2006.2.17開催 アジア戦略会議 / テーマ「パワーアセスメント」

2006年2月23日

060217アジア戦略会議
 アジア戦略会議では現在、日本の将来構想をめぐってこの会議で既に提案している様々な仮説についての再検証を行い、そこから新たな課題や論点を抽出しながら議論形成を進めています。

小島明氏スピーカー:小島 明(日本経済研究センター会長)

 今回は、日本経済研究センター会長の小島明氏をゲストスピーカーとして迎え、2030年に向けた世界の潮流や日本の強さ弱さ(パワーアセスメント)の検証を含め、この会議での議論プロセスを踏まえた日本の今後の課題を中心に、議論を行いました。

 小島氏は、まず、日本のパワーアセスメント(言論NPOが提示した「戦略マップ」のマトリックス)については、一国の「強さ、弱さ」は現在、国によってダイナミックに変動しているとし、冷戦体制崩壊後、世界では、経済制度を中心に中央集権型システムが崩壊し、市場志向になる中で、全ての国が、社会のダイナミズム追求のための制度改革の大競争に入っていると指摘しました。そして、戦略マップでは、環境やエネルギーを資源という視点から見れば弱さの要因になるが、実際の技術やシステムの面で見れば、強さに分類されるように、日本の強さを点検すると、弱さが原因になっているところがあるとしました。

 つまり、一国の競争力は与えられるものではなく、政策や人々の意識の方向付けによって、つくり出すものであるという指摘です。直接投資は戦略的に非常に重要ですが、それも使い方によっては、競争優位を国境を越えて動かしていきます。国全体としての産業競争優位は絶えずシフトしており、リカードの古典派の世界、すなわち、生産要素が国境の中に閉じ込められているという前提が変わってきていることに留意すべきです。競争力を議論する場合の状況が基本的に変化したという視点での政策の取り組みが日本ではなさ過ぎたというのが小島氏の指摘です。

 すなわち、パワーアセスメントで重要なのは、状況の変化を乗り越えて、次々と競争優位を持つような新しい産業や企業をダイナミックに生んでいくシステムとしての持続的な力があるかどうかです。日本の改革もこうした発想で議論しなければ、世界の時代潮流から外れてしまうと小島氏は指摘しました。

 現実に、これまで日本は、エネルギー(石油ショック)や環境(公害問題)に見られるように、弱さを危機感をもって克服することから、それを強さに転換してきました。今後は、高齢化が世界最速で進みますが、それに的確に対応すれば、高齢人口社会のニーズに合ったシステム、商品、サービス、技術の構築を迫られ、やりようによっては大きなチャンスになります。少子化についても、中期的には、省エネ、省資源、ロボティックスなどを生み出すきっかけになります。意欲や能力ある者が圧倒的多数を占める高齢者の活用は、日本の経済社会の活性化につながりますし、少子化対策の中で将来に対する夢を若い世代にいかに生み出すかは、日本の政治に問われる課題です。

 こうした点を踏まえ、小島氏は、日本の本当に弱いところは何か、弱くても良いことと、弱くては困るところは何か、困るところがあれば、危機意識をもって対応し、その弱さが背景になって強い分野になる、こうした視点が重要であると強調しました。

 加えて、小島氏は、日本の従来型システムはリスクフリーのキャッチアップ型モデルであり、リスクを取る人が応援されない社会だったのが、85年の円高以降、世界最高コストで競争力を維持しなければならなくなり、パラダイムが根本的に変化したと指摘しました。そこでは、ポストキャッチアップ型のモデルをいかに構築するかが問われます。先進レベルよりもさらに深みのある本当の意味での成熟が求められ、新しいフロンティアに挑戦すべく、日本自らが、個人でも企業でもリスクを取ってチャレンジすることが不可欠です。こうした時代潮流の変化を踏まえて、政策を戦略的に組み立てるという知的格闘が様々のレベルで必要になっているというのが小島氏の指摘です。

 また、小島氏は、日本はマーケットを提供する魅力度という競争力では中国に劣後し、マーケットは戦略的に使える重要なものだという発想が必要だとしました。そして、日本が世界に伝えるべきメッセージは、単に自国が経済回復したことではなく、中国やインドの台頭、アジアの統合というものに対して、日本の国家としての戦略は何かということであるべきだとしました。

 最後に小島氏は、国内での改革論には、まだ改革もしないうちに改革疲れが出ており、格差問題が喧伝される中で、日本が再び社会主義体制に戻ることへの懸念を表明し、重要なのは、対応しなければならない弱さに真剣に対応する戦略性であるとして、スピーチを結びました。

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 その後、メンバーとの間で意見交換が行われましたが、そこで出た指摘は、日本にはアメリカのように戦略的に物事を考える土壌がなく、もやもやとしたもの、いわばマドルスルーで行くということが行われてきたのであり、むしろ、それをいかに加速するかということが重要ではないかということでした。これに対する 小島氏の見解は、そこで重要なのが危機意識であり、マドルスルーに方向性と速さを出すような危機意識をどう起こすかが、言論力や知的リーダーシップに期待されているということでした。社会の意識を変える、そのために問題意識のある人たちが絶えずメッセージを出すことが求められています。

 そのためにも、言論NPOでは、こうしたアジア戦略会議などの場を通じて、日本の言論力を高め、改革推進に向けた原動力となるような議論を次々に形成していきたいと考えています。

 次回のアジア戦略会議は、栗山尚一氏(元駐米大使)をスピーカーに迎えて、3月17日に開催する予定です。


今回の出席者は以下の方々でした。(敬称略)

小島 明(日本経済研究センター会長)

福川伸次(機械産業記念事業団会長・元通産省次官)
安斎隆 (セブン銀行社長・元日銀理事)
黒川清 (日本学術会議会長)
周牧之 (東京経済大学准教授)
添谷芳秀 (慶應義塾大学法学部教授)
中平幸典 (信金中央金庫理事長 元財務官)
深川由起子(東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授)
横山禎徳 (社会システムデザイナー)
工藤泰志 (言論NPO代表)

 アジア戦略会議では現在、日本の将来構想をめぐってこの会議で既に提案している様々な仮説についての再検証を行い、そこから新たな課題や論点を抽出しながら議論形成を進めています。