第14回日中共同世論調査をどう読み解くか

2018年10月11日

日中平和友好条約を、日中両国民はどう評価しているのか

kudo.png工藤:今の話は、せっかく日中関係から悪いものがなくなってきているのに、良いものが増えていかないという現象は、そういうところに一つ、考えなければいけない課題があるのかな、ということです。

 今回、世論調査で初めて、日中平和友好条約の評価を聞いてみました。当初、この設問を入れた思いはちょっと違っていたのですが、ただ、それでも、「平和友好条約の理念は実現したのか」という設問に、日本は何と「全て実現している」が0.1%しかなく、「一定程度実現している」が14.7%、「あまり実現していない」が36.2%で、「全く実現していない」を合わせると約4割が、実現していないと答えました。「分からない」も44.6%います。

 中国側では、「実現している」が40%くらいあるのですが、「実現していない」も46%くらいあります。つまり、国交正常化の後で条約化した、先人たちが作った非常に大きな理念が、両国の国民の4割以上が「実現していない」と評価されているという問題がある。

 一方、その条約の項目で何を今後も発展させるべきなのか、という設問では、中国国民が意識しているのは、一番目の「恒久的な平和友好関係の発展」と、不戦、つまり「全ての紛争を平和的な手段により解決する」というところを、6割くらいが選びました。「両国は覇権を求めるべきでなく、他のいかなる国または国の集団による試みにも反対する」も、中国の人たちの53.0%がその重要性を認識しています。残念なのは日本の方で、「反覇権」の条項を19.7%しか選んでいない。

 確かに、これからの日中関係の重要性を考える時に、日中平和友好条約の理念を検証することは非常に重要だと思うし、その中で一つの国民の意思がある程度出てきたのですが、これについてどのようにご覧になっているか、高原さんからお伺いしたいです。

b376eb5931b0a1d7a6018238eb2914aeff43e540.jpg高原:最後におっしゃったことについて言うと、「覇権」という言葉が難しくて、40年前にこの条約を締結した時も、結局、「覇権」とは何なのかということを詰めていない。ですから、この40周年にぜひ、両国政府間でも国民の間でも、「覇権に反対する」とは一体どういうことなのか、ということを確認すればいいと思っています。

 もう一つ、日本側は条約が「完全に実現できていない」という割合が多いという話なのですが、それはやはり、島の問題を巡っては中国側が突っかかってきているわけで、日本側は受け身の立場にあって、脅威を感じる側に回っているので、日本側の方が「完全に実現できていない」と考える割合が高いのは理解できます。しかし、中国の方でも、これからずっと平和を保てるのか。別の設問、今後、日中間の軍事的な衝突があるかどうかという問いで、中国の人は必ずしも楽観していないわけです。そういう意味では、平和友好条約を完全に実現できていない、と考える人が、中国側でもかなりいる。そういうふうな説明ができると思います。

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中国に理解を求めるべき「覇権」と「主権」のパラドックス

工藤:この点では高原さん、坂東さんにお願いしたいのですが、当時の国交正常化や平和友好条約の交渉プロセスを見ると、確かに「覇権」の定義はされていないのですが、しかし、鄧小平さんは、「『覇権』とは、中国が将来、覇権的な行動をすることに対する拘束だ」とおっしゃっています。日本でも最近いろいろな文献が出てきているのですが、中国の人たちに聞いても「その通りだ」ということです。しかし、その際に言われたのは、鄧小平さんとは違う考え方を持つ人も出てきているのではないか、ということです。ただ、我々にとっては日中平和友好条約が重要だ、ということになると、また中国の先人たちもそれを望んでいるのであれば、もう一度改めてきちんと考えていかないといけない、と思っているのですが、どうでしょうか。

ban.jpg坂東:日中の認識がちょっと違っているところもあって、我々が「覇権主義的だ」と感じる中国の行動の多くは、中国が大国化、強国化して、彼らからすれば主権を守る行為だ、ということです。それは南シナ海などでもよく起きています。ですから、彼らに聞けば「覇権を求めているわけではない」というのが彼らの立場でしょう。この覇権条項は、確かに現代的意味が非常にあるところですので、これからの政治対話の中ではまさに詰めていくべきところです。その中で、両国民がさらに、この意味するところ、あるいは日中間が改めてこれを確認できれば、さらに未来につながっていく。そこが理解しやすくなるのではないかと思います。

高原:坂東さんと同じですが、まさに「覇権」と「主権」のパラドックスのようなことがあって、そこをぜひ中国の人に理解してもらいたいわけです。自分たちが主権の回復、主権の実現だと思ってやることが、他の国からすれば「覇権の行使」である。これが実態ですので、そうした事情について、他の人の立場から物事を考えることの重要性があるのだ、という話し合いが、「東京-北京フォーラム」でもできるといいな、と思います。

工藤:これもレトリックなのですが、中国にとってはアメリカの行動が覇権的に思えるところもあるので、これはきちんと整理しないといけない、非常に難しい話になりますよね。

高原:日本からもそう見える部分があると思います。

日中間で食い違う、1978年の2つの転換への解釈

工藤:今回「平和友好条約の評価」と「平和友好条約で今後も発展させるべき項目」という二つの設問を入れたのですが、園田さんはその結果をどう見ていますか。

sono.jpg園田:すごく面白いですね。特に、友好条約の話と同時に、「中国の改革開放が日中の交流を促したか」という設問も一緒にあって、すごく良いコンビネーションだなと思います。それは、中国にとって、日本との友好的な関係を持つことが、まさに中国の安定的な発展、それまでは文化大革命でいろいろな混乱があったのが、そこから飛躍していくすごく重要なターニングポイントの一つになっている。それは中国側にしてもすごく分かりやすい。でも、日本側から見た時に、日本のいろんな流れの中で「日中平和友好条約があったから、何かがドラスティックに変わった」とか、「自分たちの民生が良くなった」というふうには、たぶん考えにくい。

 つまり、平和友好条約、改革開放という1978年の転換が持つ意味というのは、やはり両方の側にあります。特に、中国側の多くの市民にとって、それによって日中間がすごく安定的、かつポジティブサムの方に動くようになったという認識がたぶんある。そうであるがゆえに、逆に、高原先生がおっしゃったような、ある種の今あるパースペクティブ(見方)の違いに、すごく強くスポットライトが当たるような形の結果に見える。日本側からすると、よく分からない。「拒否」と考えるのか、「複雑だ」と理解していることの表明なのか、分かりませんが、回答することに躊躇するような回答が多い、というのが、今言った「ねじれ」も含めて表れているのだな、と理解しています。

kamo.png加茂:「日中平和友好条約の理念は実現したのか」という問いは、日本と中国の現状に対する認識の差を極めて明確に示したものだと思います。日本側の「分からない」という回答を除いても、日本と中国との間の条約に対する評価が極めて違っていて、違っている要因はどこにあるのか、というところから議論をし始めて、「なぜ違うのか」というところを議論しなければいけない、そういう重要な問いなのだと強く感じました。

歴史問題を巡る中国の対日批判はなぜ減ったのか

工藤:これについては、いろいろなことを考えなければいけない一つのスタートになるようなテーマだと思うので、後からもう一度聞きます。

 私がこの世論調査で気になったのは、確かに中国の日本に対する国民感情が非常に良くなってきているのは分かるのですが、歴史問題に関しても、至るところですごく改善しているのです。例えば、「歴史問題で何を解決すべきか」という問いで、「侵略戦争への日本の謝罪が足りない」という声が、今までは非常に多かった。そのような意見を日本側でも認める人がいるのですが、それが今回20ポイントくらい減るとか、ドラスティックに改善していく。この状況はどういうことなのだろうか。歴史問題は確かに日中関係にとって非常に大きい要素だと思うのですが、日中関係の従属変数ではないか、つまり日中関係に対する何かが変わると、歴史認識がここまで乱高下するのか、と。だから、それが根源的な課題ではないのか、政治的な利用の問題なのか。改善しているのは嬉しいことなのですが、あまりにも大きな変化に戸惑っているところがあります。それについて、皆さんはどうお考えでしょうか。

高原:何か事件があると、マスメディアは当然ながらそれに飛びついて報道することになります。しかし、何も事件がなければ何の報道もない。情報が減って、他の物事の重要性がその分だけ高まり、歴史問題の影が薄くなる。それはある意味では当然ではないかと思います。

園田:「歴史問題は日中関係の障害か」という問いに対しては、改善はしたけれど、中国側ではまだ「障害だ」という声が多い。ですので、潜在的問題としては認識している。ただ、喫緊の課題として、今、この問題を考える時に「謝罪が不足している」とは思わない。これはもちろん記憶の問題でもあるし、あと、日中関係の重要なアジェンダの問題です。それは、歴史問題を意図的に選んでいると考えるのか、たまたまその時々にいろんな問題が生起して、それに人々が刹那的に対応しているか。私の感覚でいうと、後者に近いのかなという感じです。ですから、もし何か別の問題、例えば安倍政権の閣僚が何かの発言をすると、歴史問題での批判がグッと高まる可能性は、あるような感じがします。

坂東:歴史問題でいうと、2015年の戦後70年の時がピークで、あの時には中国メディアは連日のように歴史がらみの報道をしていました。ですから、2015年をピークに若干下がってきている。それから、中国の反日教育については日本でもいろいろ知られるところではありますが、そうした歴史教育がそれほど深く浸透していない若い世代がいて、彼らは、歴史がイシューではなくなると、そう感じるところが減ってくるのかな、と。そういうところが世論調査に表れていると思います。

工藤:過去というより未来に目が向き始めた、と楽観的に考えてはいけないのですか。

加茂:「あなたは日中関係と両国の歴史問題についてどう思いますか」という問いがあります。中国側の回答は、「日中関係が発展するにつれて歴史問題も徐々に解決する」が、去年に比べても多いし、日本と比べても多い。この変化をどのように理解するのかというのは重要なのかな、と思います。つまり、「日中関係の発展」とは何を指しているのか。それから、「歴史問題が徐々に解決する」ということをどう考えるのか。これを調査の回答者がどう認識したのかが極めて重要なのですが、ただ、この変化は日本側では去年も今年もほとんど変わらない。でも、中国側は明らかに10ポイント増えているので、この変化をどのように理解するのか、というのは、大きな論点の一つかなと思います。

工藤:私たちは韓国との間でも世論調査をやっているのですが、韓国の場合は、歴史問題がいつもアジェンダになります。ただ、構造はけっこう似ていて、やはり、「両国関係が改善すると歴史問題は徐々に改善する」という回答が増える傾向にあります。だから、歴史問題を忘れるわけではないのですが、二国間関係を改善、発展させる努力が重要だ、という感じが、浮き彫りになっているような気がします。

中国人が日本を最大の軍事的脅威と考える理由は

工藤:もう一つ大きいのが、安全保障の問題です。今回、中国国民の日本に対する意識が全般的に改善する中で、それに逆行する動きがこの安全保障です。しかも、北朝鮮が今、ある程度非核化に向けて動いていて、その中で一つの流れが始まっています。しかし、今回の設問で、日本の人は中国に軍事的な脅威を感じる人がけっこう増えた。中国も、日本に対する軍事的な脅威を感じる人が増え、今や、中国にとって世界で最大の軍事的脅威は日本だ、と。日本がアメリカを超えてしまったわけです。これはなぜだろう、と思わざるをえません。しかも、尖閣問題を巡り「日中で将来、軍事的な衝突がある」と予測する人も増えている。今までずっと話していたことと全然違う領域があるのですが、これをどう読み解けばよろしいでしょうか。

高原:とても難しい問題ですね。全く推測するしかないのですが、「なぜ相手国に軍事的脅威を感じるのか」という問いで一番多い答えは、中国側は「日本は米国と連携し、軍事的に中国を包囲しているから」という答えです。もう少し考えてみると、やはり南シナ海において日本が自衛艦を派遣するとか、あるいはキャパシティ・ビルディング(能力構築)と称して、東南アジアの沿岸警備隊の強化を助けるとか、そういったことが、実は中国のメディアでは我々の想像以上に大きく取り上げられています。その辺が影響しているのかな、と見ています。

工藤:私は逆に、アメリカに対する脅威が高まるのではないか、と思っていました。最近、船が接近した映像も出されましたが、なぜアメリカへの脅威認識が減って、日本に対しては増えるのでしょうか。

高原:そこは、正直申し上げてよく分かりません。去年のトランプ政権発足以来、オバマ政権と比べても、(中国が実効支配する海域に艦船を派遣する)航行の自由作戦を多く実施していますし、先日のような艦艇同士の接近の事件も起きています。ですから、アメリカを脅威と感じる人が多くてもおかしくないと思うのですが、では、なぜ日本の方が多いのか、というのは、私も答えがありません。

工藤:ひょっとして「アメリカを刺激するような回答はやめろ」ということではないと思いますが、園田さんはどうですか。

園田:確かに難しいのですが、一つありうるとすると、そういうフィジカル(物理的)な部分以上に、トランプ政権が出てきて、いろいろと従来と違うことを言っている中に、ある種のバランス・オブ・パワー、要するにアジアにコミット(関与)しないとすると、結果的にそれを肩代わりするのは日本だ、という理解が起こったとすると、これは理解できると思います。つまり、アメリカのコミットは実際にはあるし、ある部分は増えているのかもしれませんが、人々の中で、本来もっと出てきそうな部分を日本が肩代わりする、あるいは安倍政権がより強固になってよりタフなことをやろうとして、それを支える客観的な条件があるとすると、それを脅威だと考える人が増えた、というのはあると思います。

坂東:一般的に日本の方が考えるより、中国はもともと日本を非常に脅威だと考える傾向が強い。しかも、日本の軍事力がかなり高いレベルにあるという一般的な理解もあって、日本人が考える以上に、日本を脅威と考える傾向があると思います。今お話に出たように、アメリカと一緒になって中国に対されると、それは脅威である。というものが、アメリカでなく日本に向かっているのかもしれませんし、逆に言うと、これはちょっと言い過ぎかもしれませんが、だからこそ中国にとって日本は重要な存在でありうるのかもしれない。中国に脅威を与えうる存在であるからこそ、日本との関係が良くなっていけばそれは中国にとって利益になると考える要因になるのかな、と。これは読みすぎかもしれませんが、そのように思います。

加茂:この問いは、けっこう我々が意識して見ないといけない問題なのだな、と思います。別の問いで、「近い将来に日中の軍事紛争が起きる」と予測する割合は、中国側で半数を超え、日本よりもはるかに大きい。そういう、中国社会の中の国際情勢に対する見方と、日本国内で感じているものとが違う。それを再認識すると同時に、中国側の世界観がこうであるから、我々はこれにどう向き合うのか、という問題を説き出す。これからの日中関係を考えると、それが一つの重要なテーマになると思います。

米国との対立を巡る中国国民の深層心理

工藤:まだまだいろいろな設問があって、これは北朝鮮問題を意識したのですが、そろそろこの地域の平和を作っていくための協力、具体的な協力でなくても、そういう議論が日本と中国の間でなされるべきではないかと思ってこの設問を設けました。「北東アジアでの多国間の安全保障枠組みは必要か」という問いです。中国は何と「必要だ」が6割近くで、これも10数ポイント増えています。日本でも増えたのですが、中国では「必要だ」という声がかなり強まっています。

 では、どの国がその枠組みに参加すべきか。中国の人たちは「日米中」という枠組みへの意識が国民レベルであって、そこに、韓国や北朝鮮ではなくロシア、という意識がある。日本ではまだ6者協議のような枠組みを意識する人が多いのですが、中国がアメリカ、日本と対峙している構造の中で、何かをしなければいけないという国民の願望が出ているという気がします。このような状況に、今、北東アジアがあるのかどうか。一つの大きな転機に来ているのかどうか、ということをお聞きしたいのですが、高原さんからどうでしょうか。

高原:それにお答えする前に、一つ戻ってもよろしいでしょうか。加茂さんがご指摘になったように、日中間で軍事紛争が「起きるかもしれない」という答えが中国側では多い。では、「米中間で軍事的な紛争が起きるか」という問いをした場合に、もしかしたらそれほど多くないかもしれない、という気がします。それはなぜかというと、やはりアメリカとの間では、そういう事態を絶対に避けたい、というアメリカに対するある種の恐れがありますし、アメリカとの関係は中国にとって非常に重要だという認識も、たぶんあると思うのです。アメリカとの関係を大事にしたいという気持ちが、もしかしたら、アメリカよりも日本を脅威だと思うという意識につながっているのではないか。

 例えば2005年の初めに、日米のいわゆる2プラス2(外務・防衛大臣会合)で共通戦略目標を立てました。その時に、台湾が言及されたのです。これに対して中国はものすごく強く反発したのですが、反発の代償はアメリカではなく日本だった。日本がアメリカと一緒に出している目標なのですが、日米に均等に批判が向かうわけではなく、日本をターゲットにして向かう。それで多くの日本人は不思議に思うわけですが、中国からすれば、アメリカとの関係はできるだけ安定、友好、協調的なものにしておきたいという心理が働くと、こういう答えになるのかなという気はします。

工藤:確かに、それが先ほどの答えかもしれません。ということは、中国の国民は今の米中の戦いをかなり恐れているということですか。

高原:強い衝撃を受けていると思います。それは、いろいろな国内の政治・経済の事情に大きな影響を及ぼしていると思います。それを踏まえて、安全保障の多国間枠組みの中に、「日本」を「アメリカ」よりも4ポイントくらい多くの人たちが入れたいというのは、どういうふうに考えたのか。恐らくは北朝鮮問題も念頭にあったと思うのですが、もしかしたらそれだけではなく、長期的な観点も含めて、日中の軍事衝突の可能性なども考えると、日中の間だけで話し合うのではなく、多国間の枠組みも必要になる、と発想したのかもしれません。

園田:本当に日本の扱いがすごく面白いですよね。どこかにユーティリティプレーヤーとして、つまりアメリカという本当に重要なプレーヤーに対峙する前のエクササイズとして日本を、という部分ももちろんあるでしょうし、それ以外の要因がある程度良くなってきているから、日本との関係をうまく平和枠組みの中に使えるのではないか、という意識もある。それが両方あると思います。だから、「北東アジアの安全保障枠組みに日本を入れるべきだ」という答えが昨年に比べても15ポイントくらい多くなっている。これはクロス集計をしてみると分かると思いますが、日中の関係が良くなっているという感覚を持っている人たちの中で、これを増やす要因が増えているように、個人的には理解しています。

坂東:全体的に日本重視というのが表れていると思います。確かに、本当はアメリカを意識しながら、という高原さんの説明が、中国人の奥底深い心理を当てているようで、本当はアメリカだけれどアメリカと言わずに日本と言う、というのが確かにあるのかもしれません。そうであれば、だんだんと、アメリカといろいろな意味で渡り合っていく中で、やはり何らかの形で日本を取り込んでいきたいという気は出てきているのかなと。そういう意識が反映されていてもおかしくないと思います。

高原:先ほど、「米中関係が悪くなったので対日関係を改善する」という説明をしたのですが、それだけで考えをとどめてはいけないだろう、というのが、この調査結果から出てきていると思います。確かに、米中関係が悪くなったので中国の国際社会における立ち位置をどうしよう、ということは大きなイシューなのですが、それを解決する時に、日本というものの存在が極めて重要だ、ということを、国民レベルの意識でもそれを表しているというのが、この調査結果なのかなと。ですので、「日中関係が良くなってきたのは米中関係が悪くなってきた反射だ」ととらえると、日中関係のこれからの未来の構想を考えていく時に、考えが足りなくなってしまうと思います。その点は重要なのだということを示しているデータなのだ、と再認識する必要があると思いました。

朝鮮半島非核化への努力を厳しい目で見る中国人

工藤:安全保障の面では、政府間の次の動きを促す設問を二つ入れています。一つは、海空連絡メカニズムの話です。これは李克強首相との会談で運用開始されたのですが、まだかなり不十分です。本当に偶発的事故を防止できるような仕組みに再定義しておかないといけないのではないか、と聞いてみたのですが、やはり、今回の措置だけで「不十分だ」という人が、日本は36.7%、中国は26.0%いました。ですから、「不十分だ」が3割くらいいるということで、アジェンダとして成り立つということが分かったと思います。

 もう一つは、朝鮮半島の問題です。「朝鮮半島の非核化に向けた外交努力が問題解決に向けた正しい行動か」を問う設問で、驚いたのは、「正しいと思うが不十分である」という人が、中国が36.6%もいて、「外交努力では解決できない」も5.7%います。日本も「正しいと思うが不十分である」が40.2%で、「外交努力では解決できない」と合わせると約6割います。この二つの挑戦的な設問を、皆さんどのようにご覧になりましたか。

高原:まず、連絡メカニズムのことですが、どうして中国世論の半分もの人が「これで十分だ」と思うか、ということの方が不思議です。なぜなら、南シナ海で米中間では連絡メカニズムがあるのですが、それでも摩擦が起きているのです。

 北朝鮮については、確かに、外交努力をこれだけたくさんの人が懐疑的な目で見ているというのは、中国側にとっては意外だったかもしれませんが、これまでの歴史を振り返ってみると、様々な外交努力が実ってこなかったわけですから、ある意味では当然の結果とも言えるかもしれません。

園田:こういう公式な質問票の回答として、実際に中国の人たちが一般に考えていることが出てくることは、本当に珍しいのですが、我々の周りでよく聞く話は、やはり中国には「北朝鮮は本当に御せない」と思っている人がすごくいて、どんなに中国側が努力してもなかなか難しい、というのは、口からは出てくるのですが、この(外交努力に懐疑的な)4割くらいの中に現れたのかな、と理解しています。

坂東:このところ中朝関係が劇的に改善したと、表面的にメディアからは聞かれています。一時的には北朝鮮を揶揄するような話がネット上にもずいぶんあふれて、「北朝鮮と我々は違う」という意識が中国の人たちの中にかなりあって、基本的に、その中で政府が進めている政策ということで、北朝鮮を信用していない人は少なからずいるということだと思います。

高原:朝鮮半島の情勢について中国側の関心がいかに高いのか、ということと、関心の所在がどこにあるのか、ということとをうまく表しているのだろうな、と。やはり、中国にとって朝鮮半島の安全保障の問題は極めて重要なテーマなのだ、ということをうまく示している。これは政府批判が混ざっているのかどうか分かりませんが、国民レベルの意識の中で、朝鮮半島に対して問題意識、関心が極めて強いということを表している結果なのかな、と読みました。

中国人に顕著な、グローバル化と自由貿易の受益者だという感覚

工藤:この調査では、今のグローバル経済などについても聞いています。この調査結果から見ると、貿易や世界的な秩序に関する多国間の協力、それからWTOの改革に関しても、例えば「多国間主義に基づく国際協力は重要か」と聞くと、中国では「重要だ」が何と約8割になってしまう。日本も「重要だ」が6割くらいあるのですが、やはり中国の方が非常に多い。それから、WTO改革の中身も、中国の中では具体的に「何をしたらいいのか」というところまでは行っていないと思いますが、7割以上の人がWTO改革を支持している。

 これを見ると、中国の国民は、世界秩序に関しては自由貿易、開放された経済、多国間主義、日本は戦後、まさにそれらのもとで発展してきたのですが、国民は非常に支持しているように見えます。これをどう考えればいいか。つまり、アメリカと中国との対立の中でそのような意識になっているのか。あるいは、中国は本当にグローバル経済の中で、自由やルールに基づいた社会の担い手になっていくのか。ひょっとしたら、作られた世論なのか。この辺りをどのように読み解けばいいかというところが大きいのですが、高原さん、どうでしょうか。

高原:もちろん、言葉の上では、習近平さんのダボス会議での有名な演説がありますが、「自由主義、自由貿易を肯定する」。しかし、実態としてはいろいろな問題が中国国内にある、というのは皆さんご存知の通りです。ただ、言葉としては、一帯一路もそうですが、「多国間主義は良いものであって、これを中国が旗手として進めていく」という政策であることを、多くの中国人は理解しているので、こういう結果なのかなと思います。

園田:グローバル経済のいわば受益者だ、という人たちが中国に非常に多い。今回の調査対象は主に都市住民です。私たちもずっと前から「グローバル経済をどう見るか」という調査をやっていたのですが、中国は他のアジアの国に比べても突出して、開放経済に対してポジティブなのです。それは、単に理念というよりも、むしろそれで自分たちの生活が良くなったという感覚が相当ある。従って、今の非常に物質的に恵まれている環境は当然守りたい。理念としての「自由」とか「開放」というよりは、彼らの実感、生活経験としてこれらを守る。そして、アメリカがそれを言わなくなったとすると自分たちが言う、と自然に理解しているのではないか、と感じました。

坂東:園田先生の意見に近いのですが、中国はWTOに2001年に加盟し、そこから中国経済の一層の発展が続いてきた。それで世界第2の経済大国にのし上がったということで、WTOとかグローバリズムは、中国にとっては非常にプラスイメージの言葉として使われています。ですから、こういう質問をすると、中国が受益側に立っているということは、彼らも実感としてあるので、素直な結果かなという気がしています。

加茂:グローバル化や多国間主義に関する一連の問いを見ると、中国が自由貿易体制の中で成長してきたということ、加えて、中国がこれから国際社会の中でリーダーシップをとるべきだということを自己認識していて、プラスして、既存の経済秩序であるWTOについては、中国自身の必要とする秩序に向けて少しずつ修正していく。そういう意識が表れた調査結果なのかなと感じました。

平和と発展への「責任」を、日本と中国は共同で果たせるのか

工藤:最後に、日中関係を考える時に、非常に出てきている議論があります。つまり、中国が世界的な視野でいろいろな積極的な行動をしている。しかも、それは、私たちが考えているルール、自由秩序とは違う分野の中で、大きな覇権的な行動をしていくのではないかという懸念が世界でもある。その中国と本当に協力、共存、繁栄という関係を作れるのかどうか。その中で日中は、どのように向かい合えばいいのか、という議論が出てきています。逆に言えば、専門家の中でも意見が食い違い始めている。

 平和友好条約を含む四つの政治文書のいろいろなところに出ているのが、「この地域の平和と発展に両国が責任を果たす」という先人たちの言葉です。私は、今回の「東京-北京フォーラム」で、それを逆手に取って「まさにそういうことを考える局面ではないか」と問題提起したいのです。そういう状況になれるかどうかは、これからのことだと思うのですが、今の大きな歴史的変化、未来を決定付けるような局面の中で、この世論調査が意味しているものをどのように受け止めればいいのか、お話しいただきたいと思います。加茂さんからどうでしょうか。

加茂:この調査を読んでいて、中国という国は国民レベルで何を欲しているのかがよく見えてきたと思います。日本と中国の関係が重要だ、という認識はずっと共有している。これは良かったのでしょう。では、その次にどうするのか、については、日中の間で極めて異なる問題意識と、極めて異なる現状認識と、極めて異なる未来秩序像が見えてきます。その意味では、我々はこれから何を論点として挙げていかなければいけないのか。いろいろな論点がどこにあるのかよく分かる、非常に良い調査だったと思います。

 ここから先、日中の間で、安全保障の問題でどのように一つ一つ相互不信を解決していくのか。あるいは、経済協力、経済秩序の構築に向けて、どのように日中が協力していくのか。ということを考える必要性が出てくることを、改めて認識させられる調査だと感じます。

坂東:日中協力、あるいはアジアや世界の中で日中がいろいろな問題について考えていくことは、両国民とも非常に支持しています。日本国民も支持しているのですが、その未来に対して必ずしも楽観的な展望を持てない。中国側に十分考えていただきたいところは、日本側が変わるだけでは日中関係は変わらない、ということです。これからは中国が変わってくれないと、日中関係を画期的に変えるということは難しいのではないか。それが非対称的な結果にも出てきています。

 特に米中関係が、経済・貿易戦争から様々な価値観を含めた対立関係が深まるかもしれない。そういう時に、アメリカと中国の間に立つ日本の立ち位置は非常に難しくなるわけですが、中国が日本と一緒にやっていきたい部分があるのだとすれば、中国にも変わってもらわないと困る。それは、日本人が欲している形で、先ほど来出ているような覇権主義的なものを感じないようにしてほしい、とか、あるいは大国的な行動を和らげてほしい、とか、具体的な中国の変化が見られるようになって初めて、日本の世論も変わっていくのかなという気がします。

園田:ここだけでこのデータを語るのはもったいない、ということを、私は昔からずっと思っています。先ほどから「このデータをどう読むか」ということを、実際に回答した人間が何を考えたのか、にまで踏み込みながら、それは将来に向けてどういう示唆があるのかという議論をしているのですが、私は、こういうデータは知的公共財として非常に重要だと思っていますので、本当にいろいろな局面で、日本の中もそうですし、中国の特に教育機関でもこういうものをうまく使いながら、「これが何を示していて、そこから考えられる日中の関係とはどんなもので、そのためには何をしないといけないのか」という話を、書生臭い議論でもいいですが、このデータをもとに、もっといろいろなところで議論することはすごく重要なことです。

 たまたまアメリカとの関係がこうだから、という認識が、もし本当にそうだったとすると、本当にそれでいいのか。将来、どういう形で物を考えると、両国民が追求したいと思っている平和と安定がどのように保証できるのか、ということを、このデータをもとに、これからも特に若者が継続的に議論していった方がいいな、と、いつ見ても思います。

高原:日本と中国の国民に対して同じ問いをしているわけで、相手の答え、あるいは自分の答えを通して、相手を理解するだけでなく自分を理解する、大変良い材料です。中国側にすれば、2018年というのはおそらく非常に重要な年であって、なぜかというと、アメリカだけでなくヨーロッパからも、中国に対するいろいろな批判が沸き起こって、ある種の戸惑いを覚えた年ではないかと思います。すると、アメリカやヨーロッパが言っているいろいろなことがありますが、一つ強調している点は相互主義(Reciprocity)、つまり、これまで中国は自由貿易体制の恩恵を享受してきたけれど、では我々(欧米)は中国を相手にして本当に自由貿易でやってこられたのかというと、実はそうではなく、いろいろな規制がかかってきたではないか、と。

 そのように自分を相対化して、中国が本当に自分を見つめ直さなければならない時に、大変参考になる視点を、この調査は与えてくれるのではないかと思うので、日本にとってもそうですが、中国にとっても、今年は特に大変重要な材料になっているのではないかという気がします。

工藤:私も皆さんの話を聞いて、むしろそのような気持ちを強くしました。これは、「対立する国民感情を何とか直したい」という純粋な思いから始めた世論調査でしたが、やはり、この地域の協力関係をこれから作る一つの大きな材料になると思います。これをもとに、今度の「第14回東京-北京フォーラム」でも議論したいし、いろんな形でこの議論をやっていきたいと思っています。皆さん、貴重な意見をどうも有難うございました。

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