誰が、この国の困難を克服し、未来を切り開くのか -この一年間、何を僕らは論じてきたか-

2011年9月28日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、番組開始から間もなく1年。この1年間に、政治や社会はどう変化したのか?過去のインタビューなどを振り返りながら総括しました。過去のインタビューは、石破茂氏・小倉和夫氏・梅村聡氏・深川由起子氏。

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2011年9月28日に放送されたものです)ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。

誰が、この国の困難を克服し、未来を切り開くのか     -この一年間、何を僕らは論じてきたか-

工藤:おはようございます、言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語る「ON THE WAY ジャーナル」。毎週水曜日は「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。

さて、早いもので、私がこのON THE WAY ジャーナルを担当してから、あっという間に1年が経ちました。私はこの中で、これまで当たり前と考えられてきた民主主義の問題、この国が直面した課題をどうやって解決していくのか、そもそも、この国の未来を私たち自身がどう考えるのか、ということを、みなさんに提起して、同じ目線で一緒に考えてみようと思ってやってきました。

その背景には、この困難を克服するのも、そして未来を切り開くのも私たち自身しかいない、という強い思いがあります。

僕はちょうど10年前に、脱サラをして、言論NPOというNPOを立ち上げたのですが、その時の思いも同じようなものでした。10年前のことは今でも強烈に覚えています。私がNPOを立ち上げようと思っていることを伝えに行ったときに、ある人に「もうこの国は相撲で言えば徳俵に足がかかっている段階で、決断が遅すぎる」と言われました。

私は、10年前、議論の力でこの国の民主主義を強いものにしたいと思って、NPOを立ち上げたのですが、私も、確かにそうだなと、今、本当に飛び出して、自分がやりたいことをやっていかなければいけないな、と思っていました。それから10年が経って、今の状況を見てみると、事態はさらに悪化し、異常な状態になっています。しかも、日本の未来が見えない状況になっている。その中で、3.11の大震災が起こったということです。


この一年間、日本は統治の危機下にあった

1年間、ON THE WAY ジャーナルで議論をしてきて、この危機下においても政治が機能しない、つまり、政治が国民に向かいあっていないということはどういうことなのだろうか、と私たちも考えました。そういう問題意識の中で、この番組に、政治学者で有名な佐々木毅さんに来てもらって話をしたことがあったのですが、「今の日本は、ナショナルクライシス、つまり国家危機だ」とおっしゃっていました。それに、私も背筋がぴんとなるような緊張感を感じました。つまり、日本の政府の統治が崩れ始めている。この局面というのは、単に他人事のように政治を議論するという段階を超えているのではないか。要するに、自分達の人生として、今の日本の社会に向かいあわなければいけないのではないかと思いましたし、そうした思いをみなさんに伝えて、一緒にやっていけないかと思いました。

この番組では、そういう問題意識をみなさんに提起して、その中で一緒に考えようと、私は思いました。ただ、悪いことだけではなくて、3.11の震災の時には、市民が社会の問題に向かいあう様々なドラマがありました。やはり、新しい変化は私たち側から始まるのだな、と思いました。

今日は、「言論のNPO」の1年間を振り返ってみて、次の1年間、私たちはどのような議論を行っていかなければいけないか、ということを、みなさんと一緒に考えてみたいと思っています。

とういうことで、今日の「言論のNPO」は、番組開始から1年間を振り返って、「今、日本に何が問われているのか」ということについて、みなさんと改めて考えたいと思っています。

「言論のNPO」は、52回、49人のゲストが参加した

さて、この1年間で52回放送が行われ、各界から49人のゲストをお迎えして議論を行ってきました。民主主義の議論から入っていったのですが、色々な問題が出てきました。つまり、民主主義というのは、私たちの代表を選んで、その代表が私たちに代わって、この国の課題にきちんと挑んで、答えをだすという動きなのですが、その機能がなかなか働いていない。そこには、一票の格差や選挙問題など制度的な問題が色々とあったのですが、やはり、それ以上に、私たち有権者側が、政治家にとって怖い存在になっていないのではないか、ということを考えたわけです。

こういう問題意識について、印象に残ったゲストが2人いました。その2人の意見を、もう一度振り返って聞いてみたいと思います。


石破: やはり、政治のトップ、例えば、民主党代表・内閣総理大臣、あるいは自由民主党総裁、そういうトップが揺るがぬ信念を持って、ぶれないことだと思います。同時に、その人は法律をある程度知っている。官僚機構を統制できるぐらいの法律的な知識はあるということ。それから、外交・安全保障などの知識もあること。そして、本当に心ある官僚達が、よし一緒にやろうという思いを持つ。上がきちんとした考え方を持って、俺はこの党をこう導く、この国をこう導くということがあれば、相当に変わると思っています。で、国民はどうすればいいのかという話ですが、誰の言っていることが本当なのだろうかということ...

工藤: 嘘を見抜けなければダメですね。

石破: 見抜いてくださいという事なのですね。政治家は選挙の時に、結構でたらめを言いますからね。で、誰の言っていることが本当なのだろう、この通りやったら何が起こるのだろうということを、1回立ち止まって考えてほしいなと思います。
民主党が変わればそれもよし。自民党がきちんとしたものを出せばそれもよし。本当に、今度こそいい加減に政治家を選ぶと、自分たちの身に降りかかってきますよということを、ぜひご認識いただきたいと思います。
やはり、自民党であれ、民主党であれ、何党でもいいのだけど、お前達何のために議員になるのか、ということを問いかけるべきだと思います。そうすると、変わる人は必ず出てくるだろう、と。


今なら、まだ間に合う

工藤: 自分たちが下手な決断をしてしまうと、大変なことになるということを、今痛感していると思います。だからこそ、有権者側がしっかりしていくことによって、政治も強くなりますよね。

石破: はい、そうだと思います。
工藤: その流れをどうしても、これから作っていかないと、と思っています。
石破: まだ間に合う。
工藤: まだ間に合いますか。
石破: まだ間に合う。今ならまだ間に合う。


工藤: 基本的な話なのですが、今、市民社会の状況ということに関する小倉さんの認識ですか、どういう風に今とらえているんでしょうか。それから今まさに市民社会を強くしなければならない問題提起は今の状況においてどれぐらい大事なのでしょうか。


今は、市民社会成熟のためのチャンス

小倉: 世界で今一番大事な...政治の上で社会問題の上で大事なことの一つだと思います。なぜかといいますと、政党、機関、国際機関もそうですが、既存の制度や団体に対する不信感、これが先進国を中心に世界中を覆っているわけです。しかし、そういった状況をつくったのは誰かといえば、あなたは選挙でその政党なり政府に投票したではないかと。あなたはその国際機関としての代表を送り込んでいる政府になぜ文句が言えないのか、ということになるわけです。制度不信、組織不信というのは翻って考えれば自己不信なのです。よく考えれば。つまり、自己責任。あたかも自分がつくったもののように、自分とは関係ないように思っているところに重大な問題がある。そうじゃない。政治が悪ければそれは政党も悪いかもしれんが一人ひとりの市民の意識がまだ十分成長してないからではないのか、ということにもつながるわけです。そのギャップを埋める方法は何かというと、それは1つしかない。

それは市民自身が直接市民運動をしたり、市民社会をつくっていく。その声を制度的にエスタブリッシュされたルートとは別に違ったやり方で、もちろん同じやりかたもあってもいいですが、社会に投じていくことしかないだろうと思います。そういう意味で市民社会の役割というのは、制度に対する不信感、それから組織に対する不信感が先進国を始め、世界中にみなぎっている今こそ、実は一番大事なことではないかと思います。
これはある意味ではチャンスだと思うのです。というのは、既存の組織、あるいは団体に対する不信感が増しているということは、市民社会の成熟のためのチャンスでもあると思います。というのは、彼らは普通ならそこに属して安泰して、会社人間になったらいいわけですから。そうではなくなってきているわけです。逆にいうと市民社会をつくっていくためのチャンスが出てきているのでは。


もうおわかりの人もいると思いますが、1人目は自民党政調会長の石破茂さん、2人目は、国際交流基金理事長の小倉和夫さんです。この2人が言っていることは共通していまして、市民、有権者が変わらないと、この国の政治は変わらないということです。これが、私がみなさんにどうしても言いたかったことなのですね。

もう1つは、ただ議論を進めてみると、日本の政治そのものが、まだそれ以前の問題ではないのかと。つまり、政党がきちんと機能しているのか、有権者がそれに対して、かなり厳しい監視役になっていないために、政治そのものの力が非常に弱っているのではないか、ということも出てきました。この点についても、もう1人の発言を聞いてみたいと思います。
  

梅村:新聞や世論は、党内融和と言っています。しかし、僕は間違っていると思っていて、融和は結果として仲良くなればいいですが、それは目的ではない。私は、野田さんに近かったということもあるのですが、政策決定のプロセスをきちんと党の中だろうが、政府だろうがきちんとつくることができる、最後のチャンスだと思います。

工藤:今までは、権力に対抗する反対派なら何となく集まって、1つの集団をつくりやすかった、と。しかし、それが政党として機能するためには、党内のルールを決めないといけない。そうなってくると、党として機能するか、それとも、分裂みたいな形も含めて、ひょっとしたらダメだったという結論もあり得ますよね。


政治が国民を見ないのは、国民の監視不足が原因

梅村:ありますね。そういう意味で言えば、私は、まだマグマが固まりきっていないし、可能性として、色々なやり方があるのではないかと思っています。その時に、今の政治家を見ていて、僕は国民を見ていないと思っています。そんなことをやったぐらいでは、国民にはわからないし、新聞でも報道されないから、それだったら少しでもいい格好をしようかということになる。だから、一方で、政治家の私が言うのは変ですが、国民の監視不足がこういう事態を招いている。複合要因ですよ。


工藤:今の発言は、つい最近出ていただいた民主党の若手の梅村聡参議院議員だったのですが、みなさん言っていることは、政治がかなり機能不全に陥っている。これを変えなければいけないのですが、そのエンジン役になるのは有権者だ、ということを、みなさん本音ベースで語っているわけです。

野田さんは、私と体系が似ているところもあり、親近感があるのですが、ただ、野田さんは非常に大変だなと思うわけです。野田さんがやっていることも、党内の意思決定プロセスをちゃんとやろうと。党としての当たり前のことに取り組んでいるわけですよね。そうすることで、政府の意思決定、統治をきちんと取り戻そうとしている。これができなかった点に、日本の危機がありました。しかし、それが本当にできるのか。できたとしても、日本が直面している様々な課題の解決に間に合うのか。非常に厳しいナローパスになっていると思うのですね。


有権者や市民しか、この状況は変えられない

ただ、はっきりしているのは、この1年間、私たちも議論をしてきて、日本が大きく変わらなければいけない、ということは間違いないわけです。先程の石破さんのインタビューで、「まだ間に合う」と言っていましたが、考えてみると、あのインタビューの収録は2010年の12月なのですね。もう1年近く経ってしまいました。今、もう一度聞いてみたら、もう間に合わないと言われたらどうしようかと思っているのですが、それぐらい時間がかかっているわけです。この今の政治を、まさに変えなければいけない。では、誰が変えるのだろうか。それこそ、私たち有権者や市民だということを、私たちが覚悟しないと、何も進まない。

被災地の問題が後手々々になっていて、ここまでくると人災ですよね。この問題に、政治は何としても取り組まなければいけない。しかし、その動きから始まって、日本の立て直しに、有権者が一緒に考えなければいけない段階にきているのではないか、と思うわけです。2011年の始めに、今年はどのような年になるのか、ということを、早稲田大学政治経済学部教授の深川由起子さんに聞いたことがあります。この発言も、この番組でも流しましたけど、改めてその発言を聞いてもらいたいと思います。


深川: だから2011年は色んな意味で最後のチャンスだと思います。日本が自分たちで考えて自分たちの将来を選択するという許された時間は多分、比較的平和な2011年ぐらいしかない。2012年には次第に出口のなさが表面化する先進国の財政危機の問題とか、非常に異形な大国になってきている中国とかエマージングパワー(新興勢力)の人たちの現状、秩序、変革、意欲というのが政治現象となって噴出する気がします。何しろ、2012年は米国だけでなく、ロシア、韓国、台湾と揃って選挙ラッシュの年です。中国も政権交代となります。各国とも政治の年を迎え、極端な事件が起きやすくなるでしょう。だから自分だけで動ける余地は少なく、2011年が自分たちだけで答えを出せる最後の年になるような気がするのです。


2011年に本来託された思い意味

工藤: 2011年、日本の政治が次に何を迎えるかの基礎ができないとダメですね。2011年、最後のチャンスですね。

深川: そうですが、これまでも最後だという意識がないのでいつまで経っても駄目なのです。ずうっと問題の先送り。小さな問題を先送りし続けて、最後に統制不能な巨大リスクを背負い込む、その危険性を直視して国民が行動するしか、この閉塞を突破する道はないと思います。国民に示す必要があると思います。


工藤:今、話を聞いて、2011年が 本当に最後だとおっしゃっていますが、もう2011年が終わりそうなので、どうしようかと不安になってしまいました。日本は色々なところから立て直さなければいけない。やはり、変えるしかない、という段階に来ているのだなと思います。


課題解決や「自立」に向けて、地域と繋がりたい

私は、この他にも財政破綻の問題、医療や年金など社会保障の問題、地方分権など、色々な議論をしてきました。みなさんに色々な議論を提起してきたのは、みなさんに日本が直面している課題について、自分の問題として考えていただけないかと思ったからです。可能であれば、そういう議論を地域や色々なところで動かしてもらえないか、という期待が私にはあります。

これまでも何度も思ってきたのですが、地域のそういう動きと、私たちはつながりたいと思っているのですね。これから日本が未来に向かうためには、まず有権者が変わらなければいけないのですが、一方で、地域が動かないとダメだと思っているのですね。今は、震災とか色々な問題があり、また、地方の経済的な衰退もかなり進んでいます。しかし、自分達の力でこの地域を変えて、新しいバリューをつくり出していくという大きな流れをつくっていかないといけない。確かに、どこかのタイミングまでは政府など色々な形でのサポートはあると思いますが、どこかで立ち行かなくなってしまいます。まさにキーワードは「自立」なのです。ただ、自立するにしても、自分たちだけではなくて、色々な人たちがそれに協力し合うという環境が必要だと思っています。そこで、私たちは、ぜひみなさんと色々な議論を連携してやれないかと凄く思っているわけです。

このON THE WAY ジャーナル「言論のNPO」では、どうしても議論の力で、この日本を動かしたいと思っているわけですね。その中で、私たち自身が主役になっているし、自分自身がその流れをつくらなければいけないという段階にきているのだと思います。そういう風な動きが始まらない限り、逆に言えば、日本自体も危機を乗り切れないし、新しい国をつくれない、という段階に来ているのではないかと思っています。そういう視点から、「言論のNPO」では、番組開始からの1年間を振り返り、そして、次の議論にこれから入っていきたいと思っております。

ということでお時間です。今日は、番組開始から1年を振り返りながら、「今、日本に何が問われているのか」ということについて、もう一度考え直してみました。これから、また議論を始めていきますので、ぜひ、みなさんも、色々なご意見などを寄せていただければと思います。今日はありがとうございました。
  

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、番組開始から間もなく1年。この1年間に、政治や社会はどう変化したのか?過去のインタビューなどを振り返りながら総括しました。過去のインタビューは、石破茂氏・小倉和夫氏・梅村聡氏・深川由起子氏。