東日本大震災について

2011年3月11日

安嶋明(日本みらいキャピタル株式会社 代表取締役社長)

1955年生まれ。79年東京大学経済学部卒業。同年日本興業銀行入行。国内外で主に投資金融業務を担当。プライベート・エクイティ部長を経て、01年12月同行退職。02年2月、日本みらいキャピタル株式会社を設立。事業再生実務家協会常務理事。経済産業省 早期事業再生研究会委員他を歴任。日本エッセイスト・クラブ会員。

【その他】不条理を超えて真の再生を

 大規模な自然災害を目の当たりにすると、「不条理」という言葉を思い起こさずにはいられない。加えて今回は、自然災害に止まらず、原発事故という今日的課題が重くのしかかっている。ともすると無力感が漂いかねないが、そうは言っておられず、「災い転じて福」としなければならない。

 以下、細部の検討が不十分であるのを承知の上で、再生への議論の取っ掛りとしたい。

 まず、初期対応ではスピ-ドと強力なガバナンスが何より重要であることは言うまでもない。特に今回のように、様々な課題が重層的に絡み合っている場合、常に全体をみて意思決定のできる司令塔が不可欠である。その点、現在の官邸は司令塔不在である。この際総理大臣や官房長官である必要はない。官邸主導を凍結してでも、官僚を縦横無尽に使うことのできる実務家が求められる。

 復興財源が問題になっているが、復興債は数年を目処に民間資金へのリファイナンスを考えるべきだ。かつて長信銀が手がけたような金融債を、税務メリットも組みあせて設計してはどうか。キャッシュフロ-がみえる案件であれば、PFIや米国型レベニューボンドの活用も考えられる。政策投資銀行の位置づけを再検討して、民間で担いにくい融資を補完する方法もある。 国民は、未曾有の惨事に対して浄財の提供を厭わないであろうが、それに甘えて安易な増税をすべきではない。消費税の問題は、今回の災害と直接結びつけずに、将来の社会保障制度ために、正面から議論した方がいい。

 地域再生にあたっては、「元に戻す」発想でなく、全く新しいコミュニティを創造する視点が求められる。経済特区や道州制の議論もあろうが、重要なのはいつまでも国が主導するのではなく、地域住民が自らの手で再生プランを描き実行できる枠組みを作ることだ。

 これを機会に、地方分権を進めるとともに、棚上げされた感のある財政改革やTPPの議論との整合性も忘れてはならない。

 今回の出来事で、わが国で高いシェアを占める半導体部品が、世界のサプライチェ-ンを左右することが明らかになった。今後、リスク分散の観点から、こうした高度な技術も海外に移転されるとすれば、新たな空洞化を引き起こしかねない。大打撃を受けた農業、漁業、林業の再生処方箋も含めてTPPの議論も深化させるべきと思う。

 最後に国民心理の重要性に触れたい。現在専ら自粛ム-ドだが、マクロ経済にとっては明らかにマイナスである。原発事故は世界的課題であり、恥も外聞も捨てて、世界中の英知に頼ってでも、一刻も早く解決しない限り本当の復興モ-ドは望めない。その上で、思いつきだが、人知を超える自然災害を心に刻むモニュメントとして、原発跡地を中心に大型太陽光発電特区でも建設してはどうか。

 この不条理を、わが国全体の抜本的構造改革に結びつけるのでなければ、それこそ犠牲者は浮かばれないであろう。

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