言論スタジオ

農協改革で日本の農業は強くなるのか

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2015年2月27日(金)
出演者:
大泉一貫(宮城大学名誉教授)
山下一仁(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)




工藤:今回の農協改革を通して、今後の日本の農業がどう変わるか、あるいはどう変わるべきかについて議論していきたいと思います。


一連の農業改革について、悲観的かあるいは判断を迷っている人が多数

 ここで有識者アンケート結果を2つ紹介します。1つは、「今回の農協改革の他に、減反の廃止、農地集積など農業を成長産業にするための改革をどのように評価しているか」尋ねました。「日本の農業は成長産業に向けて着実に動いている」との回答は11.6%、「成果は出始めているが、今後も成功できるか現時点では判断できない」が33.5%で最も多くなりました。そして「日本の農業の将来像をどう描いているのかわからず、かけ声だけに終わる」との回答が25.2%、「この段階で評価を下すのは適切ではない」が28.4%ですから、改革は動き始めているが判断するのは時期尚早というように、まだ厳しく見ているという状況でした。

 そしてもう1つは、「一連の農業改革がTPPなどの自由化に備えるための道筋が描かれているか」尋ねたところ、「十分な道筋が描かれたと思う」と回答した人は1.9%でほとんどいませんでした。「十分とは言えないが、一定程度の道筋は描かれたと思う」が42.6%、「道筋が描かれたとは言えない」も38.7%で4割ぐらいいらっしゃいました。そして「経済の自由化により、どちらにしても日本の農業は立ち行かなくなる」との回答は10.3%となりました。

 農協改革の支持者が約8割いましたが、農業改革の全体像や最終的な絵姿が見えていないということで、農協改革に賛成する人たちも厳しく評価しています。では、日本の農業の産業化を達成するためには、何が求められているかについてお話を伺います。


農協から金融・保険の機能を切り離し、主業農家主体の農業組織に組み換える

山下:今の農協の繁栄と農業の衰退は、結局、米価を上げるという農業政策が兼業農家を滞留させ、その滞留した兼業農家の所得がJAバンクに流れて農協が発展したという構造から生まれています。つまり金融機関としてのJAと農業政策を行う組織としてのJAがずれた形でマッチングしてしまった。その結果、農業は衰退するけどJAは発展するというちぐはぐな状況を生み出した。ですから、そうしたちぐはぐな状況を是正するためにも、両者の組織を切り離すことが求められています。現在のJAは、金融機関であり保険の機関ですから、誰でも加入できる准組合員が多くいて、実態は地域協同組合です。しかしその地域協同組合が農業についてもいろいろなことを主張している。そこで、今のJAは、農業の部分は切り離して地域協同組合にさせて、金融事業なり保険事業なり、また生活物資の供給をやってもらう形が望ましいと思います。そのかわり、農業については農業協同組合の本旨に則って、主業農家が自主的に協同組合を作れば、兼業農家は入れませんから、主業農業主体の農協が出来る。その人たちが政策提言をすれば、大規模な効率的な農業にするという道筋が描けると思います。農業協同組合と地域協同組合を2つに分ける必要があるということです。

大泉:やはり機能は分けていく必要があると思います。多分、農協の組合長さんは「農協はそもそも何か」という自己規定できていないのだと思います。農協は既に矛盾統合体で、協同組合なのか株式会社なのか、農業振興団体なのか金融機関なのか、農業者の団体なのか地域住民の団体なのかわからない。


市場経済を否定するのではなく、ビジネスモデルが重要だという意識改革

大泉:また、市場経済に賛成しているのか反対しているのかわからないところがあります。農業振興するときに市場経済を否定してしまっては発展のしようがない。成長モデルをつくっていくためには、市場でどのようなビジネスモデルを作るのかが必要なので、今の農協の組合長さんがそこを理解できるかが重要です。

 というのも今の農協は、米価とか乳価とか価格交渉ばかりやっています。ところが世界の協同組合は価格交渉なんてやっていない。むしろフードチェーンを作って、農家は需要があればつくりなさいと求めている。例えば酪農、生乳などは、協同組合が最終的に付加価値の高い商品を作ります。生乳だけでなく、チーズもバターや薬まで作ります。儲かった分は、農家に還元します。つまり付加価値を付けた部分を農家に還元しながら協同組合として成長していくという構造です。そのような共同組合を今の地域の農協が作れるかどうか。作ろうとしている農協もありますが、そういったモデルを伸ばしていく必要があります。

 他方で、山下さんがおっしゃるように、地域協同組合の部分は地域協同組合として自立することが求められます。但し、その場合は、漁協や生協などとイコールフィッティングが必要になってきます。そうなると、現在の農協が持っている金融や共済を切り離さなければ(信用・共催分離)、地域協同組合にはなろうとしてもなれません。そうなると経営戦略を持ちながら地域協同組合として自立する体制を農協自身が作らなければならないことになります。こうした課題を1つずつクリアしていく必要が出てきますが、誰が絵を描いて引っ張っていくかという次の問題があります。 

工藤:そこまでの全体像があるのかということと、どれぐらいの期間のなかで動くのでしょうか。

大泉:今の農協は戦後から始まり、1990年前後に財政基盤がおかしくなったということもあり、農協同士が1県1JAへ合併したり、県連が全農と統合するなど二段階制への移行を全中が主導して行いました。途中、住宅金融専門会社の問題があり、拍車はかかりましたが、それでも20年くらいかかりました。生産調整廃止や準組合員の利用規制に5年かけるということなので、少なくとも10年はかかると思います。その10年以内で農業を一生懸命やる農協にして、地域住民を巻き込むような農協にする。その絵柄を現実なものにしていくという改革ができるかということです。

工藤:その絵が政府の中にあるのかということに関心もあります。現在、農家の平均年齢が66歳という状況の中で、そうした改革に10年ぐらいかかるということは、それだけ農業者も年を重ねていくわけですよね。そうした状況で、日本の競争力、農業を強くしていくという点では、見通しは明るいのですか。


日本農業の再生には、農地の集約と経営者の導入が必要

山下:高齢化はいいチャンスだと思います。実は日本の農政の構造改革を言い出したのは、柳田國男です。そして1961年の農業基本法の構造改革によって、農家の所得を上げようという発想に繋がりました。つまり発想は常に同じです。日本は農地が広くないから、農家収益を上げようとすると農家戸数を減らしていく必要があります。ですから、高齢化して農家戸数が減ることはチャンスです。高齢化して抜けてもらえば、残った人が規模を拡大できます。現状でも高齢農家ばかりで集落でも農業ができていない状況です。したがって集落の外から担い手を呼び込んで、農地を集積して農業をやってもらうことで、効率の良い農業ができます。都道府県の米農家のほとんどが1ヘクタール未満ですから、農業の収益はゼロです。ところが20ヘクタール以上では、1400万円稼いでいます。だから1人に20ヘクタール以上を任せて稼いでもらい、集落のみなは農地の維持管理の対価として、地代として配分をもらうという構造を作らないと日本の集落の未来はない。逆に言うと、規模を大きくすることで、農業は担い手、農地の維持管理は地主の人、そうした役割分担の仕組みを作らないと日本の農業は上手くいかないと思います。

工藤:最後の有識者アンケートを紹介します。「稲作農業が持続可能になるためには何が必要か」を尋ねました。一番多いのが「青年農業者、企業など新規参入の拡大による新たな『担い手』の確保」で65.2%、その次に多いのが、「零細兼業農家から大規模主催農家への農地集約、農業経営の大規模化」、「農業生産法人の出資・事業の要件緩和」との回答で半数以上の人たちが必要だと思っています。こうした回答をどう見るかと点と、これから日本の農家が強くなっていくための案についてお聞きしたいと思います。

大泉:そこはどちらのロジックが勝っているか、という戦いなのだと思います。私は、稲作経営者が1人いればいいと思っています。要するに、現状では30ヘクタールの面積で30人の農家がいて、30人がみんな150万円から200万円の赤字を生み出しています。ただ経営者が1人いれば1億ぐらいの売り上げが上がる例もあります。そのくらいの経営力というのが今の農家に必要です。

 そして現在、日本は高齢化などで年間5万戸余り農家が減っていて、このペースでは10年経てば約60万戸が減ることになり、今の3分の1ぐらい農家戸数になります。そのくらいの人数でもできる農業を考える必要があります。現在の日本で、5000万円以上売り上げている販売農家は1%もありませんが、日本の農産物の3分の1を生産しています。零細農家は8割弱いますが、全体の15%しか生産していません。構造改革で5000万円以上の人たちを後3%増やせば、日本の農業産出力は倍増します。そうした構造改革が農協だけでできるかという話です。農協は組合員として農家が欲しいから、構造改革すると組合員がいなくなると主張します。しかし組合員がいなくなることが問題なのか、組合員がいなくなっても産出額を増やすことがいいのか、この議論のどちらを支持するのかということだと思います。

山下:農協改革で全く提案されていないポイントですが、今の農協は1人1票制でやっています。大規模な農家も中小の零細農家も1人1票。農地改革をやった直後で、みんなが1ヘクタールの世界ではそれで良かったのですが、大規模農家も兼業農家もいる状況で1人1票主義はおかしいわけです。世界の農業協同組合では、利用の大きい大規模な人ほどたくさんの発言権を持つ形式にだんだんと変わってきています。本当は日本の農政は1960年代から1970年代に改革を実行すべきだったのですが、それができなかった。将来の農協改革はそこに行き着かなければなりません。そこまでいけば日本の農業を活性化する、本当に農協が日本の農業を活性化する推進役になると思います。

工藤:続きを聞きたいのですが、時間になってしまいました。おそらくこの議論をご覧になっている人たちは、メディアで報道されるように、単発の農協はどうだという話だけではなくて、改革の先にはどのようなビジョンがあり、日本の農業の在り方も併せて考えていかなければいけないのではないか、と多くの人が考えたと思います。今後、こうした改革がどのような展開になっていくのか、言論NPOでも引き続き議論を深めていきたいと思いました。

 ということで、今日は日本の農協改革が日本の農業の競争力の向上にどう寄与するのかについて話し合ってもらいました。ありがとうございました。


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