言論外交の挑戦

日中安全保障対話(於:上海) 報告

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 2018年3月17日、言論NPOは上海の虹橋迎賓館にて、上海国際問題研究院と共同で、日中関係を取り巻く国際秩序や安全保障の課題について議論を行いました。会議は3つのセッションに分けて全て非公開で行われ、日中両国の専門家たちが忌憚なく相互の認識をぶつけ合い、課題に対して具体的な提案を形づくっていく展開となりました。

 冒頭の開会式では、日中双方から2名ずつが挨拶を行いました。言論NPO代表の工藤泰志は、世界情勢が大きく動く中、日中間の協力をもう一段高める段階にあり、北東アジアの平和構築を行う上で、日中の共同作業が不可欠だ、と指摘。その上で、言論NPOが「第9回 東京-北京フォーラム」で合意した不戦の誓いに触れ、「尖閣問題で政府間の対話が途絶えた時、我々は民間での対話を閉ざしてはいけないとの思いから、不戦の誓いに合意した。民間ができるのは、アジェンダを定め、課題を抽出し、合意していくというプロセスだ。今回の対話も重要な一歩だ」と語り、今回の会議によって課題に対する具体的な提案を作っていくことに意欲を示しました。

IMG_3808.jpg 続いてあいさつに立った国務院新聞弁公室元主任の趙啓正氏は、今年が改革開放と日中平和友好条約40周年であることから、中国の発展とその過程での日本の支援を自身の思い出も交えながら振り返りました。また、超氏は、習近平主席も用いた「呉越同舟」という言葉を引き合いに出し、困難な状況の中でも、日中が協力してそれを乗り越えていってほしい、と今回の会議に期待を示しました。


安全保障分野において日中間でどのような協力関係が築けるのか

 まず、第1セッションでは「2020年代に向かうアジアと世界の情勢」をテーマに議論が行われました。まず、日本側から東アジアにおいて情勢の不安定さが増す中で、日米中の三カ国関係を軸にして安定化に向かうことが望ましいという指摘があり、それに関して4つの具体的な提案がなされました。

 具体的には、①北朝鮮問題におけるP3C政策(Pressure, Coordination, Contingency Planning , Communication)の実行、②6者協議をはじめとする、東アジアの信頼醸成の枠組みの構築、③TPP11 、RCEPなど、アジア太平洋におけるルールに基づく自由貿易圏の確立、④一帯一路における日米中の協力枠組みの構築、というものです。

 この提案を受けて、日米中の連携の重要性を確認しつつも、中国側からは、「安全保障面において、中国と日米はゼロサムの関係にならざるを得ないのではないか」という懸念が示されました。

 これに対して日本側からは、「安全保障においては長期的な視点が重要であり、対立関係にあるときにおいても先の4つの提案を実行していき、長期的、漸進的な信頼醸成に努めていく必要がある」という意見が出されました。

 また、アメリカが2017年12月に発表した「国家安全保障戦略」において中国を修正主義国家と位置付けたことについて、これが今後の安全保障体制にどのような影響を与えるかについて、中国側からは、アメリカが中国に対抗意識を強めていることに懸念を示す声も上がりました。

IMG_3775.jpg 一方で、日本側からは、「これを大国同士の対立関係と単純に捉えるべきではなく、協力の可能性も当然模索できるといった意見」や、「アメリカ国内でもこれに関して様々な議論がされており、これをアメリカの総意であるとするのは早計である」、といった慎重な意見も出されました。


中国が主張するルールに基づく国際秩序とは

 また、近年、「ルールに基づく国際秩序」に対する中国の態度に注目が集まるなか、中国側は、「『国連憲章の趣旨と原則に基づく国際秩序』を重視しており、これは『ルールに基づく国際秩序』とは異なるものである」と発言し、会場を驚かせました。

 中国側は、国連憲章の趣旨として、平和、発展、一国一票の原則をあげ、中国はこの普遍的な価値を擁護すると述べました。日本側も、この中国のこの原則に理解を示しつつも、この原則を実行するにあたって、不適切な方法で行われている可能性があると懸念を示しました。

 さらに、経済・貿易のルールに関して、日本側からは、既存のルールに挑戦しようとする中国の姿勢に関して、過去に日本も同様の批判を受けたことに言及し、中国に一定の理解を示しつつも、ルールに基づく経済の重要性を強調しました。


一帯一路における協力

 一帯一路については、日米中の協力のきっかけになるという肯定的な意見が双方から挙がりました。一方で、一帯一路における中国の勢力拡大を懸念する声も上がり、中国の説明責任の重要性も強調されました。

 日本側は、過去の日本の開発援助政策に触れ、「日本は明確な規則の下で援助を行っていたのに対し、中国はどうなのか」という疑問が投げかけられました。中国側からは、「一帯一路は単なる援助政策ではなく、国際的な経済協力体制である」との見解が示されると、日本側は、「それでも規律に基づいて進められる必要がある」との意見が出されるなど、一帯一路に関する両国の認識に差異が存在する一方、一帯一路がルールに基づいて多国間協力の下で進められることの可能性が示されました。

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 第2セッションでは、「北朝鮮の核問題をめぐる国際社会の対応」をテーマに議論がなされました。北朝鮮は核と弾道弾の能力を急速に高める一方で、平昌オリンピックを契機に態度を軟化させていることもあり、南北、米朝首脳会談の行方や、その効果がないとしたらどのように対処していくべきなのかに注目が集まりました。


米朝首脳会談の行方と軍事オプションの可能性

 首脳会談の行方については、特に米朝では成功に懐疑的な意見が多く出ました。理由としては、北朝鮮、アメリカともに政府に不確実性が存在すること、米朝で政策目標が大きく異なること、被害妄想的な行動をする傾向のある北朝鮮と、力を背景とするアメリカの対話が果たしてかみ合うのか、といった指摘がなされました。

 一方で、核問題に関して待ったなしの状況である現在、この対話のチャンスを逃してはならないといった意見も集まりました。

 また、米朝対話が決裂した場合、アメリカが軍事オプションを採るのではないか、という懸念が多くの参加者から挙がりました。

IMG_3807.jpg これに対して中国側は、中国の武力行使の可能性を明確に否定し、平和的解決を望むことを強調しました。一方で、北朝鮮で大きな混乱が起きた場合に、不可避的に軍を動員する可能性は否定できないとし、そのような緊急事態への対応策についても議論していく必要があると述べました。


北朝鮮問題を巡る対話

 軍事行動を何としても避けなければならないという状況の中で、北朝鮮問題を巡る対話の枠組みの構築が焦点となり、特に利害関係国のマルチ対話の重要性が強調されました。

 この中で、「時間が限られている中で、まず非核化に焦点を絞って徹底的に議論していくべきである」といった意見や、「対話にあたっては、お互いの懸念事項について配慮していく必要がある」、「非常時の危機管理体制についての連携を強めなければならない」など、どのように対話を進めていくかについて、様々な意見が飛び交いました。

 また、北朝鮮の完全な非核化には、検証のプロセスなど、長いスパンを要するという指摘がなされ、その中で関係各国が共同して対処していく必要性が強調されました。


非伝統的安全保障分野における協力の重要性

 第3セッションでは、「地域安全保障の構築と中日両国が果たすべき役割」をテーマに、ゼロサム関係になりがちな安全保障分野において、いかにウィンウィンの関係を構築していくかが焦点となりました。さらに、議論の過程では日中間の敏感な問題への議論も行われ、非公開会議らしく、互いの本音をぶつけ合うセッションとなりました。

 今回の議論では、非伝統的安全保障分野における協力について多くの意見が出されると共に、非伝統的分野での協力は伝統的な安全保障分野における緊張緩和をももたらすものであるとして、日中双方とも肯定的な見解が示されました。

 具体的には、人道支援、災害支援、PKO、テロ・国際犯罪・海賊対策、サイバー問題、宇宙、環境保全などの世界共通の利益に関する分野での協力が挙げられました。

 特に、日中が対立関係に陥ることの多い海洋問題の分野においても、海賊対策や環境問題など、協力できる分野が存在するという見解で一致し、PKOについても、近年は日本の参加が減ってきていることに懸念が示されつつも、この分野において日中が長年協力してきたこともあり、これからの協力の発展も十分に考えられるとの意見が出されました。

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伝統的安全保障分野における協力の可能性、人民解放軍の情報の透明性

 伝統的分野においても、以前、自衛隊と人民解放軍の軍事交流が行われていたことに触れ、このような交流を再開していくことが相互理解の改善につながるという意見が出されました。

 さらに、軍の相互の信頼を高めるうえで、軍事の透明性についても焦点となりました。「日本が防衛白書を毎年発表しているのに対して、中国の解放軍の透明性は低いのではないか」という質問に対して、中国側は、透明性の低さについて認めつつも、「中国側としても一定の情報の公開はしているのであり、また改善に向けて努力していきたい」と述べ、日本側も一定の理解を示しました。

 今回の会議を通じて、日中双方は国際秩序、安全保障などについて相互の認識を共有し、協力できる分野が存在することを確認するとともに、課題解決に向けて一歩前に進むことができる、有意義な議論となりました。

 言論NPOは、引き続き、「東京-北京フォーラム」のようなオープンな対話と、非公開の対話を並行して行い、北東アジアの平和構築に向けた動きを進めていきますので、ぜひご注目ください。

文責:佐々木智仁(言論NPOインターン)
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