言論外交の挑戦

「第13回日中共同世論調査」結果発表記者会見報告

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⇒「第13回日中共同世論調査」結果


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 言論NPOが中国国際出版集団と共同で実施した「第13回日中共同世論調査」の結果を12月14日、中国・北京市内のJW マリオットホテル北京で記者会見し発表しました。

 会見は人民中国総編集長の王衆一氏の司会進行の下、日本側からは言論NPO代表の工藤泰志が、中国側からは中国国際出版集団副総裁の王剛毅氏と中国零点研究コンサルテーショングループ董事長の袁岳氏が出席し、行われました。会場には、日中両国のメディア関係者およそ50人が参加するなど、国内外から高い関心が寄せられました。
  
 今回で13回目となるこの共同世論調査は、日中両国の相互理解や相互認識の状況やその変化を今後継続的に把握することを目的に、2005年から言論NPOとチャイナデーリー紙が共同で開始したもので、現在は中国国際出版集団が中国側の調査を担当しています。今回の調査は10月から11月にかけて行われ、サンプル数は日本が1000人、中国は1564人です。また、世論調査を補完する形で、同時期に有識者調査も実施され、こちらのサンプル数は日本が341人、中国が603人となっています。今年は12月16日から「第13回東京-北京フォーラム」が北京市内で行われますが、その対話の中でもこの調査結果が使われることになっています。

 会見では、工藤から今回の調査のポイントについて以下のような報告がなされました。


鮮明になってきた現状の日中関係に対する意識の改善

2.jpg 「現状の日中関係」を「悪い」とみる日中両国民が大きく減少。特に、日本人では44.9%と7年ぶりに50%の水準を切っています。過去13年間の経年変化でみると、両国民の現状の日中関係への意識は、日本政府が尖閣諸島を国有化した2012年以後一段と悪化しましたが、日本国民の意識は数値上、この「尖閣以前」に戻った形になります。中国人でも、日本との関係を「悪い」とする見方は64.2%とまだ6割を超えているものの、昨年の78.2%から14ポイントも減少しています。 

 ただ両国民は、現状の日中関係を「良い」と判断したわけではなく、「良い」という判断は昨年よりは好転しているものの、日本では1割にも達せず、中国人は2割程度にすぎません。そのため、工藤は「悲観的な見方が大きく減少したことが、現在の日中関係に対する意識の大きな改善要因といえる」と解説しました。

 悲観的な見方が、特に日本側で大きく減少した背景として、工藤はまず、両国の政府間でこの一年、首脳会談や外相会談が活発に行われるなど日中両国政府首脳間の交流などに進展があり、両国民がメディア報道を通じてそうした動きを知る機会が増加していたということを指摘。さらに、「日本では北朝鮮の核開発に伴う軍事的な脅威感が高まり、関連報道も多く、それが相対的に日中関係の安定性を際立たせたということも言える」と述べました。

 一方、中国側について工藤は、「日本ほどに北朝鮮に脅威感を抱いておらず、むしろ日本自体に軍事的な脅威感を持っていることが、日本世論ほど認識に大きな改善がみられない一因となっている」と分析しました。


中国国民に対日印象の改善が急速に進んでいるのはなぜか

0B9A0353.jpg 今回の調査のもう一つの大きな特徴は、中国人の日本に対する印象の改善が際立っており、改善が遅れる日本人との間で異なる傾向を示しているということです。

 両国民の相手国への印象は、尖閣諸島の日本の国有化後の調査となった2013年に悪化しましたが、その後、中国国民の日本に対する印象は改善に向かっていました。今回の調査でも改善基調は続き、日本に対して「良くない」という印象を持っている人は今回66.8%と昨年から10ポイントも改善し、5年前の「尖閣以前」の水準まで戻っています。

 また、日本に対して「良い」印象を持っている中国人も31.5%(昨年21.7%)と3割を超え、やはり「尖閣以前」の水準に回復しています。

 これに対して、日本人の中国に対する印象は昨年よりはわずかな改善にとどまっています。


 こうした中国国民の対日印象改善の要因として工藤は、「認識構造の大きな変化」を挙げました。従来、両国民の相手国に対する認識は自国のメディア報道などの間接情報に依存していましたが、中国人では、日本への訪問経験がある人が年々増え続けています。

 そこで工藤は、こうした日本に渡航経験がある層に絞った分析結果として、日本に渡航経験がある人の中では、日本に「良い」印象を持つ人は59.8%と6割近くになり、渡航経験のない人の26.2%を大きく上回ったという結果を紹介。また、渡航経験がある中国人は、そうでない人よりも日本人を「礼儀があり、マナーを重んじ、民度が高い」あるいは「日本人は真面目で勤勉で努力家」と思う人が多いなど、直接交流の増加が中国の国民意識の改善に大きく寄与していることも明らかにしました。

 工藤はもう一つの大きな特徴として、相手国に対する印象を年代別でみると、中国人と日本人では異なる傾向をみせていることを紹介。例えば、中国の20歳代未満で日本に対して「良い」印象を持つ人は61.9%と半数を超え、20代でも40.6%と高く、60歳以上の16.2%などと比べても突出しています。一方、日本人では、中国に対する印象に関する世代別の違いは、そう顕著ではありません。 


 では、中国の若い層がなぜ、日本に対して好印象を持つのか。工藤はその手がかりとなるものとして、「情報源の多様化」を挙げました。中国では、若い年代ほど携帯機器(携帯電話、スマートフォン等)を通じたニュースアプリと情報サイトから、日本や日中関係の情報を得る人が増えていますが、これは年代に関わらずテレビを主要な情報源とする日本人とは大きく異なる傾向です。

 しかも、この携帯機器によるニュースを情報源とする中国人のうち、42.2%と4割を超える人が、日本に「良い」印象を持っています(テレビは25.4%、新聞は20%)。

 工藤は、「こうしたことから、渡航経験という人と人との直接交流と、自国ニュースの情報源の多様化が、中国では相手国への印象を好転させる方向に寄与していることを意味している」と解説しました。


まだ多くの課題が残されている

0B9A0293.jpg 今回の調査結果では、現状認識や印象面でマイナス意識の改善が進んでいますが、今後本当の意味でプラスの意識に変わるためには、まだまだ多くの課題があることも示しています。

 例えば、お互いの国に対する基本的な理解の問題では、中国人は、日本のことを「軍国主義」で「覇権主義」の国だと見ている人が依然として4割近くいるなど、互いに違和感が残る結果が見られます。この点について工藤は、「自国がそう見られていることに違和感を覚えるのであれば、それが違うということをお互いに説明していくしかない。また、そうした理解を国民の中につくり出していることを、両国のメディア関係者はより真剣に考えることが必要だと思う。こうした相手国に対する理解が、相手国のマイナス印象をつくり出しているからだ」と述べました。

 歴史認識の問題も依然、両国間の大きな障害だということが今回の調査では明らかとなっています。「歴史認識が日中関係の障害か」という今回の設問で、日本人の意識には昨年から大きな変化は見られませんが、中国人では「歴史問題はほとんど解決しておらず、日中関係には決定的に大きな問題」だと考える人は56.3%と半数を超えており、しかも昨年の47.8%を大きく上回っています。これに「ある程度解決したが、依然大きな問題」だと考える人(30.9%)を加えると8割以上もの中国人は、今も歴史問題が日中関係の障害だと考えていることになります。

 この結果を受けて、工藤は「この一年、歴史問題で政府間の大きな対立があったわけではないにもかかわらず、歴史問題に対する意識が高まった理由は別のところにあるのかもしれないが、中国の国民の意識の中で歴史問題が大きな比重を占めていることには留意が必要である」と語りました。

 軍事的な脅威に対する両国民の見方についても、日本人の中では中国の軍事的な脅威よりも北朝鮮の軍事的脅威に対する関心が高まっているのに対し、中国人では、北朝鮮に対して軍事的な脅威を感じる中国人はわずか13.1%しかないなど、両国民の認識にはギャップがあります。工藤も、「北朝鮮の核開発問題を含めた北東アジアの平和という課題に、日中両国がどのように協力していくのか、それが見えないことが、日本と中国の国民の意識のズレを拡大させている。それこそ、今、両国に問われている課題でもある」と語りました。


重要な関係であるが、なぜ重要なのか、どういう関係を目指すべきか、見えていない

 続いて工藤は、日中関係の重要性に関する設問について言及。日中関係を「重要」だと考える両国民は、日本が71.8%(昨年70.4%)、中国で68.7%(昨年70.8%)とそれぞれ7割もおり、両国民は重要性を強く認識しています。

 しかし工藤は、「では、なぜ日中関係は重要なのか。両国民はまだその答えを見つけ出しているわけではない」と述べました。その理由として、「重要である理由を尋ねた設問では、互いの重要性を具体的にイメージできていないから、両国民の回答はまだ一般的な認識にとどまっている」、「国民の半数が、日中関係が平和的な共存・共栄関係となることを期待しているが、実現するかわからないと答えている」ことなどを挙げ、「重要な関係であるが、なぜ重要なのか、どういう関係を目指すべきか、まだお互いにみえない状態にある。それが現在の日中関係である」と述べました。


新たな日中関係の展開に対する強い期待も見られる

 一方で、日中両国政府の間で始まっている関係改善を受け、さらに世界の秩序が不安定化し、北東アジアでも平和に関する不安が高まる中で、日中はより強力な協力関係を構築すべきか、という今回初めて入れた設問では、日本人の59.2%、中国人の73.5%が「そう思う」と回答しています。工藤はこの結果を、「日中関係を一歩先に進めようという両国民の意識も見え隠れしている」と語りました。そして最後に、「今回の調査は、両国の国民の意識に改善傾向が見られたが、互いの体制や考え方の違いや、歴史認識や安全保障の問題など乗り越えるべき課題も浮き彫りになっている。しかし、いくつかの設問で示されたように、日中協力について両国民は強く期待している。また、政府間だけではなく、民間の交流に対しても両国民に強い期待がある。そうした民意をどう吸い上げて、これからの協力を構想できるかが、今後の国民間の意識の方向を決めることになるだろう」と語り、報告を締めくくりました。

 中国側からは、袁岳氏が今回の調査の概要を説明した後、王剛毅氏が今回の調査結果のポイントを説明しました。


日中関係が発展していく上での良い兆候は多い

0B9A0144.jpg 王剛毅氏は、日中関係の現状認識や相手国に対する印象など様々な点において改善傾向が見られること、さらに東アジアが目指すべき価値観として「平和」とともに「協力発展」を挙げる両国民が多いこと、将来的な平和的共存・共栄関係を望む声が多いこと、アジアや世界の課題で、両国が協力すべきと考えている声が多いことなどから、今後さらに日中関係が発展していく基盤はできているとの認識を示しました。

 一方で王剛毅氏は、現状認識や印象において「悪い」が減少したとはいうものの、依然として高水準であることや、「歴史」や「領土」を日中関係の障害と捉える国民が両国に多いことなどを踏まえ、「処理しなければならないデリケートな課題はまだまだある」と語り、「基盤」も決して盤石ではないとの見方を示しました。また、日本に対する「良くない印象の理由」の中で、中国人の3割近くが「日本が一つの中国の原則に消極的な態度を示しているから」を挙げたことを紹介し、日本側があまり意識していない問題についても指摘しました。

 その上で、「良い兆候も多いのだから、これを足がかりとして長期的な関係の好転に向けて頑張っていきたい」と16日から始まるフォーラム本番に向けた意欲を示しました。
 
0B9A0322.jpg その後、出席したメディアから様々な質問が寄せられ、活発な質疑応答が交わされました。予定時間終了後も、多くの報道関係者から質問が相次ぐなど、日中関係、さらにこの共同世論調査への関心の高さをうかがわせる会見となりました。

 言論NPOは今回の調査結果を踏まえながら、「第13回 東京-北京フォーラム」での議論を行っていきます。議論の内容は、言論NPOのホームページで随時公開していきますので、是非ご覧ください。

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