言論外交の挑戦

【議事録】2008.7.16開催 アジア戦略会議 /
テーマ「最近の国際経済の潮流における国際協力銀行の取組み」(会員限定)

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司会(松田) 本日は国際協力銀行(JBIC)の田波耕治総裁にお越しいただきました。世界の中長期的な潮流の中で日本の将来選択を考えようという趣旨で、このアジア戦略会議をやってきているのですが、私どもが日本のアジア戦略を考える、あるいは世界の潮流を読んでいく上で、経済協力とか国際協力といった論点を中心に自由に意見をおっしゃっていただければと思います。

田波 私は、実は日本という国ほど「戦略」という言葉が似合わない国はないのではないかと思っています。方々で戦略、戦略と言うわけですが、そういう戦略的な思考にそもそもなかなか入ることができない、全般的にそんな感じがあって、ややフラストレーションを日頃から感じています。また、国際協力銀行というのは、戦略を構築するというよりは、むしろ政策を実施する機関ですので、お話の趣旨に合うかどうか、あまり自信がありませんが、とりあえず日ごろ私なり、JBICがどういう考え方で問題に取り組んでいるかを少しお話しできればと思います。

 私どもの銀行が取り組むやや中期的な課題として、資源エネルギーの問題、オイルマネーの問題、さらには環境の問題が大きなトピックだと思います。それらに絞って、私どもの目から見た国際的な景色という意味で議論の素材を提供したいと思います。

1.資源エネルギー問題

 まず、資源エネルギーの問題です。非常な勢いで価格が上がり、投機資金の問題、あるいはサブプライムの問題が起きて、資金の行き場がなくなり、実物に向かっているという大きな背景がありますが、それとともに、資源価格が高止まりをしているということで、最近では資源国が大変強気の外交政策を―ロシアが典型的な例ですが―展開しています。資源ナショナリズムということで、自国の資源を抱え込むという動きが拡大している中で、日本はどうするかは、非常に緊急度の高いテーマだと思います。

 日本はどうしているかというと、経産省を中心に新・国家エネルギー戦略と、ここにも「戦略」という名前が出てくるわけですが、そういうものをつくっていまして、JBICのような政策金融、あるいは貿易保険、さらには経済協力など、政府と関係機関が一体となった取り組みを進めて、資源国との総合的な関係強化を図るという大きな考え方が打ち出されています。先月(6月)、政府のいわゆる「骨太の方針」が発表されましたが、その中でも言及されています。

 JBICは民間ができない分野を補完するという大きな性格を持っています。したがって、カントリーリスクがある、あるいは事業に要する金額が非常に大きくなる資源案件に対する金融というのは、JBICが果たすべき役割の中で大きな意味を持っていると思います。私どもの融資の承諾の規模は、荒っぽく言うと約2兆円です。そのうち、いわゆる円借款と呼ばれるODA業務以外を国際金融等業務と我々は呼んでいますが、わかりやすく言えば昔の輸銀がやっていたような業務が、その半分の約1兆円で、そのまた半分ぐらいが資源関係の融資です。

 過去10年間の主要資源案件向け承諾額は約4兆円に達しています。日本は圧倒的に資源の国内自給率が低い。なきに等しいので、世界の中で資源をどう確保していくかということはまさに死活問題であり、資源の安定的確保は極めて重要だと思います。

 新たに経済の中に大きく組み込まれた中国は、アフリカや豪州などに手を伸ばしてきています。13億人の国民がいるわけですから、資源エネルギーが要るということで、必然だと考えなければいけませんが、その中で、日本はどうやって資源の安定的確保を図るのかということです。日本は持っているあらゆる力を結集しなければ、資源の安定的確保はなかなか難しいのではないかと思います。

資源国と重層的な関係を構築

 これまでは、どちらかというとエネルギー資源の供給者である中東とどういう取引をするかという、エネルギー資源の需要者と供給者という関係にとどまっていた面があると思います。しかし、これからは日本が国際的な世界の中でどうするかということになりますから、資源国と重層的な関係を構築しなければいけないのではないかと思います。「私ども」と申しますが、大分私の個人的な意見も以降ずっと入っていますので、そういうつもりでお聞き取りいただきたいと思います。

 日本と資源国との重層的関係の構築については、「資源分野における協力」がもちろん中心になるわけですが、それとともに「双方向の投資に向けた協力」、すなわち日本企業が例えば中東に進出をする、中東のお金をどうアジアに還流していくか、あるいはFTA等をどう活用していくかという広い目で見た双方向の投資、ここには日本のアドバンテージもかなりあると思いますので、こういう観点が必要だと思います。さらに言えば、私どもの仕事ではありませんが、「経済・産業以外の分野における協力」も極めて重要な要素ではないかと思っています。

 私どもは、例えば資源案件や資源サプライチェーンの構築のためにインフラの支援をする、あるいは日系企業の資源国へのビジネス活動展開の貢献に対する支援をするという事業に取り組んでいます。

資源国アブダビとの協力関係

 1つ例をあげると、昨年12月にアブダビ首長国のムハンマド皇太子が日本に来られました。そのときにJBICは、私自身、3つの調印を行いました。調印の1つは、アブダビ国営石油会社(ADNOC)向けに21億ドルの資源融資をするというものです。かなり大きな金額になりますが、これによって安定的な原油輸入を直接的に確保する。

 2つ目は、特に最近、中東ではIWPP、いわば淡水化と発電を一緒にしたような事業が非常に活発になってきていますが、JBICはアブダビに対して、フジャイラという地域での発電・淡水化事業へのプロジェクトファイナンスを行います。

 3つ目はムバダラ開発との業務協力協定です。ムバラダ開発は、政府系の投資機関であり、ソブリン・ウエルス・ファンド(SWF)と言っていいと思いますが、ここと業務協力協定を結びました。ムバダラ開発の資金を東アジア等の投資に向ける。JBICは東アジアについて知見を持っているので、協力していきましょうという趣旨です。

LNG供給源の分散確保

 最近、環境に優しいということもあって、LNGが非常に注目をされています。LNGは日本の得意とする分野であったわけですが、実は、ここに1つ大きな問題があります。インドネシアからの調達が2010年あたりから、今のような供給量を確保することが難しいということがはっきりしているわけです。長期契約の改定問題があるわけですが、明らかにインドネシアが内需のためのエネルギー源を確保する方向になってきています。インドネシアからの供給がなくなると、日本にとって極めて致命的な状況になる。そこでどうするか、日本は中期的に考えなければいけません。

 そこで私どもが取り組んでいるのは、1つはロシアです。やっと先月にサハリンエナジーという会社とプロジェクトファイナンスベースで総額37億ドルを上限に融資を行うという契約に踏み切りました。もともとはシェルが55%、三井物産が25%、三菱商事が20%という出資割合でサハリンエナジー社という会社をつくって、開発を進めてきたのですが、2006年12月にガスプロムという独占的な会社が過半数の株式を持つことになりました。

 このプロジェクトで年間960万トンのLNGが生産され、その約半分の500万トンが日本向けに供給されるということで、日本のエネルギー資源の長期的、安定的な確保という意味では極めて重要です。中東依存度をできるだけ下げていかなければいけないという点が1つと、何といってもロシアは中東に比べれば非常に近いので、往復の航海日数で言っても、中東まで行くと33日かかるところが、サハリンだと5日から8日で来るという地理的な意味もあるわけです。

 ガスプロムはメドベージェフ大統領が以前、会長を務めていたところでもあり、国家機関に近いわけです。こうした機関との交渉の上で、私どものような政府系金融機関が出ていく意味もあるのではないかと思います。

 もう1つ、私自身が先月、調印をしてきた西豪州のプルートというLNGプロジェクトがあります。ここに10億ドルの融資を決めました。これもこのごろ私どもの悩みの1つなのですが、資源エネルギー価格が上がってきたことで、1つ1つのプロジェクトの金額が非常に大きくなってきています。実際に建機や、あるいは人件費のコストが高くなってきている。これに我々がどう対応できるかというのは、実は私どもにとっては大きな問題です。プルートのLNGプロジェクトは、1件で10億ドルの融資契約で、これに民間が5億ドルということで、融資額は15億ドルですが、全体の事業費は100億ドルという、とてつもなく大きな事業です。ウッドサイドというオーストラリアの会社が大半の権益を取得する。ここに関西電力と東京ガスが5%ずつ参加し、長期契約で将来の供給を確保するというスキームです。年産430万トンで、約9割を15年にわたって両社が引き取ることになっています。

 今申し上げた2つのプロジェクトからの日本のLNG引き取り量はどのくらいになるかというと、サハリンが日本の総輸入量の8%、プルートが6%にあたります。日本にとって、まさにエネルギー安全保障上も大変重要なものだという意気込みで私どもなりに挑戦しているわけです。

イラクとの円借款プロジェクトに取り組む

 資源エネルギー問題のもう1つは実はイラクです。イラクについては、2003年10月に無償・有償合わせて50億ドルの資金供与をするということを日本政府が表明して、そのうち15億ドルの無償資金については短期的な復興支援ということで、大体これははけてきています。残る35億ドルは円借款で支援するという約束をしているわけです。35億ドルの円借款といっても、具体的な事業を構築していくのは非常に大変な事業です。大体、バグダッドになかなか入れない。円借款事業というのは、現地に行ってプロジェクトを構築していかなければいけませんが、そもそもイラクになかなか入れないということで、今のところは隣のヨルダンのアンマンをベースに、職員が非常に苦労しながらやってきています。

 今までのところ、35億ドルのうち大体、10プロジェクト、24億ドルについては何とかローンアグリーメントの調印ができ、これから実施していかなければいけないという状態になっています。これをどういう地域で、どうやっていくかというのは、地域配分が非常に難しい。例えば、今、一番安全なのはクルド地域ですが、いろいろな制約要因の中でこれらのプロジェクトをやっていかなければいけません。もちろん、人道的な見地、純粋経済協力的な意味もあるわけですが、実は、イラクはサウジアラビアに次いで世界第2位の原油埋蔵量を有する国です。現在、日量250万バレルの原油生産ですが、今後、日量400万バレルぐらいにはできるだけ早く持っていきたいということです。

 このイラクにどう取り組むかということも戦略的に非常に大きな問題です。6月に、甘利経済産業大臣が閣僚としては約2年ぶりにイラクを訪問したのがニュースになっておりましたが、ここについては、いろいろな国がかなり積極的にアプローチをしています。7月にアンマンで日本・イラク経済フォーラムが開催されましたが、大変な盛況で、日本のビジネス界もかなり注目をしているわけです。アメリカ、ヨーロッパは、先を見据えた取り組みを既に始めており、円借款についても戦略的な思考を組み入れることが場合によっては必要なのかもしれません。

ウランやレアメタルの資源確保に

 次に鉱物資源についてです。原子力発電にはウランが要りますが、ウランは日本ではとれません。日本が得意とするいろいろな先進的な産業には、コバルト、ニッケルなどのレアメタル(稀少金属)がほとんど例外なく使われていますが、これも事実上、全部輸入に頼らざるを得ない。

 ウランはここ数年で世界的な取り合いになって価格が10倍以上に上がりました。その中で日本はどうするかということですが、今、日本は豪州とカナダからの輸入に頼っています。実は世界第2位のウラン資源埋蔵量があるのはカザフスタンですが、我が国のウラン輸入に占める割合はわずか1%です。ここは経産省が早く手を打ち、私も去年の5月にカザフスタンに行きましたが、原子力サイクルの、ウランを掘るところから再生に至る全体的な取り組みということで、カザフスタンと大変緊密な関係を結ぶことに成功していると思います。ご存じのように中央アジアは、ロシア、中国との関係を含め、いろんな意味で非常に難しい。また、アメリカとの問題もあるわけですが、先般、ナザルバエフ大統領もお見えになりましたし、私どもは、あそこにあるカズアトムプロムという国営原子力企業と覚書を結ぶという形で、総合的な対話をやっていこうということに一応成功してきています。

 また、レアメタルは中国、アフリカ、オーストラリアなど、産出地域が偏在しているため、供給リスクは非常にあると思います。それに加えて、中国などが内需優先、あるいは輸出を抑制するという資源ナショナリズム的な動きもあるので、先進国にとっても安定的な入手が困難になっています。価格も2000年以降、軒並み最高水準だということで、5年の間にニッケルは7倍、モリブデンは6倍にもなっています。こうした価格高騰は、日本の産業が必要とする原材料が確保できない、あるいは収益を圧迫するということとなり、かなり深刻な影響を及ぼし始めていると思います。

 そこでどうするかということになるわけですが、アフリカのマダガスカルでコバルトとニッケルが採れるということで、JBICは、住友商事が鉱山開発、精錬事業を進めているのに融資する。これは国際的に協調して、各国のいろいろな機関が総合的に取り組む国際的な事業ですが、そうした事業に融資をする。さらに将来的には、積み出し港の問題があるので、港湾の整備に円借款を充てるという形で総合的な力を発揮できないか検討しているところです。

 先日のTICADⅣ(第4回アフリカ開発会議)で、福田総理が5年間で最大40億ドルの円借款をアフリカに供与する、また、アフリカ投資倍増支援基金(アフリカ投資ファシリティ)をJBICにつくることを約束しました。円借款という純粋経済協力とともに、最近目立った特徴は、アフリカの国々では、援助に加えて、やはり民間の企業が交流しないと経済が成り立たないのだという意識が非常に強くなっていることです。私どももアフリカの指導者に会うたびに、援助もさることながら、投資、投資と言われます。TICADⅣでも、軒並み日本から民間投資をしてくれと強く要望されました。さはさりながら、インフラがないというのも大きな問題です。日本は経済協力のパターンとして、アジアでは明らかに円借款を中心とするインフラの整備と民間の投資がうまく結びついて、アジアの経済の振興に役立ってきたと思いますので、このアジアの経験をアフリカにということがよく言われるわけですが、そういった意味での総合的な取り組みが非常に重要になってくると思います。


2.オイルマネーとアジアの持続的成長

 2番目にオイルマネーの話です。今、いろんな点でマネーの動きが世界的な混乱を招いていますが、その底流にあるのがオイルマネーです。中東諸国の石油収入は、2004年の1500億ドルから2007年の4500億ドル近くへと約3倍になり、経常収支は500億ドルから2000億ドルへと約4倍になっています。ここでお金がかなりたまってきている。これがソブリン・ウエルス・ファンド等を通じて世界各国に向かっているということです。

 オイルマネーの投資先は、大ざっぱに見ると、若干古い数字ですが、イメージとしては、GCC諸国(アラビア湾岸諸国)の投資資金、多くはSWFになっており、それが大体1.5兆ドル、そのうち1兆ドルはGCCの中の投資に向かっています。そのほかは圧倒的にアメリカに向かっていたわけです。その資金がこれからどうなるかということが1つと、実はアジアに対して600億ドル向かっていると言われていますが、大体が日本ということです。

 アジアは経済的に非常に成長していますが、我々が、かつて痛い経験をしたのはアジア危機です。そこで、我々が今考えているのは、このオイルマネーを安定的な資金として何とかアジアに向かうようにできないかということです。

 そういうコンテキストの中で、我々はイスラム金融にかなり前から着目して、マレーシアのゼティさんという中央銀行総裁などと一生懸命やっています。マレーシアはイスラム金融を導入して自国の経済発展にあてることに非常に熱心で、かなり成功してきている。JBICとしても、これに何とか協力できないか、そしてアジアの安定的な資金供給に寄与できないかということにチャレンジしていると理解していただきたいと思います。

 イスラム金融というと非常に特殊に聞こえますが、実はイギリスはイスラム金融法制のようなものをつくって、税制などもかなり整備をしてきています。最近では、香港が、中国という巨大な潜在市場を抱えて、ゲートウェイとして本格的に取り組んでいます。

 我々としては、SWFにどう対処するか。さきほどのムバダラ開発もSWFの1つですが、我々の見るところ、このお金というのは、いわゆる投機的なファンドではなくて、かなり安定的な供給源ではないかと考えており、こういうものとも積極的にコンタクトをとっていきたいと思っています。


3.環境問題への対応

 最後に環境への対応です。気候変動問題はもう既に動いています。今年から京都議定書の第1約束期間が始まり、温室効果ガスの削減目標を達成するための取り組みを具体的にやっていった結果が出てくるわけです。2013年以降のいわゆるポスト京都については、これからの議論で非常に難しい問題だと思います。私も内閣にいるときに京都議定書に少し関与しましたが、ご承知のとおり大変難しい問題であることは事実だと思います。

 その中で、日本は、クールアース・パートナーシップということで、ダボス会議で開発途上国支援のため100億ドルの資金供給を可能とするメカニズムを公表し、これに戦略的に取り組んでいくことになっています。

「適応」、「緩和」や排出権取引に注力

 「適応」、「緩和」という言葉は、あるいはなじみのない方もおられると思いますが、「適応」というのは、幾ら緩和策をやったとしても実際に温室効果ガスの影響が出てきてしまうので、それにどう対処するかということです。例えば、かんがい施設をつくる、あるいは海面の上昇などに洪水制御事業をするということです。「緩和」というのは、本源的に、例えば風力発電所をつくって再生可能エネルギーを生み出すということ、あるいはCO2を吸収する森林の保全事業をする、そういうイメージです。JBICの性格としては、どちらかというと緩和策が主な取り組むべき課題です。これはものすごくお金がかかりますが、新たに気候変動対策円借款をつくって、5000億円程度の支援をすると公約しています。

 さらにJBICにアジア・環境ファシリティを創設します。これは、ややアフリカ投資ファシリティに似ているのですが、政府から200億円の産投出資をいただき、これを出資、あるいは民間の金融機関が融資をする場合の保証といった事業に活用して、これからやっていこうというものです。この辺りも私の目で見ますと、円借款という経済協力と、民間活動をできるだけ活発にするために民間資金をどうモービライズしていくかという、アジアの経済協力のモデルが一応表明はされているのだろうと思いますが、実際のところ、この関連があまり強く意識されているとも思えない節があるので、まさに戦略的な取り組みという意味では、その点が非常に重要な事柄だと思います。

 環境問題に対してどう対処するかということですが、途上国の二酸化炭素排出量の約半分は電力、鉄鋼、セメント、石油・石油化学の4分野で、途上国においても、こういった分野は既にもう民営化されたか、あるいは民営化途上にあるセクターです。環境問題というのは、そもそも民間が主役となってどうやっていくか。これは民生用の事柄もそうですが、ここをどう動かしていくかが戦略的な取り組みの中心であると思います。その中にあって、日本が省エネなどの環境技術を中心にどういう協力ができるかということです。政策的に取り組む機関、すなわち国とか私どもは、例えば省エネ基準の整備をする、あるいは国際的なプラットフォームをつくるというファンダメンタルな機構の整備をすることに中心を置くべきだと思います。

 JBICは、そういった点を認識しており、かなり前に、日本カーボンファイナンス株式会社(JCF)/日本温暖化ガス削減基金(JGRF)を電力会社などの協力を得て立ち上げました。既に排出権を取得しており、かなり軌道に乗っています。

 なぜこういったものに取り組むのかという我々の問題意識をお話しますと、少なくとも京都議定書には排出権取引が組み込まれているのだから、そういったもののシステムをつくるのに早めに取り組むべきですが、民間セクターのみではなかなか始められないからということがあげられます。排出権取引は、投機資金に利用されるのではないかということも含めて、特にポスト京都においては大きな問題になってくると思います。経団連も自主行動計画をつくっているということで、各企業のご協力も得ているわけです。最近では、これはごく小さな努力なのですが、日経新聞と協力して一種の小さなマーケットのようにものをつくって、価格の指数(日経-JBIC排出量取引参考気配)を公表し、取引のための基準をつくることにも少し挑戦をしているところです。

 以上、3つの問題について、ストラテジーという点からどういう意識を持って我々が取り組んでいるかということをご紹介しました。ご叱声なりご意見を賜ればと思います。


― 討議 ―

資源エネルギーの調達に国の戦略はあるのか

司会(福川座長) ありがとうございました。それでは皆さん、どうぞご自由に発言してください。

白石 素朴な質問ですが、エネルギーの場合、戦略といったときの目標は、当然のことながら長期安定供給と、もう1つは、高づかみするのは嫌だから、できる限り安く購入するということ、この2つですね。そこで常に問題になってくるのが政策的にどこまで調達して、マーケットでどこまで調達するかという組み合わせの問題になると思います。これはもちろんコモディティーによって違う。ガスの場合なら長期契約でないとなかなかうまくいかないので、そこのところが圧倒的に大きくなってきて、スポットでは買えない。しかし、原油の場合なら、またこれが違う。例えば経済産業省は、エネルギーについては、政策的に40%で、マーケットで60%ですか、そんな一応の指針のようなものを出していますが、あれはどうやって決まるものなのですか。つまり、どうやってマーケットと政策的な安定供給の組み合わせを決めていくのか。

田波 これからの時代は、「政策的に」という部分のウエートが下がってくるように思います。それは何もスポットで買う部分が多くなるという意味ではない。つまり、どうしてもグローバル化する経済の中で、あまり勝手な論理で世の中が動くとは思いません。むしろ、自由な取引を国なり公的な機関がどう応援できるのかという意識を私自身は持っております。というのは、現に例えば中国を見ますと、中国はマーケットでやっているわけですが、実際上は経済協力も安全保障も人の移動も一体となっています。ロシアはあのような国です。アメリカでは金融的にどうかということですが、メジャー(巨大石油会社)は自分たちの調達源もあるわけです。その中で日本では、あまりストラテジーの中にきちんと組み込まれていない。その辺りをどう工夫していくかという問題意識です。

福川 今むしろ心配は、日本は商社、鉄鋼メーカーなど、いろんなところが行って買おうとするわけですが、このごろ買い負けることです。中国はボーンと量で言ってくる。それから値段も高いというので、鉄鉱石でも原料炭でも、あるいは穀物でも、このごろ日本の商社が買い負ける。どうするかですが、今のところ、買いつけは全部民間でやれというのが政策です。若干、信用補完のような格好でJBICその他で応援はしていただいているし、なるべく国際協力とか口では言っていますし、経産大臣もアブダビへ行ったり、アフリカへ行ったり、ブラジルへ行ったりしてはいますが...。精神的な応援はする、いい環境をつくるという程度のことはしていますが、それ以上は動いていない。市場経済だということでやってはいるのですが、本当に今のままでいいのか。

田波 個々の取引ということもありますが、やはり供給国との間の重層的な関係というのが非常に大事だと思います。原油の取引について長期引き取りの契約をする、あるいは我々がそれに対して参加をするということも大事ですが、最近のFTAの枠組みを使ったり、あるいはフジャイラの淡水化のプロジェクトのように、日本の企業が参加して、その地域での活動に組み込んでいくということ、さらには人的な交流など、総合的な取り組みが日本の持ち味ではないかと思います。

 先日、プルートで西豪州に行きました。温家宝も胡錦濤も西豪州に行って、アラン・カーペンターという西豪州の首相というか知事のような方と直接いろいろ話をしています。日本という国は、冒頭申しましたように、全体として戦略的に取り組むという姿勢があまりなくて大丈夫なのかという意識を私自身は強く持っています。豪州もラッドという人が今度首相になったのですが、向こうの財界の人と話していると、彼の行動には非常に批判もあるのです。つまり、日本と割合と良い関係を持ってきたにもかかわらず、最初外遊したときに日本をすっぽかして、中国へ行った。慌てて先日、6月に日本に来たわけですが、あれは何だという人たちがいて、今、福川さんが言われた中国の買いあさりのようなものに対する警戒感というのは非常に強い。日本が長い間持ってきた信頼関係であるとか、まさにこういう重層的な取り組みがまだ入れる余地はある、あるいは入っていかなければいけないという認識です。

白石 買い負けるというのは、もちろん価格の問題ですね。長期的にずっと買い負ければ困りますが、とりあえず今負けていても、またそのうち時間がたってくると、単に中国は高値づかみしていただけだということになれば、それはそれで別に構わないですね。私も戦略のことを考えていまして、戦略的に対応するというときには、何が戦略的対応なのだろうかということなのですが...。

田波 スポットは別にしたほうがいいと思います。結局、先生がおっしゃるように、長期的に安定的にどう確保するかというのが第一のテーマだと思いますが、そうなると、どのくらい開発にかんでいくか。これは民間企業にとっては大変大きな意思決定です。リスクも大きいし、価格も大変なので、その辺りをどう考えていくかというときには、さきほどインドネシアのLNGを申しましたが、やはり全体として将来のエネルギー需給がどうなるかということ、それからリスクがどうなるか、その中で日本がどうしたらいいかというベースがないと、企業の判断もなかなかできにくい。今、商事会社はすごく収益が上がって、取引先はもうけ過ぎだと言って怒っている。商事会社に言わせると、苦しいときに買ったのだと。そういう小さなレベルでの議論ではないものを立てるのが戦略ではないかと思っています。

白石 全く同感です。そうすると、まさにさきほどのLNGの話でも、長期の趨勢を見て、政策的に何をすることでマイクロな企業の判断を支援するか、そういうことですね。

田波 そうです。特に原子力の扱いをどうするかといったことについて、もう少しきちんと議論をしなければならないと思います。そうなると、今度ウランをどこから調達するかという話になってきます。そうしたところの取り組みが全体的に必要ではないかという危機感を感じます。


供給側の寡占化も課題

福川座長 今、もう1つ問題は、供給側、すなわち鉱山の側の寡占化です。例えば、豪州のBHPはイギリスのビリトンと組んでいる。そこで、例えばリオ・ティントを買収しよう、あるいは、供給を非常に制約するというところが企業のベースで騒ぎになる。これはEU委員会が動くか動かないかと言われていますが、そういった寡占化、競争条件をどうするかというのも1つの問題です。

田波 今ご指摘の供給側の寡占化が1つです。もう1つは、実は価格決定のリーダーシップを昔は日本がオーストラリアとやっていたのが、もう中国になってしまった。中国が先に決めてしまう。これにどう対応できるのか、私には今のところよくわかりません。ただ、結果的にある程度、のまざるを得ないという価格決定のメカニズムになってしまっている。それが寡占化と併せて生じている。そこのところは大変だと感じます。それはここ数年の話で、まさに寡占化が進んでいますから、バーゲンという点ではのまざるを得ない。そこで、その価格転嫁をこれからどうするかというところで、日本経済そのものにも影響が出てくるのだろうと思います。

小島 政府と市場ということでいえば、中国は圧倒的に政府です。最近のアメリカでは、市場を経ないで、すべて政府でやろうとしている中国の政策が、将来いろいろな国とのあつれき、摩擦を生むのではないかという警告を出している論文も出てきています。そのときは、安定供給とかリスクとか言っても政府がやるのですから、民間にとってのリスクと全然基準が違う。そこをどう考えるのかというのは難しい問題です。

田波 ただ、安全保障の問題が非常に大きい。軍事力と言ったほうがむしろいいのかもしれませんが、中国をどうするのかというときには、この点はいつも頭をかすめます。

小島 もう1点、新しく資源を開発するときには、例えばアフリカにおいてはかなり開発資金が必要ですが、先ほどのオイルマネーのような存在がある。日本の対中東政策といっても、日本が持っていた従来の資金力はあまり力にならない。資金力プラスアルファのところがよほど魅力的でなければ、中東に対する戦略的アプローチは有効ではない。向こうは、むしろ金が余っている。世の中が全く変わってしまったわけです。だから、そこでどうやって日本的なカラーを強く出すのか。プラスアルファのアルファのほうをいかにして大きくするか。そこは総合的、あるいは技術とかいったものなのだと思いますが。

中東産油国もJBICにカネを貸せと言ってくる

田波 ただ、実際問題として、中東も金を貸せと、うちに言ってくるのです。なぜかというと、一番大きなファクターは、日本の持っている技術力との組み合わせ、それから、いろいろな意味でのノウハウです。金融的にも、例えばプロジェクトファイナンスの技術といった点で頼られるところがあるのです。もう1つ、驚くのは、省エネをやっていかなければいけないと言う。石油がこれだけあるのに、そんなことをやるのは自殺行為ではないかというブラックユーモアのような話ではなく、相当、危機感を持っていて、そういうものを積極的にやっていきたいということです。そこで日本に何ができるかというところで、さきほどの淡水化と発電を組み合わせた事業のようなものが生きてくるということで、究極的にやはり技術というのは非常に大きいと思います。

小島 最近、東京証券取引所に上場している外国企業がどんどん撤退している中で、2~3の中国企業が入ってきた。金をそこで調達する必要はないのです。自分のところで調達できますから。要するに、日本の技術を買うには、東証のメンバーであったほうが日本の企業とつき合いやすいというわけです。技術なのです。

 ですから、日本は技術力がどこまで魅力的であり続けるか、これが非常に重要だと思います。石油ショックパートⅠのとき、すごく技術力を高めましたが、その後、石油価格が暴落し、バブルがつぶれて日本の経済が少し元気がなくなった10年間余り、エネルギー効率を上げるための新たな技術力は強化されていない。その後、エネルギー原単位はほとんど改善していない。むしろヨーロッパ、ドイツが太陽光発電といったものを急速に展開してきて、ほとんど並び始めた。だから、このエネルギー危機の中で、日本の優位性をもう1度引き上げるような誘導政策、それが恐らく長期的な戦略だと思うのです。

 ですから、これも基本的には、先ほどのプラスアルファのアルファを強くするということで、サミットでも福田さんが日本はエネルギー、環境について技術先進国、一番進んでいると言いますが、今、90年代以前の蓄積を食っているだけなのです。エネルギー効率は10年間、全くフラットです。だから、ちゃんとその現実を見て、70年代の石油ショックの後やったこと―あれはすごい成果で、世界が注目したわけです――をもう1回確認しながら、その後、10年以上怠けていたこともきちんと確認しながら、そこで何をやるべきかをしっかり議論しなくてはいけない。もうしばらくすると、ドイツに抜かれます。

福川 日本は逆に助成制度をやめてしまった。

小島 技術そのものは日本から行っている。それを実際に太陽エネルギーに使っているのはドイツなのです。あの規模はすごいです。そのために税制も動かしているし、いろいろなことをやっています。


「経済大国」後の日本のアイデンティティーは

白石 私は最近、日本のアイデンティティーの問題を考えていまして、20世紀の後半の50年というのは、日本は「経済大国日本」でよかった。圧倒的にアジアでは経済大国で、日本のアイデンティティーというと経済大国であり、戦略というのは、私は実はあると思っています。日本では、ずっと戦略はあった。それは吉田(茂)路線以降のもので、日本の国というのはどういう国かというアイデアは、多分経済立国、経済大国日本であり、国際経済政策にしろ、日本の国益の定義にしろ、全部それとの関係で決まっていた。

 しかし、もう経済大国とはなかなか言えなくなってきている。つまり、中国のほうが大きくなってしまうと、アジアの経済大国といっても必ずしも日本だけではなくなってくる。そういうときに、何なのだろうか。

 つまり、日本人が共有するような一種のアイデンティティーがあって、その上に、戦略という明示的なものではなくても、みんなが当然そうだろうと思うような一種の合意事項です。日本の国がどういうものとしてこれからつくられていくのかということについての合意事項ができてくる。そうすると、それはやはり技術なのでしょうか。技術立国ということですか。

小島 世銀の数字で見ても、中国自身が言っているのも、要するにアメリカは世界一でナンバーワン、次は中国だと、はっきり言っています。日本は世界第2のGDPと、誰も言っていない。日本だけが言っている。これから人民元がどんどん上がってきますから、ますますもってドルベースの比較でみると、日本経済の存在は小さくなる...。

白石 ブリュッセルにインターナショナル・クライシス・グループという非常におもしろいグループがあります。そこは、その時々の政策問題について、短いのですが、本当に勘どころを突いたレポートを出すシンクタンクのグループです。ここが数週間前ですが、中国のエネルギー政策について非常におもしろいペーパーを出した。それを見ると、これはガソリンの価格のことを言っているのだと思いますが、中国では、国内のガソリン価格が非常に低く抑えられていて、中国の石油会社は、そこではもうからない。だから、ベネズエラやナイジェリアで石油を買う。危いところで石油を買って、しかし、それは中国には持ってきていないのだということです。全部、国際的なマーケットで売って、そちらでお金をもうけて、実は国内の赤字を補てんしている。だから、そういう国内における価格を政策的にゆがめているということを直さないと、中国のビヘイビアは変わらないのだというような議論をしています。中国の行儀の悪さというのは、ある意味ではそこにひっかかってくるわけです。そういうことは日本政府だけで言っても、もちろんダメですが、国際的に一種の行動規範のようなものをつくることは不可能なのでしょうか。

田波 中国だけではなく、エネルギーに対する補助金の問題も非常に中心的なテーマになっている。補助金をやめさせるということが環境の面からも非常に大事だということは、IEAなども言っているような気がします。諸悪の根源と言っていた人もいるほど、中心的なテーマになってきていると思います。つまり、価格メカニズムが働かない。中国をどうやってその中に取り込んでいくかというのは、私どもの金融の面でも非常に難しい問題で、ご承知のように中国は非常に勝手放題やっている。OECDには入らない、まだ開発途上国なのだから、そんなのは当たり前ということで、フリーライダーのような結果になっている。世銀などを中心に何とかしなければということですが、まだうまくいっていない。そういう事柄がエネルギーのほうにも出てきているのは間違いないと思います。

小島 インドネシアは補助金のために消費が増えてしまい、あるいは開発が進まず、結局、輸入国になってしまった。中国そのものの問題をやると、中国はすぐ反発するでしょう。しかし、インドネシアの問題など、客観的に出てきているいろいろな問題をきちんと整理して、それを情報として提供すると説得力が出てくるのではないでしょうか。

白石 ICG(インターナショナル・クライシス・グループ)はホームページがあり、そこにアクセスすると、世界のあらゆる問題についてレポートを出している。例えばイスラムのテロの問題など、いっときはそんな報告ばかりで、私はイスラムのテロの問題をフォローするのに一番いいサイトとして見つけました。最近になってみると、中国に大分関心がシフトしていますね。


「資源は弱み」とだけ捉える必要はない

工藤 資源の分野では、日本は今、非常に弱いが、技術力とか、いろいろなことを組み合わせると、辛うじて優位さがあるというように受け止めたのですが、それはいつ頃までもつのか。資源という問題が、今後、日本の中でずっと弱さになっていってしまうのか、それを打開できる方法があるのかということを知りたい。

 また、日本政府には、資源の全体的な戦略をつくる仕組みはあるのでしょうか。個別に挑戦者たちが頑張っているという状況なのか、それをどうすればいいのかという点をどう考えればいいのでしょうか。

田波 まず、資源は弱みだということだけで捉える必要はないと思います。これから日本は人口減少だ何だと言いますが、現にいろいろな交渉などでも、日本の安定的な供給先としての強みというのは非常にある。今は中断してしまっていますが、ロシアが東シベリアで油を掘って、これを東のほうに送るというときに、中国と日本が競ったのですが、そのときにロシアが一番警戒したのは、中国だけに供給をするというリスク、さらには価格の決定権を中国に握られてしまうリスクでした。そういう警戒感は、プーチンはじめ、大変強かった。そこで、ナホトカまで持ってくるということがまだ計画としては生きているのですが、それを彼らがやりたいのはそういう観点であって、これは日本だけではなく、アメリカなども含めて、供給先をなるべく広げていきたいという動機は供給側にもあると思います。

 そこに技術をどう組み入れるのかということで、例えばパイプラインを引いてくるについても技術力が要るところもありますし、LNGについてもそういうことが言えるという点で、資源が何もないから、ただ弱みだということではないように思います。むしろそれをバーゲニングパワーにどう使っていけるかというのが、まさに戦略の意味ではないかと個人的には思います。

 2番目については、エネルギーについては経産省を中心に、新・国家エネルギー戦略というものを日本政府として持っています。ある程度、絵に描いたものはあるように思いますので、経産省を中心にいろいろデータを集め、いわば経済財政諮問会議のようなものになるのか、よくわかりませんが、これも総理のもとで決定をしていくような大きな戦略が必要であることは疑いないと思います。

小島 ただ、その戦略が実行できるかということになると、70年代の石油危機の前の水準よりもはるかに中東依存度が高くなっています。あのときから戦略として中東依存は下げるのだと言っていたのが、それより10%も高くなってしまっている。それはどういう戦略だったのか。

田波 ですから、さきほど申しましたように、我々が努力しているのはサハリンだったり、西豪州だったりということで、これは数%ですが、両方合わせれば10%になります。それは、努力はしておりますということです。

松田 今、マーケットの話が出たのですが、日本が供給先としてのマーケットとして、今、量的には中国がどんどん大きくなる中で、日本はこういうマーケットの特性があるから供給先として魅力的である、あるいは中東などのSWF(政府系ファンド)の投資先としても、日本にはこういう要素があるから魅力的であるといったたぐいの材料は何か考えられないでしょうか。
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田波 そこはあまり自信がありませんが、やはり、安定的に引き取ってもらえる。それがマーケットの特性かどうかはわかりませんが、強いて言えば、それが一番大きいと感じます。先日、豪州と話をしましたが、中国に対する不信感というものは、ガーッとやるけれども、いつ引かれるかわからないというところにもある。そういうものは開発とも関係するわけで、広い意味で言えば、何となく安心感があるということがマーケットの魅力の上で大事である。あまり自信がある答えは技術的にはできませんが、そのように感じています。


カザフスタンへの対応はよい事例

 カザフスタンのウランは安定的に入ってきそうですか。

田波 入ってきます。

 2年ほど前に経団連でカザフスタンに伺ったときに、その後、甘利さんもすぐ行ったようなのですが、日本と付き合いたいという政府高官の皆さんの意欲はあるようです。ただ、お前たちが来るのはちょっと遅かったな、ほかのところはもっと苦しい時代から随分来たというようなことを言われたりしました。イラクの皆さんが経団連に来られたときも、大分被害を受けていて、石油関係の技術者の再教育などが必要になっているのだということで、そういう面での期待はかなりあるような気もしました。ただ、来年でブッシュ大統領も替わり、少しはイラクに対する政策やイランに対する政策も、アメリカとしても変わってくる可能性はあるとは思いますが、一体イラクというのは、皆さん方の目から見て、今のところ少しは安定に向かっているのか、うまくいきそうなのか。これが下手なことになって、イラン・イラクが一緒になって、アメリカのイニシアチブがどんどん阻害されるようなことになり、ロシア、中国に近づくということになっていくと、日本の立場もますます難しくなってしまうのではないかと思います。一体イラクはこれからどうなるのか。私は非常に心配しています。

田波 おっしゃるように、今どこへ行っても、ほかの国はもっと積極的にやってくるよと言われます。ナザルバエフさんも意気軒昂ですから、そういうことも言います。イラクの人たちも、君らはもう遅いよということを石油についてはしばしば言います。

 その中にあって、私がさきほどわざわざ申し上げたのは、昨年5月の経産省の甘利さんの訪問、私も参加したので、やや自画自賛のようになってしまうのですが、あれは非常にタイミングがよかった。特に原子力サイクルというのは、ロシアとの関係、フランスとの関係、いろいろ難しいのですが、日本はいろいろな意味で一貫しており、これは東芝もあれば電力会社もあり、中央アジア外交という意味でもウラン確保という意味でも、非常に機敏な対応だったと思います。

 イラクについては、実際問題としてはアメリカの企業、ヨーロッパの企業も相当入り込んでやっているというのが実情であって、なかなかすぐは解決できないと思いますが、どう見ても産油国としてのイラクというのは非常に大きな存在になると思います。

 短期的に言うと、私たちも円借款の関係でかなり密接に情報をとっているのですが、一般的に言えば、治安状況は少しずつよくなってきているというパーセプションのほうが多くなってきていると思います。その中で、日本の立場から言えば、さきほど申し上げた35億ドルという円借款をどう動かすかということの因果関係もあるわけです。そこを併せて考えたい。

司会(福川座長) きょうは大変貴重なお話をしていただきました。示唆に富み、大いに教えられるところが多く、本当にありがとうございました。


-了-


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