【NPO・NGOが語る特別座談会】強い市民社会への「良循環」をつくり出す

2010年3月26日


 全6話のindexを見る


参加者: 片山信彦氏(ワールド・ビジョン・ジャパン常務理事・事務局長)
      加藤志保氏(チャイルドライン支援センター事務局長)
      関尚士氏(シャンティ国際ボランティア会事務局長)
      多田千尋氏(東京おもちゃ美術館館長、日本グッド・トイ委員会代表)
      堀江良彰氏(難民を助ける会事務局長)
      田中弥生氏(大学評価・学位授与機構准教授、言論NPO監事)
司会: 工藤泰志(言論NPO代表)

第1部 第3話 望ましいNPOの条件とは

NPOは「業界化」するものなのか

工藤泰志工藤 少し意地悪な質問を続けます。私は8年前にNPOを立ち上げたのですが、当時はNPOの全体的な空気には違和感を覚えました。それまでは普通のサラリーマンをしていたということもあると思いますが、まず気になるのは、NPO全体が数は増えたのですが、その中に課題解決で競争し合ったり、切磋琢磨する雰囲気がないことです。2つ目には、市民に繋がっておらず、政府のそれぞれの縦割りの官庁に繋がったり、業界団体のひとつになってしまったような傾向も見られます。本来市民が持っていたのは、その垣根を越えていくようなダイナミックなエネルギーだったはずですが、市民の参加で自発的に課題に向かい合おう、という勢いがないままに、NPO全体が業界化したように政府に陳情を行っている。こういう状況を見ていると市民社会の可能性を狭めているのは、非営利組織側にも問題があるのでは、と思ってしまいます。


田中弥生氏田中 私も、NPOの動向を見ていると、縦割りの業界化というのは確かに感じます。「何に向かって仕事をしているのか」というときに、主たる収入源を行政に求めてしまうと、活動も行政区内というかたちになり、地域的にも分野的にも縦割りになってしまうわけです。それから「NPO全体の業界化」については、私は次のように捉えています。10年前は揺籃期で、とにかくNPOを育てなければいけなかった。できるだけ参入障壁を低くして参加者を増やしましょう。だからガバナンスの要件にしても必要な理事は最低3人で、理事会も必要なかったし、経営的な基盤についてもほとんど何も問われず、会計基準もあえてつくらなかったわけです。確かに10年前はそのような対応策が必要だったのかもしれません。
 しかし今、思ったよりも急速に数が増えて、社会的なインパクトを持つ団体も出てきたときに、NPOはもはや庇護の対象ではなく責任を問われる対象になっているわけです。しかし、NPO側も政治の側も相変わらずNPOを「擁護」もしくは「緩和」という発想で捉えているように思うのです。内閣府の資料などを見ていてもわかることですが、企業などNPOの外の人たちにも「NPOに競争をさせるなんてとんでもない」という思い込みがあります。例えば市場化テストが2006年に導入されましたが、行政と競争関係にある担い手のひとつとして「NPOなど」と書いてありますが、「(アファーマティブアクション)」というカッコ書きがあるんです。弱者保護の対象としてNPOを参入させると。それから、NPO自身にもまだ「庇護してほしい」という思いがあって、工藤さんの言葉で言うと、全体が業界化しているように括られてしまっていると。

工藤 本来は行政の足りない部分をアウトソーシングするのではなく、それを乗り越えて、行政ができないことをやるために市民が立ち上がる、という動きが期待されていたはずです。

多田千尋氏多田 「NPOをやるには覚悟が必要だ」という話がありましたが、私は行政の側も覚悟ができていないように思います。例えば補助金を出すとか委託させるとか指定管理などの制度や仕組みはつくっていますが、「市民社会を構築してNPOに自立してもらおう」という覚悟や意欲がなくて、中途半端に予算を組んで、しかもそれが単年度か2年度の補助金だったりする。行政の枠組みの中で素直に働くNPOが重宝される。地域の便利な下請け機関になってしまっている傾向を強く感じます。それからおっしゃるようにNPO側も覚悟ができていない。2年間の補助金をもらって、では3年目から自立できるのかというと、3年目のことは考えていないのです。3年目になるとまた新しい補助金をもらおうとする。補助金の切れ目が事業の切れ目になり、持続可能なNPО事業となっていない。

加藤志保氏加藤 力を発揮するための足腰をどうやってつくっていけばいいのかというのは、多くのNPOの課題でもあります。私たちの団体は2年前から文部科学省から少しお金をもらうようになりましたが、それでも予算の中では10分の1程度です。そういう意味では行政との関係を持たずに発展的に大きくなってきた組織だと言えます。しかし従事する者たちの犠牲を伴っているという部分も大きいので、文科省や厚労省との関係はつくりながらも、そこに守られるようなかたちではもらわずに、私たちの活動の内容を理解してくれるということで出されるお金ならもらうという、そういうせめぎ合いの中で寄付を増やしてきました。しかし、経営的にはぎりぎりで、この状況をどう打開していけばいいのかという悩みはいつもあるわけです。
 社会的な課題に対して問題意識を持って覚悟を決め、活動に参加しようという場合には、かかわる若いスタッフはワーキングプアの中に落ち込みながらでも活動を持ちこたえるという状況になります。しかし30代後半や40代になったときに、社会的な課題に向かっていけるような生活が維持できるのか。生活ができなければ活動の発展もないわけですから、まさにせめぎ合いです。自助努力で寄付を増やすことがどこまで可能なのかということについては限界があると思っています。ですから、社会的なことにお金を出すという寄付文化をつくるというところに本気で取り組まない限りは、この先の10年は本当にしんどいだろうと感じます。

工藤 せめぎ合いというのは実感としてわかります。
 ただ、国のお金をもらうにしても、そこだけに頼るのは経営の安定性から逆に不安定になったり、そもそも自分たちのミッションが何なのか、わからなくなってしまうことも多いと思います。お金がないから、どこからでもという発想も私は問題だと思っています。
 そこでさらにお聞きしたいのですが、社会的に問題のあるところからの寄付を皆さんはどうお考えでしょうか。これは寄付を受け取る側のガバナンスの問題です。例えば犯罪を犯しながらその罪を償っていないようなところからも寄付をもらっている団体があります。これはお金には色はない、という単純な割り切り方でいいのでしょうか。

片山信彦氏片山  私はワールド・ビジョンに入ったとき、この組織を定年まで働ける組織にしたいと思いました。安心して働けて、老後もそこそこの生活ができる組織にしたかった。そのときに踏ん張ったのは、行政からのお金に頼らないようにしようということでした。行政のお金はいつ来るかわからないので、安定的な財源の基盤確保はやはり市民に支えてもらわなければならないと思いました。今は比較的伸びて安定的になってきています。もちろん行政からの委託事業も行っていますが、そこがまさしく覚悟ではないかと思います。問題のある資金についてですが、組織が大きくなって有名になるとオファーもたくさんあって誘惑も多い。それについてはみんなで議論して、「こういうところからはもらわない」というコード(倫理規定)をつくりました。

工藤 どういうコードですか。

片山 まずはわれわれのミッションやビジョンをちゃんと理解しているかどうかということ。そして寄付者や団体が反社会的なことをしていないかということ。それから私たちの場合は子どもたちに援助しているので、子どもに悪影響を及ぼすことがないかということも。ギャンブルなどのお金はもらえないとか、いくつかのクライテリアをつくりました。

田中 加藤さんの団体は、大口の寄付を断ったとこがあるそうですが。

加藤 ある企業との関係を断ったのは、明らかに反社会的だったからです。営業停止処分になった企業からの寄付は今後断ることにしました。


「エクセレントNPO」はなぜ必要か

工藤 ありがとうございます。これまでの議論で日本の市民社会の現状や、その受け皿となる非営利組織の実態や課題がかなり明らかになった、と思います。こうした議論を行ってきたのは、今の非営利組織、そして市民社会が抱える課題を私たちなりに明らかにし、それを乗り越える変化を起こしたいと考えているからです。関さんも冒頭に触れましたが、私たちはこの1年間、非営利組織の評価基準の検討も合わせて行ってきました。そこではっきりしたのは、この閉塞感から強い市民社会をつくり出す「良循環」を生み出すためには、非営利組織も強くならなければいけない、ということです。それを突破できる非営利組織を適正に評価し、NPOが社会の課題解決を競い合えるような、環境をつくり出すことが必要と考えました。そのため私たちは「エクセレントNPO」という望ましいNPOの姿を明らかにして、それを世に問うことにしたのです。ここは田中さんに語っていただいた方がいいと思います。

田中 実はこれまで皆さんから提起された議論が、この「エクセレントNPO」の評価基準をつくり出す大きな材料にもなっています。この評価基準は、その前段に行った市民社会や非営利組織の調査や検討も入れると2年間もかかりましたが、近く公表できるところまで漕ぎ着けました。工藤さんが言われたように、市民社会を強いものとするには、望ましいNPOの姿を明らかにし、それを目指すような行動が循環として始まる必要があります。評価の基準はそれを支えるインフラではありますが、そうした基準を突破できる非営利組織を目指して多くの人が動き出す方がもっと大切なのです。

工藤 これまでの議論では非営利組織の課題がかなり共有されたように思います。組織として自立した運営ができているのか、ここでは資金面やミッションを軸とした活動の自立性も指摘されました。さらに社会の課題解決に自発的に取り組み、しかも活動が市民に支えられているのか、という問題も指摘されました。行政や政府の限界がはっきりしている中で、自由な意志で社会の課題に向かい合うのは、私たちの原点でもあったからです。この問題意識は私たちがこの1年間、議論を重ねた評価の基準に強く反映されました。
 こうした基準に話を進める前に、もうひとつ質問があります。日本の市民社会に変化をもたらすような望ましい非営利組織の姿を皆さんはどう描いているのか、ということです。

田中 経営的にいかに安定化するかという問題は大きな課題だと思います。ただ安定することが非営利組織の目的ではない。それが、何のために存在しているのかといえば、やはり社会的な課題に向かい合っていくということですので、ある場面では政府と政策をめぐって競い合うくらいの発言力や影響力を持つ勢いが必要です。単にサービスを提供するだけではなく、その先にある、制度や社会の矛盾に取り組んでいくことも求められていると思います。それから、皆さんのお話にも出ましたが、市民社会の旗手だったはずの非営利組織が今は市民社会と乖離してしまっている、ということでは困ります。やはりもう一度市民社会をベースにして、市民に開かれながら、日本や世界の市民性を高めていくという気概を持った団体が望まれると思います。

堀江良彰氏堀江 私は、経営的にも安定していて運営にも透明性があるということがやはり重要だと思います。あとは気持ちの問題です。国境を越えていくというか、国という枠組みではない何かを提供できる存在が求められているのかなと思うのです。日本という国も大事ですが、世界の人々と繋がれるような存在になるべきだし、日本の市民と海外の市民の懸け橋になるようなNGOが望まれていると思います。


関尚士氏 個々の組織の問題で言えば、NGOやNPO側が踏ん張るところは踏ん張って、参加形態の多様化に努めていくようになることでしょう。市民目線に立って投げかけをしていけるような専門性を養っていくことも重要です。社会の関心は広く薄く広がっているかもしれませんが、その先の深まりはまだ不足しています。市民運動を支えていくようなエネルギーが蓄積されるまでには至っていないような気がします。

片山 私は、プロフェッショナリズムとボランタリズムの両方が必要だと思います。「あそこの団体がいい」と信頼を得ていくためにはプロでないと。片手間ではできないわけです。それと同時に自分たちだけでやっていくのではなくて、誰もが参加できるかたちにしていくことも必要です。深める作業と広げる作業の両方がないといけない。特に私たちのように政策提言を行っていると、提言している側の正当性が問われるわけです。NGOは選挙で選ばれたわけではないので、提言している内容で勝負するという面と、それをサポートする人がどれだけいるかということの両方がないと正当性は生まれません。

工藤 それは言論NPOが行っているマニフェストなどの評価活動にも当てはまります。評価はその品質が問われます。そのために政府側のヒアリングを行い、専門家の評価チームをつくったり、多くの有識者を対象にアンケートを行ったりしています。NPOだから、と言って提供する材料の品質を曖昧にすることは許されません。一方でこの評価会議を可能な限りオープンにして透明性を高めたり、評価基準や配点基準などを公開して、その作業の正当性を高めないと信頼を得る活動にはならない。

片山 それから、個々のNGOだけではなくていろいろなNGOがネットワークを組んでいかないと、社会的な広がりにはなっていかないと思います。先ほど、NGOとNPOの間の交流が少ないという問題も出ましたが、それを乗り越えていくようなネットワークがひとつのカギになるように思います。

田中 非営利組織は互いに競争しながらも、必要なときはそのネットワーク力を強みにしないと、難しい課題には太刀打ちできませんよね。

多田 3万8800の団体の中にもいろいろあると思います。介護保険や指定管理者制度など、制度や法律に守られているNPOもあるし、全然体力がないのに何となく立ち上げてしまったというNPOも無数にある。やはりそこでは、多くの条件をクリアした認定NPО法人が中心となって、認定を取っていない多くのNPО法人の牽引役を果たしたり、コンソーシアムをつくって行政に向かって政策提言をしていく、行政に対してよい意味で戦える組織システムをつくらなければいけないような気がします。NPO同士が戦い合うのではなくて、スクラムを組んで。経済の世界にも経済同友会とか経団連などがありますが、NPOの世界にも何らかのネットワーク組織をつくるべきではないかと思いますし、NPOの側から発せられるような市民型の社会ルールもつくっていかないといけない。それから、そういうネットワークをつくることでNPO自身も進化していかないといけません。
 NPOになったことがゴールなのではなくて、そこからNPOらしさを発揮するためにどう進化していくのかということを考える必要があります。ただ、その際にはいずれ議論にはなると思いますが、全収入の20%が寄付でなければいけないという認定NPOの基準がネックになる。ボランティアの時間換算も入れて、タイムとマネーを同格にしていくべきではないかと思います。

工藤 認定NPOのパブリック・サポート・テストは重要な判定基準だと思っています。私も多田さんと同じく、市民性を大きな評価基準にするならば、寄付金だけではなく、労働の寄付、つまりボランティアの時間も金額換算してこのテストの中に入れ込むことが必要だ、と考えています。

加藤 私たちも認定を取ったわけですが、参加者を増やすこと自体が市民を育てることだと考えています。チャイルドラインにもっとたくさんの人がかかわれるようにするために、支援センターというところで電話を受けるのではなくて、任意団体も含めて数多くの拠点をつくることを認めました。ひとつのガイドラインは持とうということで、商標登録をして「チャイルドラインの名前で活動するためにはこういう基準をクリアしてください」というかたちで均質性を保ちながら、たくさんの市民を巻き込んで育てるということでやっています。しかしこういうかたちでやっていると認定NPOの審査を受けた際には、共益団体なのではないかと見られたりして、それについてはかなり説明を繰り返しました。ネットワークの話がありましたが、かかわれるスペックや段階というところで参加者を限定してしまうようなかたちにしないように注意しています。市民を囲い込まずに市民をコーディネートしていくというところで、非営利組織の責任、プロフェッショナルな組織団体のネットワークの責任をしっかり持つことも大事だと思います。


非営利組織は原動力になれるか

田中 今日は皆さんから、この先の日本や世界の課題を見据えつつ自分たちの位置づけと目指すべきものについて、明確なビジョンとメッセージを出していただきました。ただ残念ながら、こういうかたちで明確に発言できる方々は非営利の世界ではマイノリティだと思います。「保護ではなく競争させるべきだ」というのは本来当たり前なのですが、非営利の世界ではそれが当たり前ではないわけです。このような状態をいかに打ち破っていけるかということです。確かにこれはNPOの中では常識ではないかもしれませんが、しかし、外の方からは間違いなく賛同が得られる見解だと思います。

工藤 非営利組織が市民を強くするための原動力になる、そんな変化をこの社会に起こさないと、と私たちは思っています。第1部となる今回の議論では社会の課題解決のため、非営利組織も競争したり、協力し合う。また市民の参加をどう組み立てたり、さらに言えば経営の安定をどう図るのか、についていろいろな議論ができました。それは全て私たちが同時に作業を続けている「エクセレントNPO」の評価基準の策定に繋がる話です。次回以降は、日本の市民社会を強いものとするには何が大切なのか、そして「エクセレントNPO」の基準や条件について議論を深めてみたいと思います。

⇒続きを読む

1 2 3 4 5 6