モーニング・フォーラム「国会改革で何を実現しようとしているのか」/ゲストスピーカー 小泉進次郎氏、小林史明氏、村井英樹氏、山下貴司氏 報告

2018年8月29日

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 言論NPOは8月29日、都内のパレスホテル東京で、小泉進次郎氏(自民党筆頭副幹事長)、小林史明氏(総務大臣政務官兼内閣府大臣政務官)、村井英樹氏(内閣府大臣政務官)、山下貴司氏(法務大臣政務官兼内閣府大臣政務官)の自民党4議員をゲストスピーカーにお迎えして、「国会改革で何を実現しようとしているのか」をテーマとしたモーニング・フォーラムを開催しました。司会は言論NPO代表の工藤泰志が務めました。


今、国会改革で取り組まなければならない課題は何か

koizumi.jpg 冒頭、小泉氏は、自民党の若手議員有志で立ち上げた「2020年以降の経済社会構想会議」が6月に発表した国会改革に関する提言「よりオープンに、より政策本位で~政治不信を乗り越えるための国会改革~」について説明。

 この提言作成の背景として、北朝鮮情勢の急展開や米トランプ政権の行動など世界情勢がダイナミックに変化していることをまず指摘。それにもかかわらず、予算委員会や各委員会では森友学園・加計学園問題の追求に終始するなど、国会審議が停滞したと振り返りつつ、「今の国会のままでは世界の状況に対応できない」と危機感を露わにしました。

 その上で、同構想会議の国会改革案は、国会審議を(1)党首討論、(2)政策・法案審議の委員会、(3)スキャンダル追及の特別調査会──の3つに整理することを柱とし、「従来1車線だった国会を3車線にする」ことで、審議の停滞と政治不信を解消すると説明しました。

 そして、小泉氏が事務局長を務める国会改革に関する会議(「平成のうちに」衆議院改革実現会議)が7月に発表した「提言」を説明。小泉氏は、平成が終わる来年5月までに「どんな小さいことでも、一つでもいいから、衆議院改革を実現する」と強い覚悟を示した上で、そのためには「与野党のバーター、損得になるようなところではないもの、どの党でも合意できるもの」をまず実現すべきと主張。具体的に提言に盛り込んだものとして、(1)党首討論の定例化・夜間開催の実現(2)衆議院のIT化(3)女性議員の妊娠・出産時等への対応──の3つを紹介し、特に「IT化」については、提言を受けてすでに実現に向けて動き始めていると語りました。

 次に小泉氏は、今後の国会改革のポイントとして、「議院運営委員会(議運)が国会改革に動けば改革は動き出す」と指摘。しかし、現状では議運の下に設置されている国会法改正等及び国会改革に関する小委員会(国会改革小委員会)は2014年以降、開催されておらず、国会改革が全く進まない現状を説明しました。その背景として、メディアの無関心があるとしつつ、「どこに国会を変える力があるのか、世の中に知らしめた上で、議運を応援するようなかたちで国会を変えていくべき」と今後の方針を示しました。

 最後に小泉氏は、衆参両院の議長・副議長選任について与野党の申し合わせで既に決定しているにもかかわらず、投票に1時間もかかっている現状。さらには、河野太郎外相が特別な答弁がないにもかかわらず国会に拘束された結果、海外の重要な要人との面会ができなかったことが何度もあったエピソードなどを紹介しつつ、改めて国会改革の重要性を訴え、講演を締めくくりました。

 続いて、同席の小林、村井、山下各氏による補足説明が行われました。

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「総理主導」を後退させることなく、行政監視も向上すべき

murai.jpg 村井氏はまず、これまでの平成の政治改革は「官僚主導」を「総理主導」へと転換することであったと振り返った上で、小泉政権と安倍政権はこの「総理主導」への転換に成功したとし、一定の成果を強調しました。森友学園・加計学園問題など一連の問題によって総理主導に対する懸念が生まれていることについては、総理主導自体に非があるとして見直すのではなく、総理主導の長所を生かしながら、問題点を修正し、バージョンアップを進めていくべきとしました。

 そのためには国会改革が不可欠であるとし、「総理主導が確立された時代であるからこそ、国会は厳しく行政を監視し、内閣の説明責任を確保するとともに、生産性向上を図り、限られた時間の中でしっかりと結論を出す場になる必要がある」、「『よりオープンに、より政策本位で』という観点から国会の役割を強化することで、国民の政治への信頼を取り戻すべきだ」と主張。改めて同構想会議の国会改革案を紹介しながら、その意義を強調しました。

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「変えられるはずがない」という固定観念を打破しなければならない

yamashita.jpg 山下氏は、法務大臣政務官として法務省所管の法改正について、成人年齢引き下げ(140年ぶり)、債権法の大改正(120年ぶり)など最近の民法改正を例示、いかに日本の法律制定や改正のスピード感がないかを強調。その大きな要因として国会のあり方があるとし、改革の重要性を訴えました。

 また、ここまで国会改革が停滞していた理由として山下氏は、「変えられるはずがない」という思い込みがあるとし、その固定観念を打破しなければならないと主張。同時に、すでに国会法や規則、各党申し合わせにおいては、必要なルールは記載されているにもかかわらず、これまではそれを守るための意思や信念が欠けていたと振り返りました。しかし同時に、「同じ問題意識を持った議員が超党派で100人以上集まった。これからはスピード感がある国会を実現できるのではないか」と期待を寄せました。


問題の構造部分に着目すべき

kobayashi.jpg 小林氏は、改革案の策定にあたっては、「問題を構造的に捉えた上で、どのようにその構造を変えていくべきか」というアプローチをとってきたと解説。「なぜこのような事態になってしまったのか、構造部分に着目しながらこれからの改革に注目していただきたい」と呼びかけました。


立法、行政、政党をめぐる諸課題にどう取り組むのか

 こうした4氏の発言に対して司会を務めた工藤は、改革の必要性や方向性に賛同しつつ、主権は国民にあり、国会議員は主権者の代表であるという立ち位置から、①総理主導の力が強くなることを認めるのであれば、国会としてのチェック機能をより強くすることが必要ではないか②国民の代表となる国会の機能を強化して国民の理解を促すためには、国民が議論に参加できるように、細かすぎる議案を絞り込み、選挙での争点と国会の議論を連動すべきではないか③国民の代表である国会議員の職を失わせる首相の解散権をどう考えていけばいいのか、といった本質的な質問を投げかけました。

 これに対して村井氏は、これまで説明してきた改革案は、政策を大胆かつスピーディーに進めるということと、行政の公正・中立性を確保するという2点を、いかにバランス良く両立させるかという観点から策定されてきたと回答。「特別調査会」もドイツの例を参考としながら制度設計し、官邸から独立して調査にあたり、国民に広く結果を報告する点に特長があると説明し、こうした改革を実行することの重要性を指摘しました。

 さらに、村井氏は、解散権の是非について様々な議論があるが、行政と国会の関係に関わる根本的な問題であり、統治機構全体のあり方の中で議論を続けていきたいと述べました。

 また、具体的な実現方法として村井氏はこれまでの政治改革の歩みを振り返りつつ、「改革が進んだ時というのは超党派で取り組んだ時だ」と指摘。この改革案を実現するにあたっても超党派の取り組みが必須であると主張し、山下氏も同様の認識を示しました。こうした「超党派」という視点に関して小泉氏は、言論NPOへの要望として、民主主義の議論に野党議員も呼ぶことを挙げました。

 さらに、小泉氏は政治以外の力にも着目。とりわけ、経済界が国会に対して国会改革の「外圧」をかけることを居並ぶ財界人たちに要望しました。


信頼を失い始めた代表制民主主義の信頼を、いかに回復させることができるか

 次に、工藤は、この1年間、欧米の識者と民主主義について意見交換をした一つの結論として、代表制民主主義が世界で信頼を失う中、その信頼をいかに回復させるかが大きな課題だと主張し、欧米では政党が国民の支持を失ったり、市民の政治離れという現象が起きていると指摘。日本でも同様の傾向があるのではないかと問いかけました。さらに、言論NPOが実施した民主主義に関する世論調査では、日本の将来を不安視する声が7割を超え、日本の政党には課題解決を「期待できない」という回答が同様に7割近くもあること。さらに政党や国会を信頼できると見ている人が2割程度にまで落ち込んでいるという結果を紹介し、こうした政党や国会への信頼をどうすれば取り戻すことができるのか、と尋ねました。

 これに対し小泉氏は、選挙期間中に掲げた公約である「ラストベルトの人たちの雇用増や生活の向上」を忠実に実現するトランプ大統領を引き合いに、現在の世界の政治では「理念よりも生活」を重視することが潮流になりつつあるとした上で、自民党一強の理由はまさにこの生活を見据えた現実主義であると指摘。例えば、自身を中心とする同党の若手議員が昨年3月に発表した「こども保険」は、社会の現実を真正面から見据えた上で、「社会全体で子供を育てる」という発想に転換したから生まれた政策だと解説。こうした現実主義に立脚した生活重視の姿勢を取り続けることが結局、政党に対する信頼回復につながるとの見方を示しました。

 小泉氏は同時に、インターネット、とりわけSNSの飛躍的な発達と影響力の拡大に着目。すでに世の中を変えることができるのは政治だけではなくなっていることも政治に対する関心を高めることの難しさにつながっていると指摘しました。

 会場からの質疑応答を経て最後に工藤は、「本気で、命がけで改革に取り組んでいく政治を人々は求めている」と4氏を激励すると同時に、「我々市民も傍観者ではなく、当事者としての意識を持つことで民主主義は強くなるし、命がけで改革に挑む政治家と連動することで、様々な課題解決へ進んでいくことができる」と述べ、今後も当事者意識を育てるための議論を続けていく意欲を示し、1時間30分にわたる白熱したフォーラムを締めくくりました。

※モーニング・フォーラムは、言論NPOメンバーを中心にした限定イベントです。各界からゲストスピーカーをお招きして開催します。

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