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2014年12月19日

衆院選後の4年間、有権者は政治にどう向き合えばいいのか
~2014年衆議院選挙の総括~

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衆院選後の4年間、有権者は政治にどう向き合えばいいのか
~2014年衆議院選挙の総括~

聞き手:田中弥生氏 (言論NPO理事)


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田中:工藤さん、こんにちは。先週、衆議院選挙が終わりました。今回の選挙結果を受けて、工藤さんのご意見を伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。


今回の選挙で合理的な判断をした有権者

工藤:有権者は合理的な判断をしたと思いました。経済学で「価格は誰が決めるのか、それは神の手だ」と言われます。今の政治状況では、野党に政権担当能力がないわけですから、結果として今の自公政権の継続を認めざるを得ないだろう、しかし、大勝させることは不安だ。そうした有権者の思いもあり、自民党は大勝せず、反対勢力の共産党の議席が増えるという結果でした。

今回の局面では、有権者はこうした結果を消極的に判断せざるを得なかった。それぐらい、日本のデモクラシーが追いつめられているわけです。こうした現状をふまえつつ、次をどうしていくのか、私たちも含めて準備しなければいけないというのが私の感想です。


田中:工藤さんがおっしゃっている「次」というのは、政策課題のことだと思いますが、具体的にどのようなものが挙げられますか。

社会保障改革と財政再建という課題に対して、全ての責任を負った安倍政権

工藤:消費税の10%への引き上げは、2012年の衆院選前の自公民の三党合意によって、税と社会保障の改革を行い、社会保障の財源として消費税を引き上げることが決まっていました。タイミングについては政権に委ねられていたわけですが、現実論としてみれば衆院選で国民の信を問うていたわけです。今回、消費税の引き上げを見送り、選挙になったことで三党合意は壊れてしまいました。その結果、これから安倍政権は「税と社会保障の一体改革」と「財政再建」という困難な問題に責任を持って取り組まなければならなくなりました。安倍さんも解散を表明した際の記者会見、そして選挙後の記者会見でも、財政再建についてはしっかりやると発言しています。しかし、財政再建の目標は高く、現時点での達成は非常に厳しいと言わざるを得ません。しかも、社会保障関係費の支出は毎年急増しており、ドラスティックな改革を行いつつ、経済の本格的な立て直しも行う。そうした取り組みを、今の自公政権が全て背負ったわけです。これが本当にうまくいくのか、ということを私たちも真剣に考えていかなければいけない段階にきたと思います。

田中:今、工藤さんが指摘されていた論点や解決策は、各政党のマニフェストに打ち出されていたのでしょうか。


「国民との約束」という体をなしていない各党のマニフェスト

工藤:マニフェストには全く書かれていません。衆議院選挙は基本的に政権選択選挙ですから、今回の選挙は極めて重い選挙でした。今回、私たちは8党のマニフェストを主要5項目について評価しましたが、100点満点で自民党はたった24点、公明党16点、民主党14点、維新の党18点、社民党8点、生活の党7点、共産党7点、次世代の党9点と、半数の党が10点に満たないという、燦々たる結果でした。今回の選挙で日本の政治は、日本が直面している課題に対する解決方法を有権者に提示し、信を問うという準備もなく曖昧にしてしまった。結果として、今回の選挙では自民党に一任したというものになりました。

皆さんも自民党のマニフェストはぜひ読んでいただければと思いますが、2年前の総選挙時のマニフェストよりも後退していて、消費税を先送りして、財政再建の目標は堅持して実現しますということだけで、他に何を約束しているのかよくわかりません。

田中:そういう意味では、工藤さんが先ほど指摘されましたが、「税」と「社会保障」は一体的に改革するということでした。財政再建を実現する上で、社会保障をどのように改革するのか、ということは1つの大きな課題だと思うのですが、社会保障に関する記述が、公約全般に少なかったように思います。

工藤:社会保障の問題は複雑なのですが、たった1点を説明しなければいけないとすれば、今ある年金や医療保険を含めた社会保障制度が、これからも安定した形で持続的に維持していけるのかということを、まず判断して説明する必要があります。昔の自公政権は100年安心プランということで現在の社会保障制度をつくり、その後、民主党に代わり、現在に至っています。現在の年金制度や、今年行われた財政再検証を見ても、高齢化が急速に進む中で、制度維持が非常に困難な状況です。

そうなってくると、政治は、今の状況について判断を行い、国民の生活を考えた場合にこのように解決していく、ということを説明しなければならない。もちろん、現状の制度で大丈夫なのであればそれを説明すればいいのです。しかし、現状ではそれすらなされていません。マニフェストには「持続可能な社会保障制度を構築します」としか書かれていませんが、今の社会保障制度が持続可能なのかということすらわからないし、これからどうするかも具体的にわからない。これでは、国民は何も選べないと思います。原発の問題も同じです。

本来、日本が直面する課題の解決方法を説明し、国民に信を問い、その結果に基づいて政治が実行をする、というのがマニフェストのサイクルです。デモクラシーというのは、有権者主体の社会なのですが、今回の選挙は非常に問題があったと思います。

田中:工藤さんのご指摘を私なりに理解すると、本来であれば「こういう課題があり、それに対してこういう処方を政策で打ちます」という説明が欲しかったのだけれど、スローガン的なものに戻ってしまった、ということですね。


日本の行く末を決める選挙後の4年間

工藤:そうです。そして、それは自民党以外の政党も同じです。ただ、今回の選挙結果を見れば、そういうことを打ち出せない政党は票を集められず、消滅寸前という状況です。有権者からすれば、日本が直面している課題に対して、どの政党が解決してくれるのか、誰を信任すればいいかわからない状況だと思います。こうした日本の民主主義の現状、政党政治の燦々たる光景を、多くの有権者は憂い始めていると思います。しかも、国債を日銀がマーケットから吸収する形で支えるという異常な状況が続いているわけです。この状況が、いつまでも続くということはあり得ず、必ず出口に向かっていくわけです。その出口に向かって動き始めたときに、この国はひょっとしたら非常に厳しくなるかもしれない、ということを多くの人たちが感じ始めている。安倍さんは選挙に勝ち政権を継続しましたが、日本にとっての本当の勝負がこれからの4年間なのです。私たちは、民主主義が機能し、政治が課題解決に向けて動き出すような仕組みをつくり出すために動き始めなければいけない。私は選挙の開票を見ながら、そう思いました。これからの4年というのは、歴史に残るような非常に重要なタイミングになると思います。

田中:「歴史に残るような」というご指摘でしたが、今回の投票率は52%台と戦後最低でした。今、工藤さんが政治側の問題点を主として指摘されましたが、投票率が低いということで、有権者泡にも課題があるように思いますがいかがでしょうか。


今回の選挙を、有権者が政治を見る目を養うためのきっかけに

工藤:私はそう思っていません。つまり、今回の選挙で有権者は選ぶ政党がなく、どのような判断をすればいいか難しい局面だったのです。ですから、今、政党を選べないという状況が存在していること、それから、有権者に向かい合った課題解決の方法を政治側が提示できていない、という現実を有権者が考えなければいけない。例えば、選挙が終わった後に、何か大変な事態が起こると、メディアは「民意を反映していない」とよく言いますが、それは甘えているだけで、民意は選挙で判断するものです。だから、有権者は間違いなく選挙に行かなければいけない。しかし、今回は選べる政党がなかった。そういった現状が、結果的に52.66%という戦後最低の投票率になったわけです。

もう少し言うと、295の全小選挙区を見てみると、各選挙区の有権者数の1割台で当選している候補者が21人もいました。二大政党を実現するために、小選挙区制を導入し候補者を選んでいくという制度をつくったにも関わらず、10人に1人の得票で政治家が選ばれている状況、それはなぜか。有権者が選挙にいかないからです。こうした状況の意味を、私たちは今一度考えなければいけないと思います。確かに、投票率が下がったことを重要視しなければいけませんが、その意味を、今回の選挙を機会に考えることのほうが、はるかに大事なことだと思います。これから4年の間に、何か大きなことが起こったとしても、有権者は自分たちの意見を政治に反映できるチャンスを失った可能性もあります。だからこそ、私たちは投票の重みを考え、きちんとした目で政治を見て発言する、という政治参加が今まで以上に問われる局面にきたのだと思います。

田中:質問を繰り返す形になってしまいますが、先ほど、選ぶ政党がないからこそ投票率が低くなった、ということを指摘されましたが、選びたい政党がないからと言って、権利を放棄して良いのでしょうか。

工藤:そうではなくて、選ぶ政党が無いから多くの人たちが投票に行くのをためらったわけです。その現状を、私たちは真剣に考えなければなりません。単に「選挙に行け」と説教をしても仕方がありません。しかし、結果として52.66%という投票率になった現実をどのように私たちが考えるのか、ということのほうが重要です。日本の政党政治がここまで機能しなくなっている状況について、今回の選挙を機会に、有権者が判断すればいいわけです。そして、政治が国民に向かい合う政治、つまり、新しいデモクラシーをつくっていく流れをつくらない限り、結果として選びたくなかった政党でも、仕方なくその政党に委任しなければならなくなる。そういう状況で、有権者に対して何でもいいから投票すればいい、ということは言えないと思います。

しかし、やはり、投票所に足を運んで考えてほしいし、これを機会に各党のマニフェストを読んでほしい。マニフェストを読まないのに、選ぶ政党がないという甘えはいけませんが、マニフェストを読んだ結果、選ぶ政党がないというのも1つの判断です。

今回の選挙を機会に、政治について家族や友達、地域の人たちとも話す機会が増えたり、今の日本の政治がかなり危険な状況に陥っていることを、多くの人が考え始める。それだけではなく、多くの市民が課題に向かって動き出すという小さなきっかけが始まるだけで、日本の政治は、また大きなスタートを切れる可能性があるわけです。

だから、今回の選挙結果に幻滅するのではなくて、次に向けて準備を始めることを気づかせてくれたというように思った方がいいと思います。

田中:選挙離れ、政治離れという方向にいってはまずいということですね。


政策本位の政治をつくるために、有権者も変わらなければならない

工藤:私たちが今回評価作業を行って痛感したことは、そうした一般論ではなくて、私たちの生活やこの国の未来にとって、これらの4年が決定的な時間になるだろうということです。つまり、日本の政治が日本の課題に対して課題解決ができないのであれば、日本は非常に困難な局面に陥ってしまう。今、そういう局面にいるということを有権者に考えてほしいし、これまでにも増して、我々も有権者に向かい合った形で、いろいろな議論を開始しなければいけないと考えています。そうした動きが始まるための準備を始めないと、日本の政治は大きく変わることはないだろうと思います。

田中:貴重なコメントをいただきました。これから4年間が、私たち有権者に問われている重要な局面になるという理解でしょうか。

工藤:そうですね。私たちは改めて、「選挙は非常に大事だ」ということを考えなければいけないと思います。ですから、今回のような形で、抜き打ちのような解散総選挙、しかも誰に投票すればいいかわからないような政治は、止めなければいけないと思います。政治家はしっかりと国民に説明し、有権者はそれについて判断していく。そして、自分たちがこの国の未来を考えるという、強い民主主義を機能させていく必要があると思います。しかし、国民に向かい合う政治というのは、待っていれば誰かが作ってくれるというわけではありません。有権者や市民が、それを求め続けなければダメだと思います。

そういった意味でも、これからの4年間は重要だと思いますが、逆に言えばチャンスだとも思います。もう一度、政策本位で動き出すような政治にするために、我々もこの4年間、正月明けからでも議論を再開したいし、そのための対話なり議論を、皆さんに公開しますので、ぜひ私たち言論NPOの活動にも参加したり、注目していただければと思います。

田中:楽しみにしています。



投稿者 genron-npo : 20:18 | コメント (0)

2014年12月 1日

有権者が選挙の意味を考え直す機会に
 ~安倍政権2年の通信簿~

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有権者が選挙の意味を考え直す機会に

―安倍政権2年の通信簿

聞き手:田中弥生氏 (言論NPO理事)


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田中:こんにちは。いよいよ衆議院解散と選挙です。評価をしたということで、今日はお伺いしたいと思います。まず、今回の選挙の意味をどうお考えでしょうか。


日本の将来を考える上で、非常に重要な今回の選挙

工藤:私が考える理想の選挙というのは、国論が2分されるような大きなテーマで、政治がその実現の信を問うという選挙です。有権者としてもきちんと考えないといけないと緊張感も増します。今の日本は実はそういう局面にあるにも関わらず、今回の選挙では何の信を問うているのか、とてもわかりにくくなっています。消費増税は税と社会保障の一体改革で、既に自民と、公明、民主の3党合意で決まっているわけです。それを踏まえて、選挙も行われたわけです。つまりすでに信は得ているのです。あとはタイミングの問題でした。タイミングについては政権に判断をゆだねるということを、実質的に国民は了解していました。そこは実質的に国論を2分にするような争点にはなりません。


 一方で、延期について異論を唱える政党は実質的にないわけです。そうなってくると、なおさら、何について国民に信を問うのかわかりにくいわけです。

 安倍首相がいっているように、租税は「代表なくして課税なし」ですので、国民に信を問うということはわかります。そうしたスタンスで選挙を日本の政治が考えてくれるのは、有権者も歓迎しますが、これまでの選挙では逆に国民に説明すべき問題が避けられ、マニフェストは実にいい加減な抽象的なものに変わっています。消費税もそもそも3党合意してから選挙を行った、ということは、増税を争点にしてしまうことを日本の政治がなんとか避けたいという判断があったはずです。

 私は今回の選挙は、この国の未来にとって実に重要なものだと考えています。政治が有権者にその判断を求めるべき課題がいろいろあります。例えば、原発の問題、急激な高齢化の中で社会保障をどう持続可能なものにするのか、日本の財政が厳しい状況の中で、今の消費税10%への増税だけで本当に良いのかという本質的な問いかけもあります。また、先の集団的自衛権の閣議決定のように閣議でこれまでの憲法の解釈を変えてしまう、ということもあります。

 こうしたことが選挙では十分語られず、事態が動いている。こうした状況を私たちはどう考えるのか、ということです。多くの有権者は日本の将来なり、経済の先行きに大きな不安を持っています。しかし、自民党も含めて、いま出されているマニフェストはそれらに何も答えていないのです。選挙としてはあまりにももったいないことだと思います。

 ただ、そうである以上、今の政党が国民に提示している問題の意味や、日本の政治がこれからの課題解決にとって十分に取り組める力を持っているのか、そのあたりを厳しく見ていかないといけないと思っています。

田中:いまおっしゃった「もったいない」というのは、増税だけを争点にするのではなく、他にも議論するべき課題があるということで、もったいないとおっしゃっているわけですね。


政治は日本の課題をどう解決していくか、国民に提起して信を問うべき

工藤:消費税の問題がとても重要なのは、日本の社会保障と財政の立て直しに不可欠だからです。この立て直しのための時間があまりないことも私たちは考えなくてはならない時期にきているわけです。今回の消費税に関する政策の背景には、高齢化の進展で毎年1兆円近い歳出が増えており、国債の累増を日銀が、直接ではないにしてもマーケットを通じて実質的に支えている、それを日銀が吸収することによって、辛うじて維持されている日本経済の現実があるわけです。

 アベノミクスの展開はまさに、もう動き出した以上、成功させないとならない。それが、できないと、今の日本は出口に向かえず、日本財政の破局が避けられないという、かなり神経質な局面に今の日本はあるわけです。

 選挙戦を見る限り、その成功のためにどのようにリーダーシップを発揮するか、ということがなかなか示されず、その実績を一方は評価し、一方は批判する、というだけで議論が進んでいる。後でも触れますが私たちの評価では、アベノミクスの先行きはまだ不透明です。成功への方向が確信を持って語られる局面ではありません。

 そういう中で消費税の延期を決断することの意味は大きいのです。もちろん、安倍首相は、財政の規律や目標は堅持する、と言っています。その決意は理解できますが、そのための財政再建の案は選挙後に決めるということであり、国民はその内容を選挙では判断できないのです。消費税の延期で本来、持続可能な社会保障改革に関する案も、具体的な案が国民に提起されているわけではありません。にもかかわらず、消費税の延期だけで国民に信を問うのは、余りにも今回の選挙の持つ意味を軽視し、シングルイシューに議論をすり替えている。

 原発の問題も同じです。震災以降、原発問題は大きな社会的な課題になりました。それに対して、ほとんどの政党が選挙の時だけは脱原発を掲げ、自民党も原発に依存しない社会をつくると言いながら、原発を容認するという既成事実化が続けられています。エネルギーの将来ビジョンを含めて未だに国民に説明できず、それが環境政策など様々な政策に影響を与えています。しかし、選挙でそれを説明するという姿勢が日本の政治にないのです。私は今回の選挙が日本の将来にとって極めて大きいというのはそのためなのです。将来の時点から今の選挙を見た時に、もしかしたらこの選挙が日本の社会を大きく変える転換点になってしまうのではないか、という気持ちもあります。だから、有権者は今回の選挙を軽視すべきではないのです。

 それを国民にしっかりと説明できない選挙を行うことに、私はもったいないと言っているわけです。


安倍政権の実績評価はどのように行われたのか

田中:争点になり得る重要なアジェンダが他にもあるということでした。その意味で、言論NPOは各種政策別に安倍政権の実績評価を行いました。この結果について、ご説明いただきたいです。まずこの評価は何をしようとしたのか、ご説明いただけますか。

工藤:私たちは、12年前からマニフェスト型の政治を唱えてきました。いまマニフェスト自体が形骸化していますが、本来、このマニフェストに込められた意味は、国民に向かい合う政治をしてほしいということです。有権者が政治家に単にお任せするのではなく、自分で政策を判断して、その上で政党なり候補者を選んでいく。そうした緊張感のある政治をつくることによって、民主主義を機能させたいと思っているのです。

 安倍政権については、2012年の衆議院選、13年の参議院選において評価しました。今年の12月26日に安倍政権は2年目を迎えるので、評価作業に入っていたのですが、解散総選挙ということになりました。そこで選挙に合わせて、安倍政権の通信簿として評価をしようということで、前倒しで評価をしてきました。徹夜で、突貫工事で評価をして、先ほど評価が完成したという状況です。

田中:2年分の安倍政権の実績をみた評価ということですが、具体的にはどのような分野の評価をされたのでしょうか。

工藤:自民党の2012年の衆議院選のマニフェストを基本に、マニフェストの中から67項目を選択しています。これはマニフェストに書かれている中心的な政策です。また、マニフェストに書かれていなくても、政策として所信表明や施政方針演説などで、国民に対して国会の中でしっかりと説明されている政策を、多くはないですが扱っています。分野でいえば、経済、財政、復興、教育、外交・安全保障、社会保障、エネルギー、地方、農業、政治・行政改革、憲法改正の11分野です。

田中:かなり広い分野での評価ですね。専門知識が必要になると思いますが、具体的にどのように評価されているのでしょうか。

工藤:これは2つのルートで行っています。1つは安倍政権の2年間が、当初考えた目標設定、工程で順調に動いているのかということを見ます。成果は可能な限り、アウトカムで考えますが、順調に動いているのか、つまり、着手した政策が実現に向かっているのか、

 実現の道筋が見えてきているのか、それとも困難になっているのか、まだ判断できない状況なのか、ということを判断します。つまり、政策の実現に合わせた形で、1点から5点満点で採点します。

 ただ、私たちが重要視しているもう1つの点があります。私たちはマニフェスト至上主義で、マニフェストで書いたことを必ず実行しろと言っているわけではありません。つまり、課題解決の手段としてマニフェストがあるわけで、課題解決のプロセスにおいて、政策を修正することは当然あり得ます。ただ、それを国民にしっかりと説明しないといけません。マニフェストに書かれていることと、実際に行っていることが異なる場合、または、公約に書かれていないことで、突然出てきた政策課題については、国民にしっかりと説明しているかどうかを判断します。説明がなされていない場合は、1点減点するということになっています。

 今回は67項目を評価し、6項目で国民に説明が足りないということで減点されました。

田中:統一した基準をお持ちだということですが、かなり多様な分野ですので、かなり多くの方の協力を得たと思います。どのような方々にご協力いただいたのでしょうか。

工藤:各11分野の専門家は、国内でも著名な方で、実際に政策課題に関係された方々などが参加しています。そうした人たちの中で、11分野の評価会議を行っています。これに3人ずつ参加しますので、33人の人たちが参加しています。さらに、ヒアリングを通じて、評価についてコメントを求める人たちが、15人ほどいますので、50人近い専門家が評価活動に参加しています。この他に、現在、私たちは6700人の有識者データベースを通じて、有識者アンケートを実施しています。その集計結果も判断のときに参考にしています。

田中:評価会議での議論や専門家からのヒアリング、さらには有識者アンケートを参考にして、評価したということでした。これらは全部ホームページ公開される予定とのことです。評価結果についてお伺いしたいのですが、全体を通して、安倍政権の実績はどうだったのでしょうか。


安倍政権2年の通信簿は2.5点に(5点満点)

工藤:5点満点で、2.5点でした。昨年の12月26日時点で、1年の評価を行いましたが、そのときは2.7点でしたので0.2ポイント下がりました。この数字をどう見るかということですが、言論NPOの評価はアウトカムで評価するので、かなり厳しくなります。今までの政権では、2点台前半ということがかなり多かったので、2.5点というのは、決して低い数字というわけではありません。

田中:いままで見てきましたが、2点ぎりぎりというときもありましたね。

工藤:政権によっては1点後半ということもありました。かなり厳しく、言論NPOはなぜそんなに厳しいのかという話もありました。しかしこの評価基準はこの10年間、変更はしていません。その中で2.5点というのは、そこまで低くはありません。100点満点に直すと、50点ということになります。ただ、分野の中では変化があります。例えば、外交・安全保障について、つい先日、これまで対立を続けてきた中国との対話を一応成功させ、韓国との関係改善の動きを進めています。地球儀を俯瞰する外交ということで、首相自身が世界を積極的に動いていることや、民主党時代に悪化した日米関係の改善も評価されました。それで昨年を上回る3.2点になりました。農業も3.2点で高いのですが、減反政策を含めて、農業の自立に向けた首相の取り組みを評価しています。ただ、その取り組みに対して、自民党内や農林水産省などでまだしっかりと合意を取り付けていません。それから、公務員制度改革が今年6年ぶりに法律が決まり、内閣人事局が設置され、女性の局長が決まるなど、幹部職員の登用が始まったことを評価しました。こうした動きがあるところは、3点などになりますが、他のところでは点数が下がってきました。社会保障やエネルギーがそうです。これからの日本のエネルギー政策の基本となるエネルギーのベストミックスをまだ出していません。原発への判断が実質的に先送りされているからです。審議会の状況を見ても、来年の統一地方選後に、なるべく選挙を避けて判断するような状況が垣間見られます。それに連動して、地球環境に対する目標設定ができなくなり、世界から遅れています。社会保障について、今年は年金の財政検証も行われましたが、これまでの制度に問題があることが明らかなのに、持続的な制度をつくるための取り組みが遅れています。というか社会保障分野の多くの政策が動いていません。その結果、2点と低い点数となりました。

 それからみなさん一番関心がある、アベノミクス、経済の問題です。これに関しては、昨年は3.2点でしたが、今回は2.8点と0.4ポイント下がりました。

田中:下がった原因は何ですか。


黄信号が灯り始めたアベノミクス

工藤:アベノミクスの展開は、実際の経済指標を見る限り、安倍首相が言っているほど好循環は実現していないという状況です。しかし、好循環が今後ないかというと、現時点では判断できません。数字でも鉱工業生産や輸出の数量などいろいろな数字で改善が見られています。そのため、改善のきっかけはつくっていますが、それが大きな力になり循環が確実に始まったとは言えません。

 安倍首相のリーダーシップで政労使会議が行われ、給料を上げるなど、いろいろな動きがあります。今までデフレマインドの中でこれまで長い間、全く動きのない状況の中で、改善が見られることも事実ですが、それが強い動きになっていないわけです。例えば、設

 備投資も大きく動いていない。消費についても、名目では給料が上がりましたが、同時に、原油価格や円安の影響で輸入物価が上がり、コストプッシュで物価が上がっています。つまり、給料を見ると少し上がったなと思う人がいるかもしれませんが、実際にお金を使うときは物価が上がり、それを実感できないということなります。名目所得でも寄与しているのは残業代やボーナスであり、所定内の賃金が大きく上がっていくという話にはなっていません。

 それから、2年で2%の物価上昇というのは、日銀の黒田総裁自身が市場にその実現をコミットメントしました。しかし、それははっきりと実現できないということがわかりました。政策決定会合でも2015年で1.7%くらいといっています。エネルギー価格も落ち着き始めており、物価上昇について、当初のような期待は想定できない状況です。その結果、現時点では、10年後の平均で、名目3%、実質2%という経済目標が実現できるかということは現時点で、判断はできないという評価です。

 それだけではなく、安倍首相は解散の会見で、消費税の引き上げは延期するが、プライマリーバランスの2020年黒字化は堅持すると発言しました。ただ、延期した今回の消費税の増税を予定通り実現していたとしても、現時点の試算では11兆円のプライマリー赤字が残るのです。そうなってくると、首相が堅持する財政再建目標を達成するためには、延期された消費税の増税だけではなく、この11兆円をどうするのか。消費税では約4%分ですが、これをどうするのか。答えを出さないとこの目標はかけ声は強くても、実現できないのです。

 それに対して安倍首相は来年の夏に向けて財政計画を作るとしていますが、それだけしか説明はありません。従って、国民はその内容を今回の選挙では全く判断できないのです。しかも、もっと本質的な問題として、消費税というのはこれから急増する社会保障の財源として考えられています。それをベースにした税と社会保障一体改革が、これからどう進むのか。今回延期される消費税も社会保障の財源ですが、延期による影響だけではなく、社会保障の全体像に対しても明確な説明が与野党共にないのです。

 今後は、安倍政権がこれらの課題について全ての責任を負うことになります。今回の選挙で三党合意を継続することは難しくなっています。消費税を延期して、それに対して、財政再建の旗を絶対に降ろさない。一方で、高齢化が急速に進む中で、社会保障改革にしっかりと取り組まないといけない。安倍首相にそれに責任を持って取り組む覚悟があるのか、ということです。ただ、今年の自民党のマニフェストも読みましたが、それらをどう進めて行くのか、そういうことが全く載っていませんでした。そう考えると、日本の政治は、社会保障と税の一体改革としての消費税増税の持つ意味を軽く見ているのではないか、と思わざるを得ません。

 ただ、この経済政策の点数は、3.2から2.8に下がりましたが、それでも高い水準です。それは日銀が実質的なリファイナンスをしている間に、またそれが可能な間に、成長のための構造改革や財政の立て直しを図るしか、日本経済に出口はないからです。その責任は、

 政権側に厳しく問われます。成果が目標通りではなく、さらなる課題も出ていますが、それに向けて日本経済がわずかでも動き始めている以上、それを失敗だと判断する段階にはないということです。

 私たちが評価をする際の3点の意味は、政策は動いているが実現するか現時点では判断できない、という意味です。2点は、目標は実現できないということです。今回は3.2から2.8にわずかに数字が下がりましたので、黄色信号が出ている、ということは言えると思います。

田中:いま実績評価をされて、これからマニフェストの評価をされると思いますが、実績評価をしてどのような感想を持たれましたか。


有権者と政治の間に緊張感ある関係をつくるためのきっかけとなる選挙に

工藤:評価作業は徹夜で大変でしたが、その間にマニフェストが各政党から出てきました。自民党のマニフェストも読みました。実績評価をしながら、これはよくないと思いました。つまり、マニフェストには、ほとんど何も書かれていません。形骸化がかなり進んでいるということです。自民党のマニフェストでは経済政策の数値目標が消えてしまいましたが、その説明もありません。社会保障についても、「持続可能な社会保障を目指します」というだけで、今の状態に関する課題認識すら説明されていません。つまり、政権側の公約はこれまでの実績を踏まえ、その問題点の改善も含めて国民に対して課題解決のプランを出すべきであり、野党はそれに対して反対なら対案を出すべきです。それが全ての政党に見られないのです。急な解散で余裕がないのは分かりますが、野党に見られるのは、基本的に批判のみです。こうした選挙を繰り返す限り、選挙は民主主義の単なるイベントとなり、政治と国民の間の距離は広がるでしょう。私はそうした危機感を感じています。

 選挙という非常に重い、国民にとっては非常に重要なものが、何となく進んでしまうような感じになっています。だからこそ、私たちは今回の選挙を「選挙」の意味を考え直す機会にしないといけないのではないかと思いました。

田中:今回の評価の結果は、具体的にどのような形で私たちは見ることができますか。

工藤:言論NPOのホームページで公表します。また、この評価について、有権者に対して判断材料を提供するということで、既存のメディアで扱ってほしいと思い、毎日新聞と合同で、点数について協議しました。ということで、毎日新聞の12月1日の紙上でも紹介されます。

 それから、点数だけでは十分ではないので、その解説をホームページで詳しく公開します。それだけではなく、12月3日から8夜連続で、各分野についての評価会議を紹介します。私たちの提供する評価が、政治を考える有権者の1つの手立てになってもらえればと思っています。

田中:しっかりと考えるための根拠は出していただけるということで、期待しています。頑張ってください。



投稿者 genron-npo : 05:40 | コメント (0)