言論外交の挑戦

地球規模で進展する脱炭素とデジタル経済に向けた日中協力
「第14回 東京-北京フォーラム」特別分科会 報告

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「第14回 東京-北京フォーラム」特別分科会 (デジタル経済)前半

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 デジタル経済に関するディスカッションの前半では、デジタル技術の現状と課題や、日中協力のあり方などについて議論が展開されました。

デジタル技術における各国の現状と課題

佐々木.jpg 日本側から問題提起を行った佐々木氏はまず、デジタルエコノミーが革命的に人々の生活を変えていることに言及。その中核にはAI(人工知能)、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)、クラウド、サイバーセキュリティといったデジタル技術があると述べました。このような動きの中で、米国では「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)」を中心とする巨大プラットフォーマーによってデジタルトランスフォーメーションが起こった一方で、欧州ではGDPR(EU一般データ保護規則)等により、米国発の巨大プラットフォーマーに対してルールによるガバナンスを構築してビジネスモデルの見直しを迫っていること、さらに、あらゆるものがネットにつながるIoTを使い製造業の革新を目指すドイツでの取り組み「インダストリー4.0」などについて解説しました。

 また中国の政策については、新たな技術を作るというよりも、既存の技術の上に社会実装を進めていくという点が画期的であるとし、その結果、27兆元以上、GDP総額の30%以上を占める世界最大規模のデジタル大国にまで成長したと評価しました。

 日本に関しては、目指す社会のあるべき姿として「Society5.0」を提唱しており、これはデジタル技術を活用して、経済成長と社会課題解決を両立する枠組みであると解説しました。

5.jpg 佐々木氏は続いて、情報格差に関する問題提起に移り、そこでは例えば、高齢者や中小企業などのデジタルスキルを十分に持たない層の信頼を得て、彼らの生活向上を図るためには何をすべきか、という課題があると述べました。

 また、別の問題として、GAFAのような巨大プラットフォーマーが様々なデータを独占する中で、どのようにして企業や個人がプライバシーやセキュリティを確保していくのか、それらに対してどのように国際ルールの調和を図っていくのかという問題があると指摘しました。

デジタルをめぐる3つの課題

岩本.jpg 岩本氏はデジタルに関する3つ課題について、日本側2人目の問題提起を行いました。岩本氏はまず、デジタルにおけるデータの重要性は誰もが認識しているものの、その具体的な理由を答えられる人は少ないと指摘。その上で、情報の三階層(データ、インフォメーション、インテリジェンス)理論について解説しました。

 そこではまず、データが重要なのは、「諸々の社会現象をデータというかたちで取り出すことが21世紀に入ってより容易になったからだ」と説明。現象はそのままでは理解できないものだが、データというかたちで整理することによって理解が可能となるものだと語りつつ、「しかし、データ自身には何の価値もないのであり、その上にあるインフォメーションの層に持ち上がってくるとひとつの意味を持つ」と解説。さらに、アメリカ中央情報局(Central Intelligence Agency:CIA)を例に挙げながら、インフォメーションを意思決定者のために加工、分析して得られたインテリジェンスが、国家、企業、個人が自らの行動を決定する際の最も重要な拠りどころとなるものだとしました。

 こうした前置きを経て、岩本氏は3つの提案を行いました。この数年、データからインフォメーションの層に上げるのに「IoTのパワーがものすごく大きな価値を持ってきている」とし、その背景には、ネットワークやストレージが膨大なIoTによって、「より豊富で、より解析的なインフォメーションを得られるようになった」ことがあると語りました。さらに、インフォメーションをインテリジェンスの層にまで上げることも、数年前までは人間の経験や、哲学・理念が頼りだったものの、現在は、「AIの圧倒的なパワーが、この役割を人間から引き剥がしている」と指摘。その結果、「人間の指示がなくても社会が動くようになっている。この社会はデータ、インフォメーション、インテリジェンスの上に自律的に物事が動いてくる社会に、すべての産業が組み込まれてきている」と述べました。

 その上で岩本氏は、こうした社会を評価しつつも、そこに「危機もある」として3つの課題を提示。まず1つ目に、こうした状況下ではビッグデータはますます価値を持つことになるが、「データは誰のもので、誰が管理し、誰がどのように使うのか」を考えなければならないとしました。2つ目として、IoTの重要性が増していく中、企業や国の枠を超えて「IoTの標準化にどのように取り組むのか」を検討すべきとしました。最後の3つ目として、人間の仕事をAIが代替して行うことが進む中、「人間が関知しない世界の中で、AIとAIがコミュニケーションを取り始める。そして、色々な制御を勝手にし始める」と予測した上で、「AIのエンジンをどのようなルールで開発するか。また、利用者側の倫理観をどう涵養するか」も考え、「AIをどのようにハーモナイズされたかたちで社会に利益をもたらすようなものにしていくか」が課題になると語りました。

両国共通の課題解決と世界の発展のため、日中協力は不可欠

江.jpg 中国側のデジタル経済に関する問題提起を行った江氏はまず、日中両国はともに少子高齢化が進行し、重要な政策課題となっていることを指摘。それを踏まえた上で、「AIによって労働を代替する時代をこれから迎えることになる」とし、AIが人口減と労働力不足解消の対策になることへの期待を寄せ、ここに日中協力の大きな可能性があると語りました。江氏は、自身も参画した東京大学との共同研究の経験を振り返りつつ、この分野における日中協力は十分に可能とし、それが「全人類、全世界のための大きな貢献につながる」と日本側に呼びかけました。

 しかし、こうしたAIはすでに私たちの生活に浸透してきているものの、新しい領域であるが故にいまだガバナンスは未整備な面も多いと指摘。したがって、法律、倫理など国際的な規範を整備していく必要があるとし、それにあたっても日中両国が対話を深め、協力をしていく必要があると述べました。

 江氏はさらに、AIは世界の経済発展にも大きな貢献をすると予測。アメリカではトランプ大統領が他国との間での共同で研究開発を推し進めている中では、競争が激化すると予測。そうした状況の中では、やはり中国と日本も全面的に協力していく必要があると主張しました。

 問題提起の後、フリーディスカッションに入りました。

インターネット金融に進化と課題をもたらす次世代技術

中塚.jpg 中塚氏は、自身が従事するインターネット金融の観点から発言しました。まず、中国ではテンセントのWeChatPayをはじめとしたデジタル決済とPeerToPeer(P2P)レンディングなどが非常に盛んである一方で、日本では「逆説的に金融機関への信頼がある」ため、そうしたデジタル決裁が少ないという現状を指摘。そうした中、自身のSBIホールディングスも米リップル社のxCurrentと銀行間送金システムを搭載した新サービスを始めたことを紹介。P2Pのように携帯電話など端末同士ではなく、銀行口座同士でやり取りをするこのシステムは「日本だけでなく、アジアでも普及する」との見方を示しました。

 もっとも、国内も国外も同じプラットフォームで事業を推進していく上での課題として、岩本氏の問題提起と同様にビッグデータ管理の重要性を指摘。そのためのガバナンス構築が大きな課題になるとしました。また、今後のIoTについては、モバイルが主流となっていくとした上で、5G(第5世代移動通信システム)の登場によって大量のデータのやり取りが可能となる中、これをIoTにおいてどのように活用していくのか、といった点も課題になるとし、こうした点を日中間で議論を進めていくべきと語りました。

イノベーションによって社会や産業構造そのものが変化。今後は地方からの変化にも期待

龍.jpg 中国のインターネットネットサービス最大手・テンセントの龍氏は、中国におけるモバイルインターネットの技術や市場の急速な発展について解説。パソコン時代から徐々にモバイル時代へと移行している最中の日本や米国とは異なり、モバイル時代から始まった、言い換えればモバイルしか選択肢がない中国では、すべての資源がモバイルに投入されたことにより、急速にイノベーションが進んだと説明。その結果、人々は大都市にいなくても様々な商品を手にすることができるようになったと語りました。同時に、急速に進化するインターネット技術を活用して決済や、飲食や交通なども相乗的に成長し、企業のあり方や産業構造まで変化したと振り返りました。

 龍氏は最後に、こうしたイノベーションの波は今後大都市だけでなく、中小規模の都市でも起こるとの見方を示し、さらなる発展の可能性を示唆しました。

日中相互補完による高齢化対応

陳益強.jpg 陳氏は、中国が2020年に全面的実現を目指す「小康社会」 は、一人の脱落者も出してはならないものであると説明。格差のない社会の構築は責務であるとしましたが、現状の中国は貧困や医療、教育など多くの格差を抱えていると説明しました。

 陳氏はそうした中では、デジタル技術やAIを活用し、社会的諸課題を克服すべきと主張。社会保障の持続可能性に不安を抱える日本にとっても同様の視点が必要であるとし、ここに日中協力の大きな可能性が広がっていると語りました。

 そこでは例えば、高齢者施設でのデジタル新技術の普及は両国ともにいまだ不十分である現状を指摘した上で、高齢者に対するケアに多くのノウハウを持っている日本と、AIでは技術的に先行している中国が組んで相互に補完することを提言。そうすればまさしくWin-Winの成果を挙げられると日本側に呼びかけました。

欧米とは異なり、ロボットに対する拒否感がない日中が世界のルールづくりを主導すべき

桑津.jpg 桑津氏は、江氏の問題提起と同様に、日中共通の課題である少子高齢化対応にあたって、ロボット、AIの活用は有効であるとし、日中協力が可能な分野であると語りました。

 桑津氏は次に、欧米ではAIが発達し人間の知性を超えることによって、人間の生活に大きな変化が起こるという概念「シンギュラリティー(技術的特異点)」の議論が多いと紹介。特に、欧州ではGDPRの次の規制もすでに検討が始まっているとし、その背景には「欧州ではロボットやAIを奴隷のようなものだと考えているのでは。だから、工場でも『人間と同じフロアにロボットを置きたくない』などという発言が出てくる」と分析。それには宗教的背景もあるのではないかと推測した上で、そうした欧米によって「ロボットは人間に仕えてしかるべき、という考えの下、国際的ルールとなっていくことに危機感を覚える」と語りました。

 対照的に、日本と中国はそうしたロボットに対する拒否感がある社会ではなく、「便利であれば活用していこう」と考える社会であると指摘。そうした観点から、日中は協力して世界のルールづくりを主導していくべきだと中国側に呼びかけました。

インターネットは日中相互理解を深める最適なツール

徐.jpg 児童用オンライン教育プラットフォームを提供するVIPKIDの徐氏は、中国では教育のオンライン化、デジタル化がメガトレンドになっている現状を紹介。さらに、今回の日中共同世論調査で示されたように中国人の対日印象が大きく改善する中、多くの中国人が日本語や日本の文化を学びたいと思っているとした上で、インターネットはそのための有力なツールであると指摘。同時に、中国に関心を持つ日本人にとってもインターネットは中国を知るための最適なツールであると語りました。このように「インターネットと教育」という分野での日中協力には、全般的な日中関係改善に資するというメリットもあり、より積極的に推進すべきと主張しました。

サイバーセキュリティには国境を越えた対応が不可欠

曲.jpg 中国屈指のアンチウイルスソフトウェア制作企業・360集団から参加した曲氏は、サイバーセキュリティの問題について発言。インターネットが世界中と繋がっている以上、サイバー犯罪は一度起こると一国のみでは解決できないとした上で、とりわけ現下のビックデータの時代においては、国と国との協力がより重要になっていると指摘しました。

さらに世界のつながりを強固にする5G

林.jpg 中国を代表する通信機器メーカー・ファーウェイの林氏は、インターネットによって常に世界はつながっているが、5Gの時代になればそのつながりは一層強固なものとなり、常にモノとモノ、人と人とがつながっている状態になると予測。また、ICTのグローバル化もさらに進行し、一つのスマートフォンも一国だけでなく、全世界分業で作られるという流れが加速すると述べました。

 もっとも、そうした強いつながりは、ひとたび個人や企業のプライバシー情報が流出すれば、それは瞬時に全世界に拡散してしまいかねないなど、様々なリスクも抱えていると指摘。国際的な法規制などの必要性に言及しましたが、同時に、昨年施行のインターネット安全法などに対する国際社会の懸念を意識したのか、「中国の法規制は他国のものと違いはなく、国際基準に合致している」と強調する場面も見られました。

 次に林氏は、日本の政策についても言及。現在提唱されている「ソサエティー5.0(Society 5.0)」について、これまでに築かれた情報社会を土台としながら、人間中心の豊かな社会をめざすというコンセプトを先進的であると評価しました。同時に、日本には課題先進国としてこれまで培ってきたノウハウを世界に広めてほしいと強い期待を寄せました。

 こうして様々な問題について活発な議論が展開された後、前半の議論は終了しました。

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