言論外交の挑戦

「国民の世論から見る北東アジアの平和環境の行方」~第2回日米中韓4カ国対話 報告~

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 第2部では、パネルディスカッション「国民の世論から見る北東アジアの平和環境の行方」が行われました。議論には第1部に引き続き、ブルース・ストークス氏(米国・ピューリサーチセンター・ディレクター)、袁岳氏(中国・零点研究コンサルテーショングループ董事長)、孫洌氏(韓国・延世大学国際研究大学院院長)の各氏が参加するとともに、新たに田中均氏(日本総研国際戦略研究所理事長)と宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表)が加わりました。

YKAA8289.jpg 冒頭、司会を務めた工藤泰志(言論NPO代表)は、「北東アジアの平和を考える上で今、気になっていることが2つある」とした上で、その一つ目として、「韓国の朴政権の危機とその影響」を挙げ、それに対する見解を孫氏に問いかけました。

ポスト朴の韓国はどこに向かうのか

YKAA8193.jpg 孫氏は、「日々情勢が変化しており、なかなか先を見通せない」としつつも、朴政権が「死に体」となったことは間違いないとし、来年12月の大統領選までの13か月間、「権力の空白」が生まれたことにより、造船をはじめとする国内経済の構造改革や北朝鮮の核ミサイル・開発への対応などの重要政策課題への取り組みが停滞を余儀なくされるとの見方を示しました。

 次に孫氏は、アメリカ新大統領とそれに対する韓国の対応については、今後のアメリカが北東アジアの安保や経済に対してどの程度本腰を入れてコミットメントしてくるのか、疑念を抱いているため、「韓国は米韓同盟関係を基軸としつつも、自助努力やアメリカ以外の国との関係強化など『戦略の多角化』を図ろうとするのではないか」と予測し、中国への接近や「韓国の核武装」に対し、6割の韓国人が「賛成」していることなどはその多角化志向の表れであると語りました。

 続いて工藤は、二つ目の「気になっていること」として、「アメリカ大統領選の行方」について、ストークス氏にその見解を尋ねました。

多くのアメリカ人にとって安保や通商は大きな争点ではないことを念頭に置くべき

YKAA8583.jpg これに対しストークス氏は、選挙情勢はヒラリー・クリントン氏が優位に立っているとしつつも、私用メール問題で足踏みしているため、投票日の11月8日まで「誰が勝つのか分からない」状況であると語りました。

 次に、「トランプ現象」については、特に平均的白人男性にとっては、経済的な苦境に加えて、ウーマン・リブや公民権運動、同性婚の合法化などアメリカ社会の様々な変化についていけないと感じている人が多くいるため、かつての男性優位のアメリカ社会の復活に向けて「時計の針を巻き戻せる人間」としてトランプ氏に期待が寄せられていると解説しました。

 一方、ストークス氏は、今回の世論調査結果では、特に日本人や韓国人が、「トランプ大統領」誕生の際の北東アジアへの悪影響を懸念しているという結果については、トランプ氏の言動から懸念を抱くことはやむを得ないとしつつも、「多くのアメリカ人にとって安保や通商は優先順位の低い課題であり、これによって彼が支持を得ているわけではないということを念頭に置きながら今後の対米関係を考えていくべき」とも指摘しました。


 次に、工藤は世論調査結果では、「今後10年間のアジアにおける中国の影響力」について、中国自身も含めた各国で低下するとの見方が増加していることに言及した上で、その背景について尋ねました。

経済減速で自信を失った中国。しかし、それにはプラスの面もある

YKAA8632.jpg これに対し宮本氏はまず、2008年のリーマン・ショックの際、欧米が打撃を受ける中、4兆元の経済対策などの迅速な対応により、乗り切った中国は、「民主主義よりも共産党の一党支配体制の方が効率が良いと自信を持った」と解説。しかし、ここに来て中国経済が減速してきたことによってその自信が揺らいできており、それが影響力低下の見通しにつながっていると分析しました。

YKAA8245.jpg 袁氏も宮本氏と同様の見方をし、さらに経済減速以外にも南シナ海問題を中心として、外交政策で手詰まり感があることが自国の将来に対する不安を増幅させていると解説しました。

 その一方で袁氏は、これまでの中国では、強い自信を背景としてナショナリスティックな国民意識が高まっていたが、それが抑制されるという点では「適切な下降現象ともいえる」とし、さらにこれを機に「中国独自のやり方ではなく、グローバルな観点からの適切なやり方で国際貢献していくようになることを期待する」と語りました。 

 次に、工藤は世論調査では日中韓相互の信頼度が低いという結果が出ていることに言及し、こうした状況を打開し、北東アジアに平和な環境をつくるために何が必要となるのかを尋ねました。

エリートはビジョンを示し、世論をリードすべき

YKAA8589.jpg 田中氏は、これまでは国際社会も国内社会もエリートによる合理的な判断によって動いてきたと振り返った上で、「トランプ現象」やイギリスのEU離脱などこれまでは考えられなかったような新しい変化が見られるのは、「国際社会も国内社会ももはや合理的な考えではなく、ポピュリズムによって動いていることの証左だ」と語りました。

 そして田中氏は、そういう状況の中では「北東アジアの平和構築も国民世論の理解と支持なくしては進まない」と世論の重要性を指摘。しかし、それは正しい情報に基づいた正しい世論である必要があり、「これをつくっていくためには政府をはじめとするエリートの役割と責任は大きい」と主張しました。

 田中氏は続けて、これまでの日米中韓の各国政府は例えば、北朝鮮問題では「ステータスクオ(現状維持)でもかまわない」といった態度で、課題解決に取り組む姿勢が乏しかったことを批判。その根底には各国政府が北東アジアの将来に向けた長期的なビジョンを持っていないことが原因としてあるため、それをつくった上で互いに持ち寄り、「将来何をすべきか」というコンセンサスを得ていくべきであり、そのためには様々な領域の課題で協力を進め、信頼醸成をしていくことが不可欠の前提だと説きました。

 これを受けて宮本氏は、「民主国家では国民も頑張らねば」とし、民間の役割を強調。そのためには専門的な課題でも一般世論と認識を共有できるように有識者が議論をリードしていくべきだと語りました。

15年目、真価が問われる言論NPO

YKAA8609.jpg 会場からの質疑応答を経て最後に工藤は、「『トランプ現象』を見ると知識層が力を失っているように感じる。その背景には彼らが課題解決に挑んでいる姿が見えないことがある」と語り、さらに、「今月、15周年を迎える言論NPOはまさに真価を問われている。個人が責任を持って課題解決に取り組むようにしていかなければならない。北東アジアの平和な環境づくりという課題でも、各自が他人事ではなく、自分の課題として捉えられるような議論をしていかなければならない」と意気込みを語り、議論を締めくくりました。

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