「第5回エクセレントNPO大賞」大賞受賞者・支援企業 インタビュー

2018年1月19日

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自分がそこにあること、そこに存在すること、身を置くことが喜びになれるような空間づくりを

市民賞受賞・アルテピアッツァびばい理事長 磯田憲一

田中:第5回エクセレントNPO大賞の市民賞を受賞された「アルテピアッツァびばい」の磯田さんです。今日は、美唄からはるばるお越しいただき、ありがとうございました。雪で来られないのではないかと心配していました。


美術館づくりのきっかけは、安田侃と幼稚園児の出会いから

磯田:それよりも、寝坊しないか心配でしたが大丈夫でした。
田中:入場料を取らないと言っていましたが、広大な土地ですよね。
磯田:そうですね、7万㎡以上あります。
田中:そこに安田侃(かん)さんの作品と廃校を利用されているんですよね。

磯田:そうですね。栄小学校という廃校を利用しています。一時は1250名もいた凄い大きな学校でしたが、炭鉱の閉山で閉校して、野ざらしになっていたところに安田侃との出会いがあって、そこにアトリエもつくりました。当時は、まだ幼稚園の園児はいたものですから、子どもたちが心を遊ばせる空間をつくりたいという思いでできました。

田中:きっかけは子どもだったのですか。
磯田:そうなんです。幼稚園児の姿にアーティスト安田侃は心を動かされて。
田中:それであんな美術館になったのですか。それは知らなかったです。

磯田:安田さんにとっても、子どもたちとの出会いは、素晴らしいものだったと思います。一方で、子どもたちは安田侃のことはまだ知らないし、「どこのおじさん?」という感じだったと思います。数十年後に、あの空間の価値を子どもたちがもう一度感じてくれるのではないかな、とういうことも夢見ています。

田中:美唄は、炭鉱が閉山になったことで、シャッター通りになり、ある種荒廃している地域ですが、そこに一挙に夢のような世界が広がっていますよね。

磯田:そうですね。私も思いますが、お金があればできる世界というのは日本中に作れると思いますが、アルテピアッツァはお金だけではつくれない、時がつくり上げていく空間、そういった価値を持っているのではないかと思います。

田中:先程の表彰式でおっしゃらなかったかもしれませんが、設立何年になりますか。
磯田:25年になります。

田中:ということは、NPO法ができる前からこの美術館があったわけですね。
磯田:1992年スタートです。
田中:入場料をとらないで、維持できているというのは、まさに市民の力ですよね。

磯田:入場料を取るか取らないか、ということも議論があったことなのですが、あそこは誰もが懐かしさを覚える空間にしていきたいと思っています。あそこで、学んだことがないのに、東京の人も、大阪の人も、九州の人も、あるいは世界の人が来ても、なぜか懐かしいと思える空間になっている。

すから、私たちスタッフは「おかえりなさい」と言って迎えます。そこに初めて遭遇した人たちは、その空間を楽しみながら、「また来ます」と言って帰ります。その時に、我が家のような、故郷に帰るような空間ということで、ダジャレみたいな話になりますが、男たちが日中働いて、夜家に帰って入り口で入場を払わないな、と思いながら、我が家のような空間をつくってみんなの故郷をつくっていきたいなという思いで継続しています。

田中:これからやってみたいことは何でしょうか。


訪れた人たちが自分と向き合える空間にすることが私たちの夢

磯田:やってみたいということというよりも、「あの空間がある」ということに価値があると思っています。そこでNPO団体が何か活動するというよりは、あの場所が存在するということの価値だと思います。例えば、小さな椅子に座って子ども時代を過ごした男が、大きくなってその小さな椅子を見て、「この椅子はいやに小さかったのか」ということがあると思いますが、それは椅子が小ささくなったのではなくて、自分が変化し、大人になったということです。

「アルテピアッツァびばい」というところは、どうすることなく、変わらぬ存在としてあることによって、訪ねてきた人が自分の変化とか、自分の成長をそこで確認できる、そういう自分たちと向き合える空間にしたいというのが私たちの夢です。ですから、何かを次から次にやるという話ではなくて、そこにあり続けて、次の時代にバトンタッチしていくという役割を果たしたいなと思っています。

田中:スタッフも非常に少人数ですよね。
磯田:今は6人ですね。
田中:その人数で、あの7万㎡の土地の美術館を維持しているわけですか。
磯田:嬉しいのは、この場所で働きたいと言ってくださる方がいるということです。
田中:そして、「アルテ市民ポポロ」もいて、サポートしてくださっているわけですよね。

磯田:市民というのも私がつけさせてもらいましたが、市民という存在になろうと。それは言ってみれば、応援していただく我々、応援するボランティア・会員、というのではなくて、先程も言いましたが、自分がそこにあること、そこに存在すること、身を置くことが喜びになるような空間をつくること、それが市民ということだと思っています。
権利と義務だけではなくて、その中にあることの喜びを感じてもらう空間をつくりたいと思っています。

田中:素晴らしいですね。市民賞に選んでよかったな、と思いながら受賞の際のスピーチを聞いていいました。
戻ってこれる場所を、6人にスタッフを核にしながら、いろいろな形を巻き込みながら、参加してもらいながら、維持していただければと思います。

磯田:今回の受賞を励みにして、また大事に大事に育てていたきたいと思っています。ありがとうございました。

田中:私も戻りたいと思います。おめでとうございました。

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