日中の対話の力でこの困難を乗り越えられるのか(全体会議:前半)

2014年9月28日

「第10回東京-北京フォーラム」全体会議

 「北東アジアの平和と日中両国の責任」をメインテーマに、「第10回 東京‐北京フォーラム」の全体会議が28日、ホテルオークラ東京で開かれました。

工藤泰志 日本側主催者の工藤泰志・言論NPO代表は開会の言葉として、「先日の世論調査の結果、両国の国民感情は非常に悪い状態が継続している。一方で、このような状況にもかかわらず両国の多くの人々が関係改善、首脳会談の開催を求めているという結果こそ注目すべきだ」と述べ、「日中の対話の力でこの困難を乗り越え歴史を動かしたい」と今回のフォーラムへの強い意気込みを示しました。

明石康氏 続いて日本側フォーラム実行委員長の明石康・国際文化会館理事長は、「東京-北京フォーラム」の10年を振り返り、この間の紆余曲折を乗り越えてきたことで、参加者間で人間的な相互理解、信頼の醸成が生まれた、と成果を強調しました。その一方で「日中関係が抱える問題として、両国の国民が互いの印象の大部分を単純化・類型化されたメディア情報に依拠しており、相手の一面的な要素しか見ることができない」という懸念を語りました。また、日中の懸案事項である歴史・領土問題については、これらの解決が難しい問題であると認めながらも、「双方の国民にとって真に必要な交流は止めてはいけない」と述べ、「第一次世界大戦のようなナショナリズムの高揚により、地域紛争が世界大戦になった悲劇を繰り返してはならない」と会場を埋めた約500人の出席者に呼びかけました。

朱霊・中国日報社社長 中国側主催者を代表して登壇した朱霊・中国日報社社長は、「相互理解を深め、両国の関係改善に資することが、「東京-北京フォーラム」発足当初の願いであった。しかし、その願いは未だに成し遂げられていない」と述べ、「このような困難な局面だからこそ、このフォーラムの意義は増す」と主張しました。さらに、日中の危機管理メカニズムを構築するために先日開催されたハイレベルの会議について触れ、今回のフォーラムは関係改善の為に非常に良い機会に開かれた、と大きな期待を示しました。

蔡名照・中国国務院新聞弁公室主任 続いて蔡名照・中国国務院新聞弁公室主任は、「現在の日中関係の悪化の原因は日本の右翼にある」と主張し、中日友好に反する靖国参拝や尖閣諸島国有化を行った日本側を批判しました。さらに、「靖国・尖閣諸島問題を突き詰めれば歴史認識問題であり、日本国民が客観的な歴史認識を持たないため、右翼や一部の政治家の暴走を招いている」と日本に対する厳しい見方を示しました

 一方で、中日の2000年余りの交流の中では平和と友好が主流だったことにも触れ、「中日友好の軌道に乗ってはじめて相互理解とWin-Win関係を実現できる」と主張しました。中日の経済関係では、「中日間の利益は世界の人々の共通の利益である。だからこそ、中日両国はもっと高みに立ち、教訓を踏まえ、前向きに展望すべきである。今日の友好を足掛かりに、21世紀の新たな共存を創造しなければならないと語りました。

福田康夫元首相 次にフォーラムの最高顧問である福田康夫元首相が基調報告に立ち、世論調査の結果に触れた上で、「両国間感情は悪化しているが、観光客や企業の進出は増えており、政府に対する感情とお互いの国民に対する感情は別である」と指摘しました。また、戦前の学者・朝河貫一氏の著書『日本の禍機』を引用しながら、「戦前の日本は身の丈を超えた成功に傲り、自滅してしまった。急成長を遂げている中国が同じ過ちを繰り返してはいけない」と望みました。

 最後にアジアの将来に触れ、「日中で進む高齢化など、老いていくアジアでは高い経済成長を遂げている今、様々な課題に取り組む必要があり、日中がいがみ合っている時間はない。そのためには、日中のリーダーシップが重要であり、さらに外交は勝ち負けではなく、双方が少しずつ譲り合うことが重要」と主張し、日中関係改善が急務であるとしました。そして、「改めて先人の知恵から学び、賢人として困難をのりこえなければならない。そのために、『東京-北京フォーラム』が新しい時代を開くフォーラムとなることを祈念する」と締めくくりました。

程永華・駐日大使 続いて中国政府を代表して、程永華・駐日大使は、中日関係の重要性について述べるとともに、現在中日間の損なわれる重要なテーマとして、歴史・領土問題、民間感情の改善、医療・環境面などでの新しい協力、危機管理メカニズムの構築の4つを上げました。さらに、先日青島で行われた中日高級事務レベル対話に触れ、「今回の『東京-北京フォーラム』が中日関係を正常な軌道に戻すことを期待している」と述べました。

岸田文雄・外務大臣 また、日本政府を代表してあいさつに立った岸田文雄・外務大臣は、フォーラムに先駆けて行われた世論調査で、日中のお互いの印象が悪化しているものの、関係改善を望む国民が両国に非常に多い点を指摘し、「日中には大変難しい問題が存在し、難しい状況の中にあるが、関係改善を願う強い民意が両国に根強くあることは注目しなければいけない。こうしたところに、関係改善の糸口を見つけなければならない」と語りました。また、王毅外交部長との2回にわたる意見交換、危機管理メカニズムについての高級事務レベル会議、日中経済協会の訪中など、政官民の多方面での交流の動きが活発化していることに触れ、「日本政府としても、様々な対話や協力を積み重ね、関係改善に努力する」と決意を語りました。

趙啓正・中国人民大学ジャーナリズム学院院長 最後に登壇した「東京-北京フォーラム」の生みの親の一人でもある趙啓正・中国人民大学ジャーナリズム学院院長は、創立から10年間の歩みに対する感慨を述べるとともに、日中関係改善についての使命感と責任感を痛感していると述べました。また、シンガポールで行われたアジアをテーマにしたディスカッションで日中関係が主に取り上げられた点を踏まえ、「日中関係が日中のみならずアジア・世界において非常に重要な二国間関係である」と主張。その上で、両国の間にどんな問題があっても目の前の問題ばかりに捉われず、大局的な視点で行動することの必要性を説き、民間対話を通じ政府間関係を動かそう」と今回のフォーラムに向かけた意気込みを示し、全体会議の前半は終了しました。

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