エクセレントNPO大賞 「課題解決力賞」審査講評

2014年12月09日

担当主査 田中弥生

1. 審査の視点

(1)評価基準

  まず、情報開示、資金の透明性、公序良俗や市民参加など基本的な要件を満たしているか否かについて確認しました。

 次に、課題解決力については、自己評価と同様に、エクセレントNPO評価基準に基づき審査しました。すなわち、課題認識のあり方、課題の背景にある原因や制度、慣習をどの程度掌握しているか、こうした課題認識に基づきどの程度、明確に目標を設定しているのか、また、目標達成にむけてどのようにリーダーシップを発揮しているのか、さらに政策提言や、その際の政治的・宗教的な中立性をどのように担保しているのかが、審査の視点になりました。


(2)高い評点を得た団体の特徴

 高い評点を得た団体には次のような特徴がみられました。すなわち、自らが取り組む課題を明確に把握していることは無論のこと、課題の認識を進化させ、それに伴い活動や事業を進化させ、一定の成果を上げているという点です。また、新たな活動に着手すると、気づかぬうちに組織の使命や目的から逸脱し、事業構成が散漫になり焦点がぼけてしまうことがあります。しかし、受賞団体は活動を進化させながら、その使命をよりシャープなものにしているといえるでしょう。また自己評価も適切に行われているケースが多く、何を達成でき、今後の課題は何であるのかを明確に説明していました。


2. 審査結果

(1)スマイリングホスピタル・ジャパン

 「スマイリングホスピタル・ジャパン」は、長期入院児や社会福祉施設入所児・者に対して、回復に向けての活力を引き出し、闘病意欲や生きる喜びを持ち続けられるよう、独自の方針のもと施設の個室やプレイルームを訪問し、継続的に活動を行っています。

 本団体の課題の理解と目標設定は明確であり、多くの人々の理解や賛同を得る可能性があります。しかし、これを継続的な活動に展開していくためには、様々な協力者を集め、訪問先の病院を開拓し、計画を作り、それにもとづいて実行していく必要があります。その過程から、リーダーシップがしっかりと機能していることが窺えました。そして、設立2年目ながら、訪問先病院数、裨益した子供数は伸びており、今後の展開が楽しみなところです。その際、現在実施しているように裨益した子供数などの進捗をデータによって管理することが重要になるでしょう。ただし、裨益した子供数のみならず、子供たちや親御さんの状態の変化を記録することが大事です。その内容を分析し、議論することで、事業改善ための豊富なヒントを得ることができると思います。また、自己評価書にもこうした状況を記すと、より説得力が増してくるでしょう。

 同団体は創設間もない若い団体です。しかし、自己評価書に記されているように、病院や医療制度の壁は決して低くありません。場合によっては、現行の活動に加え、制度面の改善を訴えてゆく活動も重要になっていくかもしれませんが、その時には活動計画を見直し、構成員でしっかりと議論し、共有していくことが大切です。


(2)にじいろクレヨン

 「にじいろクレヨン」は東日本大震災の被災地で発災直後から避難所の子供支援を行い、仮設住宅支援へと展開し、早期に法人化し、寄付や助成金を確保してしっかりと活動を行っています。
「にじいろクレヨン」は、被災地の状況やニーズの変化をよく見据え、その活動内容や方法を上手に刷新させていることがわかります。その過程で、行政、他の子供団体、保護者、住民、ボランティアなどとのネットワークを開拓して、活動の質と量の双方を刷新しており、勢いが感じられます。

 また、ニーズや課題の分析力や事業開発力など、非営利組織として課題解決に欠かすことのできない力を蓄えてきていることがわかりますが、そのことは、応募用紙のストーリーを記す欄に色濃く表れていたように思います。例えば「子供たちの変化」として、自らの事業サービスの第1の顧客となる子供たちが、被災状況の変化の影響をどのように受けているのか、そして、「にじいろクレヨン」に参加することによってどのような変化が起きているのかを記しています。また、サービスを提供する側のボランティアについても、被災地外のボランティア・コーディネートの難しさや地元住民のボランティアへの移行など、参加者の変化も適切に抑えています。こうした分析力とそれを事業に反映する力が、この活動の発展を支えてきたのだと思います。

 そして、今後の展望として、地域に児童館がひとつしかないことから、民間の児童館の運営を掲げ、そのためのネットワーク作りや勉強会を進めています。現行の活動を運営するだけでも大変なことですが、そこに忙殺されることなく、未来をみつめ展望をもつことはリーダーシップの条件であるでしょう。

 最後に課題についても挙げておきたいと思います。申請書として記された自己評価書の内容を拝見する限り、評価や評価基準の意味を十分に理解されていないところがあるようにみえます。たとえば、課題認識を尋ねる基準ではその内容をいかに把握しているのかを記していただきたいのです。さらに、データや根拠資料を用いながら、どのような子供の変化がみられるのかその詳細を記すことで説得力が上がるだけでなく、新たな発見が得られるでしょう。


(3) 自立生活サーポートセンター・もやい

 「自立生活サポートセンター・もやい」は、ホームレス状態にある人々がアパートを借りるために必要となる連帯保証を行い、住まいを確保することを起点に自立支援を行っている団体です。また、貧困問題や貧困ビジネスの問題、野宿者襲撃について広く社会に伝え、政策提言活動を行っています。

 今回の応募では、課題解決力賞に応募されましたが、審査のプロセスでは、質の高いボランティア活動を行っていると高く評価されています。ボランティアが他の活動にも参加するようになったり、大学での研究テーマにするなど、もやいでの活動をバネに視野や活動領域を広げていることが記されています。来年は、その様子を、より鮮明かつ分析的に記していただければ、きっと他にも参考になる貴重な情報を提示することになるでしょう。

 他方で、課題解決の視点から、いくつかの指摘もありました。たとえば、申請書やHPをみると、もう少しデータによる詳細説明があったほうが、わかりやすく、またアピール力を増すでしょう。たとえば、受益者数とは連帯保証人になった人々の数なのか、そのうち生活保護を受給した人は何割なのか、さらに、自立に向けて職を得た人は何割なのかなどです。これによって、ホームレス状態にあった人々が自立に向けて、どのように変化し、進展していったのかが第三者の目からもわかりやすくなるでしょう。

 また、中期計画の基準では、もやいの使命が記されていますが、ここは、向こう3年から5年くらいの期間の計画について記すことが求められています。これだけのキャリアと事業規模を持つ組織に成長したのですから中期計画を作成し、関係者で共有する時期にきているでしょう。


(4) ACE

 ACEは、国際的な児童労働問題キャンペーンに参加した学生が発足した組織で17年のキャリアをもつ団体です。現在は、インド、ガーナで児童労働問題に取り組み、日本ではキャンペーン等を通じて、社会にこの問題を提起する活動を実施しています。

 17年前、児童労働問題は、日本ではあまり気づかれていなかった問題です。しかし、「てんとう虫チョコレート」というユニークでわかりやすいアイテムを開発するなど、企業等を巻き込みながら、日本社会に問題提起してきた実績は高く評価されました。また、寄付者やボランティアへの呼びかけの方法や参加メニューは工夫に富んでおり若い人々の知恵が生きている様子がわかります。したがって、市民性という点で高く評価する審査委員もいました。

 他方、課題も指摘されました。ACEは、インドやガーナなどの途上国での児童労働問題にかかる活動と日本でのキャンペーンの2つを柱に事業を進めています。しかし、申請書で記された自己評価書を拝見していると、この2本柱のどちらについて記しているのかよくわからないところがありました。

 また、途上国での事業については、事業形成や計画立案についてもう少し丁寧に記していく必要があるでしょう。そうでないと、自らが掲げている使命や目標と実際に行っている事業との間のギャップが大きすぎて、目標達成に向けた実効性がよくみえてこないのです。

 少し詳しく説明しましょう。ACEが掲げている目標は、世界大の児童労働問題の解消です。しかし、ACEが実施している事業だけではそれは実現できません。なぜならば、インド、ガーナの問題は世界の児童労働問題のすべてではないからです。さらにいえば、ACEの事業のみでは、インド、ガーナの児童労働問題のすべてを解決できないかもしれません。そうであれば、ACE自身の事業を実施することによって、直近で何を達成するのか、それはインドやガーナ全体の問題の中でどのくらいの位置を占めるのかなどを明確にしていく必要があります。それによって、ACE自身が、自ら掲げている目標と実際に行っていることの距離感を把握し、さらなる活動計画が必要であると気づかれるかもしれません。

 自己評価書とHPなど限られた情報からの判断になりますが、このような指摘なども踏まえ、事業を形成するための技術や知識を身に着けて、力量を向上させていくとよいでしょう。