被災地の農業をどう復興させるのか

2011年6月28日

2011年6月13(月)
出演者:
生源寺眞一氏(名古屋大学大学院生命農学研究科教授、元東京大学農学部長)
丸山清明氏(前中央農業総合研究センター所長)
増田寛也氏(野村総研顧問、前岩手県知事)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


 まず代表工藤は、「今回の大震災による農林水産関係の被害は1.8兆円」、農地の冠水は2.4万ヘクタールが冠水し、さらに原発事故による放射能汚染や風評被害が追い打ちをかけている」と今回のテーマに関わる問題を提起し、今回は、①農林水産関係の被害の実態をどう見ているのか、②農業の復旧に向けて何が求められているのか、③農林水産業の復興に向けて、どのような方向を目指すべきなのか、そのためにいま、何を始めなければならないのかの三点について議論が行われました。

 まず、被害の実態について、生源寺氏は、「津波やそれに伴う塩害によって、生産基盤である農業が物理的に完全に破壊されているが、それと同時に、農村の集落も壊滅的な影響を受け、暮らし自体が破壊されている」と述べました。増田氏は、「今年のコメは原発とは何の関係もないにもかかわらず、東北産というだけで忌避されてしまう」として、原発事故による風評被害の根の深さを指摘しました。また、農業技術に詳しい丸山氏は、被災地の農地では瓦礫の撤去はある程度進んでいるとした一方で、「水田は海水浸しになっており、その海水を抜く作業がいつまでに出来るのかが見えていない」と指摘し、農業の復旧に目処が立っていない現状を明らかにしました。

 第二の点について、増田氏は、大きなビジョンは徐々に描かれ始めているとしながら、「まずは来年田植えができる農地を興すことが重要」として、今年の8月までにその方針を国が描くべきと述べ、丸山氏は、「二万ヘクタールの水田の状況は、地形や標高によって一様ではない。塩分濃度を図り、復旧できるところから順番に再開することが必要」と語りました。さらに生源寺氏は、土地改良や農地の権利調整、技術指導などにおいて多種多様な組織が利害調整に当たる農業特有の特徴を説明し、「全体の構想があって各々が何をやるべきかを指し示して足並みを揃えてやっていくことが出来ていない」と懸念を表明、「点」ではなく、「面」としての復旧が求められていることを強調しました。

 最後に農業復興のための今後の方向性について、増田氏は、岩手県知事として東北の農業をみてきた経験から、東北地方が極めて優良な農業地域であることを強調し、「何年かけても、ここで強い農業経営をつくるということを、できるだけ早く意思統一することが必要だ」と語りました。生源寺氏は、「強い農業をつくる声が、現場から出てくることが大事。現場からの動きが現状では「点」でしかないため、これがもう少し面として立ち上がってくるような環境を作ることが大切」と述べ、そのために、旧村ほどの広がりの中で、住民同士が農業の復興について話し合う場を設けることが急務との認識を示しました。最後に丸山氏は、「強い経営が地域を守る」と強調、高齢者が生活する場としての農村と儲かる農業を両立させるためにも、「大規模農業の経営が地域を支えていくように、頑張ろうとする経営者を応援する、邪魔しない様にすることが必要」と述べました。

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