言論外交の挑戦

第2回日米共同世論調査の結果から見る米朝会談の行方
-日本国民が認識すべき、朝鮮半島を巡る歴史的な変化とは

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 言論NPOは、6月12日の米朝首脳会談を前に、米国メリーランド大学と共同で実施した「第2回日米共同世論調査」の結果を発表しました。この結果を踏まえ、会談の行方や北朝鮮の核問題解決の成否、朝鮮半島の将来について私たちは何を考えなければいけないのか、言論NPO代表の工藤泰志が、米国社会の動向に詳しい慶應義塾大学の渡辺靖教授に聞きました。


kudo.jpg工藤:言論NPOの工藤です。いよいよ、歴史的な米朝首脳会談が、6月12日に迫ってきました。それを前にして、私たちは、この会談がどのような成果を持つのか、この動きをどのように考えればいいのかについて、日本とアメリカの国民に考えを聞こうということで、8日に日米共同世論調査の結果を発表しました。この中で、日本とアメリカの国民の間に、いろいろな注目すべき傾向が見えてきました。今日は、アメリカ世論の動向に詳しい、慶應義塾大学SFC教授の渡辺靖先生に来ていただき、この内容について二人で議論をしてみたいと思っております。

 さて、調査の結果なのですが、一言で言うと、会談の成果は誰も分からないのです。トランプさんのディール(取引)のスタイルでどんどん動いているわけですが、少なくとも、日本とアメリカの国民は、進展に期待はしているものの、まだ懐疑的に思っているという結果が出てきました。日本とアメリカの国民が、米朝会談についてこのように見ているということを、渡辺先生はどのようにお考えでしょうか。


成果には懐疑的だが、対話の実現自体は評価している米国民

watanabe.jpg渡辺:総じてアメリカ国民の方が、米朝会談の行方、あるいは北朝鮮の非核化について楽観的なのかな、という気がします。日本国民はどうしてもこれまでの経緯、拉致問題も含めてかなり北朝鮮にだまされてきたということを、直接的な記憶として鮮明に持っている人が多いですから、懐疑的だということです。

工藤:私は昨日まで調査結果を分析していたのですが、トランプ流の行動に対して、まだ日本では違和感、「本当にこれで大丈夫か」という見方があるのですが、アメリカの社会ではこれを意外に評価しているという傾向が、いろいろな形で出てきています。実際、どのように見ればよいのでしょうか。

渡辺:もともと、アメリカ国民はけっこう楽観的なところがあるので、やはり対話が必要ではないか、トランプ大統領がその対話を実現させることができたこと自体は評価すべきではないか、といった意識の表れかと思います。ただ、私が実際に会っている外交・安全保障の専門家になると、「トランプ大統領のやり方は前のめりすぎる」とか、不安を覚える人が多く、疑念が強いというのはあります。

工藤:確かに、今まで北朝鮮問題では、北朝鮮と合意をし、約束をしても裏切られています。ですから、ボトムアップ的な、きちんと条件を整えて交渉に持って行くという形が今までの流れだったのですが、今回は完全にトップダウンで動かしていく。それが妙に、金正恩さんとぴったり合っているような感じもしています。この状況だからこそ、こういう対話が実現できたと思うのですが、それはどうでしょうか。

渡辺:おっしゃる通りだと思います。おそらく、これまでのような下から積み上げていくやり方ではうまくいかなかったのではないか、ということで、今回はかなりホワイトハウス主導で舵を切っていった。そのやり方というのは、かなり荒々しいし強引なところもありましたが、結局、それでもって北朝鮮を交渉の席に持ってくることができた。そのこと自体は評価すべきだと思います。ただ、一方で、トップダウンで粗削りなやり方なので、実際に詰めなければいけない部分は相当残っているのも事実です。ですから、ここから細部をいかに詰めていくか、というのは、どちらかというと閣僚レベルが行っていくことだと思います。


米国側に主導権を引き寄せたトランプ大統領の交渉術

工藤:本論の調査結果に入る前に渡辺先生のお考えも聞いておきたいのですが、今回の対話のプロセスを見てみると、初めは、金正恩さんがかなり押していったわけですよね。ICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射し、核開発に動いて、それに対してトランプさんがどう対応するか、という状況があったのですが、しかし、途中から、トランプさんが「これでは無理だ」と判断したのか、会議を中止するという判断をしてから、今度は逆に金正恩さんの方が慌てて、韓国の大統領に仲介を求め、流れが動いてきた。だから、どちらが譲歩したのかという状況から見れば、流れだけを見ると、北朝鮮の方が寄らざるを得ない状況に追い込まれた。だから、ディールの仕方としては、北朝鮮側がトランプさんの土俵に入っている、というふうに見えるのですが、こういう見方についてはどうでしょうか。

渡辺:トランプ大統領はもともとビジネス出身の方で、これまでいろいろ挑発するようなことをやってきたかもしれないけれど、3月8日に「米朝会談に応じる」と発表して以降は、一切、北朝鮮への挑発を控えています。それが、彼にとっては、これから交渉しようとする相手に対する礼儀というか、流儀だと思います。ところが、北朝鮮は相変わらず挑発的なことを言って、ペンス副大統領を馬鹿にしたり、核戦争の可能性を示唆したり、ということがありました。そういう変則的なやり方は、我々外交の専門家は何となく慣れていますが、外交経験のないトランプ大統領にとっては相当違和感があったと思うのです。

 だから、このまま行くと良くない、これまでの米朝交渉と同じパターンになってしまう、ということで、牽制球を投げて、「アメリカは中止しても構わない」と表明しました。そのことによって、アメリカが基本的には主導権を持っているということを示したのだと思います。とは言っても、交渉相手なので、あくまで挑発するようなことはせず、どちらかというと、日本から見ると「かなり態度を軟化させたのではないか」と心配になるくらい、「金正恩氏からの手紙が非常に温かかった」とか「ホワイトハウスに招いてもいい」ということを言って、北朝鮮側からの妥協を促すようなアプローチを取っているということだと思います。

工藤:結果として、トランプさんは「これはラストチャンスだ」など、映画のシーンのような発言をしています。世界的には緊張感はあるのだということを示しながらやるというのは、ディールの仕方としてはかなり上手いですよね

渡辺:そうだと思います。確かに、交渉相手をないがしろにしないというやり方は、「態度を軟化させたのではないか」と不安になるのですが、日米首脳会談後の会見とか、ポンペオ国務長官の先日のNHKのインタビューなどを見ると、アメリカの基本的な姿勢はそれほど変わっていません。だから、トランプ大統領の友好的な部分だけを見て、過度に不安視する必要もないのかなと。そういう意味では、交渉術としてはありなのかな、と思います。


拉致問題解決を促す動機は米国側にあるか

工藤:さて、今回の世論調査ですが、まず、日本とアメリカとの国民意識の違い、また、アメリカの中でも、民主党支持層、共和党支持層というもっと厳密な分析が必要なのですが、ただ、ある程度はそのデータまで入手していますので、それを含めて渡辺先生とお話をさせていただきたいと思います。

 まず、日本の国民は、今回の会談の行方については、期待はあるのですが、非核化への成果にはつながらないと見ています。「朝鮮半島の非核化に向けて決定的な成果が期待できる」という意見は6.2%しかなく、「いくつかの問題について進展はあるが、非核化への成果にはつながらない」という回答が52.2%と、半数もあります。つまり、アメリカと比較しても、日本の国民の意識はかなり懐疑論に傾いているのですが、これはどう見ればよろしいのでしょうか。

渡辺:日本の場合は、やはり、これまで何度も、拉致問題などでもだまされてきたという意識があるので、懐疑的だということです。それから、アメリカ国民全般にとってみれば、北朝鮮問題はまだ遠い問題でもあるということと、アメリカ人の人質3人が帰国してきたということで、この問題が何となく前向きに転じているのではないかという、非常に漠然としたイメージのレベルで答えている人が多いのではないかと思います。安全保障の専門家になると、先ほど申しましたように、随分とシビアな見方が多いのだと思います。

工藤:日本にとっては二つの問題があります。安全保障面で見れば、核の完全な廃棄、非核化ということが、日本の安全保障の今後にとっても非常に重要な課題だということがよく理解できるのですが、一方で拉致の問題があって、この間の動きを見ていると、メディア報道では「日本が拉致問題の提起をアメリカ大統領に頼んでいる」というイメージが多いのです。しかし、現実的には、トランプさんは会談で拉致問題をきちんと言う、ということは約束してもらっているのですが、今回の交渉は拉致問題が入口の条件になっているわけではなく、あくまでも核問題の交渉です。日本国民から見れば、今回の問題をどのように受け止めればいいか分かりにくくなっている。そんなふうに思うところもあるのですが、どうでしょうか。

渡辺:うがった見方をすると、北朝鮮がなぜアメリカ人の人質解放に比較的容易に応じたのか。アメリカからの「それが会談の前提条件だ」という強い主張があったのかもしれないけれど、北朝鮮からすると、同時に、人権問題について首脳会談の場でアメリカから何か批判される、ということをかわす上では、人質を先に帰してしまった方が、議題そのものに占める人権問題の比重が下がる。だから、拉致問題というのも「解決済みである」あるいは「日本と話をする用意はある、と安倍総理に伝えておいてくれ」と北朝鮮から言われたら、アメリカとしては、それ以上突っ込んで解決を促すようなインセンティブはないような気もします。


安倍首相はなぜこのタイミングで訪米したのか

工藤:そうですね。ただ、日本国としては、拉致被害者を救出することが大きな政治イシューですから、言わざるを得ない。だから、どういう形になっているのかがよく分からなくなってきた。

 もう一つ、安倍総理がG7サミットの前に、日米首脳会談のためにアメリカに行った理由がよく分からないのです。アメリカが非核化について北朝鮮側に寄っているのではないか、ということで念を押しに行ったのかな、というのはあったのですが、記者会見を見ていると、「日朝の首脳会談をやっていく」という新しいキーワードが出てきました。確かに、その中で拉致問題を話し合うことは重要なのですが、外交では何かが別の形で動いているかもしれないのに、国民にはなかなか分からない。世論調査では日本側の25.3%が米朝会談の成否を「分からない」と答えましたが、こうしたことも調査の中で傾向として出ているのではないでしょうか。

渡辺:おっしゃる通りで、私も、「安倍総理が核、拉致、ミサイルの重要性を改めて説くためにトランプ大統領に会いに行った」というのは、「本当かな」と思います。それだけが理由であれば、それは何回も繰り返し言っていることだし、別のチャネルで言うことも可能なのです。それはあくまで表向きの理由であって、実際は、日朝会談と米朝会談の間にどういう整合性をつけるべきか、とか、経済支援のやり方とか、裏ではそれなりに突っ込んだ話がされているのではないか、と思います。


核を持ったまま経済発展への道を歩む北朝鮮
    -歴史的な変化を日米の国民は受け止められるか

工藤:ということになると、今回の米朝首脳会談への見方は懐疑的で、どうなるか分からないのですが、ひょっとしたら、非核化だけではなく、今までの朝鮮戦争の平和協定の締結、それから国交回復、という歴史的なことに動きかねない状況を迎えているのではないか、というシグナルとしても考えなければいけなくなるのですが、どうでしょうか。

渡辺:北朝鮮、特に金正恩委員長がどう考えているか次第ですが、彼は今後、30年、40年、50年、北朝鮮を治めることになるかもしれない。これからますます経済発展に力点を置いていくということになると、日本からの支援はどうしても必要だろう、と。そういうことになったときに、拉致問題に対してこれまでのような対応を取り続けることが本当に賢明と考えるか。場合によっては、「拉致問題は自分の父あるいは祖父の代の幹部が一方的に暴走して行ったことだ。だから別に自分の責任ではない。むしろ自分はそれに前向きに対応した」ということに姿勢を転じる良い機会でもあるわけです。ですから、それが米朝首脳会談の声明文に盛り込まれる、などということまでは考えにくいですが、何かしらのシグナルを発することは十分あると思います。

工藤:ということは、日本側の調査結果を見ると、今回の首脳会談の意味を国民レベルでは十分消化できていないことになります。私は「非常に歴史的な局面にある」と考えているのですが、そういう理解でよいのでしょうか。

渡辺:そうだと思います。あと、いわゆる朝鮮戦争の終結、そのこと自体は手続き的にはさほど難しい話ではないのかもしれませんが、冷戦構造が北東アジアについて一応終わるということも、やはり大きいですね。そうすると、北朝鮮は、平和協定を結ぶべきかどうかは別として、戦争の心配がなくなる。片や、北朝鮮は資源も豊富だし、労働力も安い。そうすると、他の国、特に中国などは北朝鮮を市場として見ていく。そうなっていくと、制裁のようなものがますますなし崩しになって、国際社会の連携が事実上崩壊していく可能性もある。そうすると、日本にとって、拉致問題に関して経済的な圧力だけにこだわっていくのは本当にいいのか。大きな方向転換を迫られる契機にもなりかねないと思います。

工藤:世論調査では、「金正恩委員長は本当に、朝鮮半島の平和に強い意志があるのか」と聞きました。アメリカと日本の国民は、それぞれ約7割が「信用できない」と言っています。つまり、歴史的な大きな転換点にありながら、国民レベルでは疑心暗鬼になっている。日本の社会としても、アジアというものをきちんと考える議論が急がれているのではないかと思うのですが、どうでしょうか。

渡辺:北朝鮮に対しての猜疑心というのは、安全保障問題のプロになればなるほど拭いきれないと思うのですが、難しいのは、だからと言って北朝鮮も平和を望んでいるのだけれど、彼らの言うところのアメリカの敵視政策が続く限りは、一方的に北朝鮮側が全て放棄するというのは、あまりにもリスクが大きい。そうなると、今後、ある程度、北朝鮮が事実上の核保有国として経済発展の道を歩んでいくという現実を、日本とアメリカの国民がどこまで受け止めることができるか、ですね。


米世論の構造的な変化が始まっている

工藤:これもまた大変な話です。ただ、「歴史が動いた」ということを、ある程度考えないといけない。

 さて、アメリカの世論は、言論NPOと共同で調査しているメリーランド大学との間で、詳細なクロス分析がまだ終わっていないのです。ただ、一部のクロス分析などを見ても、やはりアメリカの中では、今回の成果に対する期待がそれなりに出ている。特に、それが共和党支持層の中で特に多く、民主党支持層には期待が少ない。また、「トランプ大統領が会談に合意した理由」の設問では、共和党支持層の方は、「南北の事前交渉によって、非核化に向けた新しいチャンスが出てきたため」が多く、民主党支持層は、中間選挙に向けて「トランプ大統領自身が重要な功績を作りたかったため」という目で見ているのです。

 しかし、よく見てみると、民主党支持層でも、「北朝鮮の非核化に向けて大きな進展が始まるのではないか」と認めざるを得ない状況になっています。つまり、アメリカの国民は、支持政党を問わず北朝鮮の大きな変化に期待し始めている、と感じたのですが、渡辺先生はどのようにご覧になっていますか。

渡辺:確かに、民主党支持者と共和党支持者では、見ているアメリカの現状、あるいは未来が決定的に違っていて、ある種のパラレルワールドのようにすれ違っているわけです。ですから、トランプ大統領に対する評価も全く水と油の状況です。とはいえ、安全保障、特に北朝鮮問題に関しては、少なくとも、戦争になったり軍事的な挑発をし合ったりするよりは、対話の気運が芽生えている。そのこと自体は否定できないのではないか、ということで、民主党支持者は、本当はトランプ大統領のことが大嫌いかもしれないけれど、それ自体は認めようということなのだと思います。ただ、だからといって民主党支持者のトランプ大統領への評価が急に好転することも、考えにくいと思います。

工藤:私もアメリカに何度も行っているのですが、トランプさんのマルチラテラルな国際秩序に対する影響があまりにも大きすぎて、「どうなるのだろう」と専門家に聞いています。すると、「次の選挙になればトランプ政権は終わり、新しい大統領になる可能性が高いから、それまでをどうしのぐかが戦略だ」という人が、通商政策などいろいろな分野の学者さんの中でいるのです。
しかし、この世論調査を見ていると、トランプさんに対する評価が意外に高い。「米朝会談の合意を受けて、トランプ大統領への評価は変化したか」と聞くと、日本側では、「評価が上がった」という人がわずか13.3%しかいないのですが、アメリカ側では34.0%が「評価が変わった」と答えています。この割合は共和党支持者ではさらに高いのですが、民主党支持者でも10数%あるわけです。ということは、アメリカの社会の中に、私たちが日本で見ているものとは違う大きな変化が始まっているのではないかと思うのですが、どうでしょうか。

渡辺:「トランプ大統領の在任期間はどんなに長くてもあと6年半だから、そこを耐えしのげばいい。そうすると、またこれまでのアメリカに戻る」という見方について、私は「そんなに単純なものかな」と思います。つまり、トランプ大統領はいなくなるかもしれないけれど、彼を生み出して支持しているアメリカというものは厳然とあり続けるわけです。今後のアメリカのリーダーも、そこを無視して政策を展開していくことは難しいと思います。ですから、いわゆるリベラルな国際秩序を重視するような手法をとったとしても、それが果たしてアメリカ国民から支持を得られるかどうか、ということは別問題かなという気がします。

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米国で党派を超えて広がる、核問題進展への期待

工藤:今の話は非常に重要な指摘なので、そうなったらどうするか、ということを考えないといけないと思いました。

 簡単に説明しますと、トランプさんがなぜ今回の米朝会談に合意したのか、ということに関して、「南北の事前交渉によって、非核化に向けた新しいチャンスが出てきたため」と考えている人は、共和党支持者では60.3%もいます。民主党支持者では12.9%にすぎません。民主党支持者では、「中間選挙に向けて功績を作りたかったため」と考える人が42.9%もいて、共和党支持者では18.5%しかいないわけです。

 ただ、この1年で、北朝鮮問題を解決する外交が大きく展開するチャンスが出てきた、ということに関しては、民主党支持者でも33.3%が認めているわけです。共和党支持者では70%がそう考えているわけですから、やはり、アメリカ国民は大きな変化を感じているわけです。「10年後には北朝鮮の核問題は解決するか」という問いでは、共和党支持者の64%、民主党支持者でも46%が「解決する」と思っているのです。そうなってくると、中間選挙に対する評価などいろいろな問題はあると思うのですが、今回の米朝会談に対しては皆が純粋に動きを見守っている状況になってきている。「ひょっとしたら大きなきっかけになるのではないか」と感じているような気がしているのですが、どうでしょうか。

渡辺:オバマ前大統領への評価は様々だと思うのですが、オバマ氏を比較的高く評価する人でも、北朝鮮政策に関しては、いわゆる戦略的忍耐、北朝鮮を無視するやり方は、結果的に北朝鮮に時間を与えてしまった、という批判があった。そこに対してトランプ大統領が切り込んでいって、とりあえず会談までこぎ着けたということは、民主党の中でも、オバマ前大統領を支持している人にとっても、評価できることとしてとらえているのだと思います。  

 ただ、ちょっと驚きなのは、「この問題が10年後に解決する」と考えている人が多いことです。そこは、どういう根拠があるのか分かりません。

工藤:事実がどうかは別にして、想像以上に期待しているのではないでしょうか。共和党支持者だけで見ると、今回の米朝会談の行方について「核問題の早期解決に大きく前進する」と「何も解決しない」が両極にあるのですが、3割台後半がその中間、つまり「解決に向けて動き出すが、最終的な解決は将来的な課題になる」と答えています。こういう問題では、大数の法則がある程度効くことによって、世論の回答が結果を言い当てる場合が多いのですが、それが正しいとすれば、米朝会談の行方は「核問題で大きな進展はあるが、最終的な解決は将来の課題になる」というのが、共和党支持者から占える結果なのですが、良いところを突いている感じでしょうか。

渡辺:今回の改善によって一気呵成に、いわゆるCVID(完全、検証可能、不可逆的な非核化)が実現するというふうには、ちょっと考えにくいのですね。少なくとも今後何回か協議が必要だと思いますし、場合によっては完全なCVIDの実現は難しいかもしれない、ということを皆がうすうす感じているところがあって、その意味では、米国民は割と現実的な見方をしているかなという気はしています。


朝鮮半島と在韓米軍、米韓同盟の将来を米国民はどう見るか

工藤:たぶん、そのゾーンをベースに、どういうことになるか、12日のニュースを見たほうがいいなと思います。

 最後に、今回の調査結果では二つ、面白い傾向がありました。朝鮮半島の今後について、日本側は「分からない」が多いのですが、アメリカ国民は「10年後の南北統一」を予想する人はすごく少ないのですね。将来に関しても、万一その傾向があったとしても、EUのように、国家は分かれながらも南北が連携していく、という見方が一番多かったのです。アメリカの国民がそこまで考えていることにびっくりしたのですが、渡辺先生はどうお考えですか。

渡辺:漠然と、「同じ民族なら一つになれば」というレベルではないでしょうか。あと、体制があまりにも違うので、一筋縄ではいかないだろう、ということだと思います。ただ、安全保障の専門家からすると、北朝鮮はある程度長期的なロードマップ、青写真を持っていて、北朝鮮主導で統一を目指していく。だから、今後は南北の間で、いわゆる地政学的な駆け引きが相当熾烈になるのではないか、という見方もあります。

工藤:もう一つ、我々日本にとっても関心がある、在韓米軍と米韓同盟の行方についても今回聞いています。アメリカ側では、民主党支持者の方が日本にとって望ましくない答えを選んでしまう人がやや多いのですが、共和党支持者、民主党支持者とも「在韓米軍は現在と同規模で維持すべき」という声が圧倒的なのです。それから、米韓同盟についても、「朝鮮半島が非核化しても」という枕詞があった上での設問なのですが、「現在と同程度に維持すべき」と答えていました。

渡辺:今回のアンケートに答えた方がどこまで考えていらっしゃるのか分かりませんが、ただ、長期的に、北朝鮮の脅威が本当に信頼できるまで除去できるのか、という問題が一つ。それから、仮に北朝鮮の問題が当面片付いたとしても、中国の軍事的台頭を考えると、朝鮮半島に米軍の部隊がいるということは非常に重要なのではないか、という見方もあるのかもしれません。アメリカの中では、言ってみれば、北朝鮮問題は究極的にはアメリカと中国の問題である、北東アジアを巡る地政学的な争いが起きているのだ、ということです。そこまで考えると、長期的には中国の存在の方がよほど、経済的にも文化的にも軍事的にも脅威である、ということで、そこに構える必要があるということとリンクしているような感じもいます。


「トランプ流」の交渉はアジアの秩序をどう変えるのか

工藤:今おっしゃった通り、そのリンクがあるのではないかと私も思っています。それがあった方が普通なのですが、そこはもう一度、日米で世論調査をやってみようと思っているところです。

 最後にお聞きします。この事態打開のためには、トランプ流のやり方の方が、一つのソリューションに向けて状況を動かすエネルギーを持っているのではないかという気がしているのです。つまり、アメリカの世論がそれを拒否していないわけです。それはどうご覧になっていますか。

渡辺:そこは非常に重要なポイントです。トランプ大統領はどうしても従来の大統領と比べて違和感があるものですから、頭ごなしに否定する方が割と目立つのですが、今回の「力による交渉」、オバマ前大統領のころには封印されていたようなアプローチが必要な状況があるのだ、その典型的な例が北朝鮮なのだ、ということです。その意味では、確かに、使っている言葉は下品で、やり方もちょっと「どうかな」と思うところはありますが、非常にワンマン的、あるいは時に曖昧であるかもしれない、または何をするか分からない「狂人戦略」と呼ばれる不安を抱かせるやり方によってしか解決できない問題も世の中にはあるのだ、ということを示す例として、後世に記憶されるのかもしれません。それはまだ、会談の結果を見ないと分からないのですが。

工藤:今日はいろいろな角度から議論してきたのですが、12日の会談を迎えるための予備知識としては、かなり十分な情報を皆さんに提供できたと思います。私たちの調査結果からも出てきたのは、単純にトランプ氏、金正恩氏という特異な人たちが交渉している話ではなくて、歴史的な状況、ひょっとしたらアジアの秩序を大きく変える、大きなリスクをもたらすかもしれませんが、それくらい大きな変化に来ている状況です。日本はこの状況の中で、積極的にこういう議論作りに参加していくことが必要なタイミングに来ていると思いました。その意味で、この調査を皆さんもぜひ活用していただき、北東アジアで何が起きようとしているのか、考える材料にしていただければと思っております。12日の首脳会談を、皆で期待して見守りたいと思います。渡辺先生、今日はどうもありがとうございました。


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