「2002.9.13開催 アジア戦略会議」報告

2002年9月13日

020913_01.jpg今回は、国分良成氏(慶応義塾大学教授)による中国地域研究の立場からの、イェスパー・コール氏(メリルリンチ日本証券チーフエコノミスト)によるドイツとEUの関係を踏まえた、それぞれのお話に対して質疑応答が展開されました。


今回は、国分良成氏(慶応義塾大学教授)による中国地域研究の立場からの、イェスパー・コール氏(メリルリンチ日本証券チーフエコノミスト)によるドイツとEUの関係を踏まえた、それぞれのお話に対して質疑応答が展開されました。

「アジア戦略会議」では、21世紀の対アジア中長期戦略を描き出すことを目的に議論を重ねていきますが、そのためにはアジアと日本の関係だけを見るのではなく、日本の将来像を含めた総合的視点での議論が不可欠と考えています。そうした視点に立った場合、アジア戦略を考える上で無視することのできない中国の現状や外交戦略を検討すること、および、日本と同じ敗戦経験をもちながらヨーロッパ統合を着実に進めてきたドイツの経験から学ぶことは、非常に有意義と考えました。そこで今回は、会議のメンバーである国分、コール両氏にそれぞれ専門の立場からお話を伺い、そこから議論を出発させることになりました。

会議はまず、国分教授のお話から始まりました。

国分教授は中国の現状を8つのポイントにわけて説明。まず、中国が経済的には決して1つのまとまりある国ではなく、地域的多様性をもち、地域格差が拡大しているという重要な特性を指摘。そして、そうした状況下で国家としての一体性および政治権力を維持するためには、社会主義市場経済のもとでの経済成長、特に内陸部と西部の開発が必至であること、そのために中国では経済成長と政治が密接な相関関係にあることを第2の特徴として挙げました。

しかし、自力での成長には限界があるため中国の経済成長は外資依存型になっていること、そのため対外協調路線をとらざるを得ないことを第3、第4の特徴とし、それが中国の対米外交重視、特に昨年の全米同時多発テロ以降の対米政策への集中につながっているとの説明がありました。

しかしながら、現実には中国外交は現在非常に苦しい状況にあるというのが第5の特徴。つまり、ロシアのNATO準加盟やG8への正式参加などで中国封じ込めラインが出来上がる危機感などから、中国はいかに対米関係を刺激しないようにするかに悩んでいる状況があり、第6としては、こうした外交的な包囲網を脱するために、WTO加盟で市場経済化を図ったあと、10年後のASEANとの間でのFTA締結を目標として提示している背景が説明されました。

そして、第7として、日中関係は相互依存が拡大するに従って、摩擦の側面が際立ってきているという状況の説明があり、両国関係を感情的なものから冷静で実務的なものにする必要性が指摘されました。最後に第8として、まもなく開かれる党大会の問題点が述べられました。

以上のようなお話に対し、会議のメンバーから活発な意見が出され、中国のとりうる国内政策や軍部・外交部の実情、そうした状況における日本の中国への対応とはどのようなものになるかなどについて、議論は発展していきました。

つづいて日本とアジアの関係との比較という視点から、ドイツとEUの関係についてイェスパー・コール氏のお話がありました。

まず、ヨーロッパ統合には過去から現在に至るまで、「ドイツとフランスの間に二度と戦争を起こさせない」という確固たる哲学があることを最も重要なこととしてコール氏は指摘。そうした哲学のもとで着実にステップ・バイ・ステップで進んできた統合の歴史を振り返り、それが政治的レベルにとどまらず、社会の隅々まで含めたレベルでの交渉に裏づけられたものであったことが、自らの経験をふまえて説明されました。

そして、ドイツと日本の相違点として、海外生産比率の大きさの違い、海外直接投資の主体の違いが指摘され、国際的統合には、トップ企業のみならず中小企業を含めた広いレベルでの海外進出の構造が重要であると述べられました。

もう1つのドイツと日本の相違点としては、歴史に対する姿勢の違いが挙げられ、ドイツがいかに自らの過去を徹底的かつ積極的に分析してきたかが紹介されました。

こうした状況説明の後、コール氏は日本とアジアの関係について、経済的環境を整えても、結局は最終目標と最終哲学をしっかりと打ち出さなければ、不安定な戦略に終わってしまうのではないかと締めくくりました。

コール氏のお話に対しても活発に意見が交換され、歴史や環境の違いを考えたとき、ドイツのケースをそのまま日本に当てはめることができるのかといった点、さらには歴史教育・研究のあり方から、対中関係もふまえて外交というものが持つべき基本姿勢にまで議論は発展しました。

以上の議論の内容については、会員の方に後日議事録を公開いたしますので、是非ご覧ください。

次回の第3回会議は、10月3日、朝鮮半島情勢をふまえた対アジア経済戦略および安全保障問題について、専門家2人のお話を伺うところから議論を発展させていきます。

今後の議論の展開にご期待ください。また、議論をさらに発展させるために、皆様からのご意見もお待ちしております。

今回の出席者は以下の方々でした。(敬称略)

 福川伸次(電通顧問)
 安斎隆(アイワイバンク銀行社長)
 加藤隆俊(東京三菱銀行顧問)
 国分良成(慶応義塾大学教授)
 イェスパー・コール(メリルリンチ日本証券チーフエコノミスト)
 谷口智彦(日経ビジネス編集委員)
 鶴岡公二(政策研究大学院大学教授)
 松田学(言論NPO理事)

今回は、国分良成氏(慶応義塾大学教授)による中国地域研究の立場からの、イェスパー・コール氏(メリルリンチ日本証券チーフエコノミスト)によるドイツとEUの関係を踏まえた、それぞれのお話に対して質疑応答が展開されました。