議や政府関係機関移転に関する有識者会議などを通じ、多様な関係者や専門家の知見を取り入れている点は評価できる。
 また、地方創生が自立的な取組となるためには、産業界との連携の重要性が高く、地域の経済・社会的課題の解決に資する取組の発掘と支援のための方針について明らかにするべく、「地域しごと創生会議」を開催している。引き続き、行政だけに閉じない体制の下で地方創生を多面的に進め、経済・社会の需要に沿ったユーザーフレンドリーな施策展開を進めていくことが必要だと考える。
 さらに、地方公共団体においても、産官学金労言が一体となった形でそれぞれの「地方版総合戦略」の策定が進められている。地方公共団体が各「地方版総合戦略」に沿って事業を推進する段階においても、こうした連携の維持・強化を図り、さらに、各地域の地方創生の取組を推進するに当たり、それをリードする人材を、地域や分野の枠にとらわれずに活用していくことはする。こうし政策の方向性は妥当だと考えるが、こうした取り組みの結果、目標達成に向かうかどうかは現時点では判断できない。

「まち・ひと・しごと」創生の好循環を確立し、個性豊かで魅力ある地域社会をつくる。
【出典:2014年衆院選マニフェスト】

魅力あふれる地方を創生し、地方への人の流れをつくり、経済の回復を全国津々浦々で実感できるようにしていく
【出典:まち・ひと・しごと創生本部】

3点(5点満点)

昨年:3点

自治体の政策能力が試される地方総合戦略

 2014年12月27日に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」において、「まち・ひと・しごと」創生における好循環とは、①地方における安定した雇用を創出し、②地方への新しいひとの流れをつくり、③若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえ、④時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携することだと規定されている。
 その目標として、それぞれ、①2020 年までの5年間の累計で地方に 30 万人の若い世代の安定した雇用を創出、②東京圏から地方への転出4万人増加、地方から東京圏への転入6万人減少(2020 年時点、2013 年比)、③安心して結婚・妊娠・出産・子育て出来る社会を達成していると考える人の割合を40%以上にすることが掲げられている。この目標を実現するために、当該戦略はまち・ひと・しごと創生法によって全地方自治体に15年度中の各地の「総合戦略」の策定を義務づけた。この戦略に基づく事業実施のための予算措置された地方創生のための先行型交付金の上乗せ分(300億円)や新型交付金が配分されるという立てつけになった。こうした立てつけになることで、自治体間の競争を促し、自治体の政策能力が求められるが、現時点で成功するかは判断できない。


自治体間で差が付き始めた新たな取り組み

 一方、既に、地方版の総合戦略が策定されているが、15年6月17日の国と地方の協議の場で石破大臣は、地方版総合戦略策定への取組に地方公共団体間で歴然たる差がつきつつあることを認めており、地方版総合戦略の策定が難航している自治体に向けて、相談窓口の設定(コンシェルジェ制度)、人材支援、膨大なビッグデータの活用などを設けているが、自治体の計画策定、KPIやPDCAを回しながら計画を見直し、自治体の政策能力を高めていていけるかが、今後の課題だと考える。


各分野の点数一覧

経済再生
財政再建
社会保障
外交・安保
エネルギー・環境
地方再生
2.8
(昨年2.8点)

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2.25
(昨年2.0点)

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2.25
(昨年2.0点)

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3.6
(昨年3.2点)

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2.2
(昨年2.0点)

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2.4
(昨年2.0点)

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復興・防災
教育
農林水産
政治・行政・公務員改革
憲法改正
2.3
(昨年2.8点)

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2.8
(昨年2.9点)

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2.6
(昨年3.2点)

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2.7
(昨年3.0点)

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2.0
(昨年2.0点)

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評価基準について

実績評価は以下の基準で行いました。

・この3年間で未だに着手しておらず、もしくは断念した計画であるが、国民にその事実や理由を説明している
1点
・着手して動いたが、目標達成は困難な状況になっている
2点

・着手して順調に動いているが、目標を達成できるかは判断できない
・着手して動いたがうまくいかず、目標を修正し、実現に向かって努力している、かつ、国民に修正した事実や理由が説明された

3点
・着手して順調に動いており、現時点で目標達成の方向に向かっていると判断できるもの
4点
・この3年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
5点

※但し、国民に説明していなければ-1点

新しい課題について

3点

新しい課題に対する政策を打ち出し、その新しい政策が日本が直面する課題に見合っているものであり、かつ、目標や政策体系の方向が見えるもの。または、政策体系が揃っていなくても今後、政策体系を確定するためのプロセスが描かれているもの。これらについて説明がなされているもの
(目標も政策体系が全くないものは-1点)
(現在の課題として適切でなく、政策を打ち出した理由を説明していない-2点)