「2002.11.5開催 アジア戦略会議」議事録 page2

2002年12月17日

〔 page1 から続く 〕

福川 ゲストスピーカーのお二人からご見解を伺う前に、国分先生、中国のご専門の立場からいかがでしょうか。

国分 今非常に鋭いご指摘をいただいたと思うのですが、ここで最近の情勢を幾つかお話ししたいと思います。間もなく党の大会が開かれます。新しい党大会でどういう布陣になってくるか。多分、江沢民氏が圧倒的な優位性を持つことは間違いない。もちろん引退ということになるかもしれませんが、隠然たる力を持つことは間違いないです。台湾問題については、今のところ予想されるところでは、江沢民直属の台湾問題担当は曾慶紅になりそうだということです。恐らく外交系統では従来の汪道涵の役割を銭其シンが担うという予想が今出てきています。銭其シンは実質的にこれまでも少し台湾問題を担当し始めていました。ただ、銭其シンはもともと江沢民の系列ではありませんで、曾慶紅はもちろん江沢民の直属ですから、そういう形でやっていくのだろうなということが、最近の情勢の1つです。

それから、2つ目は、江沢民が台湾問題についてこの何年かかなり力点を置いてきたということです。依然としてこれから江沢民が背後にせよ力を持っているとすれば、江沢民自身がこの問題の解決なくしてという話をしていたわけですから、恐らく今後も台湾問題は最重点課題になっていく。とりわけ9月11日のテロ事件以降、中国はアメリカが中東に目を向けたという瞬間から台湾問題にかなり力点を置き出した。同時に、その背後に台湾経済の空洞化の問題があるわけです。既に100 万人と言われる台湾のビジネスマンが大陸にいる状況になってきて、特に半導体などを中心に日本よりはるかに深刻な空洞化の状況が起こってきているということです。ですから、こういうところから台湾の中でも若干雰囲気が変わってきている部分があります。つまり、政治のことばかり言っていられない状況もあるという現実があるということです。これは忘れてはならない。

3つ目は、先ほど秋山さんから、台湾の問題は、独立宣言によって、将来的に紛争が起こるかもしれないというお話がありました。1つの最悪のシナリオですけれども、もう1つ、極にあるシナリオとして統一という可能性があるわけです。どういう形かわかりませんが、統合でもいいのですが・・・。いずれにしても、台湾が中国になるということが、日本の安全保障にとってどういう意味を持つでしょうか。我々は両極端のシナリオの間の中で、どこに落ち着くのかを考えなくてはいけないことだと思います。

台湾内部の最近の傾向とアメリカとの関係で4点目を申し上げると、最近おもしろいことがありました。ブッシュ大統領が江沢民とテキサスの牧場で会いましたが、その時の新聞に、台湾の独立不支持と出たのです。けれども、あれはどうも言葉を間違えて、ブッシュは最初にopposeという言葉を使ったらしいのです(againstという言葉ともいわれる)。実はoppose という言葉はこれまで使ったことがないんです。クリントン時代から、基本的に台湾問題については独立を支持していない。それをブッシュは、We do not support というところをどうもopposeと言ってしまったらしくて、それで中国は言質をとったというので、中国の文献の中には全部反対と書いてあるのです。アメリカのホワイトハウスから出ている文献は全部We do not support となっていますが。そういうおもしろい後日談もあります。

いずれにしても、日本は李登輝さんとのパイプが非常に強いですから、そこからいろいろな台湾情報が入ってくるのですが、アメリカの場合は必ずしも李登輝さんとそれほど関係がよくなかったという背景があります。むしろアメリカとつながっている人たちは結構大陸系の人たちが多いですから、そういう意味では、たとえば最近の陳水扁の一辺一国論、それぞれ別の国という発言に対してアメリカがかなりきつく言って、陳水扁がびびってしまったというのもありました。アメリカはそういう傾向が恐らく底辺にはあるのかなという感じがします。

お聞きしたいのは、米中の最近の軍事交流をどう見たらいいのかということについてです。それから、アメリカのNATOの東方拡大、ロシアが準加盟していく。あるいは、インド洋上で、アメリカとインドの軍事共同演習が行われている。そういう形でアメリカの対テロ行動はかなり強くなってきているのだろうと思うのですが、その辺をどういうふうに全体の中でとらえたらいいのかということを、河野さんにお聞きしたいと思います。

もう1つ、これは秋山さんにも伺いたいのですが、この間の北朝鮮の核開発問題ですが、パキスタンのガウリとほぼ同じであるということは、北朝鮮のものがパキスタンに行ったのかどうかということになるでしょう。そのかわりパキスタンが一定程度北朝鮮に対して核の情報を提供したのかどうか。パキスタンの核そのものについては、恐らく中国から情報がある程度行っているといった連携性があるのだと思うのですが、もちろん中国は多分北朝鮮への供与については知らなかったのだろうと思います。問題は核弾頭を詰め込む技術的能力はどういうふうに判断したらいいのかということです。なかなか明確にならないかもしれませんが、その辺を少し教えていただければと思います。

それから、情報を1つだけ申し上げると、中国と北朝鮮の関係はかなりよくないですね。中国にとってみると38度線の現状維持が最も重要でありますから、もちろん絶対に両国が決裂することはあり得ないです。ただ、例の特別行政区の新義州の楊斌(ヤンビン)氏に対する拘束が今も続いています。さらに彼の関連者がどんどん中国の中で逮捕されているということです。そういう意味では、中国と北朝鮮の関係は複雑で、北にとってみると、中国をなかなか信用しにくい面が出てきている感じはします。

秋山 中国問題についてお答えしたいと思いますが、先ほどのプレゼンテーションで、一番大きな問題である中国問題を省略してしまった点をおわびしておきたいと思います。

中国問題を考えるとき、台湾問題が具体的な大きな問題の1つなのですが、我々が注意しなくてはいけない、議論しなくてはいけない問題が幾つかあると思います。それはまず、日米安保体制についての中国の評価が変わったということです。それを一応我々は考えなくてはいけないのではないか。従来はアメリカにも日本にもオールド・ボーイズが瓶のふた論を言っていたわけで、中国はすべてをそれで評価していたわけではないにしても、日本の軍国主義の復活を抑えるためにも日米安保はある程度評価するというのがあったと思います。つまり、日米の軍事同盟である限りにおいては、中国としてはそう心配をしないということであったわけです。

ところが、1996年の台湾海峡緊張事件のときに、唯一外国に部隊のある横須賀の空母、戦闘軍団が台湾に行った。その直後の日米安保共同宣言で日米防衛協力の指針の見直しを始めた。そして、ガイドラインの見直しがその1年後に行われ、その2年後には周辺事態安定確保法ができた。どうも台湾がその中に入っているのではないか。こうした一連の動きの中で、日米同盟が将来の中国の軍事も含めた国力の前進に立ちはだかる勢力なのではないかと思うようになってきた。

特に海軍力について見ると、アメリカと日本を合体した海軍力は相当なものです。日本はアメリカなくして力が発揮できないと思いますが、アメリカにとって日本の海軍力は相当の役割を負っているものですから、中国はそれに大分懸念を持っている。こういうことからして、日米安保に対する評価が変わったと思います。私は、変わってけしからんとか、そうじゃないですよとは中国には全く言いませんが、中国側がかなりリアルに日米同盟の力を意識し始めたということを我々も認識する必要があります。

それは中国が、ブルー・ウオーター・ネービーといいますか、海軍を中心にした海洋力をつけようとしているが、そこに立ちはだかっているのが日米同盟だという意識だと思います。これは台湾問題にも非常に絡んでくるのです。極端な議論をすると、国分先生が言ったように、台湾が統一されると、あの辺のEEZも含めると中国に非常に大きな海域が所属することになって、海洋面でのある意味で支配権の争いが出てくると私は思います。

ただ、先ほど国分先生が言われた、統一されたらということについては、一応中国が今オファーしている話は、台湾は別の軍隊を持ってもいいということです。しかし、統一と対立の中間の状態のときに台湾が大陸と別の軍隊を持っているということが、米台関係や日台関係に対して、どういう意味を持ってくるのかというのは非常に重要なポイントだと思っています。

それから、今の問題にも絡みますが、今後、海洋問題というのはかなり中国との関係で出てくると思います。資源問題とか、環境問題も場合によると将来国家間のかなりの紛争事案になり得ると思います。

あと、中国問題について私が申し上げたいのは、日中関係の問題はありますが、これはよく議論されるので省略するとして、米中関係を我々は冷静に見ていかなくてはいけないのではないかということです。最近、安全保障の分野でアメリカはかなり強硬なことを言っていますが、私は中国の友人に、連戦連敗で、結局中国は最終的にはアメリカの言うことを聞かざるを得ないでしょうと言っているのです。ブッシュ政権はクリントン政権ほど人権問題について言いません。しかし、安全保障とか政治の分野で幾ら厳しいことを言っても、経済関係について断ち切るということは、特にブッシュ政権はしないと思いますし、アメリカの基本政策は戦前から、中国の市場をある意味で絶対に確保するという戦略をずうっと持ち続けていた。言うならば、大統領以下、政治、産業分野まで全部ひっくるめて政経分離がかなりはっきりしているのではないかという気がするほどですから、米中関係を我々は冷静に見ていく必要があるのではないでしょうか。

アメリカに行ったら、よくわかりますが、アジアの問題は90%中国の問題ですね。ハーバードでもワシントンでもいろいろ議論しますが、秋山さん、残念だけれども、アジア問題といったら大半が今は中国の問題ですよ、と言っています。それはもちろん問題があるから中国の問題ということはありますが、やはり中国との関係はアメリカでは非常に重視されている。そこを我々はもちろん見落としてはいけないということであります。

断片的で申しわけないですが、もちろん中国を敵にするのは愚作と私は言いましたが、方向性として、日・米・中は、何と日本語に訳したらいいか、コオペラティブ・セキュリティ・スキームというのでしょうか、要するに、決して同盟国ではない、かつては敵対国だったかもしれない。政治的には日本と中国などはライバリーだと思うのです。しかし、日本と中国とアメリカは、そういう関係でありながら安全保障分野でいろいろとシェアできる国だと思うのです。つまり、この地域の安定はすべての国にとってプラスだし、特に中国にとっては安定が必須条件だと思うのです。アメリカからしても安定というのはアメリカの国益に非常に合致しますし、日本は言うに及ばずということで、共通の利益は根本においてあるわけですから、日・米・中の安全保障分野での協力ないし対話というのが追求すべき非常に大きな課題だと思います。

具体的な活動に入ろうとすると、一番の障害は、中国が、民間レベルではかなり議論をしますが、政府レベルになると非常に警戒をするところなのですが、それでもやはり、安全保障分野での協力と対話を追求していくべきだと思っております。

河野 全体の流れとして、アメリカは、冷戦中はアライドでしたが、それがコアリションの方に移っている。したがって、今のNATOの件も、インドの件も、中国の件もそうですが、要するに、当面の問題を処理するためにコアリションでやる。したがって、米中の交流も、中長期的なことは別にして、当面の問題、今のテロの問題を処理するためのコアリションという概念でもって今の交流は進み出していると私は思っております。

インドについてもそういう面があります。特にインドとアメリカとはマラッカ海峡の防衛訓練をやったんですが、これは初めてです。というのは、アメリカはインド洋をコントロールできる海軍はインド海軍だと評価しているわけです。したがって、いわゆる対テロ戦争においてマラッカ海峡がキー・ポイントになっているので、ここを管制する。実際に訓練をやったということで、今のアメリカのスタンスでは、当面の脅威の対テロに対応するため、ひとまずアライドからコアリションの方に重点を移した活動になっているのではないか。したがって、今のNATOへのアクセス、中国へのアクセス、インドへのアクセス、すべて根底はそこではないかと思っております。

したがって、日米安保というアライドも重要ですが、日本もコアリションの方に何とかアクセスする道を広げておかないと今後非常に行き詰まるのではないかというのが私どもの認識です。

最後にインド洋の話ですが、インド洋へは今海上自衛隊の補給艦が2隻行っています。これは2隻が交互にやっていて、それを3隻の護衛艦で守るというオペレーションです。海上自衛隊は今4隻の補給艦しかないので、そのうち2隻行かしていますから非常にきついのです。しかも、アメリカ海軍が戦争で消費している油の40%は日本が補給しています。日本の予備費によるものですが、今のところ1年やって、トータル約80億です。湾岸の1兆5000億に比べれば安いと言えば安いわけですが、この戦争は10年、15年続くかもわからないですから、いずれかの時点で必ず今後一体どうするかということが問題になってくると思います。

加藤 秋山さんに1つお聞きしたいのですが、ASEANの国から見ると、日本の安全保障面での力というのはどういうふうに評価されているのでしょうか。全く眼中に入ってこないのか、あるいはアメリカと協力して中国を牽制してくれればそれでいいということになるのか。

秋山 先に言ってしまうと、ASEANの中に太平洋戦争中の旧日本軍に対する悪いイメージを持っている人は残っています。シンガポールだって残っていますし、どこにも残っています。しかし、現時点では、まず共通項は、日米安保体制が磐石なものとしてアジア・太平洋地域のラスト・リゾート、日本の自衛隊がラスト・リゾートとして軍事力を使うということではないのですが、日米安保体制がアジア・太平洋地域の最後のある意味で軍事的な力になってほしい、特に中国を意識して、ということは共通項としてあると思います。

それプラス、最近、特に海上自衛隊との共同訓練をしたいという話がかなりあります。シンガポールは自分の領土内で訓練する場所がなかなかないものですから、台湾に行ったり、いろいろなところに行ったりして訓練をやっているわけですが、日本とやりたいという気がずっとあって、それが、やっと先般、潜水艦救難訓練ということで実現をしたわけです。そういう形で、アジアの人たちの自衛隊に対する意識は相当変わってきていると言っていいと思いますね。特に昔からインドは片思いです。インドは国としても片思いだったと彼らは言いますが、インド海軍は昔から日本とやりたい、シーレーンを守るのはおれたちだなんて言っていました。日本が全く対応しない間に、結局アメリカにすら先を越されてしまったということですね。

経済力が落ちたのだったら、安全保障の分野でいろいろなところで提携活動をしたらいいと思うのですが、そういう発想は全く日本にないから非常に残念だと思いますよ。(笑)はっきり言って、国民的なアセットを本当にアメリカに使われているという感じです。

深川 1つだけぜひお伺いしたかったのですが、私、FTAの自由貿易協定の仕事を最近ずっとやっているものですから、安全保障との関連は割と気にしているのです。中国は明らかに日韓FTA、日本ASEAN-FTAを嫌がっていて、特に日韓はすごく嫌がっています。それで、あらゆるところで分断しようとして、韓国を日・中・韓でやろうというリーグに引き込もうとしているんです。ワシントンから来る人たちは、ブッシュ政権になってから変わったようですが、きょうの秋山先生のお話のように、日米グループの中に韓国もくっついてくるのがいいと思っている。だから、この前のAPECでもアメリカASEAN-FTAというカードを切ってきました。それは、日米グループが基軸で、FTAというのは、政経分離といっても、しょせんは国と国で結ぶものです。民間主導の経済交流と、FTAを国として結ぶというのは違う次元の話なので、当然安全保障もかかわってくる。アメリカとしてはそういうグループがアジアにできるのを望ましいと思っている様子があるのです。ワシントンの特に制服組の人たち、あるいは安保関係者は政経分離をどの程度考えているのでしょうか。

秋山 政経分離といった趣旨は、アメリカはとにかく中国の市場、中国との経済関係を極めて重視しているという意味で言ったわけです。そういうコンテクストの中でも、アメリカは、例えば日本が韓国、中国とともにFTAに走るなどということについては拒否的な反応が多分あると思います。だから、日本が今回慎重に対応した背景には、これまでのいろいろな議論の中でのアメリカの意見も反映している可能性はあると思います。つまり、アメリカが今非常に心配しているのは、アメリカの手を離れた日中とか日・中・韓とか例のASEANプラス3というあたりで、これらには非常に神経を使っています。別に反対とは言っていませんが、あれが本格的に動いていくと、日本も韓国も中国にからめ捕られてしまうのではないかと心配しているわけです。特に台湾の反中国的な人たちはみんなそういうことを言っています。いずれ日本なんていうのは中国にとられてしまう、そういうことなんだとアメリカでも言っていますよ。ですから、アメリカは割合と単純ですから、そういうことは非常に注意しているというのがあると思います。

それから、中国は今非常に自信を持っていますよね。間違いなく大きく経済成長していて、国を挙げて働いているという感じがありますから。経済を手段にして台湾もひょっとしたらからめ捕れるかもしれない。もしかしたら韓国、場合によったら日本も吸収できるかもしれないということを考えていると思います。明らかに貿易状況を見ると、中国と日本には物すごい相互依存性がありますから、そういう戦略を中国がとっている可能性がある。

私、今の質問について、ちょっと評論家的な言い方をすると、韓国あるいは統一朝鮮が海洋国家になるのか、大陸国家になるのかというのに、非常に関心があるし、カギを握る重要なことだと思うのです。それを定義しなくてはいけないのですが、単純に言えば、海洋国家として、自由主義経済、あるいは日本、アメリカを重視していく国家になるのか。それとも、地政学的あるいは歴史的にいって、非常に大陸指向といいますか、中国の方に向いていく大陸国家になるのか。

深川 韓国は完全に精神分裂していて、今はもう困った状態で......。

秋山 統一朝鮮は、仮に韓国がイニシアチブをとっても、今よりずっと中国に近くなるだろうと私はいつも警鐘を鳴らしているのですが、アメリカなんて余りそういうことを考えていませんから、そんなことはないよと言っています。

深川 韓国は、インテリはみんな100 %アメリカのPh.D. ですからアメリカのOSで動いているのですが、地政学的には中国の土手っ腹にあるので、それはやっぱり中国寄りをとらざるを得ない。つまり、頭と体が分裂していて、これからも非常に大変ではないかと思います。

福川 それでは、そろそろ時間ですので。きょうは大変貴重なお話をありがとうございました。


以上

国分 今非常に鋭いご指摘をいただいたと思うのですが、ここで最近の情勢を幾つかお話ししたいと思います。間もなく党の大会が開かれます。新しい党大会でどういう布陣になってくるか。多分、江沢民氏が圧倒的な優位性を持つことは間違いない。もちろん引退という