【国際シンポジウム】言論外交はアジアの平和構築に寄与できるか ~北東アジアの平和的な秩序づくりのために民間の果たす役割とは~

2015年3月21日

日本側パネリスト:

 田中均(日本総合研究所国際戦略研究所理事長、元外務省政務担当外務審議官)
 宮本雄二(宮本アジア研究所代表、元駐中国特命全権大使)
米国側パネリスト:
 ナンシー・スノー(米国社会科学評議会 安倍フェロー)
中国側パネリスト:
 栄鷹(中国大使館公使参事官、元中国国際問題研究所副所長)
韓国側パネリスト:
 柳明桓(元外交通商部長官)

司会:
 工藤泰志(言論NPO代表)


工藤:言論NPOは二年前、民間外交の新しいモデルとして「言論外交」というものを提起しました。これが「アジアの平和構築に寄与するものになるのか」ということについて、議論していきたいと思います。

 さて、言論NPOは今回の議論に先立って、日本の有識者に対するアンケートを行いました。2015年3月15日から19日までの4日間で、言論NPOに登録している258人の有識者に回答していただきましたので、議論に入る前にその結果をご紹介したいと思います。


有識者アンケートから見る、北東アジアの今後の方向性

 まず、「東アジアに平和的な秩序をつくり出すために、あなたが最も期待している枠組みは何か」と尋ねました。この問いの背景には、東アジアの平和を考えた場合、ガバナンスが形成されていないため、色々な問題が起きた際、各国が協議する場が必要なのではないかという問題意識があります。例えば、軍事的な信頼醸成に関わる多国間のチャネルを作るというのも一つの手です。どのようにその枠組みを作るべきなのか、ということについて、有識者の回答で一番多かったのは、「日中韓など北東アジア各国にアメリカなどを加えた多国間協議」で38.0%でした。その次に多かったのは、「日中韓など北東アジア各国による多国間協議」で21.7%でした。そして現在は日中、日韓など二国間の協議の枠組みはありませんが、それが8.9%でした。嬉しいことに、「民間が主導する対話」という枠組みを選択した有識者も13.6%いましたが、そもそも平和の秩序作りなどは期待できないという人も9.3%いました。

 次に、北東アジアにおける「政府間外交」があまり機能していない中、「民間が行う外交(民間外交)」の役割に期待しているかを尋ねました。これに対して、「期待している」が46.5%、「どちらかといえば期待している」が32.9%でしたので、合計すると約8割の有識者が期待しているということになります。

 その8割の有識者に対して、では具体的に、民間外交に対して、どのようなことを期待しているのかを尋ねました。その結果、「外交というよりも民間同士の交流や両国民間の相互理解の促進」が42.4%で最多だったのですが、それ以外のところにも一定の回答が集まったことは注目されます。一つは「政府間外交と共に課題解決に向けた推進役」で24.8%、もう一つは「政府間外交が動き出すための環境づくり」で、これも23.3%と2割を超えました。この二つを合計すると、民間外交に対して、単なる民間交流以上の積極的意味を持っていると考えている有識者も半数近くいるということになります。

 それから、私たち言論NPOは、一昨年、「第9回東京―北京フォーラム」において、中国との間で、民間レベルで「不戦の誓い」を合意しました。私たちは北東アジアの平和な秩序づくりに向けてこうした動きを広げていきたいと思っていますが、これに対しての賛否を尋ねたところ、「賛成」が67.4%、「どちらかといえば賛成」が18.6%ですから、85%を超える有識者が賛成しているということがわかりました。有難い話だと思います。

 そして、その賛成している有識者たちに、この「不戦の誓い」を、将来的に、北東アジア地域で平和構築のための合意としていくことが、ふさわしいと思うかを尋ねました。その結果、77.9%が「ふさわしい」と回答しました。

 最後に、アジアの将来を考えた場合に、目指すべき価値観や理念は何かを尋ねました。すると、「民主主義」が26.0%、「平和」が22.5%となり、この2つが2割を超えました。そのほか「不戦」も14.0%と一定の支持を集めました。この結果から読み取れることは、やはり、平和や民主主義に価値を置いている人が多いということですね。この結果もこれからの議論に生かしていきたいと思っています。


言論NPOが進める「言論外交」とは

 さて、議論に入ります。このセッションではまさに「言論外交」について議論していただきます。政府間外交は領土問題など主権が絡むような問題では、一種のジレンマを生じさせてしまうことがあります。政府が国益や国民の安全を守るために行動するのは当然のことですが、それだけになってしまうと、国内社会の中にナショナリズムを生んでしまう。国内世論の中に他国に対する排他的な攻撃的な声が強まってしまい、その状況が政府間外交を身動きの取れないものにしてしまう、というわけです。

 確かに、外交交渉は何でもすべてオープンにすることはできないと思いますが、外交政策、つまり国が目指すものに関しては国民の支持があることで、外交が強くなるという側面があります。言論NPOが提起している言論外交は、「課題解決をしていく」という国民の声に支えられた外交を作ることを目指しています。

 現在、様々な課題が国内にとどまらず、国境を越えて広がっている中、これを解決していくためには、国境をまたぐ形で、言論空間を広げていく必要がある。日中韓、そして東南アジアも含めて、アジア全体にそのような言論の空間を作り上げることができれば、それが共通の課題や国境を越えた課題に対して、解決に向かうための一つのエンジン役になる、と私たちは主張しているわけです。

 このようなことを踏まえながら、「言論外交はアジアの平和構築に寄与できるか」ということを論じていただきたいと思います。まず、基調報告として、私たちの言論外交の主力として動いていただいている、元中国大使の宮本雄二さんにお話しいただきます。

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