「東京会議2019」の評価と、来年の会議に向けて何が必要か

2019年3月04日

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シンクタンクは、外交政策の複雑性が、いかに重要かということを国内政策の中に組み込んでいく必要がある

_DZB1390.jpgアリス・イクマン
(フランス/フランス国際関係研究所(IFRI)中国研究担当ディレクター)

工藤:「東京会議」に参加するのは初めてだと思いますが、今回、参加されていかがですか。

イクマン:この会議は非常に興味深いものでしたし、参加できて、非常に感謝しています。工藤さんが政治家や、その他テーマに沿った人を集めていただきました。そうすることで、日本における政治的な議論についての全体像を理解することができました。そして、東アジアについての日本の見方がどういうものなのか、米中関係や朝鮮半島情勢について、もっと具体的に理解することができました。その点についても非常に感謝申し上げます。

 また、工藤さんがシンクタンクの会議を持たれたことは素晴らしいことだと思います。シンクタンクとして、非常に大きな責任を有していること、シンクタンクの代表として、また研究者としても大きな責務を果たさなければなりません。世界は急速に変わりつつあります。もちろん、公式の立場というものがありますから、具体的なガイドラインに従わなければならない傾向はありますが、民主主義国ですから、自由な立場から自由を活用して、できるだけいろいろな考え方を想像力を働かせて行っていくことが必要だと思います。これが解決の道を導き出す秘訣だと思っています。

 そうした意味からも、「東京会議」というのは、多くの問題について、自由な議論を交わすことに成功したと思います。

 私は、様々な多面的な課題に対して十分な議論ができていない、同じような観点から、同じように議論を交わしているだけ、という会議もあります。ですから、今後の「東京会議」では、自由な観点から、議論をし、そして外交の課題について、不十分な議論しかされていないことを取り上げていくべきだと思います。今後の世代のことを考えると、台頭する課題が様々ありますので、多国間の課題をいろいろな側面から議論していく必要があると思います。その意味において、「東京会議」は非常に興味深いものでしたので、将来の発展を祈念したいと思います。

工藤:アリスさんの話は、私たちにとって素晴らしい褒め言葉になっていると思います。言論NPOの「言論」という言葉は、「責任ある意見」という意味であって、「責任ある意見」というのは課題解決から絶対に逃げないということです。我々は、民主主義、個人の自由と平等という基本的な価値観を大事にしています。その上で、世界の変動の中で、責任ある議論の舞台をつくろうと。つまり、単に議論をすることを目的にしていません。議論はあくまで、世界の中で、課題の解決に向かう動きをつくることが重要です。それは専門家だけではなくて、市民がそれを考える材料を提供することなのです。

 我々言論NPOというシンクタンクがやっていることは、市民が課題解決に参加するプロセスを専門家と一緒にまず作っているということです。私たちは単なる「東京会議」という会議を行うだけではなく、市民との議論もやっていきます。そういう努力をしていかなければ、世界の民主主義は壊れて、脆弱になってしまうと思っているからです。

 ただ、そうは言っても、アリスさんがおっしゃったように、世界の大きな変化の中で、必要な議論がまだなされていない。昔ながらの古い議論だけが行われている。新しい変化を無視してしまうという問題があります。「東京会議」の議論も、議論づくりから非常に大変なのですが、今回のアリスさんを始めとする、参加者の皆さんは、それに対応できる素晴らしいゲストで、皆さんと一緒に1つの大きな議論がつくれたと感じました。

 この議論は来年も行いますが、1年に1回の議論ではなくて、世界のシンクタンク同士は恒常的に連携をすべきだと思っていますが、アリスさんはどうでしょうか。また、来年の「東京会議」に期待することは何でしょうか。

アリス:来年の「東京会議」については、引き続き、こういった形でシンクタンクは何ができるのかということ、どういう責任を負うべきなのか、ということについて注力すべきだと思いますし、これは有益なアプローチだと思います。これまでの取り組みはよかったのだと思います。

 では、フリーなシンクタンクとして何ができるのか。世界のシンクタンクの中には、表現の自由を推進している所ばかりではなく、表現の自由ということについて、十分に関心を払っていないところもあります。そういう点で見れば、我々は非常にラッキーだと思います。したがって、民主主義国のシンクタンクとして表現の自由を行使することによって、実際に表現の自由について議論することも大事だと思います。また、政治的な制度が違う国々があるわけですから、シンクタンク同士で、色々な研究環境が異なることがあるので、同じような考え方を持ったシンクタンクが集うということに意味があると思います。

 さらに、多国間主義の未来についての議論が必要だと思います。多国間主義が減退をしているという意見もありますが、この会議を通じて、我々としてはむしろ、多国間主義のリバイバルの時代がきているのだ、ということを確信することができました。多国間主義について、日本、そしてフランスは多国間主義に投資をしている。G7やG20は多国間主義の枠組みです。従って、インフォーマルな形かもしれませんが、多国間主義の復活の支援をすることが重要だと思います。多国間主義にどのように貢献できるのか、どのような協力関係が多国間の枠軍の中でできるのか、新しい多国間主義のイニシアチブをつくり出していくということが必要だと思います。そのためにも、具体的なパネルを通じた議論が必要だと思います。

 最後のトピックとして議論したテーマですが、国内と外交政策の関係です。民主主義国家のシンクタンクとして、様々な国内的なトレンドに直面しています。一方で、収斂も起きています。シンクタンクは、共通の課題に直面している。どのようにして、世論に訴えかけていくのか。世論の中には、懐疑感というのもありますので、どのようにしてポピュリズムに対応していくのか、また具体的に、私たちの問題が複雑であるということを国民に伝えていかなければいけません。外交問題について責任を持って、外交問題についての議論にかかわっていくと同時に、国内政策についても責任を果たしていく。外交政策の複雑性が、いかに重要かということについて国内政策の中に組み込んでいかなければいけない、と思っています。

工藤:私も同感しました。また来年に向けて準備を始めたいと思いますので、またいろいろと力を貸してください。

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