2019年参議院選挙 マニフェスト評価(財政)

2019年7月18日

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<評価の視点>

 日本の国・地方合わせた長期債務残高は2018年度末で1107兆円(対GDPでは約200%)となる一方、社会保障費は増加が続き、財政の持続可能性に対する不確実が増す中、厳しい財政状況が継続している。政府はプライマリーバランス(PB)の黒字化目標を2020年度から2025年度に目標達成を延期したが、内閣府の中長期試算(2019年1月版)における2025年度のPBは、高成長ケースでも1.1兆円の赤字、ベースラインケースだと6.8兆円の赤字が残ると試算されるなど、依然としてその達成見通しはたっていない。

 2012年の三党合意で決められた10%への消費税率引き上げは2回の延期が政治的になされており、2か月半後の2019年10月に引き上げが予定されている。中長期試算では、この増税を考慮してもPB赤字や財政赤字が残ることを示す。財政の持続性を確保するためには、歳出・歳入面からの徹底的な改革が不可欠であり、特に、未曾有の超高齢社会を迎える中では、社会保障制度やその予算の徹底的な改革を進展させることが不可欠である。

 そうした状況の下で、各政党が明確な目標と目標を実現するための手段を有権者に対して示す必要がある。具体的には、①具体的な財政健全化目標と達成時期を明示しているか、②消費税の引き上げ時期やスケジュールのほか、消費税率10%以後の財源も含めて具体的な歳入改革を示しているか、③社会保障の効率化など抜本改革を含めて具体的な歳出削減策を明示しているか、④経済とのバランスなど財政健全化の実効性を高める仕組みを示しているかといった点が、今回のマニフェスト評価のポイントとなる。


<評価結果>

与党(自民党・公明党)

 与党の自民党・公明党は、消費税を10%に上げる立場を今回の選挙でも示しているが、一方で、その緩和策として軽減税率やキャッシュレスによるポイント還元などの政策を出し、選挙対策として、消費税の痛みを避けるため、なりふり構わぬバラ撒きを行っている。幼児教育や保育の無償化を始めとして、「全世代型社会保障」に向けていくとしているものの、消費税率を引き上げた以上に歳出も増やす路線をとっており、長期的な財政の持続可能性が担保できておらず、全体的な整合性もとれない政策となっている。さらに、社会保障の制度改革についても給付と負担をどうしていくのか、という視点が希薄であり、消費税率10%以後の財源や、社会保障も含めた全体的な財政政策の道筋を未だ示していない。

 また、自民党の公約では「『経済再生なくして財政健全化なし』との基本方針のもと、引き続き、『デフレ脱却・経済再生』、『歳出改革』の3本柱に取り組むこと」、「2025年度の基礎的財政収支の黒字化を目指す」ことが掲げられているが、何をどのような道筋で実現していくのか具体策は掲げられておらず、財政再建にしっかりと向かい合おうとしている姿勢が見えない。

 さらに、公明党に至っては、「財政再建」の文言すら書かれておらず、財政再建をどのように位置づけているのか、有権者は理解できない公約となっている。

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野党(立件民主党、国民民主党、日本維新の会、共産党、社民党)

 野党で言えば、財政再建について記載があるのは、国民民主党の「財政の健全化を目指す」、日本維新の会の「財政再建を行う」という2党が目標は明示している一方で、消費税の増税は否定し、消費税に代わる財源については不透明な記述が多い。他の野党に至っては、財政再建について何ら触れられておらず、消費税の増税を否定しているだけで、具体策は何ら触れられていない。

 一部の野党を除き、多くの野党で言えることだが、短期的なことだけを考えて、目先の消費税を上げないという議論だけで公約を組み立てており、将来の財政が将来どのようになるのかを予測し、そこから自分たちはどのようなビジョンで財政の持続可能性を担保していくのか、そうしたことを何ら明らかにしていない。

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主要政党の政策項目数

 
自民党
公明党
立憲民主党
国民民主党
日本維新の会
共産党
社民党
経済
65 55 8 78 13 14 13
財政
8 10 1 13 4 2 2
社会保障 36 34 5 55 15 17 13
外交・安保
38 24 10 40 7 19 10
環境・エネルギー
17
21
7
24
4
8
7
農業
21
8
1
23
0
4
3
憲法改正
3
3
1
14
7
1
1
その他(復興、地方、教育)
94
60
7
86
9
16
14
総計
282
215
40
333
59
81
63