【国際シンポジウム】言論外交はアジアの平和構築に寄与できるか ~北東アジアの平和的な秩序づくりのために民間の果たす役割とは~

2015年3月21日

言論外交は、民間外交の世界的なモデルになり得る

スノー:少し歴史を振り返ると、「パブリック・ディプロマシー」という言葉は1960年代にアメリカで生まれました。この言葉が生み出された背景には、冷戦があります。当時、アメリカはソ連とプロパガンダ戦争をやっていましたが、「プロパガンダ」という言葉は響きが良くないということで、「パブリック・ディプロマシー」と呼ぶことになった、というわけです。

 さて、日本のパブリック・ディプロマシーを見てみますと、現在、政府の広報外交に関する予算が拡大しています。単なるクールジャパン戦略ではなく、もっと広い意味での世界における日本イメージ改善のために政府が努力をしています。北東アジアの近隣諸国を見てみると、中国は孔子学院、韓国は韓流などを積極的に展開している。また、留学生の数を見ても、両国は受け入れも送り出しも2倍、3倍というようにどんどんと膨れ上がっています。そのような状況の中、日本のパブリック・ディプロマシーは中韓両国に後れを取っていると政府は判断したのでしょう。その結果が、広報外交関連予算の増大につながったのだと思います。

 ただ、日本政府がやろうとしているパブリック・ディプロマシーは、政府主導型であると言えます。クールジャパンもそのためのファンドを作るなど、政府が主導しているのです。これに対して、草の根的なパブリック・ディプロマシーの動きは限定的です。例えば、地方自治体が総務省、外務省、文部科学省及び一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)の協力の下に実施している「JETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)」があるなど、これまで日本が行ってきた民間の交流活動は力強いものがあります。しかし、その力も最近は弱まっている印象を受けます。また、留学生数を見ても、特にアメリカに留学する日本人学生は過去15年間を通じて落ち込んでいます。これを警鐘と捉えるかは人によって違いますが、グローバルな世論の力や影響力、そして国際関係を考えると、私は懸念を持つべき兆候なのではないかと思います。

 そのような状況の中、日本のパブリック・ディプロマシーをより成熟化させる必要性が出てきているわけですが、そこで言論外交の果たす役割は非常に大きいと思います。アメリカではNGOセクターが大変活発ですが、NGOごとに関心事が異なるので、市民による包括的な民間外交が展開されているわけではありません。一方、日本において言論NPOがこれほど大きな存在感があるのは、独自で多くの活動を展開しているからです。ですから、この組織自体が世界的な民間外交のモデルとなりうると思います。そして、日本の市民社会の中に、この言論外交の展開が幅広く浸透していけば、日本のパブリック・ディプロマシーはより成熟化したものになるでしょう。特に、大学や高校でも浸透していけば、若い世代も自らの民間外交官としての役割を早いうちから認識できるのではないでしょうか。

 20世紀のアメリカを代表する文化人類学者であるマーガレッド・ミードは、その著書の中で、「思慮深く、献身的な市民の小さなグループだけが世界を変えられる」と述べています。これこそがまさに言論外交だと思います。言論外交は、この北東アジア地域において協業的なパブリック・ディプロマシーを構築することができると思います。日本、中国、韓国の民間同士が手を取り合って、課題解決に向かって対話をしながら協力をする。そのように小さなステップを積み重ねながら信頼関係を構築していくことが、この地域における平和につながっていくのだと思います。

 ただ、世論という問題に関して一つ警鐘を鳴らしておく必要があると思います。先ほど、工藤さんから有識者アンケートの調査結果として、日本の有識者の85%が「不戦の誓い」を具体化していくことに対して賛成している、ということが紹介されましたが、本当にそうなのであれば、なぜこれほどまでに憲法を改正する動きを見せている安倍政権が高い支持率を保っているのでしょうか。これは一般世論というものは容易に操作できるものであるということ、そして、政治指導者・一般世論と有識者の認識の間には大きな乖離があるということを示しているのではないでしょうか。世論にはこういった問題があるということも認識しておく必要があります。

工藤:ありがとうございました。今の話も非常に重要なポイントを突いていると思います。有識者のきちんとした議論と一般世論との乖離は非常に大きな問題です。言論NPOが主催する「東京―北京フォーラム」においては、有識者同士であれば日本人と中国人も非常に話が合うわけです。ところが、一般世論同士は違う。ですから、有識者が積極的に発言をして一般世論に挑んでいく、それが影響力を持っていく、という流れにしていくための仕組みづくりが必要です。

 世論を課題解決型に変えていき、そして「北東アジアの平和を構築する」という流れにしていかなければ、今後、政治指導者がよほど大きなリーダーシップを発揮しない限りいつまでたっても問題は解決しないと思います。その中で、政府間外交の問題と言論外交に期待する役割について皆さんにお話を伺いたいと思います。

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