【vol.30】 シンポジウム『アジアの変化に日本はどう向かい合うべきか 第2回』

2003年5月27日

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.30
■■■■■2003/05/27
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言論NPOは、日本の政策課題について本物の責任ある議論を、ウェブ、雑誌、フォー
ラム等で展開しています。人任せの議論では決して日本の将来は切り開けないからで
す。政策当事者や財界人らが繰り広げる、白熱の議論の一部を皆さんに公開します。
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●INDEX
■ 言論NPOアジア戦略会議シンポジウム・セッション1
  『アジアの変化に日本はどう向かい合うべきか 第2回』
    パネリスト:安斎隆、ドナルド・P・ケナック、榊原英資、柳井正
    コメンテーター:イェスパー・コール、加藤隆俊、 周牧之
    コーディネーター:谷口智彦

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■ 言論NPOアジア戦略会議シンポジウム・セッション1
  『アジアの変化に日本はどう向かい合うべきか 第2回』
   パネリスト:
     安斎隆 (株式会社アイワイバンク銀行社長)
     ドナルド・P・ケナック (AIGカンパニーズ日本・韓国地域社長兼CEO)
     榊原英資(慶應義塾大学教授)
     柳井正 (株式会社ファーストリテイリング代表取締役会長兼CEO)
   コメンテーター:
     イェスパー・コール(メリルリンチ日本証券株式会社チーフエコノミスト)
     加藤隆俊 (株式会社東京三菱銀行顧問)
     周牧之 ( 東京経済大学経済学部助教授)
   コーディネーター:
     谷口智彦 (『日経ビジネス』主任編集委員)
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中国の台頭を軸としたアジアのドラスティックな変化。国境を越えて進む経済の新た
な結びつき。現実に進行する大きな変化から取り残されかねない日本は、自らの将来
をかけた国内の改革をどのように進め、また現在や将来のアジア、そして世界にどの
ように向かい合えばいいのか。2003/3/7に行われたシンポジウム・セッション1で
は、榊原英資、安斎隆、柳井正、ドナルド・P・ケナックの4氏に、アジア戦略会議の
メンバーの3氏をコメンテーターとして迎え、話し合った。


●アジアに向かい合う根本の哲学は何か

谷口 ここからは3人のコメンテーターの方にも参加していただいて、質疑応答を活
   発にしていこうと思います。3人ともアジア戦略会議のメンバーで、周さんは
   1988年に中国から来日されて以後、日本や諸外国を行ったり来たりしなが
   ら、多面的に日本とアジアを見る機会を積んでこられました。加藤さんは、皆
   さんもご承知の通り、現在東京三菱銀行で顧問をなさっていますが、財務官当
   時はタフ・ネゴシエーターとしてアメリカ人にも一目も二目も置かれていた方
   です。初期のウッドロー・ウィルソンスクールというプリンストン大学の優秀
   な卒業生でもありまして、アメリカとの付き合いのみならずG7、G8の場、あ
   るいはアジアの財務官会合などでも、さかんにネットワーキングに努めてこら
   れた方です。それからイェスパー・コールさんは、皆さんもご承知の有名なエ
   コノミストで、85年に来られてから日本の変遷をワン・クール以上見てこられ
   ました。

   まず私から質問の口火を切らせていただきます。それは、榊原さんが最初に
   おっしゃった「これからの世界の経済システムはネットワークになる」という
   点です。そしてそのネットワークの中心を、榊原さんはあえてアメリカやEU
   に言及せず、中国、インド、東欧、ロシアとしました。これを聞いて何かお感
   じになったことがあるかどうかです。では、コールさんからお願いします。

コール 私はドイツ人でヨーロッパ人なのですが、榊原さんのネットワークについて
   の指摘はその通りだと思います。ただし、みんな「ネットワークはいい、ネッ
   トワークを作りましょう」と言うのですが、ではネットワークの哲学、ネット
   ワークのコンテンツ、ネットワークの質は何なのでしょうか。これについて
   は、やはり日本とアジアの関係と、ドイツとヨーロッパの関係とを比較するこ
   とが、非常に大事なのではないかと思います。ドイツは第二次世界大戦が終
   わったすぐ後に、ネットワークではなく、まず哲学をつくりました。これは、
   「ヨーロッパ地域で絶対に戦争が起こらないような構造をつくらなければいけ
   ない」という哲学です。これがヨーロッパ統合の原点だったわけです。だか
   ら、ネットワークをつくることには私も賛成なのですが、では日本とアジアの
   根本的な哲学は何なのか、というところに私の疑問があるわけです。

谷口 榊原さん、どうでしょう。

榊原 これは非常に難しい問題です。やはりヨーロッパ統合というのは、ひとつの哲
   学があった独仏同盟が中心ですよね。それから「アメリカに対するカウン
   ター・ベーリング・フォースを作る」という哲学があって、50年もかかって
   ヨーロッパ統合ができ、ヨーロッパ共通通貨ができたということです。さきほ
   ど私は、日本をヨーロッパと比較するため、イギリスの例を出しました。くる
   くる定義を変えて申し訳ありませんが、イェスパー・コールさんの今の話に対
   応して言うと、アジアの歴史におけるフランスとドイツにあたるのは、やはり
   日本と中国だと考えます。白村江の戦いというのが663年ですから、あれから
   何回、われわれは中国と戦争しているのでしょうか。蒙古襲来があり、豊臣秀
   吉が明と戦い、日清戦争がありました。恐らく第二次世界大戦も、シナ事変か
   ら始まっていますから、これも日本と中国の戦いですね。ですから、日本と中
   国というのは千数百年このかた、あるときは協調し、あるときは戦い、今でも
   ネガティブなレガシー、遺産を抱えていますから、やはりアジアの協調のひと
   つの軸になるのは、日本と中国の協調だと思います。千数百年に及ぶ一種の戦
   争と協調の歴史からもう一度、日中協調によって新しいアジアを作っていくこ
   とが大切だと思います。もちろんASEANもインドも非常に大事ですが、コール
   さんのコンテクストに入れて考えると、やはり独仏が日中ということになるの
   ではないかと思います。

谷口 そうなると、周さんに議論を振りたくなるのですが、その前に加藤さんにひと
   つだけ聞かせてください。ご在任中に、アジアの金融当局と関係を作るのに随
   分苦心されましたね。その際に何か日本側に欠けているものや、あるいは、こ
   うしておけば良かったというような反省点や、実務の中で感じられたことがあ
   れば、2、3、共有させていただけますか。

加藤 そうですね、そのときに一番考えたのは、まず為替の安定を図る。それから金
   融機関同士がお互いの国へ進出して、金融業務活動が円滑にできるように協力
   し合おうということでした。今振り返ってみますと、アジア全体の金融市場を
   どういうふうにして育てていくのかという問題意識を持って、もっと議論した
   ほうが良かったのではないかと思います。それから、コールさんの哲学の話に
   なるのですが、アメリカ人やヨーロッパの人と東アジア経済圏の話をすると、
   必ずそういう問題に立ち返ってくるのです。振り返ってみると、やはり日本人
   にしても中国人にしても、経済的な実利で結びつくことが一番の機軸になる
   し、それはできるのではないかと思います。

   「共通の歴史、共通の哲学がないからまとまりを欠く」というのは、やはり
   コールさんなりの、ヨーロッパの目から見た感じではないかと思います。アジ
   アからはもう少し違った切り口で努力してみる必要がある。そのことは、アジ
   アの人たちはみんな感じているのではないかと思います。

谷口 ただ、それは自然に起きるプロセスではないですよね。自覚的な努力として
   は、どのようにしていけばいいのでしょうか。

加藤 それこそ後で登場される深川先生の分野になりますが、例えば今、FTAのネッ
   トワークを中国とASEANでつくろうとしていますし、日本も日・シンガポール
   を拡大して、ASEANと日本との連合協定みたいなものをつくろうとしていま
   す。そうなると絶対に中国、日本、韓国の間でもということになります。それ
   がタイム・スケジュール通りに10年でまとまれば、東アジアを包摂するような
   自由貿易圏になっていきます。そうなると、お互いの投資環境を改善しようと
   いったことに、おのずから歩みが進んでいくのではないかと思います。中国も
   これから他のアジアの地域にかなり資本進出してくると思いますから、ますま
   すアジアは結びつきが深くなっていくのではないかと思います。

                          ──次号へつづく──


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