世界は歴史的な岐路にあり、民主主義が後退し、分断と力の世界秩序に向かう危険な状況にあります。その中で多国間主義や民主主義、そして平和を守り抜くために、日本の発言力や影響力をさらに大きく向上させることは日本の未来に関わることです。
私たちが、世界の多くの有力なシンクタンクなどと連携し、世界が問われる課題解決とそのための日本の発言力の強化と言論空間の立て直しに取り組むことは、日本の未来や私たち言論NPOの存在が問われる挑戦なのです。
この1年、私たちはその作業に集中し、2つの世界会議を通じて世界的な発言力やネットワーキングの面でも大きく成長しました。しかし、そうした世界の課題や民主主義の修復に挑むためには、言論NPO自体を行動する集団(DO-TANK)として脱皮させる必要があります。
この1年、私たちが取り組んだもう一つの課題は国内の言論空間の立て直しにむけた準備と、こうした作業を取り組むための組織力の抜本的な見直です。
言論NPOの活動が世界的な取り組みに発展する中では、組織運営にかかわる全ての経費を安定的に賄える体制が必要です。
また、多くの人が私たち言論の作業に参加できる体制も作らなくてはなりません。
そのためには、我々の取り組みを幅広く知っていただくと同時に、会員制度を私たちの世界に対する取り組みに様々な形で参加できる機会を共有できる場に発展させる必要があります。この1年、我々はそれを抜本的に見直し、言論NPOのWEBサイトを見直し、会員のサービス体系の全面的な見直しも行いました。
「東京会議」と「東京-北京フォーラム」は世界会議として高い段階に
「東京会議」は多国間主義や国際協調、法の支配、平和等を打ち出す日本発の「世界会議」との色合いが鮮明になった
2025年3月3日~5日の3日間で開催された「東京会議2025」は、米国でトランプ大統領の第二期初の施政方針演説を行われ、中国では全人代が開幕する前日という絶妙なタイミングで開催され、「多国間主義を守り抜くために、世界は結束すべき」との議長声明を採択し、世界に発信しました。
自国利益を優先し、力の秩序への世界の動揺が高まる中で、「多国間協力」を全面に掲げる世界会議がこの東京で開催され、世界にメッセージを届けた意味は大きく、「東京会議」の世界会議としての存在感を際立たせた場面となりました。
会議で挨拶を行った「東京会議」最高顧問の岸田文雄・前総理は、「国際社会が長きにわたる懸命な努力と多くの犠牲の上に築き上げた、法の支配と多国間主義はどんなことがあっても守り抜かなくてはならない。今が覚悟を問われる時だ」と踏み込み、会場だけではなくSNS空間で120万人がこの発言を聞くなど、かなりの注目を集めました。
さらに、海外からは、国連事務総長のグテーレス氏、ユドヨノ前インドネシア大統領などアジアやヨーロッパから5名の首脳級要人が参加。日本からも、岸田前総理の他、石破茂・総理(ビデオ参加)や中谷元・防衛大臣も参加し、日本の方針を示し、海外参加者とも議論を行いました。
世界20カ国から集まった約40名の要人や識者はこの会議で示された日本の姿勢に驚いており、アメリカの外交問題評議会前副会長のジェームス・リンゼイ氏が、最後のワーキングランチの総括時に、「本当に素晴らしい会議だった。これほどまでに卓越した有識者の方々を国内外から招待することは、並大抵のことではなかったと拝察するが、皆様はまさに歴史の転換点に立ち会うという得難い機会に恵まれたことを、ぜひ心に留めていただきたい」と、インターンやスタッフ向けに発言、議論の成果に高い評価を示しました。
報道件数は、CNNなどの海外メディアを含め過去最高の77件に及びました。その多くは、東京会議が主張する「多国間協力」を強調した報道内容となり、「東京会議」は、多国間主義や国際協調、法の支配、平和と言った日本に問われる外交姿勢を明確に打ち出す日本発の「世界会議」という特色がより鮮明になりました。来場者は、延べ649名でした。
次の10年は、世界やアジアの平和や課題について日中で議論する新たな挑戦の舞台に

中国から来日した50名の出席者のうち、閣僚級以上のパネリストは18名となり、日本からは石破茂現総理(ビデオメッセージ)と3名の首相経験者、岩屋毅・外務大臣など過去最高のハイレベルの参加者となりました。
中国の共同主催者によると、李書磊・中央宣伝部長(政治局員)は、第20回フォーラムの成功を大きく喜び、次期10年の「東京-北京フォーラム」に強い期待を示したとのことで、過去20年の歴史に残る大成功を収めた対話であったと評価しています。
また、フォーラムの内容は連日、日本及び中国の大手新聞とテレビで放映された他、英文記事でも世界に発信され、確認されただけでも報道件数は、過去最高の503件となりました。
今回の会議のもう一つのミッションは、これまでの20年間、一度も中断しなかったこの対話を次の10年に引きづくことです。
この点に関しては、日中の主催者間で次の10年はこれまでの延長ではなく、世界やアジアの未来に向けた本気の議論のプラットフォームに発展させることを合意しており、これらの協力協定の調印はフォーラムの会場で約400名の出席者が見守る中で実行されました。
中国側は、莫高義・国務院新聞弁公室主任(大臣)や呉江浩・駐日大使も立ち会う中、調印式が行われ、この対話は「世界やアジアの未来に向けた」新たなステージに入ることになりました。世界の対立が深まる中で、日中の民間外交の新たな挑戦が始まりました。
さらに、フォーラム前夜に行われた晩餐会には、岸田文雄・前総理が平和や核の問題に踏み込んだ挨拶、民間と政府が連携して、国際課題の解決に向けて、中国に協力を求める舞台が機能しました。会議に参加した岩屋・外務大臣も挨拶で外相会談に意欲を示し、対話後の12月末の訪中に繋がりました。
20回の調査で経験したことがない亀裂が国民意識に見え始めた日中共同世論調査
フォーラムの開催前に発表した20回目の日中共同世論調査結果では、日中両国民に世界が直面する課題に対して意識の共有が見られた反面、中国国民の対日意識がこの一年で全面的に悪化しました。
これまでの調査では、日本国民の中国への感情悪化がより目立っていたものの、今回の調査では中国国民の日本への好感度が著しく悪化しただけではなく、日中関係の重要性や経済も含めた、あらゆる分野での日中協力への中国国民の支持が劇的に後退しており、これまでの20年間の調査で経験したことがない亀裂が国民意識に見え始めています。こうした調査結果も、日中両国のメディアで大きく取り上げられました。
この調査結果の衝撃が、日中の政府間の行動を促したのも事実であり、今回の対話もそうした緊張感ある環境の中で、次の10年を実現したことの意味は極めて大きなものだと判断できます。
言論NPOの中核事業として、「東京会議」と「東京-北京フォーラム」は世界を代表する会議に向けて、さらなる成長と影響力が確認された一年となった。
緊張が高まる中で「アジア平和会議」も開催
今年で5回目となる「アジア平和会議2024」は、2024年9月3日・4日の2日間にわたって対面形式で行われました。日米中韓4カ国のトップレベルの軍事・安全保障、外交の実務者・専門家20名が集まったほか、村井英樹・内閣官房副長官が政府挨拶を行い、日本の安全保障政策の転換と外交的取り組みの重要性について発言しました。
この4カ国の会議に加え、日米対話、日韓対話、日米中韓対話、日米中韓対話も行われ、これらの二日間の議論を経て日米中韓4カ国の参加者間で、北東アジアにおける脅威の認識を共有し、最終日には「アジア平和会議」では初めてとなる「議長声明」を公表しました。
この声明では、現状の北東アジア地域の安全保障上の懸案を列挙した上で「ロシアがウクライナを侵略し、そのロシアと北朝鮮が事実上の軍事同盟を結ぶ事態になっている」ことに言及、その中で日米中韓の4カ国の役割は大きくなった」と指摘。「アジア平和会議」のような日米中韓4カ国が対話する場の重要を強調しつつ、「この4カ国会議を将来、政府関係者も参加できる仕組みに発展させたいと考えている。そして将来はこの地域に関わる多くの国の政府や団体も参加する場を作りたい」という目標を掲げました。
三カ年計画は未達となったが、次の準備が始まった
令和6年度の組織の事業計画では、言論NPOを次世代に繋げる持続性のある組織に刷新するために、(ア)言論NPOの活動の固定費の全額を会費と寄付で賄うこと、(イ)言論NPOの活動やその目的を分かりやすく、幅広く支持者を拡大すること、(ウ)言論NPOの組織を世界会議の運営に持続的に対応できるように刷新を検討することの3点を掲げ、それぞれの課題に積極的に取り組みました。
このうち(ア)に関しては、法人会員は4口増え、ふるさと納税のよる寄付も3000万円と前年比で500万円近くも増えた(実際の支援はその7割で翌年となる)ものの、令和6年度末の月額コストで計算したところ、ふるさと納税分を先にカウントしても47.2%と、昨年度の38.3%よりは上昇しているものの、目標の約半分にとどまりました。
令和6年度は、法人会員の拡大(目標15口)を掲げて、事業の安定化に取り組みましたが、会員の勉強会などの活動に法人会員や「東京会議」や「東京-北京フォーラム」への支援企業からの参加者は増加したものの、法人会員の拡大は目標通りに進みませんでした。
また、言論NPOの様々な活動への新聞やテレビなどメディアの報道は増え、ホームページへの訪問者も2倍以上になりましたが、新しい個人会員の拡大も目標通りには進みませんでした。
ただ、私たちの活動の顧客リストに加わる、無料登録者は5,808人と昨年を上回っており、無料登録者に対するアンケートでも会員を検討していい、との回答は3割近くになっています。
つまり、一般の人から一般会員、そして中核の基幹会員、さらに法人会員という会員サイクルが十分に起きていないということです。参加者のニーズや変化に見合った会員制度を機能させるためには、抜本的な会員改革が必要と判断しました。
会員制度をここで機能させないと、目標として設定した「言論NPOの活動の固定費の全額を会費と寄付で賄うこと」の達成は難しい、と考えたのです。
そのため言論NPO内に特別の委員会を設け、その対応を検討しました。
そこでまとまった方針は以下の3つです。
- これまで会員のイベントは個人会員を主体に組まれていたが、今後は法人会員用に特別の会員フォーラムなどを設定し、法人会員サービスを明確にする。
- 個人会員はなるべくコミュニティ化し、連絡を密にすることで、多くの人が言論NPOの活動に参加し、会員同士のネットワーキング化が図られるようにする。
- 言論NPOの活動を広く知ってもらうために戦略的な広報に力を入れる。またニーズに見合ったサービスを明確にし、入会を広げる。
またほかの(イ)の言論NPOの活動やその目的を分かりやすく、幅広く支持者を拡大すること、に関しては、言論NPOの活動に多くの人が参加しやすくするための、ホームページの全面的なリニューアル、SNSの活用の拡大に注力し、(ウ)の言論NPOの組織を世界会議の運営に持続的に対応できるように刷新を検討することに関しては、世界の他のシンクタンクや世界会議の運営方法などの検討を行いました。
これらの結果が、令和7年度の事業計画に反映され、実際に動かすことになります。
SNS等を活用し、ウェブサイトの訪問者数は2倍になる等、個人会員の対象となる訪問者や無料登録者増に取り組んだ
令和6年度の会員対策自体は、前年よりも濃厚に展開されています。
まず、基幹会員(メンバー)、支援企業限定の「中国勉強会」を10回開催し延199人が参加、「国際課題勉強会」を8回開催し延116人が参加し、またそれぞれの勉強会には基幹会員からなる運営委員会を発足しました。
現時点では、それが、新規のメンバー開拓には十分に繋がっていませんが、勉強会を中核となる運営委員には、基幹会員の若手、中堅クラスの人が増えており、次年度からの基幹会員増への仕組みに着手しています。
一方、一般会員の拡大については、言論NPOのメディア露出や、SNS等の発信により無料会員を増やしていくと同時に、魅力ある言論フォーラム等の開催、そうしたフォーラムが多くの人の目につくことで無料登録者を増やしつつ、無料登録者から一般会員への申込を、ウェブサイトを通じて入会しやすい方法が必要になります。
今年度は、言論NPOと代表・工藤のXとインスタグラムを中心に、「東京会議」や「東京-北京フォーラム」の会場から発信を行う等、SNSを活用した結果、言論NPOのホームページへの無料登録者については5,808人と、昨年から約1200人の増加し、令和6年度のWEBサイトの訪問者数は266,756人で昨年度に比べて2倍となる等、一定の成果が上がっています。
しかし、増加した無料会員や訪問者を一般会員に勧誘するサイクルはできておらず、それをシステム的に誘導する方法も不十分なままです。
現在、ウェブサイトのリニューアルに向けて最終的な準備を行っており、8月頃を目途にリニューアルを完成させます。その結果、ウェブサイトのマイページ上で、フォーラムの申込や会費の納入が完結する他、領収書などもダウンロードできるようになるなど、会員の自動化が行われることになります。
また、一般向けの専門家による「言論フォーラム」は、、令和6年度は13回開催し、延41人の方がパネリストとして議論に参加し、延264人が聴衆として参加しました。
これには一般会員の主な特典として割引価格で参加でき、基幹会員、法人会員は無料で参加できますが、参加者が一部固定化しており、より多くの参加者を獲得していくためには、より魅力あるフォーラムや、参加申し込みの容易さなどをすることが必要です。
魅力あるフォーラムにしていくために、今年度の初めての試みとして、トランプ政権誕生について世界各国でどのような反応を見せているのか、日本メディアの海外支局(米国、欧州、中国)をオンラインで結び、海外で取材している支局長の方にパネリストとしてご参加いただくなど、現場の関係者や大使OBなどの参加で議論に厚みを持たすような努力を行うなど、魅力あるフォーラムへの改革に着手しています。
参加申し込みの容易さは、言論Webのリニューアルで見直しを進めます。
会員の皆さんに、言論NPOの活動を伝え、意見交換を行う、「工藤を囲む会」も2回開催しました。「東京-北京フォーラム」や「東京会議」など、現在、言論NPOが取り組む活動の最新の状況を会員の皆さんへの報告と同時に、意見交換等を行う機会も設け、よりコミュニティ化に向けた動きも行っています。
法人会員制度を全面的に見直し、令和7年度から始まる新たな法人会員制度が大きく動いた1年に
令和6年度は、4口分の法人会費は増えたものの、大幅な増加には至りませんでした。
その理由として、言論NPOの取り組みの意味が十分に伝えきれていなかったこと、また戦略的に営業を行えなかったこと、さらに法人会員のサービス体系が存在しておらず、個人会員のサービスの延長でしかなく、法人会員を大幅に増やすには限界があったのが現状です。
そこで、法人会員の大幅増加に向けて令和6年度は、法人会員のサービス体系を独立させ、会員企業のメリットを整理し、法人会員制度として機能させるために全面的な見直し作業を行いました。その見直しには、中核的な支援企業にも議論に加わっていただき、各社にもヒアリングを実施しながら、1年かけて議論してきました。
令和7年度から始まる新会員制度設計がほぼ固まり、法人会員の増加に向けて、令和6年度は大きく動きました。
さらに、これまで言論NPOの「東京会議」「東京-北京フォーラム」にご寄付をいただいた企業に対しても、法人会員としても参加してもらうお願いを行います。
また、米国の外交問題評議会やミュンヘン安全保障会議をモデルに組織体制を見直し、3年を目途に、非営利・独立の新しい組織に変更する検討も始めています。
ふるさと納税は開始以来、初めて3000万円を超えた
前述したように、個人会員と法人会員の大幅な増加に向けた準備は進んでいるものの、実際の増加数としては法人会員の増加にとどまっています。
一方で、令和6年度のふるさと納税額の、言論NPOを支援対象とした中央区寄付は初めて3000万円を超え、令和7年度には2100万円が中央区から振り込まれる予定となっています。昨年は2207万円で、言論NPOへの支援額は1545万円でした。
今後、ふるさと納税をさらに増やしていくためにも、SNSの活用や、無料登録者の人たちにどのように寄付をしてもらうかが今後の課題となります。
次の展開をにらんだ言論NPOの組織整備にも着手しました。
また、言論NPOの次世代に向けた組織化を進めるために若い世代や女性の活用も意識的に取り組みました。
理事会に、スタッフからの理事や国際担当の理事を就任させたほか、メンバーの中から副理事や勉強会の運営委員を積極的に就任していただきました。
また国際会議の充実や国内の言論空間の立て直しや国内の政策論議の再開を意識して、非常任ですが研究員を採用しました。
これまで言論NPOの活動に積極的に協力していただいた多くの専門家に、議論を企画するチームへの参加や議論にも加わっていただいております。
これらはまだ始まったばかりですが、今後、計画的に進め、言論NPOのミッションを共有する多くに方にも、活動に参加していただきます。