言論スタジオ

2012年 世界の変化の中で、日本は何を考えればいいのか

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2012年1月31日(火)収録
出演者:
田中明彦氏(東京大学副総長)
深川由起子氏(早稲田大学政治経済学部教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



放送に先立ち緊急に行ったアンケート結果を公表します。ご協力ありがとうございました。


第2部:民主主義はグローバルな危機に対処できるのか

民主主義を機能させるにはその進化を、との声が6割も

工藤:2つ目の問題は、グローバルな危機に民主主義という仕組みが時間だけかかってしまって、なかなか対応できないということが色々なところで議論に出ている。日本の民主主義の問題と違うかもしれませんが、民主主義というものが、資本主義とかグローバリズムという大きな問題に対応できるのだろうかというのが次の問いなのですが、民主主義は現状では十分に対応できないので、機能させるために進化させる必要があるというのが6割いるのですね。対応できるのが14.3%。対応できないのが8.6%いました。これを見ながら、民主主義という問題をどう考えればいいのかについて議論したい。

田中:民主主義では対応できないという方が8.6%いたのは、やはり民主主義に対する不信感が少し強まっているのかなという感じはしますが、それでも、それ以外の人たちはほとんど、民主主義を改良することで対応可能だと思っているわけで、やっぱり我が国においては民主主義以外の体制を考えるのはなかなか困難というほど、ある意味では民主主義は定着しているという気はしますね。

工藤:アンケートのコメントを紹介します。60代の方なのですが、「グローバリズムは資本の論理の結果であって、民主主義という政治制度の問題とは本質的に異なる。民主主義を残してグローバリズムがもたらす負の要素を軽減するような制度を調整すれば良いだけである」。これは対応できるという人の意見です。あとは「民主主義の最大の問題は、絶対的な権力を握る個人や集団が存在しないために決定の迅速性に欠けること」だ、と。こういう問題を抱えていまして、ただ、いま田中先生がおっしゃったように、やはりこれしかないので、意思決定のスピードを上げたりするということを、もっと有権者側もレベルを上げてこの問題を進化させていかないと答はないんじゃないかと言っています。またこれは若い人なのですが、「民主主義も絶えざる努力によってしか機能しない。だから選挙権を持つ人は教育を怠れば、ポピュリズム以上のことを政治家が行うことはできなくなる」という答えもありました。どうでしょう、これを聞いて。


民主主義はまどろっこしく時間がかかる

深川:そうですね、1つには、民主主義はダメだと思っている人たちは、今の日本の現状を見ていて、こんなに決められないのでは全くダメだと思っている。そういう人たちはやっぱりいるんじゃないでしょうか。民主主義は手続き論だから、時間はかかるわけですよね。しかも法治とセットだから、1人1票というのもあるけれど、独裁者が出ないように制度設計してやっている。それはまどろっこしく時間がかかります。だからチャーチルが言っているように、最悪の制度だけど他にないから、これをやるしかない。で、今はまだ、大恐慌の記憶とかヒトラーの記憶がまだあるので、あれをさすがに繰り返しちゃいけないから、自由貿易も死ぬ思いで堅持しなきゃいけないし、民主主義も堅持しないといけないというところで踏ん張っているのですが、ここから先、足がふらふらしてくると、怪しいですね。

田中:ただ、今の段階でいうと、ある種の権威主義的な体制の効率性という議論が少しずつ出てきているが、おそらく今の先進民主主義国の多くの人々にとっては、今の政府がまどろっこしいからといって、それでは我が国の政治を中国共産党の政治体制を直輸入してやりましょうかねということになるかといえば、なかなかそういうのではないのではないか。

工藤:でも時間がかかるので、ああいう国家主義的な体制の方が、決断が早いじゃないですか。日本は別の問題で決断が遅いのかもしれませんが、決断が早いというところを見る人がいるのと、あと、このまえEUのときにギリシャが急に国民投票をやると言ったら、マーケットが荒れましたよね。また、そんなに時間がかかるのか、と。こんなにデフォルトリスクというか返済の期限が迫ってきているのに。だから、マーケットが迫ってくるスピードと民主主義の意思決定の時間軸が違う形で動いていきながら危機が表面化するというのがありますよね。これをどう考えればいいのでしょうか。


情報流通速度が速く、マーケットと統治の仕組みがマッチしていない

深川:ある種ファンクショナルなところがあって、マーケットは毎日開いているが、それ以上に情報の伝達速度がものすごく速くなっているわけですよね。つまり個人がいかようにもSNSなどを使って発信できる時代になってしまっていて、情報量が尋常ではないから、マーケットは消化しきれないほどの情報の洪水を処理していくわけですよね。そうすると昔だったら、もうちょっと時間をかけて市場の変化が進んでいくのですが、情報が速すぎて混乱する、スクリーニングフィルターが壊れるくらい量があるから、どうしても非常にいい加減な情報がわっと走ることはあって、それに過剰反応してしまうから、それが市場との間で混乱を引き起こしてしまう大きな要素だと思うんですね。情報プラットフォームの根本的な変化が非常に大きなクレバス形成の1つになっていると思います。

田中:情報の流通する速度とそれを使ういろいろなものと、片方ではマーケット、片方では統治の仕組みが十分マッチしていないという問題は出てきているとは思います。

 やはり現代の自由主義的な民主主義の重要なところは、民意をある一定の期間、自分たちの選んだ代表にほとんど委任して、それに任せていろいろやってもらうということでこれまでやってきているわけです。ところが情報の移動があまりにも速いと、任せたつもりでも、任せた人たちをもはや信じていられない、こんな奴らにやらせてはダメだということになると、どちらかというと任せられた側としても、どう行動したらどうなるのかという、次の選挙の時にどうなるのかいうことが恐怖になって、結果として決められないというところに陥ってしまうところが、今問題になっていると思いますね。


民主主義は効率性をめざしたものではない

 ただ、やや長期的に、というか冷めた見方をすると、民主主義は何事かを効率的に成し遂げるためのではなく、極端な大失敗を防ぐための制度という形で今までは存在してきているわけですね。ですから、効果的に適時に対応できるというのはよいのですが、適時に対応した結果が大失敗であるというのはなんとか防ぎたいということで作ってきたのが民主主義なのです。ただし、それにもコストはあって、不作為をずっと続けていくと不作為の連鎖が大失敗につながるという可能性もない訳じゃない。その辺が難しいところですね。

 ただ、いままでの民主主義の理論は、多数にしても少数者にしても、とにかく横暴(tyranny)を防ぐということに一番の重点があるから、この民主主義の体制の中で何事かを効果的に実現しようというのはそもそもなかなか難しいのですよ。

工藤:民主主義とグローバル資本主義ということですが、競争して、原理的に言えば、儲ける人が儲けていって、そうでない人は貧困に陥り、格差が広がっていく、と。それに対して国際的にもILOなど、色々な仕組みがあったのだけど、そのことを統治側というか民主主義のルールとしてやるということが見えてこない、機能していない気がします。そこに経済的な現象としての競争と、本当は個人が自立している民主主義の展開が離れてしまう感じがするのですが。

田中:民主主義は、最後は財の分配を市場とは違うやり方で決める、と。市場だけではすまない決定の仕組みとして民主主義は存在しているのですね。ただ、両方がうまく調和するかということは実はわからないのですよ。

工藤:そうですか。しかしいまは市場原理の方が暴走して・・・


金融の膨張・収縮で財政に猛烈な負担

深川:ただ、実体経済だけでやっていればそこまで極端な格差は生まれにくいと思いますよ。どんなにアウトソースしても、モノづくりとかサービスとかのんきにやっている限りは。ただ、金融のイノベーションなるもの、半分くらいは嘘かもしれないですが、あれは錬金術だから、ふくらんで回っているうちはものすごい所得、資産になってしまうわけですよ。だから、天文学的な数字があっという間で可能になってしまう。どんなにアリのようにモノづくりで働いてもかなうわけないし、今の状態と言うのは、それが半分くらい破綻したら、財政で積み上げた金額ではもう追いつかないってことなのです。だから、金融の破綻を財政でカバーするのは不可能になっているから、財政の再配分機能というのは本当に弱くなってしまった。一回すごく信用膨張しているから、それが縮小していく過程で、財政に異常な負担がかかっているというのは先進国共通。

 じゃなぜ、この国が財政ぼろぼろだけど、なんとかなっているかといえば、膨張したときの金融はたいしたことはなかった。せいぜい不動産バブルで、その処理に10年かかったけど、でもやったから、まだこの程度で済んでいるということですよね。

田中:それからあとは、国際的な面でいうと、なぜドイツ国民はもっと大胆なギリシャ支援ができないかといえば、それはできるわけがないのです。それはいくら民主主義といっても、ドイツの民主主義とEU全体の民主主義はまだ十分存在していない。ドイツ国民はギリシャ国民を、民主主義を共有する自分たちと同じ人々だと思わないから。思うためには、結局財政を一緒にしなければダメですよ、と。EUという国を作らなきゃいけない。


極端な所得格差と民主主義の関わり

工藤:いま貧困問題でアメリカでも公園が占拠されたりしている。すごい所得格差があって、それに対して市民が立ち上がる動きがあるのですが、これはグローバリズムと民主主義の関係でどう判断していかなきゃいけないのですか。

深川:やはり、あれも、とてつもない大金持ちの人たち、牢屋に行ったマードックみたいな人たちも含めて、かなりの部分が不労所得だというところにみんなの怒りがある。しかもその機会が平等に分配されていない。それはやってできなかったら自分の責任だからしょうがないけど。機会自体がはじめからないし、情報の非対称性があるわけです。汗水垂らして働いて預金しかできない人と、巨大資産を一回持ってしまった人たちが得られるリスクとの間にすごく大きなギャップがあるので、その自然な反応としてある。

 たぶん大多数は、すごいお金をかけて有名大学を出たのに、あの給料をもらえる職場がなくなってしまったという瞬間的な怒り。

田中:これは民主主義の強さだと思うのですが、アメリカでああいう動きが出ても、そういう大衆運動がいまの民主主義体制まで壊して新しいものを作らないといけないんだというところまでいかないですね。それは民主主義のいいところなのですよ。ある程度不満なところでバッとやって、そうすると、それなりに聞く人も出てくるし、選挙で勝とうと思ったらその票も集めないといけないし。それがいまのグローバリズムの、金融に端を発する大きなメカニズムにどのくらい修正を加えられるかというと、なかなかよく分からない面があるけれども。

 ただ、この40年、50年というのはだいたいそうやって民主主義は騙し騙しやってきているわけですよね。だから、それが「現状では十分に対応できないので、民主主義を進化させる必要がある」ということの意味ですよね

工藤:進化?


世界の民主主義論と日本の民主主義論の違い

田中:これは、世界的な民主主義一般論と、日本の民主主義はだいぶ違いが出てくると思いますよ。

 たとえばアメリカの民主主義を進化させようと言っている人たちは、大統領制をやめて議院内閣制にしましょうとか、連邦制ではなくて中央集権にしましょうとか、言う人はいないんですよ。今のアメリカの民主主義は、基本的な構図は19世紀にできあがったシステムをそのまま使っている。これを進化させるというのは、進化させるときにどういう有能なリーダーを発掘してくるかとか、それに加えて幾分かはITの技術をどう使うかとか、運動をどうするかということで、だからそんなに革命的な変化ではない。

 ただ、どうも我が国の議論を見ていると、民主主義がものごとをおくれさせる政治体制だと言い、慎重にさせる体制だと言いつつも、ここ10年くらいのこのあり方はもう少し何とかしないといけないという機運は大きくなっているのではないでしょうか。

深川:ただ、かなりの方は民主主義の体制と言うよりもリーダーを生み出せないこの国の体質に、だから民主主義の制度をとっているけれども、その中でリーダーを生み出せないから、結局、衆愚政治か、たらい回しか、どっちかになってしまっているのではないかと。それで何も決められないストレス、それが先に立っていると思うのですけど。

 日本の場合は、バブルで踊っていない、踊れなかったので、マードック的な人はいないわけですよね。みんながある意味で貧乏になっていっている、デフレの中で。なので、なかなかアメリカの構図とは違うと思います。

 やっぱり自民党は冷戦対応型の体制だったから、冷戦とともに崩壊すべきだったんですよ。でもちょっと長生きしてしまい遅れてしまった、その間に世界のグローバル化が進んでしまって、余計、対応が困難になった。だから日本独特なところもあると思います。

工藤:アンケートでは、毎年、既成政党不信がどんどん高まっているのですよ。


政党への不信感はあっても、民主主義不信ではない

田中:それは割と自然だと思います。自民党はダメだと思ったから追い出して、新しい政権に代えてみたら、これもなかなかうまくいっていないとなると、どの政党もだめなんじゃないかという不信感が強まるのは、ある程度自然だと思います。ただ、政党はダメだという不信感はあるけれども、じゃ民主主義に代わるものをなんとかしましょうという意見は強くは出ていないと思います。

 だから、どちらかというと、問題は、固い政党支持者が少なくなっていて、ほとんどの人がみんな「私はどの層も政党も支持していません」という人。そういう人が多数派なのですね。

 これはアメリカと違うところですが、民主党支持者、共和党支持者という強固な支持者が何割かいるんですよ。だから、オバマさんへの支持率がどんなに悪くなっても40%くらいはあるのですよ。ところが、民主党と自民党の強固な支持者は10%くらいしかいない。だから、間の人たちが飽きるとすぐに10%くらいになってしまいます。この辺は、日本の世論の特徴が現れていると思いますね。

工藤:また休息を挟んで、日本の問題を議論したいと思います

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