【対談】「言論外交」が東アジアの平和的な秩序づくりにおける理念となる

2015年8月22日

課題解決に向かい合う世論をつくり、「政府間外交のジレンマ」を乗り越える

工藤:私もこの10年間、中国や韓国との民間対話をやっていて、非常に感じたのは、政府間の外交が何かの理由でうまくいかなくなると、交渉ができず、外交が止まってしまうということです。すると、お互いの対立がメディア報道で加速されるために、国民間で相手に対する対立感情が加速してしまう。そして、世論が悪化してしまうと、政府外交もまた動けない。つまり、本来、両国の国境を越えた課題を解決するために政府が力を発揮しなければいけないときに、国民感情が悪化することによって政府間外交が機能しなくなり、事態がさらに悪化してしまう。このジレンマを誰が埋めるのだろうか。それが、私たちの問題意識でした。

 その中で、やはり「世論」というものが大事だと、私は思いました。つまり、感情的に相手を批判するだけでなく、課題解決に向かい合う。そのような世論をつくるためには、有識者などのいろんな人たちが当事者として課題解決のために動き出す。そのような議論や行動が世論を変え、政府間外交の環境づくりにつながるわけです。そうした状況に直面しながら、外交は政府だけではダメで、民間が果たすべき領域があるのではないかと、私は思ったのです。それを私たちは「言論外交」と名付けたのです。

神保:誠に重要な考え方だと思います。その際の「言論外交」にも、二つの方向性があると思います。

 一つは、世論が硬化をしていて、例えば「こんな国とはもう付き合う必要がない」という感情が悪化しているのだけれど、その対象となっている国は大変重要である、というときに、言論というのはまさに、国民に対して啓蒙し、説得するような役割を果たさなければいけないという方向性です。

 もう一つは、かつて対中関係は「政冷経熱」と呼ばれていて、経済界はどんどん中国と付き合いたい、けれど政治はうまくいかない、といったときに、経済界の人や国民というレベルにおいて、日本の国に向かって「もっとうまくやっていこうよ、我々がそれをリードするよ」という役割もあるのではないかと思います。

 この二つの方向を柔軟に組み合わせるという意味においては、極めて大きなポテンシャルを持った考え方ではないかと思います。

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