大国の利益にはならないという状況を、 周辺国が連携して作れるかがカギ / オン・ケンヨン(シンガポール/ラジャラトナム国際研究院(RSIS)副理事長)

2020年3月10日

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工藤:自由な秩序を守るために、私たちが結束しようということでこの「東京会議」を立ち上げました。今回の対話には満足していますか。


「リベラル」の定義を今一度、共有することが必要

オン・ケンヨン:まず、今回の会議は私にとって非常に実りの多い会議で、新しいことを学ぶことができました。このような新しいことを学び、新しい情報を身に付けたうえでシンガポールに帰れることを非常に嬉しく思っています。

 今の自由な世界秩序というものですが、「リベラル」という言葉の解釈の仕方が異なっています。この「リベラル」という言葉の意味を十分理解していないために、「リベラル」という言葉の重要性が十分理解できていないのです。「リベラル」という言葉で人々が思い描くのは、日米、西ヨーロッパの政治体制のことだと思います。一方、中国のシステムはリベラルな政治制度ではないので、リベラルな世界秩序とは違う。つまり、「世界VS中国」の権威主義の対立という見方ができると思います。

 しかしながら、現実に自由な世界秩序と言った場合は、ある特定の政治体制のこと、あるいはガバナンスの形を言っているのではなくて、私たちが戦後に作ってきたシステムにどのように参加していくのか、ということにかかわってくるのです。つまり、貿易や資本の流れ、人の移動、こうした国際システムに我々がどのように参加するのか、ということにかかわるのがこの「リベラル」という言葉なのです。

 ですから、「リベラルな世界秩序」と言った場合には、価値観だけの話だけではありません。既存のストラクチャー、例えば多国間の制度、もしくはこの制度の中で各国が果たす役割、それにかかわることなのです。だからと言って、民主的な選挙行動が大事でないと言っているわけではなく、これもリベラルな世界秩序の一部であります。


中国に「相互主義」を受け入れることを求めていくことが重要に

 ただ、今、日常的により大きな問題が出てきています。それは、中国が、国際機関で果たさなければいけない役割や義務をしっかりと果たしているのかどうか、とうことを見ていかなければいけません。

 中国の学者は、政治体制のことばかりに関心を寄せている、と言います。より大事なのは貿易や感染症、世界の近代化や発展などについて、中国と世界がどのようなやり取りをするのか、そのフレームワークが大事なのです。

 今日、出された宣言文には「相互主義」という言葉が出てきますが、非常に大事だと思います。我々は中国に対して、その体制を変えろと迫っているのではなく、世界の枠組みの中で、国際的な組織が建設的な活動ができるように義務を果たしてほしいと依頼しているのです。


工藤:我々が目指しているのは、世界が協調できるようなルールなのです。ルールが決まれば、それを従い、守っていかなければならないと思います。しかし中国は、我々は発展途上であり、別に考えてもいいのだ、とういことでタダ乗りしたわけです。中国が今後も自由な市場にアクセスしたいのであればルールに従わないとならないのです。それが、相互主義なのです。ただこれは中国を排除することが目的ではなく、ルールに元づくリベラルな秩序を守り抜きたいのです。

 だから、足りないルールがあればそれを作っていく、そのプロセスには中国は入ってもらおうと考えています。それで10か国のシンクタンクが合意に至りました。

オン・ケンヨン:1つの例として、スピーカーの方の発言にもありましたが、WTOの中で中国は、自身の国を途上国だと言っています。しかし、事実上、中国は近代化された世界の中に組み込まれているために、途上国であるということでは通用しません。だから、その点は調整を加えなければいけない時にきていると思います。その中で、ルールベースの秩序を維持し、担保していかなければいけません。


小国が大国に対抗するためには、周りの国と連携することで力のバランスをとることが重要

工藤:最後の質問になります。今、東シナ海では中国と日本は非常に良い関係になろうとしているにもかかわらず、毎日のように中国の船が尖閣諸島の近海に表れて、日本とぶつかっています。こうした局面では、日米は力のバランス、つまり抑止力を強化するために、対応をせざるを得ないのではないか、と考えています。その基盤において力のバランスを保つという努力については、どうお考えですか。

オン・ケンヨン:力のバランスというのは、国際関係の現実です。全ての国が同じレベルの力を持っているわけではありません。小国で大きな経済力や軍事力を持っていない国であれば、賢い外交的なアプローチが必要で、それが力のバランスと呼ばれるものです。

 国際関係の中で否定できないのは、大国があり、小国があるということです。そして大国はいつも自分の意を通そうとすることです。そういったときに、小国がどのように自分たちの独立や利益を守っていけばいいのか。国際関係の中で、力のバランスというのは必須です。しかし、それをどのようにバランスさせていくのか、ということが大事なポイントです。ポジティブな雰囲気の中で力をバランスさせるのか、それともネガティブな雰囲気の中で力をバランスさせるのか。ネガティブな雰囲気になると、トラブルが発生します。

 こういう紛争がある中で、どの国も自分の利益や主張を諦めることはありません。そうなると、大国と小国の間で紛争があった場合に、どのように進めていけばいいか。そこで重要になってくるのが隣国との関係作りです。周りの国々と関係を作っていくことで、大国が自分の主張を通しにくくしていくことが必要です。なぜなら、自分の主張を通してしまったら、周りの国々にも影響を与えてしまって、結局は大国の利益にはならないという状況をつくっていくことが必要になります。

工藤:そういう意味でも、日本とASEANの関係も重要だと考えます。これからもよろしくお願いします。


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 言論NPOは「東京会議2020」最終日の3月1日、世界10カ国の有力シンクタンクの合意で採択した「未来宣言」を、G7議長国のアメリカ政府に提出するとともに世界に発信しました。

 この宣言は、自由な国際秩序を守るために、主要国が協調して世界のシステムの安定や地球規模課題での協力で強いリーダーシップを取ること、中国は世界との相互主義を受け入れると同時に、10カ国は中国に国内経済改革を迫る必要があること、そして、自由な国際秩序を守るためにも、民主主義国はそれぞれの国自体の民主主義を強くするための努力を始めること、などを10カ国で合意し、その覚悟を示したものです。

 世界で進むコロナウイルスの感染拡大が、自由な国際秩序のもとで多国間が協力することの必要性を改めて浮き彫りにする中、世界のシンクタンクトップらは、感染拡大に伴う様々なリスクを取って、この会議のためだけに東京に集まり、危機に直面する世界の自由や民主主義を守る決意を、世界に伝えたのです。

 言論NPOでは、彼らの決意を、日本の多くの方々にも共有したいと考えています。
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