「政治の崩壊」を有権者はどう直視すべきか

2011年6月29日

この局面は国民に信を問う段階ではないか

工藤:今のままでいけば、この国の政治は混乱して、混迷を深めていくという風にしか見えないわけです。これを、逆に考えて、今、武藤さんがおっしゃったように、打開するというか次のステージに上げるとすれば、何が必要なのかということです。僕は、政治が国民の信を問わざるを得ないという局面になっているように思います。ただ、そのためには衆議院の定数の問題がある。そうすると、最終的に、国民の信を問うということを1つのエンドとして、その間に何をして、どういう風な仕組みをつくっていくことが必要なのでしょう。武藤さん、どうでしょうか。

武藤:最も望ましくて、かつ可能なシナリオは、最終的には選挙をするべきだと思います。そうでない限り、この問題は整理がつかないと思います。
しかし、今は、先程、増田さんがおっしゃったように、色々な意味で選挙が非常に難しい。そうすると、不信任案が可決されるにしろ、可決されなくて党が分裂したとしても、本格的な政権が見えてこないので、何らかの意味で、選挙までの暫定的な政権をとりあえずつくる。それで、きちんと選挙をする。その時が勝負になって、そこから新たな政治に転換していく、というのが最も望ましい姿ではないかなと思います。
いきなり、現状のままの政治が、新しい、望ましい政権をつくってくれるという風に期待することは、無理があるのではないかと思います。

工藤:その期間にやらなければいけないことは、復興とその財源、それから衆議院の定数の是正ということでしょうか。

武藤:選挙ができる環境整備をすること。それから、復興については、私は(選挙があっても)できると思います。色々な問題はあるかもしれないけど、この復興が命取りになって政治がおかしくなるということにはならない。

 極端な話をすれば、別に首相がどうであれ、政治がどうであれ、日本国民は必ず乗り切っていくと思います。その程度のまとまりと、知恵と力はあると思います。ですから、震災を全ての理由にして、政治の動きをそれによって封じてしまうことは、適当ではないと思います。その他にも、(政治が混乱して)経済がどうなるのだという声もあるけれども、震災前から製造業のなかには海外に出て行こうかと思っていた企業はかなりあったわけです。震災が起こって、じゃあ本気で考えようか、という感じで背中を押されたところはあるけれど、その程度の変化だと思います。
 海外移転なんかは、何年も前から言われていることです。それをあたかも震災のせいにするというのはよくない。

工藤:一部メディアの主張を見ていると、今、こういう震災で大変だから、オールジャパンで力を合わせなければいけない。選挙なんてとんでもない、という見方です。

武藤:それは、現状維持派を前提とすれば、その論理は正しいのですが、そこから攻めても、望ましい答えは出てこないと思います。

工藤:どちらにしても、日本は今の政治構造を変えなければならず、課題解決からは逃げられない、ということです。増田さん、どうでしょうか。

増田:今日、不信任案が可決されても、否決されても、政治空白ができる。可決されなくても、統治能力を完全に失っているわけですから、震災の対応後に退陣といっても、だったら早く辞めろよ、という声が強まるに決まっています。どちらにしても政治空白の状態は起きると思います。
 おそらく、この2年間は正当な選挙はできないだろう、と。だから2年間、この結果は甘んじて受け入れるしかないと私は思います。

 ただ、今、お二方からも出てきていましたが、いつの時期か、選挙でもって解決していく他はないと思います。選挙によって解決するしかないのですが、それまでの期間で、どういう人が首班になるかは別にして、解決するべき課題、それは今回の大震災に伴う課題を羅列するだけではなくて、そもそも課題解決を迫られていた社会保障の問題などの根本的な問題、それから大変重要な原子力の扱いをどうするか。自然エネルギーは頼りになるエネルギーなのか、という問題について、緊急性のあるものから片っ端から片付ける。
そして、次の選挙で国民に何を問うのか、ということを整理する期間とするしかない。今までのような曖昧な問い方ではなくて、国民にきちんと覚悟を迫るような政治側の迫力を出さないと、もう政治は持たないと思います。

工藤:今、不信任を出されてしまっている菅政権が、みんなと一緒に、また暫定的にやりましょう、ということがあり得るのでしょうか。

 

国民は4年間を白紙委任したわけではない

増田:どんな形になったとしても、民主的な正統性はない。これで、仮に谷垣さんが暫定的に総理になるとしても、それは民主的な正統性は全くありません。菅さんがどこかの人達と、この期間だけだからと言って一緒にやったとしても、ほぼ民主的な正統性は失っていると思います。ただ、私はやや悲観的ですが、選んだ者の責任として4年間は国会議員に託したわけですから、残りの2年間は受け止めるしかないと思います。

 菅さんが辞めて、首班指名をやり直すのか、菅さんがそのままズルズルと復興が終わるまでという言い方をして居座るのか、まだ予測はできませんけど、それを許してしまったということで、私は2年間は甘受する。この間に、優先度の高いものから課題を少しでも解決してもらって、論点を整理するということだと思います。

工藤:武藤さん、さっきの暫定というのは、そこまで広い概念ですか。今の、社会保障から含めた課題解決ではなくて、あくまでも震災の復興についてですか。

武藤:本当は、一刻も早く選挙をするのが望ましいと思います。だから、任期満了選挙は当然あるのだけど、可能であればその前に選挙をするべきです。

増田:本当にまやかしだと思います。半年以内に、第二次補正予算案や公債特例法案とかだけ通して、それで辞めますみたいな話ならわかるけど。1つ付け加えれば、それだけ広い課題をやって暫定政権なのかという話なのだけど、2年の間に社会保障だって解決しないと間に合わないわけです。選挙ができるような状況であれば、公債特例法案とか震災でも二次補正ぐらいだけパッとやって、後は退いて、選挙で信を問え、ということになりますが、衆議院の一票の格差をめぐる定数の是正でも1年以上かかります。

工藤:宮内さん、今までの議論を踏まえていかがでしょうか。

宮内:増田さんはお若いな、と思います。2年間辛抱して待つということは、私のように歳をとってしまうと、2年は待てないなと思うわけです。

増田:それは、宮内さんこそお若い...。

宮内:2年間待つのかという話なのですが、先程言いましたけれども、メディアは、政治的な空白をつくるな、という論調です。しかし、それは本当かなと思います。確か、第二次世界大戦の最中に、イギリスで総選挙をやって政権交代をして、チャーチルは負けているのですよ。だから、国が戦争をしている時でも、そういうことをするというのが民主主義であるとすれば、政治的空白というのは、あまり議論に乗せるべきではないのではないかと。必要であれば、解散もある。必要であれば、政権の枠組みの変更もあり得るということで、私は、衆議院選挙で4年間どうぞ、という白紙委任をしたのではないと思っています。そして、やはり総理には解散権がありますから、解散も1つの方法としてあり得ると思います。

 それから、私は、これだけの混乱状態であれば、解散は早くするべきだろうと思います。その前提として、やはり定数是正をやる。それから、最低限の震災対策の法案を通す。これは、やる気があれば1カ月、2カ月でできるのではないかと思います。そうして、解散をする。そうすると、実際に震災復興にしても、手段さえ与えておけば、行政能力はあるわけですから、きっちりやってくれると思います。

 私は、これだけ政党政治が崩れている状況になっているのであれば、残念だけれども、国民が気付くまで、何度も解散しながら、政党というものをつくり上げていくということをしないと、本当の2大政党にはならないと思っています。しかし、前の自民党も相当ひどかったけれども、民主党がこんなひどい政党とは思わなかった。

 2年前、国民の大部分は、自民党よりひどい政党はないだろうと思って民主党を選んだのに、もっとひどいのが出てきた、という感じですよね。ですから、今を底にして、国民に何度も何度も考えてもらうというプロセスを続けていかないと、日本の民主主義は変なことになってしまうのではないか、と思ってしまいます。

震災後の現実を直視するところから始めよう

工藤:言論NPOとしても今回の政治状況について考え方をしめさなければいけないと思っていたのですが、今回のみなさんの話は、まさに、私たちの問題意識に示唆を与えていただいたな、と思います。

 今一番気になっているのは、現実はかなり厳しいという現実感が政治にないのではないかということです。福島原発の事故でも、放射能汚染で地域によっては半永久的にその場所には住めないという状況を分かっているのに、何となく乗り越えられるみたいな感じで、必要な情報公開もなかった。

 専門家は東北の復興はかなり大変だよと、本音ではみなさん思っているわけです。電力の制約も出てくる。つまり覚悟を固めないと前に進まない状況になっている。それをごまかさずに今、リアリティというか、現実感を取り戻さなければいけない時期にきているのではないかと思っています。そこからスタートしなければ、この国の政治は変わらない、という感じがしています。

 言論NPOは、そのためにも多くの人達が共有しなければいけない議論とか、考え方をどんどん公開していきたいと思っています。今日はありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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