2019年参議院選挙 マニフェスト評価(外交・安保)

2019年7月18日

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<評価の視点>

 世界の情勢が大きく変化し、日本を取り巻く外交・安全保障の環境は大きく変容しつつある。米中の経済対立が強まり、場合によっては世界経済の分断につながりかねない局面になっている。また、中国の台頭もアジアの安全保障上の脅威を高めている。こうした状況の中、日本は自らの外交・安全保障の理念をどのように設定し、いかなる政策体系によって安全・繁栄・価値の実現を図っていくのか、各党の公約ではその構想力が問われている。

 そのような状況の中、第一の評価の軸は、緊張を増す我が国の安全保障環境に対する認識と、これに対応する防衛政策の構想である。2018年、南北首脳会談と米朝首脳会談が相次ぎ、北朝鮮を取り巻く外交展開には大きな動きが見られた。もっとも、その後の非核化交渉は依然として停滞をしている。北朝鮮の核・ミサイル開発技術の進展は日本のみならず、北東アジア全体、さらには米国にとっても大きな脅威である。最終的に核保有を放棄させるためにいかなるプロセスを構想しているのか。どのように米韓など国際社会と連携していくのか。不測の事態に備えてどのような防衛力のあり方を構想しているのか。こういった点について、党としていかなる方針を示しているのか評価していくが、その際、それが単に強硬的又は融和的態度の提唱に止まらず、日本の目指すべき国際秩序、同盟関係、外交関係、法的基盤のありかた、予算的制約といった中で、どこまで現実的に追求可能なものなのかも吟味していく。

 第二の評価の軸は、外交展開の構想である。日米両首脳は緊密な関係を構築しているが、その一方でトランプ氏は通商、安全保障の両面から既存の日米間の枠組みの見直しを迫りつつある。こうした状況の中、今後の日米関係をどのように構想しているのかという点は大きな評価軸となる。

 また、急速に台頭する中国とどう向き合うかも大きな課題である。中国の軍事的台頭は日本の安全保障環境を変容させるとともに、地域の懸念材料ともなっている。同時に、中国経済がアジア太平洋の成長エンジンであることに変わりはないため、中国との共存・共栄も模索しなければならない。そこで、中国との緊張関係をどのように管理しつつ、戦略的互恵関係の具体化をしていくのか、という課題に対する方針提示は重要な評価の指標となる。

 さらに、地域および多角的な外交の展開も求められる。日本周辺には米中以外にも、韓国、ロシア、オーストラリア、インド、ASEANなど多くの重要なプレーヤーが存在している。こうした国々との関係をいかにして創造的に発展させるのか。インド太平洋・アジア太平洋地域に台頭する経済・エネルギー・環境・安全保障といった様々な地域枠組みに、日本はどのような戦略をもって臨み、自らのプレゼンスを向上させていくのか。こうした秩序構想と戦略的外交の進め方を評価の指標とする。

 第三の評価の軸は、グローバルな国際貢献のための取り組みである。トランプ米政権が自国第一主義を掲げるとともに保護主義的傾向を見せ、イギリスがEUから離脱するなど、戦後の多国間主義、国際協調主義を基調とする世界秩序を牽引してきた米英両国が大きく揺れ動く中、民主主義や法の支配といった普遍的価値、自由貿易体制を擁護するために日本としていかなる行動をとるべきだと考えているのか。さらに、世界では、シリア危機やそこから派生した難民問題、破綻国家、越境型テロリズム、地球温暖化への対処などこれまでの国際貢献のスケールをはるかに超える深刻な問題が発生しているが、日本としてどのような理念を掲げながら対応していこうとしているのか、などを見ていくことにする。


<評価結果>

与党(自民党・公明党)

 自民、公明両党ともに「評価の視点」で示した課題については概ね言及しているが、全体的に方針提示にとどまり、掘り下げが不足しているものがほとんどである。また、前回の国政選挙(2017年衆院選)の公約から表現が変わらないものが多いが、その結果として状況の変化をフォローできていない政策も目立つ。

 例えば、北朝鮮政策に関して、自民党は従来からの「最大限の圧力」路線を維持しているが、日本政府は4月に今年度版の外交青書で「北朝鮮に対する圧力を最大限まで高めていく」という例年の記述を削除するとともに、5月には安倍首相が前提条件なしの首脳会談開催の方針を表明している。そうである以上、対話に誘い込む環境づくりについても言及すべきであったがそれがない。公明党もこの点は同様である。

 日米同盟についても、両党は同盟強化の方針は堅持しているが、トランプ米大統領が日米安保の見直しに言及している中でどう強化するのか、その具体的方向性は示されていない。

 外交政策についても、国際協調した上での「自由で開かれたインド太平洋」の実現を提起しているが、米国やASEAN諸国がそれぞれ独自の「インド太平洋」構想を打ち出している中、どう関係各国と認識のずれを埋めた上で協調していくのかまでは示されていない。

 さらにいえば、公明党は公約の主軸である「重点政策5つの柱」の中に外交・安全保障を含めておらず、どのような優先度を持って取り組んでいくのか明らかではない。

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野党(立憲民主党、国民民主党、日本維新の会、共産党、社民党)

 野党の公約に共通しているのは、理念や目的も示さず、さらに体系性もないまま政策を箇条書きで羅列しているだけであるため、自らの外交・安全保障の理念を現下の状況の中でどのように達成しようとしているのか、国民からはまったく理解できない内容になっている、ということである。

 立憲民主党の公約では、「専守防衛の範囲を超えない、抑制的かつ効果的な防衛力整備」をすると述べているが、その具体的な内容は示されていない。「我が国周辺の安全保障環境を直視」とも書かれているが、それは厳しい環境なのか否かの評価も示されていないため、結局のところ同党は安全保障政策をどのような方向で進めようとしているのか判然としない。付言すれば、同党の「外交・安全保障ビジョン」の中には「安定的な皇位継承への議論を深める」というまったく外交・安全保障政策に関係のないものも示されており、政策の体系性もないと言わざるを得ない。

 国民民主党の公約は、平和安全法制を廃止するとし、対案として領域警備法の制定や周辺事態法の改正などを提示している。しかし、その具体的内容は明らかにしていないため、それが日本を取り巻く安全保障環境の変化に対して対応可能なものになるかどうか判断できない。

 日本維新の会の公約は11項目を脈絡なく並べているだけであり、内容を吟味しようがないし、同会が何を優先的に取り組もうとしているのかもまったく判断できないものとなっている。

 日本共産党、社民党の公約は現政権の取り組みに対する批判を全編にわたって前面に押し出しており、特に体系性がない。また、両党とも日米同盟を根底から変革しようとしているが、それほどドラスティックな改革を行おうとしているのであれば、その実現に向けたプロセスを丁寧に説明すべきであるが、それはまったくないため国民に対する説明責任という観点からも大きな問題がある。

 以上のことを踏まえ、言論NPOの評価基準による採点は不可能と判断した。

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主要政党の政策項目数

 
自民党
公明党
立憲民主党
国民民主党
日本維新の会
共産党
社民党
経済
65 55 8 78 13 14 13
財政
8 10 1 13 4 2 2
社会保障 36 34 5 55 15 17 13
外交・安保
38 24 10 40 7 19 10
環境・エネルギー
17
21
7
24
4
8
7
農業
21
8
1
23
0
4
3
憲法改正
3
3
1
14
7
1
1
その他(復興、地方、教育)
94
60
7
86
9
16
14
総計
282
215
40
333
59
81
63