アベノミクスの成功と財政再建にどのようにめどをつけるのか

2015年2月13日

2015年2月13日(金)
出演者:
小幡績(慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授)
鈴木準(大和総研主席研究員)
山田久(日本総合研究所調査部長)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

 2月13日(金)放送の言論スタジオでは、山田久氏(日本総合研究所調査部長)、鈴木準氏(大和総研主席研究員)、小幡績氏(慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授)をゲストにお迎えし、「アベノミクスの成功と財政再建にどのようにめどをつけるのか」と題して議論が行われました。


足並みが乱れてきた日銀と安倍政権

 冒頭では、今回の議論に先立って行われたアンケートの結果を踏まえ、現状分析も含めた議論がなされました。山田氏は、まず2015年の政治経済問題で特に注目するものとして回答が多かった「アベノミクス」「日本の財政再建」「将来に向けた社会保障制度改革」については同意見である旨を述べた上で、デフレを脱している兆候があり危機的状況は遠のいたが、2014年の選挙前に消費増税を先送りした影響で3つのテーマへの関心が再び高まったのではないかと分析。鈴木氏は、昨年12月に甘利経済産業大臣が提出したペーパーに触れながら、経済の循環と財政再建を両立させる取り組みをアジェンダセッティングしていたのは評価できるとしたが、日銀が国債を大量に買うことで財政を支えている状況に慣れてはいけないと警鐘を鳴らしました。最後に小幡氏は、2%の物価上昇率を堅持する日銀と経済成長で安堵する安倍政権の思惑にずれが生じていると述べるとともに、2015年は国内的な経済の危機は生じないだろうと指摘しました。

 またアベノミクスの課題に議論が移ると、山田氏は「金融政策のみで物価上昇が難しい現在、本格的な成長戦略や財政再建に軌道修正できるかが重要」などと語りました。鈴木氏は「生産性を向上させる第3の矢はまだ時間がかかる」と述べた上で、「単純な物価上昇からのインフレではなく、実質賃金・名目賃金が上昇してインフレになるという成長戦略に移行する必要がある」と強調。小幡氏は、「ポピュリズム的な財政出動や消費税先送りをしただけで成長戦略の第3の矢はなかった」という評価が海外投資家の一部であることを紹介しました。

 続いて、日銀と政府の足並みの乱れについて議論が進みました。3氏は、「日銀と政府の足並みの乱れは原油安や円安の影響を受けている」ことに同意見でありながら、特に山田氏は「短期的に物価2%の上昇を守る必要のなくなった政府に日銀がついてきていない。日銀も長期的な目標に移行すればよい」と語り、鈴木氏は「消費増税による安定的な財源の確保に裏付けされた金融緩和を行うという日銀のシナリオに陰りが生じている」と主張。そして小幡氏は「原油安の状態で日銀が無理に金融緩和をしてインフレに戻す必要はないものの、デフレマインドからの脱却には成功した」とそれぞれの視点を述べました。

 また、「経済の循環」をどのように引き起こすかに話が及ぶと、小幡氏は「経済は一度回り始めれば自動的に回り続けるものではない」と主張し、「各企業の生産性の向上や優秀な人的資源を適切に配置して、賃金を上げていくことの積み重ねが経済を作り上げる」と主張。また山田氏は「労使が主体となって賃金や規制緩和を行うべき」だと話し、これに対して鈴木氏は、「生産性の向上なく名目賃金を上げてしまえば、企業の利益の減少をまねき株価を下げてしまう」ことから、「パイを増やすことが重要で、岩盤規制といわれる農業分野や医療分野に切り込めるかが問題」だと課題を浮き彫りにしました。


2015年度の予算案をどう評価するか

 次に、政府が目標にしている財政再建という観点から2015年度の予算案をどう評価するかの問いかけに、鈴木氏は、「今年に関しては地方創生が掲げられたこともあり、地方向けの財政が多くなっている。社会保障と並んで地方財政の拡大が目立つ予算だ」と特徴を説明しました。小幡氏は、「税収が増えても大きな無駄遣いはなくマスでは国債発行額を減らしていて、思ったほど無駄遣いしていない」と述べた上で、「ただ財政再建という長期的な問題は何も解決していない」と評価。山田氏は、「特に増加する社会保障分野は、受益と負担のリンケージを国民に明確に示し、消費増税を受け入れてもらわなければならない」と主張し、その動きが見えない2015年度の予算案は「中長期の視点を欠く」と語りました。


財政健全化目標と消費増税の行方

 そして、議論は安倍政権が約束している今夏に出される「2020年度の財政健全化目標」の達成に向けた計画について議論が及びました。3氏は、安倍総理が約束したように「夏までには何らかの方向性を打ち出すだろう」と同意した上で、鈴木氏は「ある改革をやればどのくらい収支改善に寄与するかの影響を細かく試算して、さらに消費税を10%に上げた後の議論も深めなければ信憑性のあるプランにはならない」と強調しました。小幡氏は、「経済成長が順調に進んでも達成が難しい」との内閣府の試算結果を紹介し、「2017年には消費増税と金融引き締めが同時に起こる山場がくる可能性があるため、健全化達成についても絶望的」と厳しい評価を下しました。

 最後に、消費増税に関する活発な意見交換が行われました。
 山田氏は、「消費の絶対額が多い富裕層から集めた税を、社会保障として国民に再分配しているだけなので、中長期で見れば景気には中立である」からこそ「北欧のように、社会保障と税の負担と受益の関係を国民に理解してもらえば、消費増税にも納得できる」と主張しました。これに対し小幡氏は「日本の社会保障は政府の空約束の側面があって、足りない分を増税で賄おうとしている。そうであるなら、国民の実感や認識は絶対に得られない」と反論。これに対して、山田氏は「北欧の社会保障制度のように、子育てや労働政策など現役世代への投資を増やし、納得してもらうしかない」と答えるなど、密度の濃い対話がなされました。

工藤泰志 最後に、司会の工藤は、今回の議論を振り返り、「結局、日本の構造をどのように変えて、どんな社会を目指すのか、そして政府はそのためにどういう役割を果たすのかが見えてきていない。政府はある目的のために何を実現するのか、そしてどうやって進めるのか、という課題解決型の論争を進める段階にならないといけない」とし、今年、言論NPOは課題解決型の議論を行っていく決意を語り、議論を締めくくりました。



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